少年カイザー(挿絵複数有り)

めめくらげ

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荷物を移動させる際に発掘された、返し忘れていた氷のうに氷を詰め、今度は頭を冷やしている。ようやく視界がクリアになると、かたわらからサラが覗き込んでいるのに気がついた。

「……興奮して倒れちゃったんだってね」

「ただの湯あたりだ」

「それ、白石先生が早く返しなさいって言ってたよ」

「なあ、となりのバカ2人がいかがわしい関係だってこと知ってたか?」

「いかがわしい?となりって、珠希たち?」

「そうだ。あいつら、男同士で……」

「男同士で?」

「その、何というか、セ、セッ……」

「……セックスしてるって?」

「ぐっ……」

サラがフッと笑い、あたたかい指が頬に触れる。だが氷のうによって自分の顔が冷え切っているせいで、この幽霊のような指先があたたかく感じるだけかもしれない。

「僕もしたことあるよ。男同士で」

「え……?」

「……なんてね」

「バカ、変なこというな」

「でもさ、君」

サラの透き通るような瞳に、暗く妖しい光が宿る。

「男にセクハラはできるのに、男とセックスはできないの?」

「どーいうことだ」

「僕にキスしたし、天音には出て行かれるくらいたくさんいやらしいことしたでしょ。その自覚はあるよね?」

「ない」

「平気でキスしたり裸のまま抱きつけるのに、セックスはおかしいって思う方が変だよ」

「俺は奴を人として意識していないからできるのだ。お前やタマキンやクロザルどもに同じことをしないのはそーいう線引きのせいだ。キスに関しては前も言ったとおりだ」

「昨日どうして僕に抱きしめてほしいって言ったの?」

「人の温もりが欲しかったからだ。日本に帰ってから俺は人の体温に触れていない」

「違うね」

「なに?」

「君が弱いからだよ」

「まだそれを言うか」

「……ひねくれればひねくれるほど、人って弱くなるんだよ」

「俺はひねくれてなどいない」

「寂しいって言えないんだ」

「寂しくなどないから言わんのだ」

「でも昨日の君は少し強くなろうとしてた」

「……?」

「もう1度言って」

「もう1度……?」

「抱きしめてほしいって」

「何だそりゃ。別に俺は……」

「いいから」

「俺を困らせるな」

「珠希たちと同じことしよう」

「……は?」

「君のしたいこと、ぜんぶ僕にして」

「な……おい、どうした。お前何かいつも以上に頭おかしいぞ。引きこもりの前兆か?」

「元からおかしいよ。ねえ、セックスしよう」

「待て!ちょっ……」

サラがベッドに入り込むと、ハルヒコの上にまたがり、そのままキスをした。


「うっ、うぶっ……むぅ……」

氷のうが落ち、サラの舌が入り込む。

「待っ……」

「嫌がらないで」

「……」

「ここまできたらもう諦めなよ」

「野郎を掘る趣味はない」

「でも硬くなってるよ」

サラの尻の下で、ハルヒコのペニスは先ほどと同じように膨らみはじめている。

「……いいだろ、減るもんじゃなし」

「減りはしないが、ヤッちまったら俺の中で何かが死ぬ」

「死ねばいいよ。その程度で死ぬならどうでもいいものなんだから」

「なぜお前は俺と……こんなことをしたがる?」

「君みたいなくだらないプライドのかたまりの童貞男、見てるとイライラしてぐちゃぐちゃにしてやりたくなるんだ」

「なっ……」

「でも何故か、イライラするのにものすごく欲しくなる。何でだろうね」

「お前の変態趣味に付き合わせるな」

すると、サラの指が布越しにペニスをなぞった。

「うぐっ……」

「ピクピクしてるよ」

「お前……」

「ねえ、いっぱい好きなことしていいから。ハルヒコ……」

ガクガクと震えながら、サラの指による快感に耐える。だがその指が下着の中に入り込んだ瞬間、ハルヒコはサラを下から力いっぱいに抱きしめ、狭いベッドの中で強引に上下を逆転させた。サラは人形のような瞳でハルヒコを見つめ、もう1度彼からされるキスを、目を閉じて受け入れる。くちびるを離すと、彼はそのまま首筋に鼻をうずめるようにして、更に力強くその華奢な身体を左腕で抱きしめた。そして右手で自分の下着を下ろし、サラのTシャツを胸のあたりまでまくりあげた。

「……ハルヒコ?」

サラが眉根を寄せる。

「ねえ……」

「静かにしてろ」

「下も脱がしてよ」

「いい。このままでいいんだ」

「何で?」

「いいから」

ハルヒコは、サラの下着を脱がさぬまま、右手で自分のペニスを激しくしごいていた。髪の匂いを嗅ぎ、キスをして、また首筋に鼻をうずめ、荒い息を大きく吸う。

「手……」

「手?」

「俺の背中にまわせ」

「……」

ふたりは両腕と片腕で抱きしめあい、ハルヒコの右手は速度を増し、しばらくの静寂ののち、ハルヒコが小さくうめきながら痙攣した。その瞬間、ヘソのあたりに生ぬるいものが飛び散るのを感じた。肩で息をするハルヒコの顔をのぞきこむと、また深い口づけをする。ごく自然なキスだった。

「……なんで入れてくれないの?」

「……」

「ねえ、ハルヒコ」

好き、と耳元でささやかれる。しかし沸騰してから冷めていく頭の中で、ハルヒコはその言葉を理解することができなかった。

「ああ、何か死んだ」

「セックスしてないのに?」

「お前の皮膚の上で俺の遺伝子が死んでいく」

「中に出したって同じことだよ」

「お前いい匂いするな」

「今日お風呂入ってないよ」

「その方がいい。その方が……」

「……ハルヒコ?」

信じらんない、とつぶやく。彼はそのまま、自分が放ったものも拭かずに眠りに落ちてしまった。
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