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終章 Beacon To The Bright Street
光の示す道の先―①―
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3月23日 午前10時25分
西ジョージア通り コール・ハーバー
雨雲が無くなり、照らされた陽光が春の到来を告げていた。
鬱屈した雨雲に覆われ、塞ぎ込んでいた人々は、その訪れを歓迎しに市街に繰り出している。
人々の歓声にも関わらず、カラスマの胸中は、待ちわびた晴れを楽しめずにいた。
――サロメ……やはり、連絡が取れなくなりましたね。
聴衆に囲まれ、小演台で話しながらカラスマは考えた。
東洋人の女性の纏った、“ワールド・シェパード社”から支給された白い防御装甲が、陽の光に照らされる。
話している間、カラスマは空からの光が更に眩しくなった様に見えた。
息を整えるのと同時に、右手で光を遮る。
今回の催し物は、行政や企業、それに報道関係者も訪れていた。
現バンクーバー市長のアンドレ=リー、B.C.州知事のデヴィッド=スプリングショー等、バンクーバーで生じる利益に関心を持つ、利益共有者達が、カラスマの背後の席で待機している。
湾岸警備隊の船舶も海上に待機し、行事の推移を見守っていた。
盛大な行事を伝える、それぞれの組織の広報部門の為に、照明や撮影器具が用意されている。
だが、カラスマの眼を訴えた光の光源は、どれからも異なっていた。
その正体をカラスマは思案するが、頭に浮かばなかったので、一呼吸おいて話を続ける。
『私たちと”ワールド・シェパード社”、そして皆様の尽力の結果、今回のバンクーバー解放に繋がりました』
3月21日の夜、巨大な”ウィッカー・マン”が東ヘイスティングに現れた。
同時に、“クァトロ“、“ガンビー“に“フル・フロンタル“や“デュラハン”と言う、”ウィッカー・マン”と言う”ウィッカー・マン”が一ヶ所に引き寄せられ、全てが一夜の内に忽然と姿を消した。
『市警の皆様の協力によって、“蹄鉄”作戦が功を奏しました。市民の安寧が守られたことに、改めて、感謝を申し上げます』
”ウィッカー・マン”による死亡者も出たが、”ワールド・シェパード社”と警察の協力の下、市街地に追いやることが出来た。
更に、深紅の外套の守護者と”ブライトン・ロック社”の関係者も合流。
東ヘイスティングと市街南部を跋扈していた、”ウィッカー・マン”も全て駆除することが出来た。
突如現れた青い光と“巨大ウィッカー・マン“の正体は不明だが、市民の生活を守るばかりか、“平穏“も取り戻した結果の前では些末事である。
同時に、カラスマの秘密も守られたことも含め、それぞれの日常を祝う為の市民の集いが開かれることになった。
――そもそも、サロメは使えるから使っただけ。
元々、”ウィッカー・マン”への有効な手立てがない。
優位に立つ技術は、”ブライトン・ロック社”による独占状態が続いている。
それに対する技術の優位に対抗できるのは、サロメの所属する“ホステル“しかない。
彼女たちと手を組まんとする者は多い。
何れも、”ウィッカー・マン”で利益を増やしたいと言う欲望は変わらない。
それは、自分の背後に座る、”ワールド・シェパード社”社長のミカエラ=クライヴも変わらない。
肩甲骨まで伸びた黒み帯びた茶髪は潮風に揺れ、灰色のパンツスーツに包まれた女社長。
無駄な脂肪のない彼女の肉体は、均整を保ち、陽光を受ける。
サロメの肉体が嗜好の為の美術品とするなら、銃剣を付けた突撃銃を思わせ、戦闘の為の機能美がミカエラから醸し出されていた。
“ワイルド・ハント事件“で命を失った黒騎士と称されるビリー=クライヴは、彼女の弟である。
彼の死には、”ブライトン・ロック社”が関わっていた。
それ故、姉の“UNTOLD“への憎悪は計り知れない。
されど、“UNTOLD“を倒す為に、“UNTOLD“に頼らざるを得ない。
その現状は、ミカエラ=クライヴの敵意を更に純化し、先鋭化させるだろう。
オラクル語学学校としては、次の段階を目指すのみである。
『つづいて、解放パレードの日程ですが……』
“オラクル語学学校“の地位は、”ワールド・シェパード社”に人材を提供したことの他、今回の掃討作戦の成功により、ヘイスティング通りの語学産業の価格決定力を持つまでに至った。
その成功は、会場を囲むようにして設置された、二台の巨大受視機で映し出された、彼女自身を報道関係者の数が世界へ広めていくだろう。
彼女の演説が終われば、“蹄鉄“と隊員たちが市街を行進することになっていた。
“蹄鉄“自体、壊されてはいるが“命熱波”使い“との戦闘経験が、更なる発展に繋がる。
“ウィッカー・マン“を倒せる者と互角に戦えるということは、兵器開発の成果としては申し分ない。
カイル達、”ワールド・シェパード社”強硬派とバンクーバー市警との機密裏の協力で作られた秘密兵器、“蹄鉄“。
ただ、その開発は地元警察もただ現状に甘んじていたわけではないことを市民に訴えることが出来、“ワールド・シェパード社“として貸しも作れるだろう。
その後は、東ヘイスティングの、”ウィッカー・マン”消失後の調査の人員を募集。
同時に、調査員の受け入れの為の住宅建築に、市の景気は沸いていた。
同校と提携している留学仲介業者も、一時的な受け入れ先として、住宅の提供に肯定的な地元住民の募集を始めている。
”ワールド・シェパード社”の強硬派のカイル=ウィリアムスが亡くなったことを機に、対”ウィッカー・マン”機運も高まるだろう。
同時に、社内の“ハト派“のナオト=ハシモトを排斥する動きも出始めるだろう。
今回の騒動で結果として、現場にいる彼への評価は上がったが、専務の地位を利用して“蹄鉄“作戦に反対していた事実は変わらない。
その果ての追跡劇は、電脳空間に動画として上がっていた。
強硬派の最筆頭でもある、ミカエラ=クライヴが、専務の横暴を笑顔で見逃すはずがない。
追跡劇と今回の巨大”ウィッカー・マン”掃討作戦の前線に立った、ナオトとその協力者であるロック、ブルース、サミュエルは、数日前の戦いに受けた傷の治療の為に、検査入院となっている。
また、リリスに乗っ取られていたサキ=カワカミの精密検査も行われる予定だ。
“ブライトン・ロック社”は、“UNTOLD“に関する秘密主義を見直すつもりはないようである。
同社の一員と協力者の治療と検査は、同社の研究施設で行われる。
だが、3月21日の騒動でカナダ唯一の施設が無くなり、英国本部の施設に運ばれることを耳にした。
エリザベス=ガブリエル=マックスウェルも同行することが決定。
研究成果を得られないのは手痛いが、TPTP加盟国の利益を思えば秘密主義を重視する為に国外からいなくなって貰った方が良い。
”ワールド・シェパード社”の株を多く保有していたカラスマは、今回の成果もあって、株主としての発言権を得られた。
反”UNTOLD”兵器“蹄鉄“の可能性を、”ワールド・シェパード社”は全世界に広めることが出来るだろう。
軍事的活動ではなく、“人道的活動“として。
”ワールド・シェパード社”とオラクル語学学校の蜜月は続き、バンクーバーの経済は潤い続けるだろう。
”ブライトン・ロック社”という邪魔者はいない。
望楼も、TPTP加盟国の集まるバンクーバーで長く活動する理由も無い。
だが、“オラクル語学学校“の未来予想図を描いていた、カラスマの無意識の絵筆が止まる。
登壇した自分に注がれる筈の聴衆の視線が、彼女の右側に集中し始めた。
カラスマは、眼を疑う。
登壇し始めた、五人の男女。
深紅の外套の守護者――ロック=ハイロウズ。
翡翠の風――ブルース=バルト。
二人の男女は、
「ロックの弟をしている、サミュエルです」
「その兄貴が嫌いな、シャロンです」
飴色のジャケットと桃色のトレーナーを着た男女がそれぞれ名乗った。
そして、五人目の名前は、カラスマの口から自然と紡がれる。
「カワカミ……サキ、さん?」
辛うじて振り絞った声を絞り出すカラスマの姿が、白い装甲を纏ったサキの黒真珠の瞳にしっかりと刻まれていた。
西ジョージア通り コール・ハーバー
雨雲が無くなり、照らされた陽光が春の到来を告げていた。
鬱屈した雨雲に覆われ、塞ぎ込んでいた人々は、その訪れを歓迎しに市街に繰り出している。
人々の歓声にも関わらず、カラスマの胸中は、待ちわびた晴れを楽しめずにいた。
――サロメ……やはり、連絡が取れなくなりましたね。
聴衆に囲まれ、小演台で話しながらカラスマは考えた。
東洋人の女性の纏った、“ワールド・シェパード社”から支給された白い防御装甲が、陽の光に照らされる。
話している間、カラスマは空からの光が更に眩しくなった様に見えた。
息を整えるのと同時に、右手で光を遮る。
今回の催し物は、行政や企業、それに報道関係者も訪れていた。
現バンクーバー市長のアンドレ=リー、B.C.州知事のデヴィッド=スプリングショー等、バンクーバーで生じる利益に関心を持つ、利益共有者達が、カラスマの背後の席で待機している。
湾岸警備隊の船舶も海上に待機し、行事の推移を見守っていた。
盛大な行事を伝える、それぞれの組織の広報部門の為に、照明や撮影器具が用意されている。
だが、カラスマの眼を訴えた光の光源は、どれからも異なっていた。
その正体をカラスマは思案するが、頭に浮かばなかったので、一呼吸おいて話を続ける。
『私たちと”ワールド・シェパード社”、そして皆様の尽力の結果、今回のバンクーバー解放に繋がりました』
3月21日の夜、巨大な”ウィッカー・マン”が東ヘイスティングに現れた。
同時に、“クァトロ“、“ガンビー“に“フル・フロンタル“や“デュラハン”と言う、”ウィッカー・マン”と言う”ウィッカー・マン”が一ヶ所に引き寄せられ、全てが一夜の内に忽然と姿を消した。
『市警の皆様の協力によって、“蹄鉄”作戦が功を奏しました。市民の安寧が守られたことに、改めて、感謝を申し上げます』
”ウィッカー・マン”による死亡者も出たが、”ワールド・シェパード社”と警察の協力の下、市街地に追いやることが出来た。
更に、深紅の外套の守護者と”ブライトン・ロック社”の関係者も合流。
東ヘイスティングと市街南部を跋扈していた、”ウィッカー・マン”も全て駆除することが出来た。
突如現れた青い光と“巨大ウィッカー・マン“の正体は不明だが、市民の生活を守るばかりか、“平穏“も取り戻した結果の前では些末事である。
同時に、カラスマの秘密も守られたことも含め、それぞれの日常を祝う為の市民の集いが開かれることになった。
――そもそも、サロメは使えるから使っただけ。
元々、”ウィッカー・マン”への有効な手立てがない。
優位に立つ技術は、”ブライトン・ロック社”による独占状態が続いている。
それに対する技術の優位に対抗できるのは、サロメの所属する“ホステル“しかない。
彼女たちと手を組まんとする者は多い。
何れも、”ウィッカー・マン”で利益を増やしたいと言う欲望は変わらない。
それは、自分の背後に座る、”ワールド・シェパード社”社長のミカエラ=クライヴも変わらない。
肩甲骨まで伸びた黒み帯びた茶髪は潮風に揺れ、灰色のパンツスーツに包まれた女社長。
無駄な脂肪のない彼女の肉体は、均整を保ち、陽光を受ける。
サロメの肉体が嗜好の為の美術品とするなら、銃剣を付けた突撃銃を思わせ、戦闘の為の機能美がミカエラから醸し出されていた。
“ワイルド・ハント事件“で命を失った黒騎士と称されるビリー=クライヴは、彼女の弟である。
彼の死には、”ブライトン・ロック社”が関わっていた。
それ故、姉の“UNTOLD“への憎悪は計り知れない。
されど、“UNTOLD“を倒す為に、“UNTOLD“に頼らざるを得ない。
その現状は、ミカエラ=クライヴの敵意を更に純化し、先鋭化させるだろう。
オラクル語学学校としては、次の段階を目指すのみである。
『つづいて、解放パレードの日程ですが……』
“オラクル語学学校“の地位は、”ワールド・シェパード社”に人材を提供したことの他、今回の掃討作戦の成功により、ヘイスティング通りの語学産業の価格決定力を持つまでに至った。
その成功は、会場を囲むようにして設置された、二台の巨大受視機で映し出された、彼女自身を報道関係者の数が世界へ広めていくだろう。
彼女の演説が終われば、“蹄鉄“と隊員たちが市街を行進することになっていた。
“蹄鉄“自体、壊されてはいるが“命熱波”使い“との戦闘経験が、更なる発展に繋がる。
“ウィッカー・マン“を倒せる者と互角に戦えるということは、兵器開発の成果としては申し分ない。
カイル達、”ワールド・シェパード社”強硬派とバンクーバー市警との機密裏の協力で作られた秘密兵器、“蹄鉄“。
ただ、その開発は地元警察もただ現状に甘んじていたわけではないことを市民に訴えることが出来、“ワールド・シェパード社“として貸しも作れるだろう。
その後は、東ヘイスティングの、”ウィッカー・マン”消失後の調査の人員を募集。
同時に、調査員の受け入れの為の住宅建築に、市の景気は沸いていた。
同校と提携している留学仲介業者も、一時的な受け入れ先として、住宅の提供に肯定的な地元住民の募集を始めている。
”ワールド・シェパード社”の強硬派のカイル=ウィリアムスが亡くなったことを機に、対”ウィッカー・マン”機運も高まるだろう。
同時に、社内の“ハト派“のナオト=ハシモトを排斥する動きも出始めるだろう。
今回の騒動で結果として、現場にいる彼への評価は上がったが、専務の地位を利用して“蹄鉄“作戦に反対していた事実は変わらない。
その果ての追跡劇は、電脳空間に動画として上がっていた。
強硬派の最筆頭でもある、ミカエラ=クライヴが、専務の横暴を笑顔で見逃すはずがない。
追跡劇と今回の巨大”ウィッカー・マン”掃討作戦の前線に立った、ナオトとその協力者であるロック、ブルース、サミュエルは、数日前の戦いに受けた傷の治療の為に、検査入院となっている。
また、リリスに乗っ取られていたサキ=カワカミの精密検査も行われる予定だ。
“ブライトン・ロック社”は、“UNTOLD“に関する秘密主義を見直すつもりはないようである。
同社の一員と協力者の治療と検査は、同社の研究施設で行われる。
だが、3月21日の騒動でカナダ唯一の施設が無くなり、英国本部の施設に運ばれることを耳にした。
エリザベス=ガブリエル=マックスウェルも同行することが決定。
研究成果を得られないのは手痛いが、TPTP加盟国の利益を思えば秘密主義を重視する為に国外からいなくなって貰った方が良い。
”ワールド・シェパード社”の株を多く保有していたカラスマは、今回の成果もあって、株主としての発言権を得られた。
反”UNTOLD”兵器“蹄鉄“の可能性を、”ワールド・シェパード社”は全世界に広めることが出来るだろう。
軍事的活動ではなく、“人道的活動“として。
”ワールド・シェパード社”とオラクル語学学校の蜜月は続き、バンクーバーの経済は潤い続けるだろう。
”ブライトン・ロック社”という邪魔者はいない。
望楼も、TPTP加盟国の集まるバンクーバーで長く活動する理由も無い。
だが、“オラクル語学学校“の未来予想図を描いていた、カラスマの無意識の絵筆が止まる。
登壇した自分に注がれる筈の聴衆の視線が、彼女の右側に集中し始めた。
カラスマは、眼を疑う。
登壇し始めた、五人の男女。
深紅の外套の守護者――ロック=ハイロウズ。
翡翠の風――ブルース=バルト。
二人の男女は、
「ロックの弟をしている、サミュエルです」
「その兄貴が嫌いな、シャロンです」
飴色のジャケットと桃色のトレーナーを着た男女がそれぞれ名乗った。
そして、五人目の名前は、カラスマの口から自然と紡がれる。
「カワカミ……サキ、さん?」
辛うじて振り絞った声を絞り出すカラスマの姿が、白い装甲を纏ったサキの黒真珠の瞳にしっかりと刻まれていた。
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