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しおりを挟む自分が副寮長に返り咲くことはあるのだろうか、とふと考える。別にまたなりたいわけではないのだが。
こうして「男子高の寮生」をやっていると、自分が兄になったり末っ子になったり真ん中になったり、まるで日替わりの兄弟たちと接している気分になる。それで、我慢もワガママもいっぺんに覚えたような気がする。
しかし大吾郎の言うとおり、他人同士の集団生活だ。いくら気の置ける仲間たちとは言え、生活の中では我慢の方が断然多い。もはやマヒして我慢とも思わなくなるほど、あらゆることに目をつぶったり受け流したりしている。自分だけではない、みんながそうなのだ。
だからこそだろうか、サラの特異さは、特に男子の園ではよく目立つ。まるで女のように繊細で、彼自身が何かを頼むことはほとんど無いのに、気を使ってあげなければならないと勝手に思わせてくる。物言わぬおとなしいだけの生徒とは違う。サラはこんな集団生活の中でも、香月新という像を崩すことなく生きている。像を崩さぬということは、彼自身だけでなく、周りもその像を保たせているということだ。
近寄りがたくて不思議なサラのことを、天音は、初めて見たときからずっと気になっていた。大吾郎もきっと同じだ。というよりこの学校の誰しもが、サラという特殊な男を気にしている。
「今日はやけにおとなしいな」
「そお?」
そんなことを考えてぼんやりとしていたら、耀介が天音の頭にポンと手を置いた。
「バカが来てから、毎日悩みが尽きねえもんな」
「あはは、まあね。でも最近、怒りっぽくてやんなる」
「誰が?天音が?」
「うん、僕が。よく考えたらさあ、ていうかよく考えなくてもさあ、平手打ちされたくらいで昨日のアレは、やっぱりちょっとやり過ぎたなって思うんだ。アレだけじゃないけどさあ」
「まあ~チンコ丸出しで外に出られるのはもう絶対に勘弁だけど、でも怒るのはしょーがねえよ、普段からいろいろされてたんだから。昨日のはトドメの一撃みたいなもんだ、キレるのも無理はない」
「そーかね?でもアイツが来てから、こんな短期間で自分でも知らなかった部分がボロボロ出てくる。僕ってもっとおだやかで気が長くて、芳賀くんとかゴローみたいに冷静でいつも一歩引いたところに立ってて、当然自分自身を客観視できてて、スルースキルもそれなりに高いと思ってたのに……そういう今までの自分の像を、みごとに全部くつがえされた感じだ」
「うーん、それに関しては芳賀くんにも言えると思うけどな。ドーンと構えてる秀才キャラだったのに、意外と器がちっちゃくて余裕がないのが露呈し始めたというか……。でもまあとりあえず、今後はあんまりアイツの挑発を真に受けないことだな。絶妙なところを突いてくるし、なぜかときどき変なところで正論ぶちかましてくるから、余計タチ悪いんだ」
「そう、それがホンット癪にさわる」
「けどアイツ自身があのとおりのホラ吹き野郎だし、冗談だけで生きてるみたいなとこあるし、とにかくバカの言うことだと思って聞きながすしかない」
「……そーねえ」
「あと、なぜかサラのおかげでちょっとずつ大人しくなってきてるしな。このまま卒業まで奴に飼われてるのがいちばんだ」
その言葉に、天音の胸がチクリと痛んだ。ポロリと涙してしまったときのあの感情に似ている。昨夜の奇行も、「それ」が面白くなかったがゆえの失態だ。ふたりのことが気にくわないという、子供じみた……これは「嫉妬」というものなのだろうか。
そこまで考えて、パッと切り替えた。うじうじと悩むのは嫌いだ。昨日からずっとくすぶっているせいで、不健康な疲れ方をしている。
「あのさ、よーすけ、話変わっていい?」
「なに?」
「君って童貞?」
「……はい?」
すると脇から日吉が「お前まだそんなん聞いてんの?統計でもとってんの?」と口を挟んだ。
「とってるわけじゃないけど何か急に気になってきた」
「中学生だな。ていうかお前ら一緒に暮らしててもそういうこと知らないもんなの?」
「それが意外と話さないんだよ。彼女いないことがわかりきってると余計にね。だからどう聞くのかもわかんないし」
「だからってそんな面と向かって……」
「いいだろ別に。で、どうなの耀介くん」
すると耀介は何に気を使っているのかはわからぬが、少し気まずそうな顔をしながら「童貞……みたいなもんだよ」とあいまいな返答をした。
「なにそれ?」
「ここに入学してすぐ別れてから、もう1年以上女っ気ゼロだからな。童貞に戻った」
「戻った?はあ?」
すると日吉が「君はリアルな童貞だから知らないだろうけどな、男は長いあいだチンコ使わなけりゃ童貞に戻るんだよ」と天音の肩をポンポンと叩いた。
「じゃあ女の人は?」
「女は知らん」
「おじいちゃんおばあちゃんは?」
「おじいちゃんおばあちゃんでもヤッてる奴はいるだろ」
「やめろ、想像したくない」
「耀介がセックスするところねえ……」
「やめろ、想像するな」
「天音の顔がエロ動画の人妻になってる」
「ひとづま?」
「欲求不満の人妻」
そう言って日吉がニヤリと笑うと、耀介が何とも言えない顔で天音をそっと見やった。
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