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第四章 A Night For The Knives
刃夜ー⑧ー
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入口の壁沿いにいるナオトを、3体の“クァトロ“が囲んでいた。
ブルースは、ケネスのいる立ち位置に続く順路――つまり、8x8の柱の中心部から走る。
しかし、ブルースの目の前で、ナオトを囲む三体に光が広がった。
入り口側の“クァトロ“の咢が、ナオトが両手で束ねた鞭に遮られ、電子の牙が散光。
咬みつき攻撃を防いだので、彼は二体に背後を見せてしまう。
ブルースは、命導巧を構え、引き金を引いた。
ナオトの方角に向かって放電。
ナオトの周囲を液体窒素の気化白煙に変えた。
酸素を篭めた、雷袖一触による銃撃である。
空気に触れた圧力膨張で、ナオトに煙幕を張ったのだ。
「”ウィッカー・マン”の皮膚を使った、マイクロ波反射……陳腐すぎて、面白くない」
ブルースが、ケネスに向けて吐き捨てる。
”ウィッカー・マン”の皮膚は、金属製だ。
電子レンジに、アルミ箔を入れると火花が出るのと同じで、金属は電磁波を反射する。
ケネスの発火能力の熱源であるマイクロ波は脳波に乗せるが、一人か一体にしか照射が出来ない。
それなら、反射物があればどうなるだろうか。
ケネスは”ウィッカー・マン”の反射する皮膚を利用した反射で、相手に殺熱視線を送ることが出来る。
「そりゃ、直ぐに殺し尽くしたら面白くねぇだろうよ……ブルース? 笑わす側が笑わされたら、面白くもねぇよな。そっち側にオトすのが愉快なんだよ!」
ケネスの弾ける様な嘲笑を前に、ブルースは二振りのヴンズ・ドライヴを逆手に持ち帰る。
右足を引いて、右手の刃を見せつけながら、ブルースは左へ半身を切った。
切った左半身から左脚を後ろに下げながら、腰を入れて突き出した左の刃でケネスの顔を映す。
左の刀身を上に、右のそれが振れる寸前ですれ違わせながら、
「直ぐに殺せないの間違いだろ?」
ブルースは、左右それぞれを上下に据えた三日月刀を、入れ替えながら、
「空港の遺体でも、皮膚が泡立って焼けたのが一体だけだ。ついでに聞くと、”ウィッカー・マン”転移に使った熱力はどうした。熱力量なら、簡易宿泊所を破壊したそれもあるだろ? それを使えば、俺たちもすぐ焼き払えるんじゃないのか?」
バンクーバーで起きていた、発火現象自体、普通の橙色の炎で焼かれたものと、青色で焼かれたものがある。
前者がマイクロ波照射。
ケネスの“エクスキューズ”の能力で言えば、こちらの攻撃である。
後者は、プラズマと体内放電。
青色の炎は、炎色反応で言えば、波長の短い高温度によるものだ。
逆手に構えた半月刃の上下を入れ替えながら、ブルースは足運びを行う。
「答えは簡単だ。マイクロ波をこっそり使うのは、お前の力だ。それは変わらん。”ウィッカー・マン”の転移と侵入。それはお前のじゃない……サロメから与えられた力だからだ!」
ブルースが断言しながら、足で内から半月を描きながら移動。
それが、ケネスの笑いのツボにはまったのか、嘲笑を顔から爆発させた。
上体を曲げ、腹を抱えたケネスは、
「分かったからって、どうなんだよ……。それより、空気の心配が先じゃねぇの? 俺は発火能力だから、酸素位、既に体内で作っている。お仲間は、装甲を纏っているが”ウィッカー・マン”の皮膚から出来ている以上、何れ喰われる。酸素を用意していても、ここにある窒素で、お前も何れ窒息する」
笑いで呼吸を詰まらせながら、事実を述べるケネス。
彼の銀色の左顔面とその中の有機的な輝きが、ブルースの背後から迫る、“クァトロ“を二体映した。
“四つん這い“の跳躍に、ブルースは大きく膝を曲げる。
飛び越えた一体目の前脚を、左のショーテルを、時計回りで一体の胸部を切り離した。その反動で、右手のショーテルを逆手から持ち替えながら、二体目も分断。
ブルースは左右の刃を交差させながら、ケネスを凝視。
「ケネス、さっきから俺に恨みをぶちまけている割に、俺への攻撃を”ウィッカー・マン”に任せて、マイクロ波照射を行っていないけど……?」
「そういう話術は、お前の得意技だよな……少なくとも、窒息するだろうが、テメェは簡単に死なねぇのは、情報を得ているからな」
ケネスの言葉に、ブルースは息を呑んだ。
――サロメからか……。
そもそも、情報と言えるのは、確実に「当事者」に近いものから、吹き込まれているということだ。
「そういう奴なら、周りを苦しめればいい。どうせ、遅かれ早かれ死ぬんだ。テメェの苦しんだ顔で、笑わせてくれよ」
ケネスの宣告と共に、ブルースは左から風を感じた。
液体窒素に包まれた白煙を纏った“ウィッカー・マン:クァトロ“の顎が、彼の左首筋を捉える。
ブルースは、“クァトロ“と逆方向に右足を置き、“ヘヴンズ・ドライヴ“の鍔から覗く銃口を突きだした。
雷袖一触の銃弾が、“クァトロ“の左胸を貫く。
すると、“クァトロ“の叫び声の代わりに放たれた、黄色の爆発と白煙が彼を包み込んだ。
「何やってんだ、テメェ。圧縮空気には、酸素や水素だけでなく、窒素も含まれている。窒素の圧縮は、アンモニアを作り、その中に酸素を放り込んだら爆発。分かりやすく言うと、爆弾に囲まれてんだよ。しかも、自分に煙幕を張る為に銃を撃つなんて、馬鹿かテメェ?」
液体窒素の圧縮により、火薬の原料となるアンモニアが出来ることくらい、ブルースは承知している。
しかし、ケネスは重大な事実を見落としていた。
「悪趣味だな……。だが、生憎、長く生きている分、特技もあってね。友達を選べること。それと、俺の話術が特別なわけじゃないぜ……お前の口が、下手で寒いだけだ」
ケネスは訝し気に、顔をゆがめる。
右半分が銀色の顔に、緊迫の色が染まり始めた。
研究施設全体にいた”ウィッカー・マン”は、12体。
道中の2体は、ブルースとナオトの二人で倒した。
残り10体の内、2体はケネスの傍にいる。
5体はブルースが倒した。
ナオトに向かった3体は?
「で、『誰が煙幕を自分に張った』って……ケネス?」
ブルースの言葉と共に、白煙から銀流が飛ぶ。
ケネスの右側に立っていた、“ウィッカー・マン:クァトロ“の頭部に突き刺さった銀流の正体は、3本の短剣。
白煙が、一陣の風に舞い上がると、殴打音が響く。
殴打されたのは、短剣の突き刺さった”ウィッカー・マン”。
しかも、その左胸が、鎖に繋がった“クァトロ“の上顎の牙で潰されていた。
ケネスは咄嗟に右腕を上げるが、巻き上がった白煙が逃さない。
叫び声を上げる前に、白煙に包まれた上顎の牙が、ケネスの右腕を貫いた。
弾けた笑いのケネスの顔の表情筋が、引き攣る。
収縮したケネスの表情筋からの視線が、白煙の向こうにいる背骨の鞭を持ったナオトとその足元に奪われた。
うつ伏せで倒れている三体の“ウィッカー・マン:クァトロ”。
左胸には、短刀がそれぞれに突き刺さっていた。
「”ウィッカー・マン”を”命熱波”使いでもない、人間が倒す……そんなことがあってたまるか!?」
ケネスが叫びながら、腕にめり込んだ“クァトロ“の上顎を右腕から引き剥がそうとする。
ズタズタに裂かれたトレーナーの右袖に食らいついた“クァトロ“の頭を、銀色の左手が掴んだ。
痛さと悔しさに滲ませたケネスの視線が、ナオトを再度捉える。
ケネスの加熱視線を覚ったブルースの動きは軽い。
しかし、ケネスの傍を守る二体目の“クァトロ“の動きも速い。
左手のショーテルから放つ単振動の刃は、前脚を二つ切断。
懐に潜り込み、ショーテルの半月刃の先端を左胸に突き出した。
ブルースは背中で、前脚を失った“クァトロ“を退け、二本のショーテルを左手に持ち替える。
右ポケットから取り出したものを投げた。
ナオトに気を取られたケネスの左顔面に、黄色の塊が弾けた。
投げられたのは、液体窒素で凍結したバナナ。
ブルースが休憩室を散策していた時に、一本拝借したのだ。
凍結した果実を投げつけられ、ケネスの体は教会の鐘の様に全身を揺らす。
刹那、揺れる体が前のめりにされた。
右腕に食い込んだ上顎を取ることは叶わなかったケネスの顔は、液体窒素で凍った床に口づけをさせられる。
ナオトの鞭による引き寄せで、顔面を叩きつけられたケネスの顔面は紅く染まり、口から前歯が雹の様に落ちた。
白煙と霜に包まれた床を、鮮やかな赤が踊る。
悔恨の顔に染まるケネスは、膝を付けながら、上目遣いでナオトを見上げた。
ナオトに映るケネスの血みどろの顔は、逆の立場で見る予定だったのだろう。
だが、”命熱波”使いでなく、人間に優位を見せつけられることが、彼の”エクスキューズ”として歪んだ自己顕示欲が許さないようだ。
「”ワールド・シェパード社”は、隊員たちが”ウィッカー・マン”と戦いやすくする為に実戦と研究を重ねている。その武器を扱えるようにしないとね……」
ナオトはそう言うと、鞭を強く引いた。
今度は、フード付きパーカーの左腕に鞭が絡み、強制的に仰向けにさせられた。
その衝撃と痛打が、後頭部を襲う。
ブルースは、”ワールド・シェパード社”の専務であるナオトを敵にして、尊敬すべき味方だと思っている。
人間の意地ではなく、“知恵“を重視。
知恵を活かす為に、知識を貪欲に得ようとする。
その為には、前線を駆けることも厭わない。
――ビリー=クライヴも一目置くはずだ。
人類の敵と言う、”ウィッカー・マン”とそれに続く“UNTOLD”、”命熱波”使いをビリーは敵視していたが、そんな彼もナオトの言葉だけには、耳を傾けた。
視野の広い者にして、行動できる日本人青年の信念は、”ブライトン・ロック社”と関わり、理解を深めようとした。
ナオトの姿勢は、”ウィッカー・マン”を憎む“ビリー=クライヴ“を、ただの戦闘狂に終わらせなかった。
「なら、ビリーと同じだ。武器が開発されれば、僕も試す。少なくとも、試作品で死ぬなら、僕一人で十分だ」
用兵術としては、不十分な決意である。
しかし、経営者、技術者にして開拓者としては申し分ない覚悟だった。
ブルースは今までの戦いで見た、彼の信念から来る強さを買っている。
ロックとは別の意味で、未来を切り開くと考えて。
「僕たち人間は、乗り越えられる。その犠牲が、僕で済むなら安いもんだ」
人間として、等身大でどこまでも足掻くこと。それが、ナオトの強さだった。
しかし、彼の誇りに満ちた顔が消える。
対して、ナオトの足元で仰向けとなったケネスの顔は、ブルースを蔑んだ視点と同じものを見せていた。
「そして、お前は俺も殺せない」
ブルースが言うと、ケネスは視線を大きく逸らした。
それから、両手で頭を抱えながら悶え始める。
声にならないブルースへの殺意を叫び声に乗せ、ケネスは再びうつ伏せた。
「助かったよ。ブルース」
ナオトが溜息と共にブルースへ礼を短く言った。
ケネスに向き合っていた時、ブルースも攻撃を仕掛けていた。
空気を介して伝わる媒質は、電波だけではない。
音も含めた、波である。
ブルースは、金月刃雷で単振動を放つショーテルを、交差させて音を出していた。
人間の可聴域は20ヘルツから20000ヘルツ。
可聴域を超えて、聞こえない音としては、低周波音や高周波音と呼ばれている。
LRADという指向性――相手に直接伝える――兵器の低周波音を、“ヘヴンズ・ドライヴ“を交差させながら、ケネスに当てていたのだ。
その威力は、“すごい力で頭を掴まれる“程である。
ケネスは電磁波を使ったものだが、ブルースはそれだけでなく、空間を伝わる全ての波を操ることが出来た。
それが、”命熱波”使いのブルースとしての強さである。
ブルースの布石に次ぐ、布石にケネスはこちらを上目遣いに睨みつけた。
頭の痛みで目が涙ぐみ、三半規管を揺らされたのか、恨み言の代わりに出た嘔吐物が唇を濡らす。
胃液と未消化の食物で遮られたケネスの恨み節が、研究棟に響いた。
ブルースは、ケネスのいる立ち位置に続く順路――つまり、8x8の柱の中心部から走る。
しかし、ブルースの目の前で、ナオトを囲む三体に光が広がった。
入り口側の“クァトロ“の咢が、ナオトが両手で束ねた鞭に遮られ、電子の牙が散光。
咬みつき攻撃を防いだので、彼は二体に背後を見せてしまう。
ブルースは、命導巧を構え、引き金を引いた。
ナオトの方角に向かって放電。
ナオトの周囲を液体窒素の気化白煙に変えた。
酸素を篭めた、雷袖一触による銃撃である。
空気に触れた圧力膨張で、ナオトに煙幕を張ったのだ。
「”ウィッカー・マン”の皮膚を使った、マイクロ波反射……陳腐すぎて、面白くない」
ブルースが、ケネスに向けて吐き捨てる。
”ウィッカー・マン”の皮膚は、金属製だ。
電子レンジに、アルミ箔を入れると火花が出るのと同じで、金属は電磁波を反射する。
ケネスの発火能力の熱源であるマイクロ波は脳波に乗せるが、一人か一体にしか照射が出来ない。
それなら、反射物があればどうなるだろうか。
ケネスは”ウィッカー・マン”の反射する皮膚を利用した反射で、相手に殺熱視線を送ることが出来る。
「そりゃ、直ぐに殺し尽くしたら面白くねぇだろうよ……ブルース? 笑わす側が笑わされたら、面白くもねぇよな。そっち側にオトすのが愉快なんだよ!」
ケネスの弾ける様な嘲笑を前に、ブルースは二振りのヴンズ・ドライヴを逆手に持ち帰る。
右足を引いて、右手の刃を見せつけながら、ブルースは左へ半身を切った。
切った左半身から左脚を後ろに下げながら、腰を入れて突き出した左の刃でケネスの顔を映す。
左の刀身を上に、右のそれが振れる寸前ですれ違わせながら、
「直ぐに殺せないの間違いだろ?」
ブルースは、左右それぞれを上下に据えた三日月刀を、入れ替えながら、
「空港の遺体でも、皮膚が泡立って焼けたのが一体だけだ。ついでに聞くと、”ウィッカー・マン”転移に使った熱力はどうした。熱力量なら、簡易宿泊所を破壊したそれもあるだろ? それを使えば、俺たちもすぐ焼き払えるんじゃないのか?」
バンクーバーで起きていた、発火現象自体、普通の橙色の炎で焼かれたものと、青色で焼かれたものがある。
前者がマイクロ波照射。
ケネスの“エクスキューズ”の能力で言えば、こちらの攻撃である。
後者は、プラズマと体内放電。
青色の炎は、炎色反応で言えば、波長の短い高温度によるものだ。
逆手に構えた半月刃の上下を入れ替えながら、ブルースは足運びを行う。
「答えは簡単だ。マイクロ波をこっそり使うのは、お前の力だ。それは変わらん。”ウィッカー・マン”の転移と侵入。それはお前のじゃない……サロメから与えられた力だからだ!」
ブルースが断言しながら、足で内から半月を描きながら移動。
それが、ケネスの笑いのツボにはまったのか、嘲笑を顔から爆発させた。
上体を曲げ、腹を抱えたケネスは、
「分かったからって、どうなんだよ……。それより、空気の心配が先じゃねぇの? 俺は発火能力だから、酸素位、既に体内で作っている。お仲間は、装甲を纏っているが”ウィッカー・マン”の皮膚から出来ている以上、何れ喰われる。酸素を用意していても、ここにある窒素で、お前も何れ窒息する」
笑いで呼吸を詰まらせながら、事実を述べるケネス。
彼の銀色の左顔面とその中の有機的な輝きが、ブルースの背後から迫る、“クァトロ“を二体映した。
“四つん這い“の跳躍に、ブルースは大きく膝を曲げる。
飛び越えた一体目の前脚を、左のショーテルを、時計回りで一体の胸部を切り離した。その反動で、右手のショーテルを逆手から持ち替えながら、二体目も分断。
ブルースは左右の刃を交差させながら、ケネスを凝視。
「ケネス、さっきから俺に恨みをぶちまけている割に、俺への攻撃を”ウィッカー・マン”に任せて、マイクロ波照射を行っていないけど……?」
「そういう話術は、お前の得意技だよな……少なくとも、窒息するだろうが、テメェは簡単に死なねぇのは、情報を得ているからな」
ケネスの言葉に、ブルースは息を呑んだ。
――サロメからか……。
そもそも、情報と言えるのは、確実に「当事者」に近いものから、吹き込まれているということだ。
「そういう奴なら、周りを苦しめればいい。どうせ、遅かれ早かれ死ぬんだ。テメェの苦しんだ顔で、笑わせてくれよ」
ケネスの宣告と共に、ブルースは左から風を感じた。
液体窒素に包まれた白煙を纏った“ウィッカー・マン:クァトロ“の顎が、彼の左首筋を捉える。
ブルースは、“クァトロ“と逆方向に右足を置き、“ヘヴンズ・ドライヴ“の鍔から覗く銃口を突きだした。
雷袖一触の銃弾が、“クァトロ“の左胸を貫く。
すると、“クァトロ“の叫び声の代わりに放たれた、黄色の爆発と白煙が彼を包み込んだ。
「何やってんだ、テメェ。圧縮空気には、酸素や水素だけでなく、窒素も含まれている。窒素の圧縮は、アンモニアを作り、その中に酸素を放り込んだら爆発。分かりやすく言うと、爆弾に囲まれてんだよ。しかも、自分に煙幕を張る為に銃を撃つなんて、馬鹿かテメェ?」
液体窒素の圧縮により、火薬の原料となるアンモニアが出来ることくらい、ブルースは承知している。
しかし、ケネスは重大な事実を見落としていた。
「悪趣味だな……。だが、生憎、長く生きている分、特技もあってね。友達を選べること。それと、俺の話術が特別なわけじゃないぜ……お前の口が、下手で寒いだけだ」
ケネスは訝し気に、顔をゆがめる。
右半分が銀色の顔に、緊迫の色が染まり始めた。
研究施設全体にいた”ウィッカー・マン”は、12体。
道中の2体は、ブルースとナオトの二人で倒した。
残り10体の内、2体はケネスの傍にいる。
5体はブルースが倒した。
ナオトに向かった3体は?
「で、『誰が煙幕を自分に張った』って……ケネス?」
ブルースの言葉と共に、白煙から銀流が飛ぶ。
ケネスの右側に立っていた、“ウィッカー・マン:クァトロ“の頭部に突き刺さった銀流の正体は、3本の短剣。
白煙が、一陣の風に舞い上がると、殴打音が響く。
殴打されたのは、短剣の突き刺さった”ウィッカー・マン”。
しかも、その左胸が、鎖に繋がった“クァトロ“の上顎の牙で潰されていた。
ケネスは咄嗟に右腕を上げるが、巻き上がった白煙が逃さない。
叫び声を上げる前に、白煙に包まれた上顎の牙が、ケネスの右腕を貫いた。
弾けた笑いのケネスの顔の表情筋が、引き攣る。
収縮したケネスの表情筋からの視線が、白煙の向こうにいる背骨の鞭を持ったナオトとその足元に奪われた。
うつ伏せで倒れている三体の“ウィッカー・マン:クァトロ”。
左胸には、短刀がそれぞれに突き刺さっていた。
「”ウィッカー・マン”を”命熱波”使いでもない、人間が倒す……そんなことがあってたまるか!?」
ケネスが叫びながら、腕にめり込んだ“クァトロ“の上顎を右腕から引き剥がそうとする。
ズタズタに裂かれたトレーナーの右袖に食らいついた“クァトロ“の頭を、銀色の左手が掴んだ。
痛さと悔しさに滲ませたケネスの視線が、ナオトを再度捉える。
ケネスの加熱視線を覚ったブルースの動きは軽い。
しかし、ケネスの傍を守る二体目の“クァトロ“の動きも速い。
左手のショーテルから放つ単振動の刃は、前脚を二つ切断。
懐に潜り込み、ショーテルの半月刃の先端を左胸に突き出した。
ブルースは背中で、前脚を失った“クァトロ“を退け、二本のショーテルを左手に持ち替える。
右ポケットから取り出したものを投げた。
ナオトに気を取られたケネスの左顔面に、黄色の塊が弾けた。
投げられたのは、液体窒素で凍結したバナナ。
ブルースが休憩室を散策していた時に、一本拝借したのだ。
凍結した果実を投げつけられ、ケネスの体は教会の鐘の様に全身を揺らす。
刹那、揺れる体が前のめりにされた。
右腕に食い込んだ上顎を取ることは叶わなかったケネスの顔は、液体窒素で凍った床に口づけをさせられる。
ナオトの鞭による引き寄せで、顔面を叩きつけられたケネスの顔面は紅く染まり、口から前歯が雹の様に落ちた。
白煙と霜に包まれた床を、鮮やかな赤が踊る。
悔恨の顔に染まるケネスは、膝を付けながら、上目遣いでナオトを見上げた。
ナオトに映るケネスの血みどろの顔は、逆の立場で見る予定だったのだろう。
だが、”命熱波”使いでなく、人間に優位を見せつけられることが、彼の”エクスキューズ”として歪んだ自己顕示欲が許さないようだ。
「”ワールド・シェパード社”は、隊員たちが”ウィッカー・マン”と戦いやすくする為に実戦と研究を重ねている。その武器を扱えるようにしないとね……」
ナオトはそう言うと、鞭を強く引いた。
今度は、フード付きパーカーの左腕に鞭が絡み、強制的に仰向けにさせられた。
その衝撃と痛打が、後頭部を襲う。
ブルースは、”ワールド・シェパード社”の専務であるナオトを敵にして、尊敬すべき味方だと思っている。
人間の意地ではなく、“知恵“を重視。
知恵を活かす為に、知識を貪欲に得ようとする。
その為には、前線を駆けることも厭わない。
――ビリー=クライヴも一目置くはずだ。
人類の敵と言う、”ウィッカー・マン”とそれに続く“UNTOLD”、”命熱波”使いをビリーは敵視していたが、そんな彼もナオトの言葉だけには、耳を傾けた。
視野の広い者にして、行動できる日本人青年の信念は、”ブライトン・ロック社”と関わり、理解を深めようとした。
ナオトの姿勢は、”ウィッカー・マン”を憎む“ビリー=クライヴ“を、ただの戦闘狂に終わらせなかった。
「なら、ビリーと同じだ。武器が開発されれば、僕も試す。少なくとも、試作品で死ぬなら、僕一人で十分だ」
用兵術としては、不十分な決意である。
しかし、経営者、技術者にして開拓者としては申し分ない覚悟だった。
ブルースは今までの戦いで見た、彼の信念から来る強さを買っている。
ロックとは別の意味で、未来を切り開くと考えて。
「僕たち人間は、乗り越えられる。その犠牲が、僕で済むなら安いもんだ」
人間として、等身大でどこまでも足掻くこと。それが、ナオトの強さだった。
しかし、彼の誇りに満ちた顔が消える。
対して、ナオトの足元で仰向けとなったケネスの顔は、ブルースを蔑んだ視点と同じものを見せていた。
「そして、お前は俺も殺せない」
ブルースが言うと、ケネスは視線を大きく逸らした。
それから、両手で頭を抱えながら悶え始める。
声にならないブルースへの殺意を叫び声に乗せ、ケネスは再びうつ伏せた。
「助かったよ。ブルース」
ナオトが溜息と共にブルースへ礼を短く言った。
ケネスに向き合っていた時、ブルースも攻撃を仕掛けていた。
空気を介して伝わる媒質は、電波だけではない。
音も含めた、波である。
ブルースは、金月刃雷で単振動を放つショーテルを、交差させて音を出していた。
人間の可聴域は20ヘルツから20000ヘルツ。
可聴域を超えて、聞こえない音としては、低周波音や高周波音と呼ばれている。
LRADという指向性――相手に直接伝える――兵器の低周波音を、“ヘヴンズ・ドライヴ“を交差させながら、ケネスに当てていたのだ。
その威力は、“すごい力で頭を掴まれる“程である。
ケネスは電磁波を使ったものだが、ブルースはそれだけでなく、空間を伝わる全ての波を操ることが出来た。
それが、”命熱波”使いのブルースとしての強さである。
ブルースの布石に次ぐ、布石にケネスはこちらを上目遣いに睨みつけた。
頭の痛みで目が涙ぐみ、三半規管を揺らされたのか、恨み言の代わりに出た嘔吐物が唇を濡らす。
胃液と未消化の食物で遮られたケネスの恨み節が、研究棟に響いた。
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仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ギフト争奪戦に乗り遅れたら、ラストワン賞で最強スキルを手に入れた
みももも
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたイツキは異空間でギフトの争奪戦に巻き込まれてしまう。
争奪戦に積極的に参加できなかったイツキは最後に残された余り物の最弱ギフトを選ぶことになってしまうが、イツキがギフトを手にしたその瞬間、イツキ一人が残された異空間に謎のファンファーレが鳴り響く。
イツキが手にしたのは誰にも選ばれることのなかった最弱ギフト。
そしてそれと、もう一つ……。
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