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しおりを挟むー「サラの家族?」
高鷹と耀介は部活のミーティングで夕食が遅れ、先に済ませたハルヒコ、天音、珠希、大吾郎は、何とはなしに談話室におもむき、土曜に箱買いしたアイスを食べていた。
サラは学校から帰るなりずっと昼寝をしているが、起こしても夕食はいらないと言っていたので、そのまま寝かせておくことにした。
「……サラの家族が、なに?」
「だから、いったいどんな奴らなんだ?」
ハルヒコに問われるが、天音は少し困った顔で口をつぐんだ。おおよそのことは彼から聞いているものの、どんな人間かと言われればどう答えていいものかわからない。
実際に会ったこともないのだ。すると、「なんで急にそんなこと?」と珠希が聞き返した。
「聞いてどうということもないが、四六時中ヤツの浮き沈みに付き合っていると、いったいどんな家族のもとで育てばあんなにメンタルの弱いひねくれ者になるのか、だんだんと気になってきてな。」
「それをハルヒコくんに言われちゃあねえ」
「ね」
「……」
「俺は真剣に聞いている」
「サラから聞かないの?」
「何となく聞きづらいしそのせいでイライラさせても厄介だ」
「へえ、君にも人らしいことを感じる神経あるんだな」
「バカもの、精神的に難のある奴と、殺傷能力の高い電動工具が常に置かれている部屋に寝起きしてみろ。いちばん一緒にしたらダメな組み合わせだぞ。部屋の真下に不発弾が埋まってるのと同じくらいの脅威だ」
「大げさ」
「でもサラって家族の話しないから、確かに少し気になるな」
「みんなには詳しく話したくないから話さないんだろ。……僕から勝手に話すのは気が引けるよ。実家に居たくないからここに来た、としか言えない。でもどんな家族かを知ったところで、それこそどうということもない」
「ていうか、聞かなくても何となく想像つくしね。サラのおとなしさとか、うまく感情を出せないところとか、すぐにしょげて部屋に引きこもるところを見てれば、その背後に自然と家族の像も浮かんでくる。……でも何であれ、つまりは子供に出て行かれるような家族ってことだ」
「そーいうこと」
「……」
大吾郎が何とも言えぬ顔で、肩を落としてうつむく。
「……家族か」
ハルヒコがアイスの棒をピンと飛ばすと、くるくる回りながら放射線をえがいてゴミ箱に落ちた。
「情けない家族は持ちたくないモンだなあ」
「そうは言ってもそこに生まれちゃったら仕方ないだろ。親は選べない」
「お前は卵から孵ったんだから、そもそも親の顔など知る由もないだろう。まあ全部同じツラをしてるだろうがな」
「うっさい」
「ゴロー、俺はお前の親を透視できるぞ。父親は巨人であまりしゃべらないが神経質で心配性、母親は小柄でピーチクパーチクやかましいが、細かいことを気にせずノーテンキだ」
「すごいな、何でわかるの?」
「タマキンの言うように、お前を見ていれば親も背後に見えるのだ。ちなみにお前には弟か妹がいるな?お前はおそらく長男だ」
「そうだよ。弟がひとり」
「名前は小次郎か?」
「違うけど、いい線いってる」
「何という?」
「空次郎」
「……ワッツ?」
「だから、ソラジロウ」
「ほおう、いつも木原さんの隣にいる黄色いヤツ、お前の弟だったのか」
「ゴロー、弟の名前出すと絶対それ言われてるよね」
「しかもお母さんの旧姓が木原さんなんだってさ。だから離婚したら木原ソラジロウになっちゃう」
「もしそうなったら、父親についてくって弟が言ってた。でも親も友達も結局俺たちのこと、ゴローとかジローとしか呼ばないな」
「しょーがないよ。かっこいいけどね、空次郎」
「次は僕の家族を当ててみて」
「タマキンか?そうだなあ、まずお前は親をパパママと呼んでるあたりが、ひとりっこか末っ子くさいな」
「ひとりっこではないよ」
「じゃあ姉貴がいるだろ」
「んーん」
「兄貴か?」
「うん」
「兄弟が多そうだな。4人とか5人くらい」
「そう!5人」
「5人?全部男か?」
「そうだよ。厳密にはお兄ちゃんが3人と、双子の弟がいる」
「双子?!お前双子だったのか?タマキン2号がいるってことか?」
「ちなみに珠央ね」
「タマオ……顔は?」
「写真あるよ」
そう言って珠希がスマホの画像を開いて見せると、ハルヒコの細い目がいつもより大きく開かれた。
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