つらじろ仔ぎつね

めめくらげ

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ー「あっ、あぁっ、すごい、ひっ…だめ、あああ、あん、あん……」

後ろから力強く突き上げられ、細い身体の中が壊れそうなほどの衝撃にこらえる。しかし潤滑油の助けもなく、そこは潮が吹いたように濡れそぼり、求めていたものを与えられているよろこびがその場所から円のように広がり、全身を、特に頭を支配されている。

相も変わらず平八という雄を愛し、会えないときには一日数回は彼を思い、顔を見れば反射的にその肉体が欲しくなる。去年までの自分と、あのえぐられるような痛みは何処へやら。奥まで容赦なく喰らわされるが、そうでないと物足りない。疼きをかき消すように、激しく攻められなくては燃え上がらない。
いよいよ自分には、「もっとして」と叫んでいた見世のねえさんたちの気持ちが理解できた。すぐに発射した客に対して、つまらなそうにしていたあの顔の理由も今となればわかる。



十六で、クロは男の肉体の良さを覚えた。
忙しい日々のかたわらで、平八と逢えるときにはどんなに疲れていてもどこかに出かけたり、実家であるはちす屋の裏手の一室にて、二人きりの時間を愉しんでいた。平八を愛し、そして愛されることは生きる糧であった。会えなくても平気なのは、彼との相互の愛を信じていたためだ。

だがまた自分から去ろうとしたら、次こそはどうするかわからない。ふだんからあまり感情的になることはないけれど、どうにも平八に対しては我慢がきかなくなる。彼は自分よりずっとおだやかで……というよりひょうひょうと往なしてくるけれど、互いにおんなじ激情型ならまちがいなく上手くはいかなかったろう、と思う。
向きを変えられ、舌を絡ませあいながら突き上げられる。もうまもなくで平八が果てそうになのがわかった。

「ねえ、平八さん、このまま中に出して」

喘ぎながら、苦しげな声でねだる。

「ダメだ」

「やだ、お願いだから、ねえ……」

「お前はよくてもとっつぁんに殺されるのは俺だ」

「一回くらい良いでしょう」

「……わかった、そんなら今日だけな」

「うん」

激しく突かれて、クロの目の前がちかちかとなる。声が外に漏れようが、もしこの瞬間誰かに扉を開けられて見られようが、今はおかまいなしだ。どうにもこうして交わっていると脳みそが蕩ける。ふだんの自分なら決して考えないようなことに、平気で流されてしまう。平八が呻き、抱く腕にグッと力を込められる。クロは期待した。しかしそれもむなしく、そのすぐあとに、ぬるいものが腹の中ではなくその上にまき散らされた。

「……なぜ?」

「お前はよう、平生は冷静なぶん、こうするとすーぐ熱に浮かされるから危ない」

「嘘つき。度胸のない人だ」

「なんとでも言え」

「なぜダメなの?」

「ダメじゃないが、時期がよくない。もう少し先々のことを考えろ」

「………」

ただの奇形だといったわりに梅岡は、平八と"交渉"するさいには、ねえやたちと同じように充分に気をつけろと口をすっぱくして言ってくる。そのときは、分かっていますとうるさく思いながら返事をするのだが、平八のいうとおり熱に浮かされた自分の頭では、土壇場となると種付けを求めてしまう。終わって冷静になってから、さっきまたあんなことを言ってしまった、と気恥ずかしくなり、それと同時に情事の合間も冷静な平八に感謝する。それの繰り返しで、自分のだらしなさのようなものに嫌悪する。

一週間に一度だった逢瀬が、忙しない日々のために今や半月かひと月に一度、それも丸一日となることはめったにない。蓮太郎は淋しかった。それも肉体を知ってしまったとなれば、淋しさはひとしおである。

いつも疲れて寝る前に、布団の中で平八の筋張った男らしい大きな手や、たくましい体つきを夢想する。結ばれてからは、今まであまり気にしてこなかったちょっとした仕草が、いちいち色気のある所作に見えるようになってきた。

キセルを吹かしてぼんやりしている横顔、江戸の町民のように、ふところ手をして歩く姿、どこか陰のあるひねた笑い顔、酒を飲むときは心底うまそうに眉を寄せるところ。
これはどういう作用のせいかわからないが、自分はやはり生来女的であり、彼に開花させられたことによってだんだんとそれが芽吹いてきて、少年から女に、子どもから大人になっていっているのだと思っていた。平八という男のあらゆる一面に、いちいちときめいてしまうのだ。

立松邸の付近を歩けばそこかしこで「おう平八」と声をかけられ、悪たれだったくせに、今やいろんな人に好かれているのも、彼の好きなところの一つである。

日が暮れて、もっとも別れが惜しくなる時間がやってきた。柿本家の使用人には、私的な時間であろうとも『節度ある行動』を厳しく求められている。
はちす屋を出てから浅草で食事をして、隅田川に沿って少し歩く。門限を過ぎないよう、しかし時間をかけるように柿本邸に向かって歩いていた。憎たらしい宵の明星が、目をやらずとも主張するように輝いているのが見える。
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