22 / 60
ⅲ
しおりを挟むー「ちくしょうめ、とっとと消え失せろ!こんどそのツラ見せやがったら、てめえのクソガキかっさらって河岸の見世に売っぱらってやるからな!役立たずのごぼうの煮しめみてえなマラぶらさげて、おとなしく古女房んトコ帰ェりやがれこの厄病神!てめえは二度と大門をくぐるんじゃねえぞ、一歩でもまたぎやがったら承知しねえからな!!」
わらわらと見物人の集まるそのまんなかで、舌を巻きながらよく通る声でわめきちらし、土俵入りのごとく粗塩をぶちまけ、いけ好かない客を追い立てる一人の少年。
座敷でも少し揉みあったと見えて、双方の髪は乱れ、少年の帯がゆるみ着物がずりさがって、細い右肩があらわになっている。その怒号を聞きつけた他の見世の客や女郎も、玄関口や二階の座敷から囃し立てながら見物していた。
「へへへ、まーたやってら、懲りねえなァあいつも」
「だが相変わらず威勢があっていいねェ。おーい、いいぞ、もっと撒いてやれ!」
「まったく、あすこはどうして客も女郎もああ品がないかねえ。毎度毎度、火がついたように大騒ぎして」
「まつかさはどうしようもない小屋じゃ。とくにアレはいちばん手がつけられねえ。火中の栗も同然よ」
「お狐様が憑いてるに違いねえな。いっぺんお祓いを受けたほうがいいんじゃあるめえか」
「いいじゃねぇか、俺ぁ好きだぜ。あの子と寝たりはしねえけど、話をしに行くのなら花魁なんぞよりよほどおもしろい」
そんなことを野次馬がごにょごにょ話しているうちに見世から女将がすっとんできて、去っていく客の背中を見て朋輩とともにゲラゲラ笑っている『小春』の頭を、うしろからごちんと拳でぶん殴った。そのお約束の光景に、事情を知っている者たちはドッと笑い、女将は「ご迷惑おかけして申し訳ありません」と顔を赤くしながら群衆にぺこぺこ頭を下げ、「このバカタレ!どうしてお前はなんべんも同じことを!今日こそは堪忍しないよ!!」と怒鳴りつけて、小春のえり首をひっつかんで見世に戻っていった。
ー「なんだい、今のは」
通りがかった者が群衆のひとりに尋ねる。
「あんた旅の人かい?ありゃあここらの風物詩よ。いま引きずられてったのが、まつかさ屋の小春と言ってな、女のようにきれいなツラをしとるが陰間だ。ガキの頃からここで丁稚をしとったが、一目見て気にいる客が多くて、座敷に上げろとあんまりにも言われるもんだから、十五でねえさんたちと同じに売り出されることになったのさ」
「へえ、めずらしい出世の仕方もあるもんだ。だがやはり若い男だから、ずいぶん血の気が多いね。あれで客の相手がつとまんのかい?」
「それこそがあいつのウリよ。カッとなると手がつけられねえが、良くも悪くも純情でな、うらおもてがないんだ。気に食わねえやつは叩き出して、そうでない客には、ウソも駆け引きもなくとことん話に付き合ってくれると評判だ。男だからできるやり方だけどな、ガラが悪りいくせに器量だけは抜きん出てるから、そのちぐはぐがウケてんのさ」
「あんたは買ったことあんのかい?」
「興味はあるが、なかなか会うのは難しくてな。なんせ人気で、いつも客で埋まってんだ。値段も高いし……」
「そうか。それじゃあひょっこりやってきた一見の田舎者ごときが、東京見物のおみやげ代わりに、なんて軽はずみには会えねえわけだ」
「まず無理だろうな。御用商人とか問屋の若旦那なんかなら別だろうが」
みじかい嵐が去り、いいものを見れたとばかりに満足げな顔をして、群衆も散っていく。小春は界隈でちょっとした有名人であり、気むずかしい彼の座敷で遊べることは、男たちにとって一種のステータスと化していた。
0
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
【R18】奴隷に堕ちた騎士
蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。
※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。
誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。
※無事に完結しました!
彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた
おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。
それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。
俺の自慢の兄だった。
高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。
「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」
俺は兄にめちゃくちゃにされた。
※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。
※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。
※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。
※こんなタイトルですが、愛はあります。
※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。
※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
親友に流されて電マ責めされることになってしまった
冷凍湖
BL
あらすじ
ノリに流されて親友に電マ責めされちゃうちょろい大学生の話。無理矢理っぽい感じからのハピエン
注意事項
電マ責め/♡喘ぎ/濁点汚喘ぎ/んほぉ系/潮ふき/本番なし/とにかく好きに書きました!地雷ある方ご自衛ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる