前世で魔神だった男、嫁と再会して旅をします。

明石 清志郎

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4章

105話:拷問と死

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 次の日の朝、里菜と共に夜入ったバーにゲートを開き訪れるとマスターであるフィダルゴとシスオンバイの二人がいた。

 「どうも姉さん~」
 「おはよう、あいつらの処分に困っていると思って来てあげたの」
 「そいつは助かるぜ。気味悪いしいつ動くかわからないからどうしようかと思っててよ~」

 予想通り石像にした四人をどこに置いておくかで頭を悩ませていたようだ。

 「そいつらが絶対動かないようにさらに魔法を強化しておくからヘクター以外は管理できるかしら?」

 騎士の三人は魔法耐性が低いからおそらく大丈夫だろう。

 「そういうことなら三人はこのバーの地下に置いておくよ。その魔導士はどうするんだ?」
 「ああ、そいつは危険だから断末魔を聞いてから始末するわ」

 今後障害になりそうな奴は始末しておくべきだろう。何しろ里菜に酷い事をした人間だ。生かしておく理由はない。

 「そ、そうか……まぁ当然だな」
 「あら、随分歯切れの悪い返事ね」
 「いや、ホッとするし頼もしい反面おっかなさもあるもんでな。別に悪気はないんだ」

 素直に信頼できなきゃ私は恐怖の対象になるし無理もない。

 「フフッ、あなたは石にしないから大丈夫よ。それと一月以内にまた来るからその時までは決起するのは抑えてちょうだい」
 「了解でっせ、姉さん。その時までには戦力を整えておきます」

 三つの石像にさらに強化の魔法をかけてからヘクターの石化を解く。

 「貴様っ……」

 意識を取り戻したヘクターの溝に一発拳を入れる。

 「ぐはっ……」
 「ワイルドローズ」

 トゲのある薔薇のツルで拘束しながらダメージを与える第七位階魔法だ。

 「さてあなたの姿をトレースするわ」

 ヘクターへと変身する。

 「さて尋問を始めましょう~」

「尋問だと?」

 バーの窓と入り口は閉じられ外から見られることはなく、更に建物を囲うように防音の障壁を貼り外とは隔離された状況を作り出した。そんな中ヘクターに変身した私と里菜とフィダルゴとシスオンバイは拘束されたヘクターと対峙していた。

 「里菜から話は聞いているわ、あなた獣人族達を探っていたんだって?」

 ヘクターは何も答えない。

 「他の勇者達の動向について知っていることはあるかしら?」

 無言のままだ、このまま無言を貫かれては面倒なので拘束を強くしてさらに縛り付けた。

 「ぐあぁぁぁぁ!」

 強く縛った部分には薔薇のとげが突き刺さり、血が流れる。

 「喋る気にはなった?」
 「ぐはっ……あなたに喋ること等何もありませんよ……あなたに石にされた時点でもう死は覚悟している……」

 こちらを鋭い目で睨み付ける、どうやら意志は固いようだ。

 「いずれ滅ぶ国に大した忠誠心ね?私を怒らした時点で生かしておくつもりはないけど心を入れ替える気はないかしら?」
 「あなたが何者かは知らないが連邦を甘く見ないことだな。それに私は連邦のトップであるハイフライヤー家に仕える身……あなたに屈する気などない」

 ハイフライヤー家?二十柱の一角大賢者たる私に対して随分と偉そうな男だ。

 「あら残念ね……使えるからもう少し生かしておこうと思ったんだけどね~」

 さらに拘束を強める。

 「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 大きな悲鳴がバーに響く。

 「一ついいかしら?夜私と対峙して一人石にした時あなた不適な笑みを浮かべていたけど勝てるつもりでいたのかしら?」
 「わ、私の異能がまったく効かないなんて予想外でしたからね……」

 あの程度の能力で随分と甘く見られていたものね。身の程をわきまえないゴミにはいかに自分が愚かな行為をしたかをわからせないといけないわね。

 「その結果がこの様、己を尺度でものを測らないことね」
 「まったくだな……それと私は他の勇者の事なぞほとんど知らない。各部隊に配置されているがそれぞれどう動くなど知るとこではない。ましてやインフィニティシールドの施行で帰還手続きは面倒だったからな」

 どうやら嘘はついていないようだ。

 「ちっ、使えないわね……」
 「ふふっ、感じますぞあなたの苛立ちを……」

 その言葉にカチんと来た私は更に縛りを強くする。

 「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 縛るたびに声が大きくなっていく。

 「死にたいのはわかったけど苦しんで逝きたいならより苦しめるわよ」
 「がはっ……あなたは人の皮を被った化け物だな……」
 「それは褒め言葉ね。それとその言葉は親友を隷属の輪につけて、更に心まで縛るあなた達こそピッタリよ」

 私は二十柱の一角である大賢者だ、人であって人ではない。

 「まさにブーメランだね~」
 「フフッ、里菜はこんな時でも面白いことを言うのね~」

 私もつい笑ってしまった。里菜はいつも私が苛立っている時にはこうやってちゃちゃをいれて和ませてくれていたのを思い出す。

 「というか立ちゃんこいつに怪音波していいかな?少し仕返ししたい」
 「フフッ、いいわよ」

 里菜は怪音波を発動し錯乱を起こさせる。

 「うっ……」
 「洗脳していた相手にこうやって仕返しされるのはどういう気分?」
 「……」

 何も答えない。どうやら死を受け入れたのだろう。

 「エミリウスの宴!」

 あえて石化速度を弱め石化した部分から砕いていき両下肢と両前腕を砕いた時点で解除する。

 「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 体の一部を砕いたことにより大きな激痛が走りさらに増して大きな悲鳴をあげる。

 「もういいわね……この姿もトレースできたしもう始末しましょう」
 「私はお前に……屈し……な……」
 「黙りなさい!」

 速度の遅いエミリウスの宴を発動し上腕、上肢、腹部、心部と順に砕き最後は恐怖に満ちた顔のまま石化状態になった。

「この残った顔の石像だけは一応保管しておくわ」

 変身を解き一瞬の静寂が訪れ微妙な雰囲気になるがすかさず里菜が私に声をかける。

 「立ちゃんお疲れ様~」
 「里菜も少しは気分が晴れたかしら?」
 「うんうん、私の為にありがとう~」

 シスオンバイはともかくフィダルゴの顔は少し引きつっている。少しダークな面を見せすぎたかもしれないわね。

 「姉さんはおっかないですな~」
 「まったくだ……昨日でかい口叩いて俺はもういない……」

 フィダルゴはともかくこんなことを言うシスオンバイの顔は相変わらず笑っている。

 「フフッ、私敵には容赦ないの」
 「そうでしたな~今のであっしもちびりそうになってしまいましたな~」

 私を前に飄々とした態度でいられるこの男も中々に図太く感心してしまう。

 「私達は行くから後はよろしくね」
 「ええ、任せてくださいな~姉さんとの友好関係も勝手ながら一生涯約束させてもらいまっせ」
 「私もそうあることを祈っているわ」

 力関係をしっかりわかっていて賢明な判断だ。里菜とも再会して獣人族とのパイプもとれたし思わぬ収穫だった。
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