少年カイザー(挿絵複数有り)

めめくらげ

文字の大きさ
上 下
102 / 128

荒野の僕ら

しおりを挟む


降りしきる雨の中、ぬかるんだ裏庭の地蔵の前で、サラは何かを考えたり何にも考えなかったりして、カサを片手にボーッと立ち尽くしていた。


空は薄く赤茶けていて、明るいが厚い雲に覆われている。雨気と同時に、久しぶりに最悪の不調状態が2日ほど続き、同室のハルヒコとも会話どころか目すら合わせず、天音が様子を見にきても眠りつづけ、米の一粒も口に入れずにずっとベッドの中でミノムシと化していた。水曜の、4時限目にさしかかるころ。3日ぶりに外に出て、ふらふらと駅前のゲーセンに行き少しだけ遊んだあと、商店街でハルヒコを介して知り合った喫茶店の店主に出くわして「まーた学校サボってんのか」と笑われ、店に招かれてコーヒーを飲ませてもらった。

そのあとで増水した川にまたがる大橋に立ち寄って、降り続ける雨のせいでごうごうと音を立てる濁流をじっと見下ろし、その光景に「渦川」という苗字を連想しつつ、ここから落ちて死ぬのは嫌だなあとぼんやり考えていた。気がついたら1時間が経っていた。

そしてここでも、気がつけば30分が経過しようとしている。地蔵は何かを祈るものではないとわかっていながら、サラは祈るように兄の死をたびたび空想していた。幼い頃からここにやって来るまでの、地獄のような日々の回顧と共に。

それから大きな安寧と、汚らわしい兄以外の体温が欲しいとも願った。自分だけを見てくれて、自分だけの安らぎとなる人が欲しいのだと願った。低気圧が嫌いだから、今年はあまり悩まされたくないのだとも願った。どれも叶わぬ虚しい望みだが、願うことをやめられなかった。


ー「サラ」

ハッとして振り向くと、いつの間にか大吾郎が立っていた。サラは無言でその顔を見つめる。

「どうした?こんなとこで」

「別に」

「学校は?」

「ゴローこそ」

「昨日急に熱が出たから早退して、今日は休んだ」

「ふうん……下がったの?」

「うん。たくさん寝たせいか、さっき起きたら7度切ってた」

「そう」

「………」

となりに並んで、大吾郎はさしていたカサを開いたまま地蔵にかぶせるように置いた。

「いつも野ざらしだけど、いいのかな」

「?」

「よく道路っぱたに置かれてる地蔵って、祠みたいなのにガードされてるから」

「ああ……」

地蔵にカサをゆずった大吾郎を半分入れてやろうとするが、彼の方がずっと大きいので、あまり意味をなさなかった。

「いいよ」

「でも濡れたらまた熱出るよ」

「じゃあ俺が持つ」

サラの手からそっと柄を取り、サラの方が多く、ふたりは同じカサに入った。

「考えごとしてたの?」

「……ボーッとしてただけ」

「今までどっか出かけてた?」

「うん。ゲーセンと喫茶店」

「そっか。あのさ……」

サラの澄んだ薄い瞳が、大吾郎をそっと見上げる。

「……もしもまたこういう日があったら、俺のことも誘ってくれ」

意味を取りかね、小首を傾げる。その様子に大吾郎は、少しだけ照れくさそうに地蔵を見下ろしたまま付け加えるように言った。

「そのときは俺も一緒にサボる。……ひとりの方がいいかもしれないけど、どこかに行くならときどきは俺も一緒に連れてってほしい。遠くに行くんでもいいし、その辺の川でもどこでもいいから」

大柄な図体でもじもじとするが、もう一度サラを見つめたその瞳は力強くてまっすぐで、サラはつい目を逸らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

上司と俺のSM関係

雫@更新予定なし
BL
タイトルの通りです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

処理中です...