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しおりを挟む「ば、……バカ、おめえ何してんだ」
耀介がまたも怯えた顔でサラに抱きつき、サラも言葉を失い目を見開いて硬直している。
「……こ、高鷹?」
「今けっこーヤバい音したぞ」
「天音、天音?……生きてる?」
男たちが恐々と歩み寄る。天音は変わらぬ姿勢で丸まっているが、耀介が肩を手で揺すっても、セミの抜け殻のように微動だにしない。
「ブン殴ったら元に戻るんじゃねえかと思って」
「バカやろう!頭打ってるかもしれねえっつってんのに殴る奴がいるか!!」
「手加減はしたぜ」
「ば……バカ!バカバカバカーー!!ホント何してんの君?!死んじゃうでしょ!!」
珠希が高鷹の腕をぽかぽかと殴り、小柄な身体でずっと大きな高鷹を突き飛ばした。そして「どうしよう、天音死んでない?」と今度は彼が涙目になり慌てふためいた。
「天音、天音?大丈夫?」
そっと両頬に震える手を当てて上を向かせる。すると彼は、いつもどおりの感情が見えにくい真っ黒な瞳に珠希を映した。すでに涙は引っ込んでおり、重いまぶたでぼんやりとしているが、それもいつもの彼の目つきである。
「もー、何すんの」
「ああ、よかった、生きてる」
珠希が涙まじりの声で彼を抱きしめる。しかしサラはその姿に、またしても「さっきと同じ」得体の知れぬ何かへの恐怖を感じた。ちらりと大吾郎を見やると、彼も同じなのか、険しい顔でサラの目を見てあいまいにうなずいた。
「この子はさあ、これでいいんだよ」
「……なにが?」
「どうせ今日だけなんだから、ハルヒコの好きにさせてあげて」
「?」
「天音、なんの話してる?」
「サラ、ダイゴロー、この子たち何なの?」
「……」
「君……」
天音が疲れたようにため息をつくと、珠希の両肩をつかんで身体を離し、その顔をまじまじと眺めた。
「君はさっきお部屋にいた子だね?」
「さっき?」
「今アマネを殴った男の恋人だ」
「……なに言ってるの?」
「そんなことしたって無駄だよ。僕の力が消えるまではずっとこのままさ。……言ってもわからないだろうけどね」
「天音?」
「病院に行こうとしてるみたいだけど、アマネは至って正常だ。連れて行く意味はない」
そう言ってソファーから立ち上がると、談話室を出て行こうとした。
「待って、どこ行くの?」
「部屋に戻る。ハルヒコに少しでもいい思いをさせてあげなくちゃ。せっかくいい雰囲気だったのに、あっさり気絶しちゃって……」
やれやれ、といった口ぶりで去っていき、取り残された男たちは押し黙って一様に同じ表情をした。だがサラに「わかったでしょ?」とポツリと聞かれると、耀介と高鷹と珠希が緩慢に、あるいは小刻みに何度もうなずいた。
だが高鷹が「やっぱりビール瓶みたいなのでもういっぺんいっとくか?」と聞くと、珠希に思いきり肩を蹴られて再び床に倒れこんだ。
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