上 下
88 / 109
4章

87話:コートマーシャルの街にて

しおりを挟む
 ファラリス連邦へと潜入した立花は九兵衛と共に首都ファラモンドへ潜入しようとしていた。ギルド総長として連邦に掛け合った結果、連邦内に入ることができたものの首都ファラモンドへ入ることだけは見送られてしまったのだ。馬車に乗りギャラントプルームからラグーサの大森林を北東に向かって進むと、ファラリス連邦の国境にして旧獣人王国領であるコートマーシャルの街に入った。

 「はぁ~」

 ついため息をついてしまう。

 「立花ちゃん顔色が優れないね~」

  隣で九兵衛さんが暢気な顔で言う。私の不満は一つだ。

 「周平も一緒だったらね……」

 少しの間とはいえ離れるのは辛いものがある。それに踏まえて一緒にいるのがこの若作りをしたおっさんではテンションも上がらないのだ。

 「まぁまぁとっとと任務を終わらせよう~」

 ここで一泊する予定だが首都まで三日から五日あればつくことができるだろう。

 「とりあえずどうする、飯でも食べるかい?」
 「そうね」

 獣人族がウエイトレスをしている酒場に入った。ここいらは連峰の領土といえど、旧獣人族領だけに獣人族が多い。

 「確かここは旧獣人族領よね?」
 「うん」

 九兵衛さんが複雑な表情になる。

 「そういえば獣人族の国が滅んだ時、あなたは何をしていたのかしら?」

 反ダーレー教の象徴たる境界騎士団の一員として獣人族を助けなかったとは考えにくいが……

 「助けてやれなかったんだ……」

 九兵衛さんの表情は暗い。

 「どういうことかしら?巨人王たるあなたなら助けることなど造作もなかったのでは?」
 「理由を話そうか……」

 九兵衛さんは話始めた。

 獣人族の国であるダルシ国が滅んだのは三十年前。九兵衛さんはその時妖精の国に行きロードリオンと会見していたという。連邦は冒険者ギルドに邪魔をされないように、九兵衛さんの留守を狙い侵攻し、確証はないがあわよくばギャラントプルームも征服しようとしていたとか。

 「俺もそれがわかりリオンとともにギャラントプルームに向かったんけど遅くてね……」

 歯がゆそうに言う。

 「なるほどね。ギャラントプルームは大丈夫だったの?」
 「レダ達を置いておいたからね~森林内に入ってきた奴は大虐殺さ」
 「そこは抜け目ないか……まぁそれがかえって仇になったわね」

 その時ギャラントプルームが侵略されていれば攻める大義名分ができたはず。

 「侵略されておけばよかったと考えたかもしれないけど、もし侵略されてたら連邦領内においていた冒険者ギルド支部のメンバー全部が危険にさらされていたからね」
 「助ける道があったとしたら九兵衛さんやレダさんが変装して撃退する以外に道はなかったわけね」

 うまいことやられたわけだ。酒場で働く獣人族のウエイトレスはみな腕か首に隷属の輪を付けている。これが侵略と制服の証という事だろうか。全く虫唾のはしる話だ。

 「連邦内にギルドを進出させていた時点で負けだったのさ。獣人族の中でも、冒険者の身分であったものとその家族はなんとか奴隷にするのを防ぐことができたけど、大半は奴隷さ……」

 九兵衛さんはお通夜顔だ。

 「ごめんなさい。そんな顔にするつもりはなかったの……」

 九兵衛さんだってそんな状況が歯がゆくて、それでも私達が来るのをずっと待っていたんだったわね。流石に責めるのはよくないわね。

 「いや、いいんだ。それももうすぐ終わるからね」

 九兵衛さんは果実酒をグッと飲み干す。

 「しかし美味しいね~ウエイトレスもかわいいしいいお店だ~」
 「そうね」

 するとウエイトレスが話しかけてくる。

 「あら、みない顔ね」
 「どうも」

 軽く会釈した。

 「あなたは?」
 「私はリエンダ・エンペリーよ」

 リエンダと名乗るウエイトレスは短い銀髪の猫耳でなかなかのスタイルだ。

 「私は立花よ、そしてこちらは……」
 「女性の味方の九ちゃんで~す」

 いつの間にか随分飲んでるわね。

 「ふふっ、面白い殿方ですね」
 「そうかしら?私の夫の友達なんだけどどうにも女癖が悪くてね~」

 誤解されると腹が立つので予め言っておく。すると私の男じゃないのがわかったからか、リエンダは九兵衛さんに近づく。

 「フフッ、駄目じゃない。せっかくのイケメンが台無しよ~」
 「これは……いい匂い……九ちゃん吸い寄せられちゃう……」

 九兵衛さんはヴィエナの胸に触れようとする。

 「むぎゅっ」

 リエンダは九兵衛さんの顔をそのまま胸に押し当てる。

 「フフッ、不思議な方ね」

 リエンダは顔を赤くしながら言う。

 「九ちゃん幸せ~」

 それを見て、ついため息をついてしまう。ザルちゃん連れてくればよかったわね。駄目男九ちゃんモードになったこの男は女からすると見るに絶えないのだ。だが気になるのは彼女が奴隷の腕輪とは別に着けている魔道具にあった。

 「入るぞ!」

 大きな音共に酒場に入って来たのは偉そうな男だった。すると客はみな席を立ち横に避け、店主はごまするかのように下手にでている。

 「二人ともここから離れて……あいつはこのコートマーシャルの領主であるマラケートよ」

 偉そうなデブ男は店主に向かって言う。

 「ここのウエイトレスはなぜ我を見て逃げるのじゃ?」
 「これはこれはようこそマラケート様。滅相もございません、みな後ろの兵に驚いているだけです」

 店主は精一杯の営業スマイルで言う。あんなデブが来たらみんな逃げるだろうし無理ないわね。

 「ふむ、そうか。では私も食事にするとしようかのう」

 マラケートはこちらを見ると私達の所まで来る。

 「おい、そこの二人。何故私が来たのに平然と座っておる?そこに座るからどけい!」
 「ひっく、席なら他が開いてるよ~ほら帰った帰った」

 九兵衛さんは酔っているからか状況を把握しておらずいつも通りの口調で言う。確かにどく理由なんてない。私もクスクスと笑ってしまう。

 「貴様、わしが誰だかわかってないようじゃのう……」

 マラケートは怒り心頭だ。

 「なぁに言ってんの~あ、そっか一緒に飲みたいんだな~」

 すると九兵衛さんはマラケートと肩を組み酒を無理やり飲ます。

 「うまいだろ~複数で飲むお酒は最高だね~」

 それを見た店主やウエイトレス、避けた客はみな目を点にして絶句している。怒りに耐えられなくなったマラケートは九兵衛さんの頭をもって無理やり机に押し付ける。

 「ぐふぇっ」
 「こ、こやつ死刑じゃ!わしにこんな無礼を働いて生きていられると思うなよ……」
 「ま、待ってください!この方々は旅の方でこの街のことをわかってないんです……だから勘弁してあげてください……」

 リエンダは頭を下げて言うが、リエンダを見たマラケートは獣人族と分かり、さらに激昂する。

 「なんだ、貴様愛玩具の分際で私に物申すと言うのか!」

 マラケートはリエンダの髪の毛を掴み怒鳴る。

 「申し訳ございません……」
 「誰のおかげでここで働けていると思うっておるのじゃ!」

 リエンダは委縮し、周りの獣人族のウエイトレスも恐怖に怯えている様子だ。ここは思った以上に腐った街みたいね……

 「貴様達愛玩具の立場をもう一度わからせる必要があるのう。どれその胸をここでさらけ出して揉んでやろう……」
 「ひっ……助け……て」

 リエンダは涙目となり目を閉じる。マラケートがリエンダの胸に手をかけようとした時だ。

 「ぐっ……いてっ……」
 「えっ?」

 九兵衛さんがマラケートの腕をつかみ止めた。どうやらスイッチが入ってくれたようだし害虫駆除の始まりかしらね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...