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しおりを挟む「お前、野郎に恋をしたことはあるか?」
教頭からようやく返却してもらったウエスタンハットをかぶり、コートを眺めながら得点係の池田におもむろに尋ねる。今日の体育もサッカーだが、ハルヒコは反則ばかりするのでたったいま試合から追放させられたところだ。
「……ないよ」
「タマキンへのあれは恋じゃないのか?」
「新妻先輩のことはあくまでも尊敬だ。恋だなんてとんでもない」
「タマキンのことを抱きたいと思ったことはないのか?」
「はあ?」
「正直に」
「ないね」
「じゃあオカズにしたことは?」
「ないよ!もう、変なこと聞かないでくれ。急にどうしたの?」
「お前の性欲の捌け口はいったい何だ?」
「なんでそんなこと気にしてるんだ」
「ただ何となく」
「ハルヒくんこそ、そこら辺どーなの?」
「俺か?俺のオカズはなあ……」
ポケットからスマホを取り出すと、「え、見せてくれるの?」と池田が困惑した。
「最近ならこれだな」
画像を向けるが、日光でよく見えないので池田が手をかざして覗き込む。そこには布団のようなものから伸びる、太腿から爪先までの両足があった。誰かが横たわっている写真のようだ。
「……足?」
「足だ」
「足が好きなの?」
「別に足に固執しているわけではない。だがなまめかしい足だろう。他にもいろいろあるぞ」
スライドすると、様々な角度から撮られたものや、いろいろな格好の寝姿が出てきた。
「うん、まあ……きれいだね。でもこれで……その、興奮できるのかい?」
「できる」
「ていうかさあ、これ、君が撮ったやつ?」
「ああ」
「え?じゃあ、彼女の……?」
「いいや」
「え、じゃあ他の女の子?誰?」
「女の子ではない」
「え?」
「これをごらん坊や」
更にスライドしていくと、足より「上」の部分が徐々に現れる。
「え?え?」
腹から胸、胸から肩、そして……
「なっ……こ、この人まさか……」
そこに映るのは、撮られていることなどつゆ知らず、ぐうぐうと眠りこける天音の寝顔であった。
「何撮ってんの?!まずいだろ、また怒られるぞ!しかも……え?君これで……?」
「これで抜いてる」
「ひぃぃぃぃぃ!!」
「なぜ引く」
「だって星崎先輩の足で……してるってことだろ?!何で?!君そういう趣味だったの?!」
「こいつは首から下なら、まあ乳の小さい女に見えなくもない体つきをしている。多少骨ばっているが、鍛えてないからゴツくもないし、俺の好きな痩せ型だ。しかも尻は丸い」
「だからって……だからってさすがに……」
「だが首から上を見ると一気にチンコが萎む。爬虫類の被り物みたいなツラでいつもイライラして、口を開けば子供じみた小憎たらしいことばかりほざきやがるからな」
「それは君が怒らせることするからだろ……。あーあ、こんなのバレたらまた殴られるよ」
「なあお前、星崎天音をどう思う?」
「どうも思わないよ。こないだの一件以来、ちょっとおっかないとしか」
「なるほど。じゃあユーレイは?」
「ユーレイ?……香月先輩?」
「ああ。もしもあいつがヤらせてくれると言ったら、お前ヤるか?」
「なっ……し、しないよ。何で急に?」
「いや。……じゃあタマキンをどう思う?」
「だから、別に恋とかそういう目では見ないってば。何かあったの?何でそんなこと?」
「別に何もない。ただ、タマキンは男から見てもいけるのかどうか気になっただけだ」
「男から見て?……ううん……確かにかわいい顔はしてるかなって思うけど、やっぱり男だからなあ。あ、でも……」
「なんだ」
「馬場くんはもしかすると……ほら、林田くんが隠し撮りフォルダがあるとか言ってた」
「馬場?生徒会の奴だな」
「そう。ていうかあの辺の仲良い人たちは、新妻先輩をアイドルみたいにしてるフシはあるよね。ファンクラブみたいなさ。うちの部長も新妻先輩の大ファンだ」
「ふむ……。アイドルか」
ハルヒコがしばらく何事かを考え込み、「そういや何の話をしていたっけか?」と言ったが、池田は話題を戻すのが面倒なので「忘れちゃった」と返した。だが彼はもう元の話題に興味など失ったようで、何か別のことを考えているようだ。
「なあ池田、お前の部長に会わせてもらえないか?」
「部長に?うん、放課後はいつも部室にいるからおいでよ」
「タマキンの親衛隊というのは、ザッとどれくらいだ。大体でいい」
「ええ~、そうだなあ……馬場くんとか部長の周りの人たちで……まあ2、30人はいるんじゃない?隠れファンとか入れればもっといるかもしれないけど、たぶんそれくらいかな?」
「なっ、そんなにいるのか?せいぜい5、6人の狭い世界でゴソゴソと崇めているだけかと思ったぞ」
「僕が把握できるのはそれくらいってだけだよ。アクアリウムの人間はみんな先輩大好きだし、それに新妻先輩って、見かけるたび学年問わずいろんな人に話しかけられたりいじられたりしてさ、すごくモテるじゃん」
「モテる?そうは思えんがな……。アホだからいじりやすいだけだろ」
「優しいからだよ」
「しかしそうか……アホのタマキンのくせして……なるほどな」
つぶやくや否や、ハルヒコは突如いやに力がみなぎった様子で、「おい林田、さっきから見てりゃ何だそのクソみたいなプレーは!!てめえじゃ話にならん、俺と代われ!!」と、池田が止める間もなく、帽子をかぶったままコートに飛び込んでいった。
そして放課後、テニスの練習に向かう高鷹を羽交い締めにし、無理やり校舎の陰に引きずり込んだ。
「おめー何すんだいきなり!普通に呼べよ!!」
「なあ伴高鷹、お前今年中にバイクの免許を取りたいとか言ってたな。そのための金を夏のあいだに貯めるとか何とか……」
「ああそーだよ」
「いくら必要なんだ?」
「えー……母ちゃんが一銭も出さねえって言い切ったから、とりあえず15万」
「高校生のお前が夏のあいだに15万か。やれなくはないだろうが、労働で貴重な夏の思い出を犠牲にする羽目になる。それに部活も休めないだろう、お前は部長なんだし」
「まあなぁ、それが悩みどころだ。……で、それが何だよ?」
「いいアルバイトの話があるんだ」
「バイト?なに?」
ハルヒコがその内容を伝えると、高鷹が「それはバレたらけっこーキツイぞ」と顔を曇らせた。だが「とりあえず今から交渉に行く。それから決めろ」と迫り、高鷹は副部長に断りを入れてハルヒコと共にアクアリウム部の部室へと向かった。珠希は生徒会の会議のため、鉢合わせることはなかった。
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