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タマキンFC
しおりを挟む「ゴロー、ほんとは面白くないだろうな」
耀介と並んで湯船に浸かり、天音がつぶやく。何とも言えない顔で、アゴまで浸かった耀介が「まーなぁ」と返した。
「……サラが渦川と相部屋オッケーするなんて、絶対ありえないと思ってた。俺には関係ないけど気の毒だ。大吾郎が」
「でもこればっかりはフォローのしようがない。まあ部屋の交換は、僕が我慢しなかったせいではあるんだけど」
「天音のせいじゃねえし、大吾郎がそんなふうに思うわけねえよ」
「そうだといいけど……」
口まで沈み、浮かない顔をする。
ー「野郎だらけのお風呂ターイム」
「乳首モロ出し!」
「ポロリしかないよ!」
いつものごとく水鉄砲のみを持ったハルヒコと、高鷹、珠希のコンビが入ってきた。「うるせえのが来やがった」と耀介がうんざりした顔をする。
「おらぁ珠希ィ、そこに座れぇ!」
「もーやだ、ここでベタベタしないで」
「お前はいいなあ、ひっついてもブン殴られなくて」
「へっへー、そりゃあ珠希ちゃんは俺にベタ惚れだからな。何でもし放題。チンコくわえさせ放題」
「何言ってんのバカ!」と珠希が軽くゲンコツをし、「うーわ、あいつクソすぎる。」「キモすぎる」と耀介と天音が顔をしかめる。だがハルヒコだけは耳まで真っ赤になり、黙り込んだ。
「……え、何赤くなってんの?」
一瞬沈黙し、やがて高鷹が「こいつ急に照れやがった!!おいどうしたカイザー、何で突然ウブになったんだ!」と笑い、珠希もニヤニヤと意地の悪い顔をしながら「リアクションのタイミング逃したんだ」と容赦のない指摘をした。
「冗談だよカイザーくん、僕たちは健全なお友達同士ですからね?お前とおんなじ清らかな童貞仲間だよ」
「ハ……な、何を言う。俺はなァ、メキシコで使いすぎてチンコなんかこれで3本目だ。ガキだって何人認知したか数えきれねえ」
「さあ~珠希ちゃぁ~ん、おじさんがきれいきれいしてあげますからね~」
ハルヒコの言葉を無視して、珠希の真後ろで石鹸を泡立てる高鷹に、天音が小さな声で「ハルヒコの兄弟ってホントは高鷹なんじゃないの?」と言うと、耀介も「やってることおんなじだ」とその光景から目を逸らしながら言った。
珠希は頭を洗うが、高鷹の泡まみれの手は胸やわき腹や太腿を撫でていく。
「くすぐったいからホントにやめて。ていうか高鷹もさっさと洗いなよ」
「なー、俺たちすげえ見られてるぞ。天音、お前も混ざる?」
「けっこうです」
「遠慮すんなよ、溜まってんだろ?」
「お前に抜かれてたまるか」
「何言ってんの、僕だってここで抜くわけじゃないから」
「あーもううっさい、勝手にやってろ」
「ったく、野郎同士でみじめなこった」と水鉄砲に水を入れたハルヒコが湯船に浸かろうとすると、間髪いれず「お前も身体洗え!!」と天音が怒鳴りつけた。
ー「あ~、ぬるくて汚くてええ湯じゃの~」
ふたりが湯船に浸かると、まるで恋人同士のように背後から珠希を抱きすくめ、珠希も高鷹に寄りかかった。
「お前らってさ、よくいじめられたりとかせずに無事に毎日を送れてるよな」
耀介がふたりを視界に入れずに言うと、「君たちさえ友達でいてくれればいいんだよ」とわざとらしい口ぶりで高鷹が返した。
「でも高鷹って学校では違う顔してるもんね。テニスでもふつーに後輩とかにマジメに指導してるし。寮の子たちはみんなギャップについていけてないんだと思う。それか逆にものすごく理解してくれてるか、そのどっちかだよ」
「理解はしてないだろ、現に俺が引いてるんだから。たぶん共学だったらお前らの学生生活アウトだったよ。渦川以上に女子から嫌われてる」
「心外だぜクロザルくん」
「その呼び方やめろ」
「おいクロザル、なぜ俺が女子に嫌われてる前提なんだ」
「なんで嫌われないと思えるんだ?男の俺でもけっこう無理なのに……って冷たっ!やめろ!」
冷水の水鉄砲で顔を狙撃される。
「けど実際のところ君たち本当はどうなの?付き合ってるの?」
軽はずみな口調で天音が聞くと、空気がぴたりと静止した。
「あれ?……やっぱまずかった?」
「突然ブッ込んだなあ、やるな天音」
「だって……仲良すぎじゃん。1年の時からみんな何となくスルーしてたし、今さら聞いたから何だってことはないけどさあ」
「でも答えによっちゃあ俺もどうリアクションしていいかわからん」
「……だってよ、珠希さん」
「え、僕に振るの?」
「俺たちの関係、知りたい?」
「……別に無理にとは」
「ていうかわざわざ言わなくても、もう、なあ……?」
耀介が苦笑いでごまかす。そして「ていうか俺たち何分浸かってんだ。いいかげん熱ちぃから出るわ」と先に風呂からあがった。
「勇気のない男め」
「のぼせそうなだけだ」
「いいかクロザルくん、さっきは健全なお友達と言ったが、俺たちはなあ……」
「結局言うの?」
「俺たちは……」
「はーめんどくさ、ていうかみんな分かるだろ?僕たちは去年の夏くらいからお付き合いしてまーす」
珠希があっけらかんと明かすと、耀介が「はいはい分かってました」と言い残しさっさと脱衣所へ向かった。だがあえて口にされたことで、内心では動揺している。それに反して平然とした様子の天音が「え、じゃあセックスもしてるよね?けっこう頻繁に」と臆することなく尋ね、耀介がぴたりと立ち止まった。
「……お前、恐怖心だけじゃなく羞恥心も無いの?」
振り向いた彼の顔は、のぼせによるものではない赤みを帯びている。
「羞恥心が無いってのはハルヒコみたいなことを言うんだよ。別にふつうの質問じゃん。前からとなりの部屋でさあ、たまに夜中に変な声とか物音がするから、何だろーな?って思ってたんだよね」
「バ……そんなこと暴露するなよ……」
「まーしてないワケねえわな。チンコが勃ったらヤるしかねえだろ。最近は回数減ったけどよ。でも珠希が頑張って声抑えてたんだけどなあ、やっぱ壁薄いし聞こえるか」
「お前も生々しいこと答えなくていいよ」
「テニスの試合前は我慢するんだけど、終わってからだと1日中してるよ。高鷹すごいんだから。出してもすぐ復活するんだ」
「……ああ、なんか想像しちまった」
「えー、よーすけの変態~」
「よかったらお前も混ざる?」
「何ですぐ混ぜたがるんだよ!あー、もう腹いっぱい。さよなら」
耀介が立ち去ろうとする。だがその瞬間目の端に入ったものが気になり、またしてもぴたりと動きを止め、今度は怪訝な顔でふと後ろを振り返った。
「……渦川、お前……」
様子の一変した耀介の視線の先を、天音と高鷹と珠希が見やる。
「おおーヤベー!!しっかりしろぉカイザー!!」
高鷹が慌てて立ち上がり、鼻血を出して沈みかけていたハルヒコの両脇を抱えて引っ張り上げた。水鉄砲はゆらゆらと浮かんでいる。
「え?え?なに?どしたの?」
「コイツまた気絶してた?」
慌てた耀介も湯船にばしゃばしゃと入ってきて、「高鷹、とりあえずこいつ風呂から出すぞ!」と脱力したハルヒコの右肩を抱いた。だがその瞬間あるものが目に入り、「うわっぷ……」と静止した。
「なに?どしたん?」
「こいつ最悪だ……」
すると天音と珠希も「それ」に気がつき、「あ~あ……」と同時に顔をしかめた。
「うっわ!勃っとる!」
高鷹がハルヒコを抱えていた腕を離して後ずさり、耀介がグラリとバランスを崩しかけて「離すな!」と叫んだ。
「こいつさあ、ふざけてセクハラはするけど、リアルなものに対してウブだよね」
天音が呆れ笑いを浮かべる。
「セックスって言葉を異様に恥ずかしがってるんだ。そのくせ平気で僕の前でオナニーはするんだよな。恥ずかしさの基準が謎すぎる」
「ホントはふたりがいちゃついて身体洗ってるとこからけっこう限界だったんじゃないか?おい高鷹、いいからちゃんと持て。こうなったのはおめーの責任だ」
「うぅ……友達のギンギンになったチンコはキツいなあ」
「いいから早く連れてってよ。僕もそんなの見たくない。ていうかお湯汚れたし」
「お風呂、僕たちで最後かな?」
「この時間からはもう来ないでしょ。あと15分だし」
「じゃあ栓抜こっか」
「もー、入ったばっかなのに~」
天音が栓を引っこ抜くと、あらゆるものが溶け合った汚い湯が流れていった。そういえば入寮したての頃は、一番風呂の新湯でなければこの浴槽に浸かることもできなかったのに、今やこうしてほとんど毎日終い湯に入るようになってしまった。慣れというのは恐ろしいものだと、吸いこまれていく湯の渦を見ながら天音は思った。
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