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しおりを挟む『……そして彼は続けました。その声というのも、きちんと言葉として聞き取ったのだと。その言葉は』
「助けてって何度も叫んだんだ。いつも怖がられて逃げられちゃうけど。それでも誰かが迷い込めば、何度も叫んで助けを求めてきた」
(……なに?誰の声?)
ー『それから数日後、私たちはまたしても衝撃を受けることとなりました。私たちが行こうとしていたのは旧……古いの旧ですね……旧Mトンネルという名がつけられているのですが、友人にそのときの話をしたところ、お前ら、本当に旧Mトンネルに入れたのか?と疑わしげに尋ねられました。私は「入ったよ」とムキになりましたが、友人はあそこには入れるはずがない、と言うのです。違うトンネルと間違えたのではないかとも言われました。しかし地図で調べても、その山の新Mトンネルの手前には、旧Mトンネルしか載せられておらず、私たちはあのとき新Mトンネルまでたどり着いていないので、旧M以外のトンネルなど通るがありません。しかし彼は言ったのです。旧Mトンネルはとっくに封鎖されていて、車どころか人1人も入れないようになっている、と』
「そりゃあそうだ。もう何十年と昔に埋められたトンネルなんだから、地図なんかに載ってるわけがない。……白丸トンネルっていうんだ。知らないだろう」
ー『その後私たちは明るい時間に山に行って、例のトンネルの正体を確かめようとしました。しかし案の定といいますか、やはりふもとから15分のところにはトンネルどころか小さな洞窟すらなく、ひたすらに落石防止のネットが張られた岩肌が続くだけでした。スピードを落として全員で目を凝らしても、見つかりません。そしてそれから1時間ほどで、私たちが本来行くはずであった旧Mトンネルにたどり着いたのですが、友人の言ったとおりそこは穴を塞がれるように封鎖されていて、コウモリや野ネズミくらいしか通れそうにありませんでした。それではあのとき、私たちはいったいどこに迷い込んだのでしょう。怪現象に見舞われた仲間は今も元気にしていますが、あのときのことは思い出したくないようで、あまり話したがりません。ですから代わりに投稿させていただきました。勅使河原さん、もし採用してもらえたら、ステッカーはちゃんと彼に渡しますからね』
「報われぬ魂だけの世界だ。人には異次元かもしれない。だけど確かにその暗闇はある。孤独の地獄だ」
ー『……しょっぱなからスタジオが凍りついてます。いや怖すぎるでしょ。チン毛巻き込みロールケーキぃ、さっそくすごいのブっ込んできたね。チン毛巻き込みロールケーキは何にも感じなかったみたいだけど、でも物理的にその謎のトンネルには入ったってことだよね?で、チン毛巻き込みロールケーキの友達ひとりだけが、何かこう……その中にいた得体の知れない何かと、物理的でない部分でビビッとアンテナが合っちゃったってことなのかね。いや怖いなあ~……戻ってこれてよかったねえ。それ、助けてって声に従ってたらどうなってたんだろう?それ考えるのも怖くない?ね?めっちゃ怖いよね。それにしてもチン毛巻き込みロールケーキたちは異空間に行っちゃったってことかあ。すごい体験だよ』
「助けてくれたのが、ハルヒコで良かった」
「君は誰?」
「教えてあげるよ。……ひとまずさっきの恋人とのことは忘れて、もう眠るんだ」
「え?……あ……」
急激にまぶたが重くなり、金縛りのように身体全体がしめつけられる。何かにのしかかられているのだろうか?見たくとも目が開けられない。手も動かせない。
「君は幸せな男だね。いろんな人が、君のことを大事に思ってくれている。恋人を責めてはいけないよ。彼はいろいろ助けてくれたんでしょう」
勅使河原の声が遠くなる。意識が廃トンネルのような暗闇に包まれ、ゆっくりと閉ざされていく。
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