少年カイザー(挿絵複数有り)

めめくらげ

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ー「香月、お前どっか出かけたのか?」

「いえ」

「やけに黒くなってないか?」

「焼いたんです、裏庭で」

「焼いた?はは、お前そんなことするんだな」

「もうこれ以上はやりません」

「けっこう似合ってるし、なかなかいいと思うぞ、日焼けのお前も」

様子を見に保健室に立ち寄った中川のほうがよっぽど黒いが、自分自身、姿見に映る姿がいまだ見慣れないほど、この土日ですっかり焼けてしまった。梅雨どきの日差しはあなどれないものだと身をもって実感する。

中川のことばで、大吾郎が褒めてくれたことをふと思い出す。それから、昨日のハルヒコのことばも思い出す。

(ゴローってゲイ?)

姿見の前でじっと立ち尽くすが、いくら考えたところで、その答えは本人に聞かなければわからない。だが答えを得たところで、至極どうでもいいことでしかない。

そのまま窓の外に視線をやると、プールの授業を終えたらしい海パン姿のハルヒコが偶然通りがかった。窓を開け、「ハルヒコ」と呼びかける。

「ん?おお、お前またここにいるのか」

「着替えないの?」

「水泳のあとはいつもこのままだぞ」

「いつも?……そのまま過ごすの?」

「ああ。わざわざ制服に着替える必要ないだろ。このクソ暑いのに」

「そう……」

「お前、あのハゲに言って俺のワニさんボートと足ヒレ返してもらってくれよ。お前ならアイツも逆らわなそうだ」

「教頭先生?」

「ああ」

「やだよ。どーせまたすぐ没収されるし」

「あーあー、学校の水泳なんて、遠泳の鬼と呼ばれた俺にはつまらん授業だ」

「サボればいいじゃん」

「お前くらい優秀なら、俺も学校になど出席せん」

そう言ってあくびをし、股のあたりをボリボリと掻きながら校舎へ入って行った。そしてそのあとにゾロゾロと続く彼と同じクラスの男子の群れに「あ、香月先輩ちーっす」と挨拶をされた。

水着のままの生徒はいなくとも、いずれも半裸であったりジャージ姿であったりで、まともに制服を着ているのは、いちばん最後に通りすがった池田くらいなものだった。

「よっ」

「あ、先輩こんにちは。なんか焼けましたね」

「君もラクな格好にならないの?」

「いやあ、僕は……」

「ちょっと来て」

「?」

窓際のサラに近付くと、とつぜん首筋のあたりにフッと息を吹きかけられ、思わず「ひゃっ」と奇声を発した。

「肩のとこ、念のため吹いといてあげた」

「え?……ああ、わざわざどうも」

「池田くんって彼女いる?」

「い、いるわけないじゃないですか!」

「何で?」

「何でって……このとおり全然好かれるタイプじゃないし。中学のときとか、フケのせいで女子に避けられてましたもん」

「そーなんだ。素直でいい人なのにね」

「そうですか?へへ、照れるな」

日光に照らされ、よりいっそう透けるように薄くなった瞳で、じっと見つめられる。池田はサラのことが嫌いではないが未だに少し苦手なせいで、またしてもヘビに睨まれるカエルの気分になった。すると彼は、読めない顔でこう尋ねてきた。

「男同士って興味ある?」

「お、男同士……って?」

「男と恋愛すること」

「なっ…無いです無いです!」

「珠希に好きって言われても?」

「ありえないですけど、それでも無いです!」

「セックスだけでも?」

「セッ……いや、むしろそれが無理ですって」

「ヤってみれば案外ハマるかもよ」

「まさか」

「試しに僕としてみる?」

「えっ……」

「なんてね」

ニヤリと意地の悪い顔で笑うと、そのまま窓をピシャリと閉め奥へ引っ込んでしまった。取り残された池田は呆然となるが、次の授業の予鈴でハッと我にかえり、慌てて校舎へ駆け込んだ。

教室に戻るなり、めざとく様子を見ていたらしいクラスメイトに「お前って香月先輩と仲良いの?」と問われ、「バカにされてるだけだよ」と事実を伝えたが、「それが仲良いってんだよ。いいなー、俺も仲良くなりてえなあ」と言われた。
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