正義×ヒーロー〜ヒーローに憧れた彼らが世界を変える為の物語〜

月原葵

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第一章

27話 クラス委員長

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「ひえーっ。もう、無理ー!!」

あかりは白目をむいて椅子に思いっきり寄り掛かった。

ようやく午前中の授業が終わって、昼休みに入ったところだった。チャイムが鳴って数分もたっていないが、クラスメイトの大半は昼食を食べるために食堂に行ったり、購買部に行ったりしていた。本日おすすめのメニューや、購買での人気商品は売り切れるのが早いのでチャイムと共に教室を出るものが多い。

あかりもおなかはすいていたが、すぐに動く気にはなれなかった。

「朝から筋トレとか体力を使った後に授業とか本当にイヤっ」

通常授業が始まって早二週間。あかりの頭は悲鳴を上げていたのである。

「高校の授業って長いくせに難しいって……俺聞いてねーよ!」

あかりの後ろの席にいる大地があかりと同じ様な悲鳴を上げる。

「あかりちゃんも、土蜘蛛くんも授業中に寝るのは良くないですよ」

あかりの隣の席である沙知が二人の様子を見て苦笑しながら先ほどの授業のノートに何かを書き込んでいる。

「だってだって!眠いんだもんっ。あんなお経みたいな授業を……。あたしもう頭がパンクしそうだよー!」

あかりはバタバタと足を動かす。

「何でみんなはそんなに平気そうなのっ?」

あかりは通路を挟んだ隣の席の繋に視線を移した。繋はあかりが授業中に頭を抱えている間もいつも涼しげな顔で机に向かっている。繋はうるさいと言いたげなジト目であかりを見ていた。

「あんたが馬鹿なだけでしょ。普通に受けてれば眠くならないし、朝の訓練だって私達ヒーロー目指してんだから当然にやるべきことでしょ。嫌なら学校辞めれば?」
「ちょっと、けいちゃん言いすぎです!」

棘のある繋の発言を沙知がすぐさま否めた。

「やる気のない奴がいたら迷惑するのは他の人達でしょ。こっちに迷惑かけないでよね」

繋は沙知の警告を無視して吐き捨てるように言ってあかりから視線を外し、教科書を閉じた。

「何それっ。ちょっと酷くないっ?」

あかりは眉をひそめて、立ち上がる。自分が悪いのは分かっていたが、人の気持ちを考えていない冷たい言葉が頭に来た。

「あかりちゃん!落ち着いてくださいっ」

繋に詰め寄ろうとしたあかりの腕を沙知が引っ張る。繋も立ち上がり思いっきりあかりを睨んだ。切れ長の目が鋭い光を放つ。あかりも負けじと繋を睨んで詰め寄ろうとするが、沙知が片腕にしがみついているので前に進めない。

「何か文句でもあるの?正直、寝てて先生の質問に答えられずにいっつも授業止めてて迷惑してんの。辞めてくれたらこっちも……」
「繋。それ以上はやめよう」

繋がヒートアップしていったその時、ふうがあかりと繋の間に入って、繋の肩に手を置いて彼女を止めた。

「おいおい、喧嘩はやめようぜ!」
「二人とも一旦頭を冷やそう」

ふうにつられて大地と騒ぎを聞きつけた亮輔も二人の間に割って入ってきた。

「……っ」

繋は唇を噛んでふうの手を振り払い、ツンッとそっぽを向いて教室を出て行った。あかりも沙知を剥がして繋が出たドアとは違うところから教室をでる。

◇◇◇

「あいつら大丈夫かよ?」

二人が出て行った教室で大地がため息をつく。

「馴れない環境でハードスケジュールをこなしているからストレスとか疲れとか溜まってるものが爆発したのかもね。仕方ないさ」

力なく笑う亮輔が、大地の肩を叩いた。

「あの、私けいちゃんとあかりちゃんを追いかけてきますね」

沙知はあかりと繋の言い合いを止めに入ったふう、亮輔、大地に声をかける。

ークラス委員として、何とかしなくては

先日のホームルームでクラス委員を決める話し合いが行われた。誰よりも早く手を挙げて、その熱意が買われた沙知が無事にクラス委員に、推薦で支持された亮輔がクラス副委員に選ばれた。

沙知にはクラス委員としての責任がある。

「一人じゃ大変でしょ?私、あかりの所に行ってくるよ」

ふうが沙知に微笑みかけた。

ー確かに、ふうちゃんにあかりちゃんを任せた方が……

一瞬そう思ったが、それは甘えであると感じすぐに考えを改めた。

「いえ、大丈夫です!クラス委員である私が何とかします」

特に理由はないし、何故そうなったかは覚えていないが何となく沙知は繋と行動することが多かった。
このクラスの中では繋と一番言葉を交わしている。

対してあかりは席が隣ということもあって話すが、いまいち彼女の事を掴めていない。底抜けに明るくて、人当たりがいいあかりと沙知は住む世界が違うと思っている。

ーでも、それとこれとは話は別だよね

自分が何とかしなければいけない。クラス委員としての義務を果たさなければならない。沙知の頭の中は責任で埋め尽くされた。

「繋と一番仲がいいのは沙知でしょう?あかりは私に任せて、早く繋の所に行ってあげて」

ふうがやんわりと沙知を促す。

「一刻も早く行った方がいいってことですよね!早くけいちゃんを連れ戻してきて、その後あかりちゃんの方に行きますね!」
「あ、ちょっと沙知!」

ふうの制止の声は沙知には届かなかった。沙知は教室を早足で出て、繋を探す。

しばらく廊下を行くと、他のクラスの女子が立ち話をしていた。

「見て!あの子めっちゃ美人じゃない!?」
「え、どの子?」
「ほら!あのショートカットの……」
「ああ、あの子?確かに美人だけど、超怖いって噂だよ」
「え、そうなの?」
「うん。あ、やばっ。めっちゃ睨まれた。行こっ」

彼女たちは駆け足で沙知の横を通り過ぎる。沙知は彼女達が見ていた方向に視線を向けた。沙知の視線の先には、窓辺に頬杖をついて外の景色を眺めている繋の姿。

「けいちゃん」

沙知が繋の名前を呼ぶと、繋は沙知を見た。紫色の髪が太陽の光を受けて繊細な光を辺りに散りばめた。

「何か用?」
「はい。教室に戻りましょう」

繋は沙知から視線を外す。

「折角来てくれて悪いけど、もうちょっと頭冷やしてから行くから先に戻ってて」
「どうして、あんなこと言ったんですか?」

沙知は繋の言葉を無視して、隣に行って壁にもたれかかった。
繋はため息をついて答える。

「別に特に理由なんてない。ちょっと言い過ぎたかなとは思ってるけど、間違ったことは言って無いでしょ?私は悪くない」
「確かに正しいとは思いますよ。でももう少し言い方を変えた方が良かったのではないですか?あれではあかりちゃんがかわいそうです」

沙知は真っすぐに繋の横顔を見て迷いなく自分の考えを伝える。繋が沙知の目を見た。その顔つきは真剣なものだった。

「沙知は、どっちの味方なの?」

繋の言葉の意図が分からず、沙知は首をかしげる。

「どうしてそんなことを聞くのですか?」

繋はふっと表情を緩めて、視線を逸らした。

「別に。何となくだよ」

繋はどこか遠くの景色を見つめる。その表情が何を物語っているのか沙知には分からない。

「あの、何かあれば私に言ってください!クラス委員として力になれることがあれば何でもしますから、私に頼ってくださいね」

沙知は繋の横顔に訴えかけた。繋が何を考えているかなんて聞かなければ分からない。自分にできることは、頼ってもいいと伝えることだと沙知は考えた。

ー少しでも、けいちゃんの力になりたい

「クラス委員として、ね……」

繋が何か呟いた。その声は沙知に届くことはなかった。

沙知は聞き返す。

「え?」

繋は首を振った。それに伴って紫色の髪が僅かに揺れる。

「ううん、何でもない。ありがとね。もうちょっとしたら教室、戻るから」

繋の瞳が沙知を捉える。

「はい!では私はあかりちゃんの所に行ってきますね!」

沙知はその瞳に大きく頷いて応えるとあかりが向かった方向へと身を翻した。

焦る気持ちを押さえて、沙知はあかりの元に向かう。
その後ろ姿を見つめる繋の瞳の中に何とも言い難い複雑な光が宿っていたことに沙知が気が付くことはなかった。

ー・-・-・-・

「あかりちゃん!」

あかりを数分探し回ってやっと彼女を見つけた。食堂の購買部の列から離れていっているところだったあかりに沙知は声をかける。

「おー、さっちゃんじゃん!」

あかりは焼きそばパンを片手にやっほーと手を振ってきた。

沙知はあかりに駆け寄るとその手を引く。

「あのっ。教室に戻りましょう!」
「……んっ?」

あかりは眉を顰める。

ーあれ、聞こえてなかったかな?

「教室に戻りましょう!」
「え、うん。今から戻るところだよっ」

ケロっとした様子のあかりに沙知は混乱する。

「えっと……」

困っている様子の沙知を見て、あかりはどうしたどうした?と顔を覗き込む。

「あの、さっきのけいちゃんとのこと……」

状況が理解できず、率直に聞いてみると、あかりはぱっと笑顔を見せる。

「ああ!あの事かっ。ちょっと疲れすぎてて思わずカッとなっちゃった。ごめんねっ」

数分前まであと一歩で掴みかかりそうな程繋と言い合っていたとは思えないほどあかりは明るく返した。あかりの心情が見えない。沙知は戸惑いながら念のため質問をする。

「教室を飛び出して行きましたけど、大丈夫ですか?」
「えっ?」

あかりは目を見開いたまま固まった。しかし直ぐにぱあっと笑う。

「あー!あれかっ。すっごくトイレに行きたくて!ほんとに漏れそうだったのっ」
「え?そういう理由だったんですか?」

予想外のあかりの様子に沙知は驚きと同時に胸をなでおろす。

「そうそうっ」
「良かったです。てっきり私は……。いえ、何でもないです。それでは教室に戻りましょうか」

教室へと向かう道で「心配して来てくれるなんてさっちゃんってば優しいねー」とあかりは笑う。

「当然ですよ、だって私クラス委員ですから」

沙知は答える。自分で立候補したのだから、このくらいは訳ない。自分がクラスの秩序と、団結力を守らなければならない。

「おっ、頼もしいねっ」

あかりは沙知の輝いている瞳から視線を外して、沙知の背中をバシバシ叩いた。

「ちょ、痛いですよ……!」
「あははっ。ごめん、ごめん!」

沙知とあかりが教室に戻ると、既に繋は席についていた。

繋とあかりの視線が交わる。沙知は内心ハラハラしていた。

ー信じていないわけじゃない、けど。

「けーちゃんっ!さっきはごめんねっ。思わずカッとなっちゃって!」

あかりはへらへら笑いながら繋に近づいて手を合わせる。
繋はその様子を見て若干眉をひそめながらも、視線を逸らしながらつぶやいた。

「私もちょっと言い過ぎた。ごめん」
「これで仲直りねっ」

あかりは繋の手を無理やり掴んで強引に握手する。

「ちょ、ちょっと!」
「あははっ」
「やめてってば!大体私は間違ったことはいってないからね。せめて授業中の居眠りくらいどうにかしなよ」
「うんうんっ。頑張るからっ!」
「その言い方!絶対反省してないよね?」
「そんなことないってっ!」

繋は完全にあかりのペースに飲まれて、振り回され始める。

二人の様子を見て、沙知は肩の荷が下りたような感覚に陥った。

ー仲直り出来て、良かった

繋とあかりが戯れている近くで、沙知はそっと微笑みを零した。
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