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しおりを挟むー「おう兄ちゃんここにおったんか。さっきの落とし前はどうつけてもらえるんかいのう」
談話室で風呂上がりの珠希たちとテレビを見終えてから、午後11時前にハルヒコが部屋に戻ってきた。天音はいつもどおりヘッドフォンをして机に向かっている。
「指の1本や2本で済めばええがの~、おう?」
憎たらしい顔でのぞきこむ。すると天音がヘッドフォンをはずし、「は~あ、疲れた。もう電気消すよ」と言い、あくびをしながら背中を伸ばした。
「お前、おだやかで優しいのが売りじゃなかったんか。日ごとに凶暴化しているし根性もねじ曲がっていってるぞ」
「君以外のみんなにはいつもどおりの僕だから大丈夫」
「ウラオモテの激しい奴だ」
「さー上がった上がった。寝ますよ」
「なあ、お前1年のときの地図帳持ってるか?池田に見せてもらってるんだが、三国がいいかげん自分のを買えとうるさいんだ。譲ってほしい」
「あー……そこの本棚にあるから、適当に持ってっていいよ」
「うむ」
「消すよ」
天音が扉の横の電気を消そうとすると、ハルヒコがはしごを使わずにベッドに飛び乗った。すると即座にその「違和感」に気づき、布団の上から「中のもの」をそっと触った。天音は息を飲む。
「おい、なんだ、なにか硬いものが……」
布団をめくりあげる。するとハルヒコはまるで時が止まったかのように、「それ」を見つめながら微動だにしなくなった。
「どーしたのカイザーくん?」
天音がわざとらしく背後から尋ねる。それでも彼は硬直している。
「……もしかしたらお気に召さなかったかなあ?」
ハルヒコは目を見開き、横たわる石の塊を見つめていた。それは先ほど耀介たちの制止もきかず、天音が何かにとりつかれたかのように死ぬ思いでここまで運び込んできた裏庭の地蔵であった。
「今度またあんなマネをしてみろ。次やったら自腹で墓石屋に注文して、卒業するまでこの部屋に地蔵を設置してもらうからな」
「………あ………」
「ねえ、ほんとに弱点だった?君ほんとに地蔵が怖いの?」
「あが……が……」
ハルヒコがぶるぶると震えだす。
「……ねえ、ハルヒコ……」
天音がようやく彼の異変に眉をひそめる。すると次の瞬間。
「ィィいいいぎゃあああああぁぁぁぁあああああぁぁぁああぁわぁあああぁぁぁあああーーーーーーー!!!!!!」
「ひっ……」
それは腹の底から絞り出されたかのような大絶叫だった。天音が腰を抜かしかけてずるずるとへたり込み、悲鳴を聞きつけた珠希と高鷹がすぐさま部屋に駆け込んできた。
「ちょっと!なにごと?」
「おいカイザーどした!おい!」
「あが、ガガガ、が、あば、ばばば…アバ…ガガ…」
「カイザー壊れてるぞ」
「天音、どうしたの?!」
「何があった?」
他の寮生も騒ぎを聞きつけぞくぞくと集まってくる。だが珠希が「あーごめん、ゲームしてた」とすぐに扉を閉めた。
「ねえ、天音?」
両肩に手を置いて揺さぶる。すると天音は涙目で震えながらベッドを指差した。
「じ、地蔵、地蔵を置いたら……」
「は?地蔵って?」
高鷹が上段に飛び乗ると、ベッドがミシミシと軋んだ。
「うわ、何だこりゃ!」
「どうしたの?」
「地蔵がベッドインしてる」
「はあ?」
「カイザー!お前まさかこれに呪われたんか?!おいしっかりしろ!!」
高鷹がハルヒコの頬を勢いよくひっぱたく。
「珠希だめだ、呪われてるっぽい……」
「ええ?!どーすればいいの?」
「水ぶっかけよう」
「ここで?水浸しになっちゃうよ!」
「わかった、じゃあ風呂にブチ込もう!お前足持てる?」
「うん!天音もしっかりして!平気?」
「呪われたんじゃない……呪われたんじゃ……」
「あのお地蔵さん、ハルヒコくんが持ってきたんでしょ?」
「ちが……ちがう……ちがうんだ」
「じゃあ誰がやったの?」
「ぼ、……僕………」
「はあ?!」
ー「天音、どうした?!」
騒ぎを聞きつけ、大吾郎と耀介も蒼白の顔で部屋に飛び込んできた。
「おおちょーーどよかった!お前ら手伝って!風呂場に除霊しにいく!」
白目をむいてブクブクと泡を吹きぐったりとなったハルヒコを、高鷹と大吾郎と耀介の3人で抱え、急いで風呂場へと向かった。しかし言われるがままに勢いでこうしているものの、階段を降りたところで耀介がようやく疑問を抱き、「ところで除霊ってなに?なんで風呂場に行くの?」と尋ねると、「そういえば確かに……」と高鷹も我に返った。
「除霊のくだりはわからんけど、気絶してるから水ぶっかけようってことだろ?」
大吾郎が指摘する。
「そうだそれだ!でもこいつ呪われてるんじゃねえかなって……」
「なんで?」
「なんかさっきまで奇声とか発してて、すげえ頭おかしい人みたいになってたから……」
高鷹が言うと、耀介と大吾郎が「じゃあいつもどおりだろ」とシンクロした。
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