正義×ヒーロー〜ヒーローに憧れた彼らが世界を変える為の物語〜

月原葵

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第一章

5話 沙知の夢

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次の日、沙知達は能力検査をする為に目的の場所ー訓練アリーナへと向かった。

中に入ると、何もない真っ白でだだっ広い空間が広がった。訓練アリーナは何個かあるそうで、今回集合地に選ばれたのは第一アリーナだった。第一アリーナは寮から一番近い場所に設置されていた。

「お前らーここを出てすぐ左手が男子、右手が女子で更衣室があるからそこで体操服に着替えてこい。更衣室にある名前の書かれたバックの中に入ってるやつだ。着替え終わったら、15分後を目安に、Aペアはここにそれ以外のペアはアリーナの横にあるモニタールームに集合だ」

全員が無事に目的の場所に到着したことを確認すると、高鷲たかすは次の指示を出した。
扉を開けて、靴箱が設置されている玄関口にでると左手に男子更衣室、右手に女子更衣室と書かれた看板が建てられていた。
女子更衣室に入るとすぐに5つのバックが綺麗に並べられていた。

沙知は「調しらべ」と書いてあるバックをとっていち早く着替え始めた。全身真っ黒の動きやすそうな長袖長ズボンの体操服を見に纏い周りを見渡す。
バッグの個数どおり、女子の人数は5人。各々素早い動きで着替え始めていた。

「ちょっと緊張するね~」
「だねだねっ!でもここから始まるって感じがしてちょっとわくわくもあるかも!」

着替え終わった花が深呼吸をしている隣で、まだ着替えているあかりが満面の笑みを浮かべる。

「ふうは緊張してるー?」

そして彼女はその笑顔をそのままそのまた横にいる少女、ふうに向けた。ふうもすでに着替え終わっており、棚に制服を綺麗に畳んでしまっているところだった。

「ちょっとしてるかな」
「えーほんとにー?全然緊張してるように見えないっ!」
「うるさ……」

沙知の隣にいるけいがぼそっと呟いた。

沙知は自身の体操服に乱れがないのを確認すると、あかりに抱きつかれているふうに話しかけに行く。

「あの、ふうちゃん。ちょっと良いですか?」

ふうはあかりをそっと引き離す。あかりは不服そうな顔をしつつも、大人しくふうから離れて床に散らばっていた自分の制服を拾ってたたみ始めた。ふうはくるりと沙知の方を向いて微笑んむ。

「うん。どうしたの?」
「作戦会議をしませんか?」

一人一人の能力を図るといえども、二人一組で一体の敵を倒すという検査方法だ。能力を思う存分に披露するためには互いの協力が不可欠だと沙知は考えた。
高鷲も言っていたように、入試では自分の能力を見せるだけだった。戦闘においてそれが役に立つのかという実践はしていない。ここで力を発揮できなければ、退学に追い込まれるかもしれない。それだけは避けたい。それは沙知だけでなく、この学校に入学した者全員の想いだろう。

「うん、しよっか。私達1番最初だもんね」
「はい!お願いします」

ふうは頷いた。検査は出席番号順で行われる為、沙知とふうはトップバッターであった。それ故に沙知はプレッシャー感じていた。

「私達もしよ~」

沙知とふうの会話を聞いて、花はペアである繋に話しかけて話し合いを始めたようだ。

「私は先にモニタールーム行ってるね!」

あかりは左手につけている腕時計をタップした。空中ディスプレイが浮かび上がった。この腕時計式携帯は、入学と同時に支給されたもので、登録されている人の位置情報が分かったり、連絡が取れたりする。付属品でインカムもついているので無線で連絡も取れるという優れものだ。
あかりは誰かと連絡を取っているようで、ディスプレイをタップしながら更衣室を後にした。

それぞれが、検査に向けて本格的に準備を始める。検査開始まで、残り10分。

沙知とふうは、ひとまず訓練アリーナへと向かった。

「時間になったら、早速起動して始める。バーチャルと言えど多少の怪我などはするようになっている。死にはしないがな。準備は念入りにしておけ」

中に入ると、天井に着いていたスピーカーから高鷲の声がした。モニタールームから話しているのだろう。

沙知は深呼吸をして、ふうと向かい合う。緊張で喉につっかえる声をなんとか吐き出して拳を握る。

ーしっかりしなきゃ。こんな所で萎縮していたら到底夢には近づけない。

「まずは、能力の情報交換をしましょう。私の能力は、「サーチ」です。その名の通り、見たものの基本的な情報や能力を調べることができます。ただ能力を知るだけでなく、弱点などの詳細までわかります。ただし、私が能力を使うには特別な目薬を使って「目」のみに神経を集中させます。そのため「目」への負担がとても大きいので一度に一人しかサーチできないし、たくさん使えません。以上が私の能力の軽い説明です」

ひとまず検査をする上で重要な伝えるべき事は伝えられた。沙知はほっと胸を撫で下ろす。後は、ふうの能力を聞いて作戦を立てるだけ。ふうの能力の説明を聞く為に沙知は口を開く。ーと、その脳裏に昨日寝る前に考えていた自分の能力と夢の話がよぎった。今ここでふうに必ず言うべき内容ではないので、無視を選ぶ。しかし、この文章は頭の中から消えてはくれなかった。

ー今ここで言わなきゃ、一生私は……

考えるよりも先に言葉が溢れ出ていた。

「私は、裏方としてエジャスターをサポートする情報員を目指してここまで来ました。それが私の能力が一番生かせる方法だと思っているからです。ただ……」

沙知は言葉を詰まらせた。
高望みであると笑われるかもしれない、と考えてしまったから。言ってしまえば、もう夢を追いかけ続けるしかなくなる。過酷な道を辿る事が決まる。

「ただ?」

ふうは目を細めた。空をそのまま写したような瞳に吸い込まれる。

沙知は決心した。口に出さなければ、叶わない。高望みであるとわかっているからこそ、その夢を実現させるためにここで頑張ろうと決めたのだから。

「私は、戦場に立って仲間に指示をだす指揮官になりたいんです。正直に打ち明けると、私は戦闘が得意じゃありません。入試の体力測定も合格ギリギリでした。多分、ここに合格して一組に入ることができたのはサーチという能力の将来性を見据えての事だって思ってます」

一息で言い切った。ふうの反応を見たいが、見れずに沙知は視線を逸らした。

「……ふうちゃんの能力を、教えてくれますか?」
「私は、風に関する能力を持っている。発生させた風を操ったり、それで体を浮かせたり、振動を感じ取って敵の居場所を感知できる……そんな感じかな」
「なるほど。それなら……」

沙知が作戦を考えていたら、再びスピーカーから高鷲の声がした。

「時間だ。始めるぞ。場所は一貫して街中、敵の能力はランダムだ。制限時間はなし、敵を倒せばクリアとなり元の白い空間に戻る。説明は以上。開始の合図の後は緊急事態以外は俺からは一切指示はしない。聞きたいことは?」
「ありません」
「よし。……開始」

何もなかった空間にたちまち建物が現れる。一秒後にはマンションが立ち並ぶ街中の道路の真ん中に二人は立っていた。

「すごい……」

あまりに本物と変わらないその風景に、沙知が感嘆の声を漏らす。今にも騒がしい都市ならではの車が走る音が聞こえてきそうだった。

更に数秒後に二人が立っている三十メートルほど離れた場所にぱっと人が現れた。
二人はすぐに建物陰に隠れた。

「敵、ですよね。サーチします」

沙知はポケットの中から目薬を取り出して、右目に垂らした。
左目をつぶり、右手の親指と人差し指で丸をつくるとそれを右目にかざしてそっと敵を覗く。敵の頭上に言葉や数字が映し出される。沙知はそれをわずか数秒で頭に入れて、必要な情報だけを処理する。

「能力は……物体浮遊です。車までの重さなら持ち上げることができます。浮かせることができる範囲は直径十メートルほどですね。一度に三つまでしか浮かせることができない上、能力の使用には両手を使うので使っている最中は隙だらけというのが弱点だと思います」

破壊音が響いた。
どうやら敵が近くにあった車を浮遊させて建物にたたきつけたようだ。威嚇、とみる。

ー時間制限はない。挑発に乗るべきではない。まずはここに隠れたまま作戦を考えて……

沙知がこれからの行動の案を練っていると、ふうが物陰から飛び出していった。

「ふうちゃん!?」
「行ってくるね」

そう言い残して、ふうは敵に近づいていく。突然の出来事に沙知は呆然と立ち尽くすことしかできない。

敵がふうの姿を捉えた。両手を上にあげて、先ほど建物の壁を破壊したときに地面に落ちたコンクリートの塊を三つ同時に浮かせる。……が、浮かせたまま攻撃には移さずじりじりと前に歩いている。攻撃しないのは、ふうが常に五メートル以上距離を保っているためだろう。

敵が一気に間合いを詰めようと踏み込んだ瞬間、ふうは右手を大きく右下から斜め上に振りかぶった。突風が地面から吹く。敵への明確な攻撃。咄嗟に敵はそれを避け、自分の間合いに入り込んだふうに対して攻撃を与えようと両手を前におろそうとするが……。その手は動かなかった。驚いた敵は上を見上げる。自身が浮かせていたコンクリートがすべて風に弄ばれていた。敵が能力を解除しようと試みた時には、ふうが真横に立っていて首に強い衝撃を食らい地面に崩れ落ちていく。

敵が倒れる。それと同時にコンクリートも建物も敵ですらもすべてがまっさらに消え去った。

沙知はふうの元に駆け寄る。
なんて声をかけようか迷っているとふうが微笑みかけてくれた。

「急に飛び出してごめんね。あれ以上敵を放っておいたら建物が破壊されて市民に被害が及んでいたかもしれないなと思って」
「あの、私……」

ー何もできなかった。気がついた時には全てが終わっていた。

沙知は作戦を考えた後、二人で協力して敵を倒すつもりだった。しかし、これが本番ならばそんな余裕はない。敵はこちらが策を練る暇を与えてはくれない。止まっている間も、人々は危険に晒されていく。

ー私は何も考えられていなかった。これじゃあ、指揮官どころかエジャスターになんて……

飛び出していったふうについて行けず、結局ふうに任せっきりだった。

「沙知のおかげ。ありがとう」
「へっ?」

思わぬ言葉に沙知は目を丸くして、ふうを見上げる。

「沙知が調べてくれた敵の情報ーそのおかげで敵の弱点をついて、迅速に対応できた。何も能力をしらないまま攻撃を仕掛けていたら周りの被害がもっと大きくなってたかもしれない。敵に直接攻撃を仕掛けても勝てたかもしれないけど、それだと倒した後に浮遊の力を失ったコンクリートが落ちて誰かが怪我をする可能性があった。事前に弱点を知れていたからできた行動だった。沙知のおかげで被害が最小限に抑えられたよ」
「あ……」

沙知は敵に攻撃を仕掛けて、避けられた風がたまたま敵が操っていた物の自由を奪う結果になったと思っていたが、初めからふうは敵を狙っていなかったようだ。敵が攻撃を避けることを前提としてふうは一瞬の内に策を練ったのだ。狙った攻撃をしたと見せかけて目的を隠す。敵が浮遊させている物の自由を奪うことで敵に一切動く隙を与えなかった。

「沙知、作戦を考えてくれようとしてたでしょ?本当は私はそれを聞いて動くべきだった。敵の情報を正確に把握している沙知の方が確実性の高い案を練れるし、沙知は指揮官志望だからね。私達はまだエジャスター見習いにもなりきれていないかもしれないくらいまだまだ未熟で、遠い目標に思えるかもしれない。けど……指揮官、沙知なら絶対なれるよ」

ふうの瞳は強く沙知を見据えていた。一切濁りがなく、揺らがない真っ直ぐで優しい瞳。
お世辞なんかじゃなく、本心からの言葉であることをその瞳を見て沙知は信じた。

「うん、私ー頑張ります!」
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