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お化けトンネルへGO!
しおりを挟む「ケイちゃんおはよー」
「おう……日吉、また髪染めたか?」
「似合う?」
「あんま若いうちからやってるとハゲるぞ」
「へーきだよ、俺じいちゃんも父ちゃんもフサフサだから」
日吉と会話しながら、となりにいた天音と数秒視線を交わす。天音が入学したばかりの頃は、すれちがうたび互いに笑いをこらえきれず苦労したものだが、今やこのとおりすっかり慣れてしまった。社会科の準備室で何度かキスはしているが、それ以上のことを学校でするのは容易ではない。人の立ち入らない場所など無いし、いい雰囲気になると決まって誰かがやって来るのだ。
1度だけ、夜のプールでふたりだけで遊んだことがある。真っ暗な水の中に立ち、天音の身体を折れそうなほど強く抱きしめ、キスをしたことが忘れられない。教師が忍び込んでいるところなど見つかったら処分を喰らうが、ときどき世間話をする顔なじみの警備員に前もって頼んでおいたのだ。そのあとにシャワー室でしたセックスは、これまでになく興奮した。誰も来るはずが無いとわかっていても緊張し、教師としての背徳も手伝い、いつもよりずっと高揚した。
毎週日曜日に必ず会えるというわけではない。三国は仕事や付き合いで忙しいのだ。テスト期間ともなると半月以上ふたりで会うことはなくなる。上の人間がなかなか退かないが、来年の転勤や異動などで、今の1年が2年に進級したところで担任も受け持つことになる。同じく教師になった大学時代の友人は、都立高校に着任してすぐに1年の担任を任されていた。若さゆえに生徒の距離は近く職務もそれなりだというが、彼の語らない気苦労は、1年ですっかり様変わりしたその顔にしみついていた。
だが、勤めて3年目に突入したこの学校は、いいところだと思う。男子校がどこもこうなのかはわからないが、生徒はのびのびとしているし、偏差値も悪くはないし、運動に長けた生徒が集まるからか活気に満ちているし、エネルギーの使い道が健全だ。問題児ばかりが進学する工業高校や、名前を書けば入れるような私立校ではこういう健やかな空気は生まれないだろう。天音が寮住まいをするとは思わなかったが、どうやらその選択も正しかったようだ。
彼は変わった。気の合う寮生たちと気楽にやっているようで、暗く沈んだ目をすることはもう無くなった。入学したての頃は肩肘を張っていたようだが、問題児の渦川ハルヒコがやってきてからは、良くも悪くも肩の力が抜けたようにも思える。だから、三国敬吾はこの学校に出会えた幸運に感謝している。
ー「こら、渦川!」
そう思っていたそばから、敬吾の脇を赤いジャージ姿でスケボーに乗ったハルヒコが通り抜けて行った。捕まえようとしたが、すんでのところであっさり避けられて逃げられてしまった。
「あいつ、最近制服もまともに着なくなってきたな……」
そう言うと担任の吉岡が背後からやってきて、「ああいうのは言っても仕方ない」と諦めたように笑った。吉岡は変におおらかな男で、ハルヒコの転入当初からとうに彼の奇行を受け入れ咎めることはしなかった。
「教頭もサジを投げかけてる。19歳の小学生と思って接するしかないな」
「ホンモノの小学生の方がよっぽど聞き分けがいいですよ」
「島育ちは奔放なのが多い」
「そうですかね?」
「むかーし俺が小笠原のほうでやってたときには、あんな感じの子が多かったよ。怒られることとか集団のルールを守ることより、自分のライフスタイルの方が重要なんだ。その日1日をどう過ごすか、限られた時間と土地と娯楽の中で見つけ出す。できれば毎日違う発見をしたい。だから奔放に感じるんだろう」
「はあ、なるほど……でも、島っていいですね。ちょっと憧れるなあ」
「君の出身は?」
「渋谷です」
「もって3日だな」
「……そんな気がします」
窓から校庭を見おろすと、早くもサッカーボールを追いかける日吉と天音、そして強引に入り込んだらしきハルヒコ、同じサッカー部の林田、おそらく無理やり仲間に入れさせられた池田の姿があった。男たちはいずれも半裸かTシャツ姿だ。シュートを妨害しようとハルヒコが体当たりで止めたせいで天音が転倒し、天音は直後にスケボーを取り上げると、パイプ椅子で殴りつけるヒール役のレスラーのように、躊躇なくハルヒコを殴打していた。
(あいつ……あんなだったか……?)
その光景を見て、天音が「変質者」をどのように絞めあげたのか考えると、少しだけ背筋が寒くなった。彼は確かに変わったが、その方向性にやや危機感もおぼえている。
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