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暗くなってから、ひと気のない公園で手をつなぐ。恋人と過ごす日の夜の訪れは、冬も夏も変わらず早い。駅での別れの寂しさや虚しさもおなじだ。忙しい彼とこうして本当の姿で会えるのは、たまの日曜だけである。それが良いかどうかはわからない。
男同士が、昼間に雑踏の中で手をつなぐことが普通になる日なんて、永ごうやってくるはずがない。世間のきれいごとと個人の心情はまったく乖離している。世間とは個人の集合体ではない。世間とは、鎧をまとった個人のいつわりが膨れあがっただけの、優しげな虚像に過ぎない。少なくとも天音は、過去の一件からそう感じている。

「おやすみ」

「気を付けてな。車、近いうち買うから」

「無理しないで」

暗がりの中でキスをして、明るい駅の改札を過ぎたら、またふたりは教師と生徒に戻ってしまう。地下鉄とJRと私鉄を乗り継いで寮の最寄り駅に降り立つと、21時を回っていた。するとちょうどそのタイミングで、【メシがまだならカイザー特製冷やし中華あるけど】と高鷹から連絡が来た。

「どちらの」日常が良いかといえば、別にどちらも悪くない。だけど3年という期限があるから、高校生活のほうがきっと儚く、それゆえに尊い。友達なんてできなくても構わないと思っていたのに、寮に帰れば彼らがいるこの当たり前の生活に、ときとしてこんなにも安らぎと嬉しさを感じ感じられるのだから、やっぱり自分の心なんて未だにわからないことだらけだ。
【ごはんはもう食べた。来週また作ってもらおうかな】と送って、朝よりもひと気のない商店街を、朝よりもゆっくりと通り抜けた。
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