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第七章 Flux
流転―⑥―
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“ワールド・シェパード社”の兵士とバンクーバー市警による攻撃を受けるリリスから、ロックは異変を感じ取った。
青白い光を放つリリスを内燃機関とした巨大”ウィッカー・マン”。
その体が、括れを作り始める。
枝網で覆われた粗末な人型の隙間を銀白色の流体が覆い、女性特有の凹凸が形成。
顔つきは、三日月の双眼と唇が特徴的なリリスを象っていく。
だが、その表情は怒りと悔しさを刻んだ、裸婦像の彫刻だった。
――シャロン……そういうことか!?
考えていると、電子励起銃の一撃が、リリスを象った巨大“ウィッカー・マン”の右膝下を大きく抉った。
それを合図に、左膝も銃撃によって削られて行き、鼠蹊部と上半身がバラード湾に沈んでいく。
バラード湾からの津波第二波が、港湾跡地を襲う。
”ワールド・シェパード社”、バンクーバー市警から成る集団は、銀騎士ナオトと警部のレイナーズの一声で、後へ急速後退した。
ロックは工場の廃コンテナに背に隠れて、津波をやり過ごす。
津波が収まったのを確認すると、緑の双迅が翔けた。
ブルースのショーテル型命導巧“ヘヴンズ・ドライヴ“を振りかざし、銀鏡色の人馬のサロメの脚部を裂く。
馬の脚部の下半身から“フル・フロンタル“が飛び掛かると、金色の烈風が、それを押し退けた。
「生贄がいないからと言って、自分が“生贄の動物“になるってのは、最高の冗句だ。知性を感じるぜ、サロメ!」
ブルースは、サロメを守る様に立ちはだかった、銀色の巨猿――“ガンビー“――もその返し刃で切り伏せる。
「ブルース、サロメに言うことはそうじゃないでしょ?」
サミュエルは鎌型命導巧、“パラダイス“の鎌を立ち上げ、
「“捧げもの“で遊ぶな、でしょ?」
赤い唾帽子の女の肥大化して、ボロボロとなった“ガンビー“の腕ごと胴を切り離した。
上半身だけを残したサロメの眼には、ブルースとサミュエルが、この港湾に集まった”ウィッカー・マン”を屠っている様子を映す。
サロメと”ウィッカー・マン”の体から、微かに灰褐色の欠片が弾け飛んだ。
その動きは何処か、大地に縫われたかの様に緩慢となっている。
ロックは、銀鏡色と灰褐色に塗れた道を進んだ。
廃棄された工場は、すっかり津波に流され、更地同然となっている。
津波から逃げ切った”ワールド・シェパード社”の兵士たちと、警察は銃を構え直し、”ウィッカー・マン”達に狙いを定めた。
彼らに撃たれる様々な”ウィッカー・マン”はまるで、石柱の様で銃弾に削られ、石のような四肢をばら撒く。
“クァトロ“、“ガンビー“に“フル・フロンタル“と、人類を踏みにじった脅威は、皮肉なことに踏まれる側に逆転していた。
現に、”ウィッカー・マン”は砕け散る石と化し、ロックをリリスへと導く砂利道になり果てる。
足に踏まれないものは、ただ大地に立たされ細石となるのを待っていた。
しかし、雲が蠢くと、更なる光が落ちる。
「貴様らは、許さない。絶対に、許さない!!」
巨大リリスの叫び声と共に、突風が吹いた。
彼女の巨大な右腕が、海から工場跡地に掛けて薙ぎ払う。
”ワールド・シェパード社”の兵士と警察官たちは、灰褐色の細腕の風に吹き飛ばされた。
石像と化した”ウィッカー・マン”も、風圧の塵となる。
ロックは巨大な右腕の一薙ぎを防ぐ為に、身を伏せた。
“ガンビー“が丁度、屈んだロックを覆う盾となり、大猩々の上半身が吹き飛ぶ。
両脚だけとなった“ガンビー“の向こう側にいたのは、石像と化した巨大リリス。
右手はサキの守護者である短髪の少女、ライラが刻まれた剣を手に。
左腕はガレア帽の戦乙女のヴァージニアが彫られた籠手と弓を突き出している。
圧倒的な銃撃で膝下を削られたのか、膝上から胴体を水上から出し、港湾跡を巨大リリスは両手の得物を振るった。
ロックは“イニュエンド“を取り出し、リリスの剣を撃つ。
罅を生みながら、剣から粉塵が吐き出された。
巨大剣がロックに落ちる寸前で、左へ側転。
右側に閃光の奔流が飛び出て、熱量がロックの右頬を撫でる。
熱量の風が止み、ロックは標的を巨大リリスの顔と左腕の弓に変えた。
「ロック=ハイロウズ、ちょこまかと……!!」
「リリス、そのお決まりの台詞を言うなら、そろそろ頃合いだ。サキ、そろそろ目覚めろ!!」
そう言うと、リリスの銀鏡色の肌全てが、灰褐色に固まっていった。
「アンティパス……気の利いた、メイクをしてくれるぜ」
ロックの皮肉に、巨大リリスは顔に罅を生やしながら驚愕した。
彼女は灰褐色の欠片を口から撒き散らしながら、唐突に倒れる。
うつ伏せとなった彼女の背中から、灰褐色の柱が伸びていた。
陸地に上がり、腹部から上をのたうったリリスは更地でもがく。
すると、”ウィッカー・マン”も含めた大地が巻き上げられ、更に粉塵が天を昇って行った。
粉塵が天を覆い、天から突き出した灰褐色の柱が、リリスを圧し潰す。
重圧に抵抗すればするほど、リリスの顔や両手から灰褐色の欠片が零れ落ちた。
言葉が出ず、辛うじて動いた巨大な女神像の表情は、眼と口が開かせ、吐くべき言葉の為の呼吸を求めている。
恐らく、雨雲から熱力が来ないことに驚いているのだろう。
灰褐色の砂の正体は、混凝土だ。
その出どころは、無論、アンティパスからである。
“命熱波”の力を能率的に使う為に、命導巧を用いる。
それは、“命熱波”と化したアンティパスを、ロックの命導巧で使うのと同意語でもある。
リリスとの戦闘中、”命熱波”化したアンティパスは、依代の体を塵に返された後、空気中の“リア・ファイル“に紛れたのだ。
ロックとリリスの二人の周囲で、彼は超微細機械として待機していたのである。
ロックは、外装を使って自分自身を強化したのは、“洗礼者“ことバプトの力である、“剣の洗礼“――そこには別の意図があった。
「そんな……エネルギーが来ない、救世の剣に!!」
青白く光る、巨大な刃を中心に覆われた雲が消えていく。
粉塵が雲と混ざり始めると、バンクーバーの空に星空が見え始めた。
雨雲は潜熱により、その力を得て前に進み、雨を降らす。
だが、そこに水を吸い、熱を遮るものが入ればどうなるか。
分断させられ、熱力を送る道が途切れるしかない。
「おい、リリス……良いメイクじゃねぇか。笑顔保たねぇと罅入るぜ?」
ロックの煽りに、巨大リリスは港湾の縁で、両腕を悔しさで振るった。
巨大な腕振りで体を壊し、欠片と微粒子は海の漣から放たれた飛沫と共に天に昇る。
エアロゾル。
それは、気体中に浮遊する微粒粒子状物質で、火山、雲、霧などの自然形態だけでなく、石炭や石油を燃やした時などの煤もその定義に含める。
大気中のエアロゾル濃度が増加することによって、大気を不安定にさせる雲の発生原因と疑われていた。
だが、近年、その前提が大きく間違っていることが明らかになった。
欧州と北米を中心に19世紀から20世紀までの期間を対象に、気象模擬仮定を算出したところ、北大西洋全域で、人間の活動に基づく人工エアロゾルが排出されていた時期を中心に、熱帯性低気圧の発生頻度が著しく減少したという結果を出した。
日本で開発された高性能演算器により、エアロゾル増加が目立つ場所での雲の減少を確認。
人為的なエアロゾルによる冷却効果が明らかになった。
混凝土の燃焼温度は、摂氏約1200度から摂氏約1300度である。
ロックは、リリスやサロメと戦っている間、”命熱波”化したアンティパスの混凝土を空気中にばら撒いていた。
ロックの強化した外骨格の中には、アンティパスの“リア・ファイル“を混ぜ、わざと破壊させたのも含めていた。
破片は大気に散り、接近戦を取らされたリリスにも降りかかる。
E=mc^2で、アルミニウム1グラムが、火力発電機60基分に相当するなら、それ以上の熱力を生む人間から”作られた混凝土”は当然、暴風雨を作る雲を消すことも可能である。
「リリス、アンティパスに感謝するんだな……テメェの魅力を余すことなく、晒してやってんだからな!」
生まれたままの姿の巨大リリスは、混凝土の罅割れた肌の右腕を振り上げる。
ロックに振り落とされた巨大な剣の一振りを躱すと、右腕から白い煙が噴き出した。
「へ、お前の様な年増にサキの肉体は不釣り合いなんだよ!?」
お転婆な少女の声が聞こえ、剣が右腕諸共、崩れる。
ロックの撃った、“道作る蹄“の炭酸ガス弾が、混凝土を溶かし、リリスの巨大だが女性らしさを示す細い右腕が、白煙として大気に還った。
白煙と共に、飛び出た短髪のサキを守る少女――ライラ。
彼女の右腕から発した光の刃が、巨大なリリスの額を焼いた。
更に続いて、左手も崩れていくと、
「本当に若作りが過ぎると、見苦しくなりますわね?」
弓のヴァージニアが、言う。
彼女は、罅の割れたリリスの眼に矢を放つ。
額にフォトニック結晶が撃ち込まれると、ライラの二刃目の光を受けた結晶が、リリスの額で爆発した。
光を吸収したフォトニック結晶へ、ロックは“頂き砕く一振り“からの熱力を、跳躍して送り込む。
プランク定数は、光を受けて振動する物質の単位。
それを励起させる熱力が、混凝土を震わせる応力と化す。
混凝土に覆われた巨大リリスの額を皮切りに、胴体が割れていった。
胴体の割れ目から、灰褐色の砂が溢れ出る。
リリスの巨体から、光と共に噴き出た。
天まで繋がった銀と灰褐色の斑に包まれた柱が大きな音を立てて割れた。
粉塵が銀色も含み、舞い上がっていく。
“リア・ファイル“と混凝土は、星空に溶けていった。
「アンティパス……ありがとよ。後は、俺がやる!」
死が唯一の安寧の男へ祈りながら、ロックは青白く光る剣に駆けた。
死の光の前で、サキの体の奥で怒りに震えるリリスを倒す為に。
青白い光を放つリリスを内燃機関とした巨大”ウィッカー・マン”。
その体が、括れを作り始める。
枝網で覆われた粗末な人型の隙間を銀白色の流体が覆い、女性特有の凹凸が形成。
顔つきは、三日月の双眼と唇が特徴的なリリスを象っていく。
だが、その表情は怒りと悔しさを刻んだ、裸婦像の彫刻だった。
――シャロン……そういうことか!?
考えていると、電子励起銃の一撃が、リリスを象った巨大“ウィッカー・マン”の右膝下を大きく抉った。
それを合図に、左膝も銃撃によって削られて行き、鼠蹊部と上半身がバラード湾に沈んでいく。
バラード湾からの津波第二波が、港湾跡地を襲う。
”ワールド・シェパード社”、バンクーバー市警から成る集団は、銀騎士ナオトと警部のレイナーズの一声で、後へ急速後退した。
ロックは工場の廃コンテナに背に隠れて、津波をやり過ごす。
津波が収まったのを確認すると、緑の双迅が翔けた。
ブルースのショーテル型命導巧“ヘヴンズ・ドライヴ“を振りかざし、銀鏡色の人馬のサロメの脚部を裂く。
馬の脚部の下半身から“フル・フロンタル“が飛び掛かると、金色の烈風が、それを押し退けた。
「生贄がいないからと言って、自分が“生贄の動物“になるってのは、最高の冗句だ。知性を感じるぜ、サロメ!」
ブルースは、サロメを守る様に立ちはだかった、銀色の巨猿――“ガンビー“――もその返し刃で切り伏せる。
「ブルース、サロメに言うことはそうじゃないでしょ?」
サミュエルは鎌型命導巧、“パラダイス“の鎌を立ち上げ、
「“捧げもの“で遊ぶな、でしょ?」
赤い唾帽子の女の肥大化して、ボロボロとなった“ガンビー“の腕ごと胴を切り離した。
上半身だけを残したサロメの眼には、ブルースとサミュエルが、この港湾に集まった”ウィッカー・マン”を屠っている様子を映す。
サロメと”ウィッカー・マン”の体から、微かに灰褐色の欠片が弾け飛んだ。
その動きは何処か、大地に縫われたかの様に緩慢となっている。
ロックは、銀鏡色と灰褐色に塗れた道を進んだ。
廃棄された工場は、すっかり津波に流され、更地同然となっている。
津波から逃げ切った”ワールド・シェパード社”の兵士たちと、警察は銃を構え直し、”ウィッカー・マン”達に狙いを定めた。
彼らに撃たれる様々な”ウィッカー・マン”はまるで、石柱の様で銃弾に削られ、石のような四肢をばら撒く。
“クァトロ“、“ガンビー“に“フル・フロンタル“と、人類を踏みにじった脅威は、皮肉なことに踏まれる側に逆転していた。
現に、”ウィッカー・マン”は砕け散る石と化し、ロックをリリスへと導く砂利道になり果てる。
足に踏まれないものは、ただ大地に立たされ細石となるのを待っていた。
しかし、雲が蠢くと、更なる光が落ちる。
「貴様らは、許さない。絶対に、許さない!!」
巨大リリスの叫び声と共に、突風が吹いた。
彼女の巨大な右腕が、海から工場跡地に掛けて薙ぎ払う。
”ワールド・シェパード社”の兵士と警察官たちは、灰褐色の細腕の風に吹き飛ばされた。
石像と化した”ウィッカー・マン”も、風圧の塵となる。
ロックは巨大な右腕の一薙ぎを防ぐ為に、身を伏せた。
“ガンビー“が丁度、屈んだロックを覆う盾となり、大猩々の上半身が吹き飛ぶ。
両脚だけとなった“ガンビー“の向こう側にいたのは、石像と化した巨大リリス。
右手はサキの守護者である短髪の少女、ライラが刻まれた剣を手に。
左腕はガレア帽の戦乙女のヴァージニアが彫られた籠手と弓を突き出している。
圧倒的な銃撃で膝下を削られたのか、膝上から胴体を水上から出し、港湾跡を巨大リリスは両手の得物を振るった。
ロックは“イニュエンド“を取り出し、リリスの剣を撃つ。
罅を生みながら、剣から粉塵が吐き出された。
巨大剣がロックに落ちる寸前で、左へ側転。
右側に閃光の奔流が飛び出て、熱量がロックの右頬を撫でる。
熱量の風が止み、ロックは標的を巨大リリスの顔と左腕の弓に変えた。
「ロック=ハイロウズ、ちょこまかと……!!」
「リリス、そのお決まりの台詞を言うなら、そろそろ頃合いだ。サキ、そろそろ目覚めろ!!」
そう言うと、リリスの銀鏡色の肌全てが、灰褐色に固まっていった。
「アンティパス……気の利いた、メイクをしてくれるぜ」
ロックの皮肉に、巨大リリスは顔に罅を生やしながら驚愕した。
彼女は灰褐色の欠片を口から撒き散らしながら、唐突に倒れる。
うつ伏せとなった彼女の背中から、灰褐色の柱が伸びていた。
陸地に上がり、腹部から上をのたうったリリスは更地でもがく。
すると、”ウィッカー・マン”も含めた大地が巻き上げられ、更に粉塵が天を昇って行った。
粉塵が天を覆い、天から突き出した灰褐色の柱が、リリスを圧し潰す。
重圧に抵抗すればするほど、リリスの顔や両手から灰褐色の欠片が零れ落ちた。
言葉が出ず、辛うじて動いた巨大な女神像の表情は、眼と口が開かせ、吐くべき言葉の為の呼吸を求めている。
恐らく、雨雲から熱力が来ないことに驚いているのだろう。
灰褐色の砂の正体は、混凝土だ。
その出どころは、無論、アンティパスからである。
“命熱波”の力を能率的に使う為に、命導巧を用いる。
それは、“命熱波”と化したアンティパスを、ロックの命導巧で使うのと同意語でもある。
リリスとの戦闘中、”命熱波”化したアンティパスは、依代の体を塵に返された後、空気中の“リア・ファイル“に紛れたのだ。
ロックとリリスの二人の周囲で、彼は超微細機械として待機していたのである。
ロックは、外装を使って自分自身を強化したのは、“洗礼者“ことバプトの力である、“剣の洗礼“――そこには別の意図があった。
「そんな……エネルギーが来ない、救世の剣に!!」
青白く光る、巨大な刃を中心に覆われた雲が消えていく。
粉塵が雲と混ざり始めると、バンクーバーの空に星空が見え始めた。
雨雲は潜熱により、その力を得て前に進み、雨を降らす。
だが、そこに水を吸い、熱を遮るものが入ればどうなるか。
分断させられ、熱力を送る道が途切れるしかない。
「おい、リリス……良いメイクじゃねぇか。笑顔保たねぇと罅入るぜ?」
ロックの煽りに、巨大リリスは港湾の縁で、両腕を悔しさで振るった。
巨大な腕振りで体を壊し、欠片と微粒子は海の漣から放たれた飛沫と共に天に昇る。
エアロゾル。
それは、気体中に浮遊する微粒粒子状物質で、火山、雲、霧などの自然形態だけでなく、石炭や石油を燃やした時などの煤もその定義に含める。
大気中のエアロゾル濃度が増加することによって、大気を不安定にさせる雲の発生原因と疑われていた。
だが、近年、その前提が大きく間違っていることが明らかになった。
欧州と北米を中心に19世紀から20世紀までの期間を対象に、気象模擬仮定を算出したところ、北大西洋全域で、人間の活動に基づく人工エアロゾルが排出されていた時期を中心に、熱帯性低気圧の発生頻度が著しく減少したという結果を出した。
日本で開発された高性能演算器により、エアロゾル増加が目立つ場所での雲の減少を確認。
人為的なエアロゾルによる冷却効果が明らかになった。
混凝土の燃焼温度は、摂氏約1200度から摂氏約1300度である。
ロックは、リリスやサロメと戦っている間、”命熱波”化したアンティパスの混凝土を空気中にばら撒いていた。
ロックの強化した外骨格の中には、アンティパスの“リア・ファイル“を混ぜ、わざと破壊させたのも含めていた。
破片は大気に散り、接近戦を取らされたリリスにも降りかかる。
E=mc^2で、アルミニウム1グラムが、火力発電機60基分に相当するなら、それ以上の熱力を生む人間から”作られた混凝土”は当然、暴風雨を作る雲を消すことも可能である。
「リリス、アンティパスに感謝するんだな……テメェの魅力を余すことなく、晒してやってんだからな!」
生まれたままの姿の巨大リリスは、混凝土の罅割れた肌の右腕を振り上げる。
ロックに振り落とされた巨大な剣の一振りを躱すと、右腕から白い煙が噴き出した。
「へ、お前の様な年増にサキの肉体は不釣り合いなんだよ!?」
お転婆な少女の声が聞こえ、剣が右腕諸共、崩れる。
ロックの撃った、“道作る蹄“の炭酸ガス弾が、混凝土を溶かし、リリスの巨大だが女性らしさを示す細い右腕が、白煙として大気に還った。
白煙と共に、飛び出た短髪のサキを守る少女――ライラ。
彼女の右腕から発した光の刃が、巨大なリリスの額を焼いた。
更に続いて、左手も崩れていくと、
「本当に若作りが過ぎると、見苦しくなりますわね?」
弓のヴァージニアが、言う。
彼女は、罅の割れたリリスの眼に矢を放つ。
額にフォトニック結晶が撃ち込まれると、ライラの二刃目の光を受けた結晶が、リリスの額で爆発した。
光を吸収したフォトニック結晶へ、ロックは“頂き砕く一振り“からの熱力を、跳躍して送り込む。
プランク定数は、光を受けて振動する物質の単位。
それを励起させる熱力が、混凝土を震わせる応力と化す。
混凝土に覆われた巨大リリスの額を皮切りに、胴体が割れていった。
胴体の割れ目から、灰褐色の砂が溢れ出る。
リリスの巨体から、光と共に噴き出た。
天まで繋がった銀と灰褐色の斑に包まれた柱が大きな音を立てて割れた。
粉塵が銀色も含み、舞い上がっていく。
“リア・ファイル“と混凝土は、星空に溶けていった。
「アンティパス……ありがとよ。後は、俺がやる!」
死が唯一の安寧の男へ祈りながら、ロックは青白く光る剣に駆けた。
死の光の前で、サキの体の奥で怒りに震えるリリスを倒す為に。
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