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4章

95話:美里との密会

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 王宮へと帰還し杉原に声をかける。当然今の俺は神山周平でなくシャーガー・ヒンドスタンだ。

 「しゅう……シャーガーさん!」

 美里は俺の名前を言いかけるが慌てて言い直す。

 「よっ、この後大丈夫かい?」
 「はい、今から行きますか」

 杉原は二つ返事で答える。予め今日は約束をしていたのだ。

 「オーケー、お店はどうする?」
 「あまりクラスメイトが来ない穴場の店を知っているのでそこで大丈夫ですか?」

 ちゃんと他のクラスメイトを警戒しているようだな。こっちとしても都合がいい。

 「大丈夫だよ、雪は?」
 「今回雪は先約があるの……昼はクラスメイト同士の交流会で雪はその主催メンバーで結局今日になっちゃったの……」

 交流会か……そういえば嶋田とかと一緒にそんな事をしていると言っていたな。

 「それは残念……では行こうか」

 そう言うと杉原がクスクスと笑う。

 「はい」

 杉原に連れられ向かった店はデカい通りから少し外れた細い路地にあるお店だ。聞くと通な人しか通わない常連客の多い店のようで密かに人気だとか。勿論クラスメイト達に尾行されていないかだけは確認してここまで来た。

 「サウンドアウト」

 個室っぽい部屋に入り、声を聞き盗られないよう遮断魔法を発動する。

 「ふぅ~」
 「フフッ、周平君お疲れ様~」
 「雪の奴に拗ねられちゃうかもな」
 「今頃拗ねながら交流会してるはずよ」

 こりゃ後で怒ブーブー言われる事間違いないな。今度雪と二人で来ないといけないな。

 「何頼む?」
 「ファーガス草七種のサラダとアースドラゴンの肩ロース、じゃじゃ馬鳥のスープで、お金は俺が持つよ」

 どれも高級食材というわけではないが食べやすく味も悪くない、香辛料が不足しているのは残念だがじゃじゃ馬鳥のスープは普通に美味しい

 「さっすが!ならお言葉に甘えさせてもらいます~」
 「美里は何を頼むんだ?」
 「私も一緒で。周平君が頼んだのは全部美味しいやつだし」

 まぁ同じ地球人だし好みが似るのは当然か。

 「美里もその交流会とやらは参加してるのか?」
 「一応ね。雪と嶋田君が主催だから二人はいつも参加してる感じかな」

 むっ、嶋田の奴雪に好意があったし余計な事をしてなければいいが……

 「その顔はちょっと気になる感じかな~」
 「当然、告白とかして強引に迫られてたりしたら面倒だからな」

 まぁ嶋田はそんな強引な事をしないと思うけどな。

 「嶋田君はそういうタイプじゃないっしょ。人の目を気にするタイプだし、雪相手に強引な真似はしないはずよ」
 「だな、美里はあれから木幡の奴にアプローチされているのか?」
 「たまにね。だけど今は遠征が決まってそれどころじゃない感じね。あの二人はタピットさんとも打ち合わせしたりで忙しそうよ」

 雪と美里の二人には離脱後の影響をなるべく軽減させるよう、クラス内でやる主要な役目から離れるように指示してある。タピットとの打ち合わせからもなるべく参加しないようにしているのだ。

 「そうか、それでどのタイミングで抜け出す?」

 二人をクラスメイトから分離してこっち側に逃がす。ただ脱走するだけでは後に再会してしまった時の印象が悪くなる。なるべくそういう止むを得ないようなシチュエーションを作る事が大事だ。

 「遠征中に事故でもあって離脱が無難だけどそれだと少し弱いかしら?」
 「悪くないな。それか殺されるフリでもするか」
 「それが一番楽手っ取り早いけど、それだとクラスが色々危なくなりそう……」

 美里が不安気な表情を見せる。主軸を担う二人である事は間違いない。それだけに刺激を与えすぎれば崩壊してしまう恐れがある。

 「確かにな……」

 なら戦うのが不可能な状況だという認識を与えて分離させるか……難しいところだな。それか魔大陸まで同行させて分離させるか……その方が一番自然だが。

 「それか魔大陸に入るまでいるか?」
 「う~ん……それはちょっとな……周平君が帰ってきたという体にして一緒に同行してくれるならそれでもいいけどね」

 そうしたいのが山々だがこっちもやる事がある。迷宮を全て攻略すれば分身体を迷宮の外でも出せるがそれはまだまだ先の話……現実的ではない。

 「それは難しいな……」
 「だよね……」
 「すまんな……本当はこういう形でクラスから離れるような事はしたくないと思うし申し訳ない」
 「ううん、周平君を受け入れないクラスにずっといる気はない。これは雪も私も同じ気持ち……周平君が私達の気持ちに応えてくれたんだし私達は周平君と行く道を選ぶわ」

 真剣な眼差しでこちらを見る。どうやら迷いはないようだな。それなら俺もそれに応えなくては男としてみっともないな。

 「わかった。俺も雪と美里を一生守るさ」
 「うん……」

 美里は恥ずかしそうに顔を赤くする。あまりこういう表情を見せないので見せられると逆にこっちが恥ずかしくなってくる。

 「ハハッ、そんなに恥ずかしそうにしないでくれよ」
 「いや、凄く嬉しくてさ。一年の時からずっと気になってたから……」
  
 一年生の夏に四人で祭りに行った時、一人はぐれた美里を俺が探し出した。その時男に絡まれている所を無理やり引っ張り救出した時、俺が手を握っていたらしく引っ張る俺を見てビビッときたらしい。それまでは友達って感じだったがそこから好きに変わったというエピソードを前に迷宮で聞かされた。

 「俺も美里が好きだからこうしていられるのは嬉しいよ」
 「ありがとう。それで周平君迷宮でのあの事件はどう片付けるつもり?」
 「ああ……それもあったな」

 今更クラスメイト等どうでもいい……雪と美里を連れて行けば用はない。だが借りは返すべきだと考える自分もいて迷っていた。

 「それはまだ未定かな」
 「そっか……今更些細な事かもしれないもんね」
 「ああ……」

 だがこのまま済ますのは腹の虫がおさまらないのは明白だった。


 ◇


 シンは雪と会った丘で一人黄昏ていた。

 「こんな所にいたのね」

 そんなシンに声をかけたのはエミリアだ。エミリアはタピットが騎士団長を正式に就任するという話を聞いて王都に来ていた。

 「久しいな、エミリア」
 「放浪してるって聞いていたけど何で王都に?」
 「友がここに来るって聞いたからな。私もその波にのるつもりさ」
 「面白そうね。私もそれに乗っかろうかしら」

 シンのいう友とは周平のことだ、エミリアは周平がここに戻ってくるということは面白いことが始まるということだと確信していた。

 「ところでエミリアは召喚された勇者どもを知っているか?」
 「ええ、一度力を誇示して黙らしたわ。まだまだだったわね」
 「そうか、どうやら魔族がこの王都に紛れ込んでいるようで魔族と現勇者の対決が見れるかもしれんと思ってな」

 シンはその対決が見たいのか楽しそうな表情を見せ、エミリアもそれを聞いてテンションが上がる。

 「あら、ますます面白そうじゃない?」
 「だろ、友と私とエミリアに魔族と勇者……長いこと寝ていたが起きたら相変わらず面白そうで何よりだ」
 「ふふっ、行きましょうアークル。よく行くバーで久しぶりに話がしたいわ」

 シン・アークトライアル・ゲイクルセイダーと名乗った男は境界騎士団の一人。二十柱の一角悪魔帝の地位に立つ男、アークル・ブランドフォードだった。
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