少年カイザー(挿絵複数有り)

めめくらげ

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「僕?童貞じゃないよ」

あっけらかんとした珠希の衝撃的な返答に、高鷹以外の5人が驚愕した。サラですら意外だという顔をしている。
「天音が童貞チェックをしている」という耀介の何の気なしの話題によって引き出された、高鷹以外は誰も知らなかった真実であった。

「た、タマキンが突っ込む方だったのか?」とハルヒコが恐る恐る聞くが、「あの光景」を思い出し、いやそれはないよな、と思い直す。

「生々しいこと聞くなやお前。けど聞いて喜べ、俺はまだ処女です」

「じゃあタマキンは誰を掘ったんだ?」

「掘ったとかやめてよ。そんなんじゃなくて、高鷹と付き合うまでは彼女いたもん」

「えー?!嘘だあ!」

天音の声が思わず大きくなって周囲の視線が集まり、高鷹に「うるせえ」と言われた。

「彼女と別れて急に男と付き合いだしたの?」

「付き合い出したっていうか……高鷹と同じ部屋になってすぐに、ふたりともムラムラしてたせいか、何かうっかりヤっちゃったんだよね」

「男同士でうっかりヤらねえだろ」

「でも待って、キミ彼女いるのに高鷹ともしてたってこと?」

「そゆこと。でも高鷹も彼女いたから」

「えっ……」

「はじめはお互いにただの性欲解消の延長みたいに言い張ってたけど……何かやっぱりしてるうちに好きになっちゃうというか、週1しか会えない彼女より毎日会える高鷹の方が良くなってきちゃったんだよね」

「そうそう、俺もその現象におちいった」

ありえない、と男たちが静まりかえる。

「でもしばらくはお互いの彼女に友達って紹介して、3人とか4人で遊んだりもしてたんだよ」

「えええ……それはふたりともすでにヤッたあとの話?」

「うん。で、そのあとふたりとも別れた」

「うーわー引く……彼女かわいそうすぎる」

「お前ら天音のことサイコ呼ばわりできねえぞ」

耀介と天音の顔が引きつる。ハルヒコだけは耳を赤くして、よみがえった「あの光景」にひとりで悶々となっていた。

「寂しがりやさんなんだよォ俺たちは」

「女々しい奴」

「うるせー童貞野郎」

「天音も早く大人になれるといいね」

珠希の言葉に、天音は一瞬目を泳がせた。するとハルヒコがすかさず「こいつの場合は交尾だな。マジの生殖活動だ」と言い、天音にテーブルの下でスネを蹴られた。
そしてこの勢いに乗るかのように、触れられたくなさそうに黙々と飯を食っていた大吾郎を見やって、「ゴローは女作んねえの?」と高鷹が尋ねた。

「バスケうまい、背でかい、俺ほどじゃねえけどまあまあイケメン。あと硬派。男子校で青春を棒に振ろうとしている残念な逸材だ」

「でもゴローはバスケの推薦だかなんかでここ来たんだもんね?」

「ん……うん。まあ」

「どんなのが好きなんだ?中学んときの友達でよけりゃ紹介してやるよ」

「いや、俺は別に……」

「高鷹の友達ってどんな子?」

「なんだ天音くん、お前も紹介してほしいのか?」

「ううん、いい。でも大吾郎はあんまりうるさい子とか派手な子は好きじゃないと思うよ」

サラのような女子じゃなくちゃ、と付け足したいのをこらえる。

「まあー基本元カノの友達だからな。似たようなのが多いかなあ?」

「どんな?」

「ギャルとか元ヤンとか?でも化粧濃いけどけっこーかわいいの多いぜ」

「あ、そりゃ無理だ……ていうかいまどき元ヤン?ヤンキーがいるの?」

「地元にいるのがそんなんばっかなんだよな。でもそんなハードな奴はいねえから」

「へえ……だってよ、ゴロー」

「いや……俺は……大丈夫」

「大丈夫だって」

「OKってこと?」

「違う」

「遊ぶくらいならいんじゃねえか?」

「遊ぶとかは、ちょっとな……」

「ゴローは高鷹くんみたいな遊び人じゃないもん」

「俺も遊び人じゃないもん!」

「ねえ珠希、高鷹が浮気したらどーする?」

天音が軽はずみに尋ね、「今日はやけにブッ込むなあ」と耀介が苦笑いを浮かべる。すると珠希は少し考えたのちに、耀介と同じようにやや困惑したような笑顔で言った。

「退学は難しいだろうけど、僕ができる限りのことをして、退寮にはしてもらうかなぁ?あとテニス部追放」

すると男たちが再び静まりかえり、サラだけが面白そうに「珠希ならやれるよ」と言い、「せ、生徒会だからってそんな権限はねえべ……」と高鷹が力なく返した。

「でも高鷹っていろいろ裏がありそうだから、調べたらなんかいーっぱい悪いことしてそうだし」

その言葉にハルヒコもギクリとなり、からかうのを踏みとどまる。

「してるわけねーーべ!!俺はウラオモテなく生きてる!!」

「そんな焦らなくても、浮気しなければいいだけだよ」

「でも確かに高鷹ってさー、いつもふざけてるけど、何か裏がありそうな感じするよね」

「何にもない!ないよなカイザー?!」

「……ない」

「なんでハルヒコに聞くの?」

そのやり取りを見て、サラはよりいっそうおかしそうな笑みを浮かべた。

「ったくこの童貞イグアナが。突っかかるのはカイザーにだけにしろよ」

「突っかかってないし」

「いーや今日のおまえはやけにしつこいぞ。恥ずかしげもなく人の恥部に触れたがりやがって。そろそろ発情期か?」

「そんな悪いこと?ちょっと興味本位で聞いただけだろ」

「お前の彼女はちゃあんとガラパゴスから連れてきてやるからよ。な、カイザー」

「うむ、何なら孵化する前の卵を持ってきてやろう。若い方がいいだろ」

「たぶんそれなんかの条約に引っかかるやつだよ」

高鷹とハルヒコに挟まれる天音に、「ていうか君だんだんイグアナ呼ばわりに怒らなくなってきたね」と珠希が苦笑いをした。
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