前世で魔神だった男、嫁と再会して旅をします。

明石 清志郎

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3章

80話:帰還、そして次なる目的へ

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 束の間の休息をとる中ロードリオンが俺達の元を訪れる。

 「やぁ、疲れはとれたかい」
 「お前のスカし顔で半減したがそれなりにとれたよ」 
 「ははっ、それは悪かったね」

 リオンは部屋の中に入りソファーに腰掛ける。

 「それで話を聞こうか?」
 「そうだね、まずはいいニュースのほうからだね、ファーガス王国の遠征は少し遅れるそうだ」
 「それはラッキーだな」

 理由は何となく想像がついているがな。何はともわれ後手に回る前に手をうつことができるはず。そしてそれが悪い方のニュースにも関係してくるはず。

 「悪い方はあれだろ?連邦関連」
 「そう、逃げ回っている勇者の一人がまだ捕まらないどころか首都ファラモンドを脱出してそれを他の勇者達が追っているらしいよ。当然出入国は制限どころか一時的に禁止されて港町ミゴリでの貿易船ですらすごいチェックだとさ」
 「次は連邦に行く予定だったんだがな……」
 「やめておいた方がいいね。その脱走者は貴族を襲撃して逃げているから、首都はインフィニティシールドを貼られていて隠れての潜入はいくら僕達でも無理だし正攻法で入るのもかなり厳しい現状だよ」

 インフィニティシールドは厄介だな。やはり思い通りにことを進められるほど甘くはないか……まだ力が完全ではない上、不安要素が多すぎるからな。

 「どうするんだい周平?」

 九兵衛さんは俺に判断を委ねる。どうしたものか……潜入できたとしても公に身分があるロードリオンと九兵衛さんぐらいだが、二人が入った所で自由に動くのは不可能だろう。どの道冒険者ギルドと妖精の国を直接的に連邦と敵対させるわけにはいかない以上連邦を攻めるのは九兵衛さんとロードリオンにやらせることはできない。

 そして俺もやることが……

 「よしそれなら一時的にみんな分散して仕事をしてもらう感じだな」
 「まぁ妥当だね~配置は?」
 「九兵衛さんは立花連れて首都ファラモンドへ。目的は転移魔法陣を作って、俺達がすぐに行けるようにすることにある。だから首都へ行けなくても最悪その近くでもいい」
「周平と離れ離れなんて寂しいわ……」

 立花は少し悲しそうな顔をする。だが他の人に見られても破壊されず、かつ目立たないような強力な転移魔法陣を作る以上立花が一番適任だろう。

 「すまんね、でも少しの間だけだから」
 「ふふっ、少しだけなら大丈夫よ」
 「それで期間はどれぐらいだい周平?」
 「二週間ぐらいだけどなるべく早くかな」
 「了解~ギルドの視察ということにしておけば首都以外はすぐに入れるし首都は交渉次第ってとこだね」

 上手くいくならそれに越したことはない。二人なら問題なくやってくれるはずだし、特に心配をする必要もない。

 「さてロードリオンは魔大陸で残りのあいつらを引っ張てきてほしい」
 「了解」

 早いとこ残りのメンバーの再集結をせねば。レダさん達がすぐに戻るかはともかくアークルは早いとこ引っ張らねば。

 「実と九十九とザルカヴァはギャラントプルームで待機だ」
 「オーケー、変な奴がきたら追い返すよ」
 「戻ったら九十九ちゃんにも白金ランクあげておくね~」
 「お願いします」

 一応ステータス十万超えを設置しておかないともしものことがあったら困るからな。

 「周平はどうするんだい?」

 もう少し後にと思っていたが周りの状況を考えたら今が頃合いだろう。

 「俺はファーガス王国に一度戻るつもりだ」

 それを聞いた立花が訝し気な表情を浮かべる。

 「クラスメイトとの再会かしら?」

 立花の目線が痛い。

 「周平さん先に襲撃とか美味しいとこ持ってくつもりじゃないよね?」

 続いて実も立花同様の表情を浮かべて言う。

 「落ち着け、戻ると言っても襲撃もせんし、クラスメイトと再会を目的に戻るわけじゃない」

 まぁ分身体がもう会ってしまっているかもしれないがな。

 「どういうこと?」

 立花の今の表情は嫉妬が強くなった時にでるあれだ。おそらく本体が自分の目の離れた所で月島達と合流されるのがあれなんだろう。

 「まぁこっちの潜入は少し時間をかける。だから立花はファラモンドに行くのを済ませたらこっちにきてくれ」

 それを聞いた立花は冷静な表情を取り戻す。

 「わかったわ、できるだけ早くそっちにいくから二人と遊ぶのはほどほどにね」 
 「ハハッ、わかっているさ。嫁差し置いてそんな事はしないよ」

 再会なんぞよりもっと重要な目的がある。今回はそれをしっかり果たすつもりだ。

 ここに来るときは結構な時間を有したが帰りは転移魔法陣で即帰還だ。一度ダリウスを自分の里に戻した後、ファーディナンド達に見送られギャラントプルームに帰還した。リオンは俺達が潜っている二週間の間である程度の後処理を済ませていたしこちらに同行してくれるそうだ。次の新たなる王は今のとこ未定だがファーディナンドを代理にしている。リオンがいる限りこの国は安泰なはずだ。


 ◇

 
 その頃の魔大陸ではレダ・スパイラルが魔王の居城へと足を運んだ。

 「これはアイアンヴァルキリーどういったご用件で」
 「ハーザンド……魔王は?」
 「魔王様ならこの先ですぞ」

 魔王直属の六将軍の一人で魔王の側近でもある、ハーザンドに連れられ玉座へと赴く。

 「アイアンヴァルキリーよ一体何用だ」

 この男こそ魔王ユリシーズ・グレイダー、現魔王であり魔大陸を統治する者だ。金髪に二つの黒い角が特徴的なその姿と、それに見合う力で魔大陸の魔族群を統治することに成功したカリスマだ。

 「ご無沙汰ね、調子はどうかしら?」
 「うむ、貴殿等の活躍でファラリスとファーガスのゴミどもを上手く退けていると聞いておる」
 「あんな雑魚などたやすいわ、それと今日ここに来たのは今後の話ね」
 「今後だと?」
 「時がきたの、今日を持って魔王軍を抜けて元いたとこに戻るわ」

 それを聞いたユリシーズやハーザントは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。

 「それは本気か?」
 「ええ、本気よ」
 「お前達!」

 ユリシーズの声と共に他の将軍やその他がレダを囲む。

 「あら、これはどういうことかしら?」

 レダはクスクスと笑いながら言う。

 「ふざけるなよ!裏切りは死だと私は日頃言ってきたはずだ」
 「私は自身の利益の為に魔王軍に協力してやっただけよ、それを仲間とか辞めてほしいものね」

 レダは余裕の表情を崩さない。いや囲まれた所で負ける気がないが故の余裕なのだろう。

 「強がりだなアイアンヴァルキリー、この軍勢を前に逃げれるとでも?」
 「あら随分と強気ねザラック、いつも私の前ではオドオドしていたのにね」
 「うるさい!目障りな貴様をやっと排除できるお前達やれ!」

 全員でレダに攻撃を仕掛けようとしたその瞬間だった。

 「うっ……」

 レダは周囲を威圧し威嚇し、その威圧は玉座の間全体の時間を止めたかのように全員の攻撃が止まった。玉座にいる魔王や五人の将軍、そして屈強な兵達は悟ったのだ。

 勝てないと……

 「何か勘違いしているわね?ねぇユリシーズ私を今ここで襲うことは果たして得かしら?」

 それを聞いたユリシーズは怯む。魔王といっても二十柱ではないし所詮はただの超人クラスの魔族に過ぎない。

 「みなのもの武器をしまえ!」
 「魔王様!」

 ザラックは納得がいかないようで反論しかけたがユリシーズはそれを目で制す。

 「賢明ね、向かってきたら魔王軍消滅だったしいい判断ね」
 「貴様……」
 「ザラック!弱い豚のくせに今日は随分と吠えるわね?死にたい?」
 「ひっ……」

 レダがザラックにさらに威圧をかけるとザラックは黙る。

 「それで我らとの今後の関係はどうなる?」
 「別に邪魔をしない限り敵対する気はない。私達は復活した二十柱と共に神殺し、あなたたちは勇者達とでも戦っていればいいわ」
 「うむ、仕方ないが了承しよう」

 ユリシーズはそれを聞きき少し安心してホッとするような表情をわずかながら見せていた。

 彼は馬鹿ではないので脳裏にこうよぎったのだ。今いるメンバーを束にして仮にレダを倒すことができたとしても、今いるメンバーの大半を失うし戦闘になれば他の将軍クラスを超える付き人二人も来て戦うことになっていた。自身はサシではレダを倒すことができないしバッグにいる二十柱との敵対などあり得ないのだ。

 それでも脅しをかけたのは自身のプライドであり他のメンバーへのパフォーマンスだ。結果自身のプライドに傷をつけたが、代わりに周りにいる部下全員がレダに手を出すことが愚かな行為だと分からせることができ、部下の反対なく手放すことができたのだ。

 「フフッ、それじゃあね。百年ほどお世話になったわ。敵対しないことを祈っているわ」

 そう言い残しレダは玉座の間を後にした。


 ◇


 「ふぅ~さて少し寄り道したら九兵衛さんとこね」

 城の入り口で待っていた椿とレイチェルを拾い城を出ようとするとハーザンドが追いかけてきた。

 「あら、どうしたの?」
 「一応この先のことを考えてなのですが、あなたたちが魔大陸で何かする時不都合なことがあって衝突しないように聞こうと思ってですな」
 「ユリシーズから言われたのね」

 この男は魔王の側近なのでこういうこともマメである。ちなみにユリシーズとこの男だけはまったく私に攻撃する気配がなかったし、昔から食えない男である。

 「はい、それで何かありますかな?」
 「そうね、現時点では私の仲間が迷宮を訪れた時は邪魔をしないほうがお互いのためね」
 「迷宮ですか?何かあるのですかな?」
 「そうそう、だから邪魔をしないように。後は出入国の制限ぐらいかな」
 「わかりました。ではそれらは魔王様に伝えておきます」
 「よろしく頼むわ」

 あの男は油断できないが、少なくとも私達との敵対は考えていないし問題はないだろう。彼が望むかわからないが人族と魔族の戦争も興味がある所だ。

 「さて予定通り行きましょう」
 「「了解」」

 レダ達三人は魔王城をでてギャラントプルームへ向かったのだ。時期来る大きな波はもうすぐそこまで迫っていた。
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