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第五章 Flash And Slash

閃刃―②―

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 しかし、ロックの前で、二柱が真二つに割れる。

 撃ち抜いたのは、一迅の金色。

 射手は、

「兄さん、相手の口を開くにはが必要だよ?」

 サミュエルが、ロックに皮肉を言いながら前に出る。

 ロックは兄と呼ぶ男に、銃口を向けた。

 銃口が光り、爆発が起きる。サミュエルの背後で、“クァトロ“が左胸に大きな穴を開けて、横たわっていた。

「テメェは、まず、を口から出せよ?」

 ロックがそう言った時には、サミュエルの上空から飛び掛かる“クァトロ“二体に肉薄していた。

 右からの横なぎの一撃は、二体の胸部を引き離す。

「じゃあ、ロックに言葉は必要ないね。とっとと、黙ってサミュエルから離れろ」

 ロックの前に迫りくる滑輪板スケートボード

 上背を下げると、紅い外套コートの背中を越えて“ウィッカー・マン:クァトロ“の頭部と胴を、シャロンは板越しに蹴りだす。

 衝撃によろめく“四つん這い”の上に、シャロンは滑輪板スケートボードを乗せた。  

 滑輪板スケートボードは、何条もの電流に包まれ、下にいた“クァトロ“へ食らいついた。

「取り敢えず、テメェの存在も必要ないな。テメェたちの言動を見ると、時々、敵と味方の判断がつかなくなってくる」

 ロックは、上半身を跳ね上げながらシャロンに返す。

 アンティパスの大砲の様な刀身の大剣に、ロックは意識を向けた。

 “ストーン・コールド・クレイジー“。

 ナノ制御から作り出されたセメントで、攻撃を行う命導巧ウェイル・ベオとロックは聞いていた。

 ”ウィッカー・マン”への対抗手段として、命導巧ウェイル・ベオは有効な武装である。

 しかし、特定の個人にしか扱えず、大量生産に向かなかった。

 普及を試みる者もいるが、兵器と言う一面を差し引いてもの開発への疑問の声も大きい。

 その扱いを巡って、武器の流出、所属組織への不信感による裏切りも重なり、”ウィッカー・マン”対策の遅れの要因となっている。

 ロック達の任務の中にも、その所有者と命導巧ウェイル・ベオ本体の捜索が別途与えられている。

 抵抗する場合は、所有者の拘束や殺害もいとわない旨も通達されていた。

――所有者と命導巧ウェイル・ベオが一致している……!?

 その任務を受けていたロックは、その事実に驚愕した。

 命導巧ウェイル・ベオは、適合者を記憶している。

 適合者の意識を精神電投影マインド・アップローディングさせ、”命熱波アナーシュト・ベハ”を固有識別起動子――認証素子パスワードとして、複製させる。

 非適合者が使おうとするなら、命熱波アナーシュト・ベハを記憶した命導巧ウェイル・ベオ超微細機械ナノマシンの防衛機能が発動。

 その結果、非適合者の熱量は奪われ、自然発火となる。

 条件付きで防衛機能を無効化出来るが、その場合の代償として、超微細機械ナノマシンの暴走で使用者は命導巧ウェイル・ベオ

 その結末は、ロックの振るってきた武器が知っていた。

 彼が、アンティパスという適合者の登場に戸惑う時間は無い。

「じゃあ、私がを解決いたしましょうか?」

 その声に、意識が中断させられた。

 妖艶な声が、雨音と共に降ってくる。

 ロックは、背後に激痛を感じながら、声の方へ振った。

 横殴りの斬撃を受け止めたのは、雄羊の角の女――サロメ。

 彼女の肉付きの良い肢体は、支えきれずに放物線を描いて土瀝青アスファルトの大地に降りる。

 猫の様に、両腕を前脚の様に路地に付けながら、

からすることをお勧めしますが?」

「そっちの方が願い下げだ、黒か白かで言えば、中間の灰色――しかも、な方のテメェからは特に!!」

 “四つん這い”で臀部でんぶを突き上げ、女豹の恰好を真似た象牙眼の魔女――サロメに、ロックの“イニュエンド“が咆哮を上げた。

 だが、着弾点にサロメはいない。

 右手の半自動装填セミオートマチック式拳銃に、銃弾を装填しながらロックは右腰の回転と共に右肘鉄砲を放つ。

 紅の一撃と、サロメの放つ雄羊の頭蓋骨の刺突が激突。

 その寸前で、ロックは左手で額の右側を抑える。

 折り曲げた右肘を延ばし、ロックの“イニュエンド“の銃把で、サロメの圏に施された羊の籠状護拳バスケットヒルトを砕いた。

 目の前のサロメは、狼狽えた様子を見せない。

 彼女は、ロックの肘を延ばした際に開いた胴へ、もう一頭の雄羊の圏を右から潜り込ませた。

 ロックは左腕ではらおうとするが、空しくもサロメの圏を左胸に受ける。

 だが、背後の激痛によって、左腕に力が入らなかった。

 前後の痛みに顔をゆがめるロックを、熱波が撫でる。

 サミュエルの“パラダイス“は、長柄の鎌の形ではなかった。

 腕の様に折りたたまれた鎌の下で、散弾銃の銃口から硝煙が立ち昇っていた。

「兄さん!? シャロン、頼む」

 サミュエルが口を大きく開いたにも関わらず、その声は小さい。

 弟の張り上げた声が小さく聞こえるのは、与えられた痛覚がロックの聴覚に勝っているからかもしれない。

 シャロンが駆け寄り、

「ロック。サミュエルが嫌がるのを見たくないから、じっとしていて」

 そういって、ロックは座らされる。

 彼の前で、シャロンはしゃがむと、右手でロックの胸を触る。

 力が抜けると、背後からも光と温かさを感じた。

 ちょうど、ロックはシャロンに抱えられる様な形だった。

「アンタは、今、”命熱波アナーシュト・ベハ”を二体持っているの。サロメはアンタの中に何かを入れて、そのバランスを崩そうとしているの」

 ”ウィッカー・マン”の強化及び再生能力は、“リア・ファイル“という超微細機械ナノマシンの活動である。

 それが肉体を構成している為、既存の銃火器では傷つけられない。

 ロックたちの攻撃の手段は、”ウィッカー・マン”を構成する超微細機械ナノマシンを破壊できる“上位互換の超微細機械ナノマシンの力”を借りている状態だ。

 機械を倒す為に、機械を使っている。

 当然、機械が止めることは可能だ。

 ロックは、ブルースに起きたことを思い出す。

 ライラとヴァージニアの攻撃をブルースが受けた時、彼の再生能力は働いていなかった。

 だが、ロックが目を覚ましてから、超微細機械ナノマシンは正常な治癒機能を取り戻した。

「サロメの力が、俺の”命熱波アナーシュト・ベハ”の活動を止めようとしている?」

「厳密に言うと、““の方。あんたは、二つの”命熱波アナーシュト・ベハ”によって、肉体が維持されている。その維持にもエネルギーが掛かる。再生が早くて肉体としては限界まで活動できる。今は、そのサイクルが不安定な状態。、片っ端から言って!?」

 ”ウィッカー・マン”の急所自体、”命熱波アナーシュト・ベハ”を集めた熱源である。

 シャロンはそこに、素手で干渉出来る。

 触覚を通した洗脳ばかりでなく、”命熱波アナーシュト・ベハ”の治癒――正確には、超微細機械ナノマシン:“リア・ファイル“の不調の調整も行えた。

「少し前にサロメ、サキを守る”命熱波アナーシュト・ベハ”二体から攻撃を受けた。それによって、再生が少しおかしい……。この街も何かがおかしい」

 検査の為に、ブルースとロックの生体標本が、市内の研究機関に送られたが、結果はまだ得ていない。

 それに、”ウィッカー・マン”もある時期から、“クァトロ“と“ガンビー“に加え、首なし騎士デュラハンも活発化し始めた。

「私たちも、サミュエルと“壁の向こう“の”ウィッカー・マン”を調べたけど、”命熱波アナーシュト・ベハ”の活動が激しくなっていた。私たちの持っている記録だと、今までは月に数体程度、『壁』に近づいていた。今の状況は、明らかに異常よ。何か、が絡んでいる……環境の変化とか!」

 シャロンの疑問にロックは首を振り、彼女の右手から、明かりが消える。

 ロックの感じていた左肩と背面の痛みは、引いていた。

「悪い。感謝する」

「謝るなら、サミュエルに。私は、だから、礼も謝罪もいらない」

 ロックの言葉を、シャロンは突き放した。

「それに、あんたがは、サミュエルに限らないんじゃない? あんたは、恩を返したいけど、その人はもういない。いない人を投影されても、アタシや皆が迷惑なだけ」

――随分と言うよりは、眼中にも入れたくねぇってことか?

 ロックは、常人なら心を砕かれるシャロンの言葉を心で苦笑いしながら、立ち上がる。

 サミュエルに目を向けると、彼の“パラダイス“の散弾銃が、両腕を失ったサロメの頭を撃ち抜いていた。

 刹那、妖艶な均等の肉体が水溜りの様に歪む。

 その歪み方は、ロックにも見覚えがあった。

 サロメだった肉体は、銀色の扁桃アーモンド頭――両脚を残し、頭蓋に大きな穴を開けたフル・フロンタルとして荒れる瀝青コールタールの海に沈む。

「兄さん、僕たちは

っていう必要はないな」

 サミュエルにロックは答える。

 シャロンは何も言わず、両足を乗せていた滑輪板スケートボードを、両手に持ちかえた。

 ロックは、サミュエルとシャロンと背中合わせに、目の前の灰褐色の武人を見る。

 雨粒を受けても、アンティパスは一切の感情を見せない。

 彼の持つ大砲の様な剣のきらめきが、血と雨の違いが些末であると語っている様だった。

 隣のサミュエルの眼は、“フル・フロンタル“の大群を率いるサロメを反射。

 しかし、扁桃アーモンド人形は道路から溢れるどころか、

 扁桃アーモンド人形全てが、一歩刻むたびに、ロック達の立つ円を狭めていく。

 “フル・フロンタル“の集団の全ての頭部から雄羊の角が生え、眼が“象牙色“に色付き始めた。

 その場にいるが、象牙色の眼と石榴色の唇をしたサロメに変貌。

 包囲した一体から、声が上がる。

「燔祭、第二幕……始めましょう!」
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