26 / 128
2
しおりを挟む荷物を移動させる際に発掘された、返し忘れていた氷のうに氷を詰め、今度は頭を冷やしている。ようやく視界がクリアになると、かたわらからサラが覗き込んでいるのに気がついた。
「……興奮して倒れちゃったんだってね」
「ただの湯あたりだ」
「それ、白石先生が早く返しなさいって言ってたよ」
「なあ、となりのバカ2人がいかがわしい関係だってこと知ってたか?」
「いかがわしい?となりって、珠希たち?」
「そうだ。あいつら、男同士で……」
「男同士で?」
「その、何というか、セ、セッ……」
「……セックスしてるって?」
「ぐっ……」
サラがフッと笑い、あたたかい指が頬に触れる。だが氷のうによって自分の顔が冷え切っているせいで、この幽霊のような指先があたたかく感じるだけかもしれない。
「僕もしたことあるよ。男同士で」
「え……?」
「……なんてね」
「バカ、変なこというな」
「でもさ、君」
サラの透き通るような瞳に、暗く妖しい光が宿る。
「男にセクハラはできるのに、男とセックスはできないの?」
「どーいうことだ」
「僕にキスしたし、天音には出て行かれるくらいたくさんいやらしいことしたでしょ。その自覚はあるよね?」
「ない」
「平気でキスしたり裸のまま抱きつけるのに、セックスはおかしいって思う方が変だよ」
「俺は奴を人として意識していないからできるのだ。お前やタマキンやクロザルどもに同じことをしないのはそーいう線引きのせいだ。キスに関しては前も言ったとおりだ」
「昨日どうして僕に抱きしめてほしいって言ったの?」
「人の温もりが欲しかったからだ。日本に帰ってから俺は人の体温に触れていない」
「違うね」
「なに?」
「君が弱いからだよ」
「まだそれを言うか」
「……ひねくれればひねくれるほど、人って弱くなるんだよ」
「俺はひねくれてなどいない」
「寂しいって言えないんだ」
「寂しくなどないから言わんのだ」
「でも昨日の君は少し強くなろうとしてた」
「……?」
「もう1度言って」
「もう1度……?」
「抱きしめてほしいって」
「何だそりゃ。別に俺は……」
「いいから」
「俺を困らせるな」
「珠希たちと同じことしよう」
「……は?」
「君のしたいこと、ぜんぶ僕にして」
「な……おい、どうした。お前何かいつも以上に頭おかしいぞ。引きこもりの前兆か?」
「元からおかしいよ。ねえ、セックスしよう」
「待て!ちょっ……」
サラがベッドに入り込むと、ハルヒコの上にまたがり、そのままキスをした。
「うっ、うぶっ……むぅ……」
氷のうが落ち、サラの舌が入り込む。
「待っ……」
「嫌がらないで」
「……」
「ここまできたらもう諦めなよ」
「野郎を掘る趣味はない」
「でも硬くなってるよ」
サラの尻の下で、ハルヒコのペニスは先ほどと同じように膨らみはじめている。
「……いいだろ、減るもんじゃなし」
「減りはしないが、ヤッちまったら俺の中で何かが死ぬ」
「死ねばいいよ。その程度で死ぬならどうでもいいものなんだから」
「なぜお前は俺と……こんなことをしたがる?」
「君みたいなくだらないプライドのかたまりの童貞男、見てるとイライラしてぐちゃぐちゃにしてやりたくなるんだ」
「なっ……」
「でも何故か、イライラするのにものすごく欲しくなる。何でだろうね」
「お前の変態趣味に付き合わせるな」
すると、サラの指が布越しにペニスをなぞった。
「うぐっ……」
「ピクピクしてるよ」
「お前……」
「ねえ、いっぱい好きなことしていいから。ハルヒコ……」
ガクガクと震えながら、サラの指による快感に耐える。だがその指が下着の中に入り込んだ瞬間、ハルヒコはサラを下から力いっぱいに抱きしめ、狭いベッドの中で強引に上下を逆転させた。サラは人形のような瞳でハルヒコを見つめ、もう1度彼からされるキスを、目を閉じて受け入れる。くちびるを離すと、彼はそのまま首筋に鼻をうずめるようにして、更に力強くその華奢な身体を左腕で抱きしめた。そして右手で自分の下着を下ろし、サラのTシャツを胸のあたりまでまくりあげた。
「……ハルヒコ?」
サラが眉根を寄せる。
「ねえ……」
「静かにしてろ」
「下も脱がしてよ」
「いい。このままでいいんだ」
「何で?」
「いいから」
ハルヒコは、サラの下着を脱がさぬまま、右手で自分のペニスを激しくしごいていた。髪の匂いを嗅ぎ、キスをして、また首筋に鼻をうずめ、荒い息を大きく吸う。
「手……」
「手?」
「俺の背中にまわせ」
「……」
ふたりは両腕と片腕で抱きしめあい、ハルヒコの右手は速度を増し、しばらくの静寂ののち、ハルヒコが小さくうめきながら痙攣した。その瞬間、ヘソのあたりに生ぬるいものが飛び散るのを感じた。肩で息をするハルヒコの顔をのぞきこむと、また深い口づけをする。ごく自然なキスだった。
「……なんで入れてくれないの?」
「……」
「ねえ、ハルヒコ」
好き、と耳元でささやかれる。しかし沸騰してから冷めていく頭の中で、ハルヒコはその言葉を理解することができなかった。
「ああ、何か死んだ」
「セックスしてないのに?」
「お前の皮膚の上で俺の遺伝子が死んでいく」
「中に出したって同じことだよ」
「お前いい匂いするな」
「今日お風呂入ってないよ」
「その方がいい。その方が……」
「……ハルヒコ?」
信じらんない、とつぶやく。彼はそのまま、自分が放ったものも拭かずに眠りに落ちてしまった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説


私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951


寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる