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3章

79話:最下層

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 ボスを攻略し、次の一〇〇一層へと足を運んだ。

 「周平さんと立花さんの戦いは相変わらず次元が違いすぎ!」
 「コンビネーションもさすがです……」
 「周平と立花ちゃんなら当然だね~」

 これでも昔は振り回されてばっかで合わせるのに必死だったんだよな。ただ振り回してくる立花に俺は自然と呼吸を合わせるようになったんだよな。

 「さて扉を開けるぞ」

 中へ入る。

 「ふむ、どうやらクレセントの時と同じような感じだな」

 クレセントの時は黒姫と話したが、次も誰かと会話できるだろうか。

 「気配は感じないから誰もいないようだな」

 中に入り進むと水晶のようなものがある。

 「これは……」
 「知っているのか立花?」
 「ええ、これは私が最初にクレセントを攻略した時にもあった奴ね」
 「そういえば立花もクレセントの迷宮を攻略してたな。黒姫とは何か話したのか?」
 「ほとんど世間話よね。大事なことはあまり教えてくれなかったわ」
 「まぁあの人らしいな」

 どうせ未来を見る力でこっちに来れなくてもある程度は読んでいるだろうからな。掌で踊らされているような気がして、たまに嫌になるんだよな。でもまぁ向こうは二十柱のナンバー二だし強いから何も言えないがな。

 「触れてみるか……」

 水晶に触れると光だし声が聞こえてくる。今度は誰だろうか……少し期待を込めて待つ。

 「あー、もしもし俺だ応答してくれ!」

 この俺様声はまさか……

 「ご無沙汰ですねジェラードさん」
 「その声は立花か~一人か?」
 「俺や九兵衛さんもいますよ」
 「おおぅ、久しいなシュウ」

 竜王ジェラード・コード・ハイペリオン。かつて俺達を鍛えた二十柱の一人で俺によくトラウマになるような鬼訓練をしてきた男だ。

 「それで何の用です?」
 「それなんだけどよ……」 

 きっと俺達の今後に関わる大事なことかもしれない。

 「聞かせてください」 
 「それがな……」
 「はい」
 「忘れちまったわ~」

 全員その場で崩れ落ちる。

 「おいおい……」

 そうだった……この人はこういう人だわ。

 「ごめんごめん、メモしたの見るからちょっとまってな」
 「頼むよ~」

 九兵衛さんも呆れながら言う。強いし頭も切れるんだけど少し抜けてるとこがあるんだよな。勢いとノリで何とかなるべみたいなのが常に頭にあるような人だったからな。

 「すまねぇ九兵衛さん。ええっとそうだ、二十柱のうち一柱がそっちで目覚めるかもしれないって話だ」
 「それは本当ですか!?」

 これには驚きを隠せない。新たな二十柱の誕生については、黒姫の未来を見通す能力で先を見ても把握する事はできない。突然直近の未来にそれが映る以外ではわからず、黒姫はその瞬間をずっと待っているからな。

 「ああ、今んとここっち側に眠ってるの含めて九人、エクリプスには不完全者含めて7人の計十六人だが、さらに一人そっちでって話だ」
 「それは確定なんです?」
 「黒姫はなんとも言えないけど確率は高いってよ」

 まいったな、パンドラに続く不安要素の出現は今後面倒になるな。影響があまりないといいが……

 「なるほど、パンドラもこっちの紛れ込んでいるがそれは把握してます?」
 「それは初耳だ」

 やはり遠く離れているせいか黒姫の能力が完全に機能していないようだな。

 「となるとそっちはかなり面倒な状況だな、一応黒姫には伝えておく」
 「お願いします、それでこっちには来れそうですか?」
 「難しいな……王も眠ったままでな。頑張ってはいるが期待はしないでくれ」

 やはり厳しいか……次元エレベータさせ完成できれば……

 「了解です、こっちのエネルギーはそろそろ限界みたいですね」
 「だろうな、あと二つの迷宮を攻略した時に話せたら話そう」

 ジェラードのその言葉と共に水晶が光を失い砕け散った。

 「思ったより面倒みたいだね~」
 「ああ、早いとこ残りも集結させんとな。それに加えて俺達側の勢力も作らんとだし頭がいたくなるぜ……」

 パンドラは封じ込めたが、また別の因子が出る可能性があるし二十柱の誕生も喜ばしいことではあるが、もし敵側につくような事があれば面倒だ……

 「今はとりあえず回収するものは回収しましょう。私は目的のは回収するから周平達は宝を回収して」
 「了解」

 立花は奥の部屋に行き白皇結晶を回収する。

 「これであと一つ……」

 立花は手に触れ結晶を体内に取り込む。

 「アアンッ……力が……」

 白皇結晶が体内に入り全身へと行き渡り、無事回収を終えた立花はこちらに戻ってくる。

 「終わったわ」
 「お疲れ様~」

 立花のステータスを早速覗いた。

 神明・立花
レベル:777
種族:エデン
職業:大賢者
攻撃:850000
防御:850000
魔法攻撃:950000
魔法防御:950000
素早さ:900000
魔力:900000
固有スキル:大賢者の叡智(不完全)
異能:スタンボルト(C)、ハンドカッター(C)、物質硬化(B)、認識阻害(A)、熱線砲(AA)、溶解液(AA)、麒麟の蒼雷キリンライトニング(S)、大再生ザ・リバース(S)、雪の王スノーロード(S)、王の書ルールブック(S)
称号:神殺し、魔法神姫、クレセントの悪魔、オンラクの悪魔

 おお、さすがのぶっ壊れステータス。今戦ったら確実に負けるな。ザルカヴァなんかステータス見て目玉飛び出しちゃってるわ。

 宝をすべて回収し奥の転移装置へと向かう。お宝もガッポリ素材もガッポリで換金が楽しみだな。

 「さてここも終了やな」
 「長かったわ、早くお風呂に入りたいわね」
 「立花さんに同意です……」
 「同じくです」

 女性陣には堪えるよな……俺も落ち着いて寝たい。


 ◇


 迷宮を出るとリオンが待ち構えていた。相変わらずのスカし顔だ。

 「お疲れ様~」
 「無事終わったぜ」
 「フフッ、聞かなくてもわかるよ。とりあえず色々報告することがあるから」
 「了解、夜に聞くよ」

 まずお風呂に入りリフレッシュだ。ヒムヤー城にはしっかり大浴場があり、妖精の国だしないかと思ったが、ちゃんと作らせているあたり流石はリオンだ。

 大浴場は先に女性陣が使う事なったが、流石の変態爺の九兵衛さんも立花の入る風呂は覗きに行かない。難易度が高く不可能に近いのと、その後の報復を考えたら割に合わないからだ。

 「みなさんお疲れ様です~」

 迷宮攻略に参加していないバニラも一緒になって風呂に入る。彼女は彼女でリオンから直接訓練を受けていた。

 「バニラもリオンの訓練どうだった?」
 「死ぬかと……立花同様トラウマが……」

 リオンもスパルタ方式での訓練をするタイプだ。それに耐えられたのは立花に扱かれていてお陰だろう。

 「フフッ、二十柱からマンツーマンなんてそうは受けられないからあなたはとても幸運なよ」
 「それはリオンさんからも言われたわ。強くなった実感はあるし感謝はしてるんだけどね……」

 素直に辛かった事を顔に出すと九十九がそれをねぎらう様に頭を撫でる。

 「よしよし、お疲れ様バニラちゃん」
 「九十九さん~」

 九十九も過去にキツイしごきを受けたことがあり、今のバニラの気持ちがわかるのだ。

 「フフッ、みんな疲れただろうから今日はゆっくり休んで」
 「立花さんこそ一番疲れたはずです」
 「私はタフだから」
 「立花さんには敵いませんね」

 実が周平のことを兄のように慕っているように、九十九は立花のことを姉のように慕っているのだ。

 「見ないうちに成長したわね九十九」

 立花は背後から九十九の胸を揉む。

 「いやっ、ちょっと……立花さん」
 「ほら逆らわないの、まぁまぁだけどまだまだね」 
 「や、やめてくだしゃい~」
 「おおぅ、これはいい絵ですな~」

 バニラは親父のような目線でそれを見る。九十九を開放すると今度はザルカヴァの番だ。

 「あなたも来なさい」
 「い、いや、私は」
 「縛紋」

 九十九は早打ちでザルカヴァの動きを封じる。

 「体が……九十九さん酷い~」
 「道連れです……」

 九十九は顔を真っ赤にして言う。元々大人しめで恥ずかしがり屋だけにこういった事にはあまり慣れていない。

 「早速……」
 「アンッ、立花さんそこは……」
 「九十九よりはあるわね」
 「アルマンゾールでのお風呂を思い出すわね……」

 ザルカヴァは顔を赤くして必死に抵抗しようとするが体の自由を奪われておりされるがままに悶える。

 「やめて~」
 「おれおれ」

 今度は九十九がそれをしめしめといった感じで見る。ザルカヴァより自分の方がデカい事を生で確認したところで立花はそれを解除する。

 「ところでザルさんはいつから九兵衛さんの事を?あの人変態親父だしどこに惹かれたのか凄く興味がありまーす」

 バニラがそれを言うと、ザルカヴァは顔を真っ赤にする。

 「フフッ、かわいいわね」
 「小さい頃助けてもらって育ててくれた時からかな。何故かあの時から恋心を抱いてて……」
 「なるほど……そういう補正があるからなんですね。昔から知ってるけど周君や実君にかなり悪影響を与えているのでそういう面ではあまりいい印象がなくて……」

 実の事も周平同様よく夜の店に連れて行っていた事から、九十九はあまりいい印象はない。勿論戦いという面では信頼をおいているがそれとこれとは話が別だ。

 「ハハッ、まぁ無理もないですね~クズいとこはクズいですから」
 「まぁ悪い人ではないと思うけどね」

 バニラがフォローをいれる。

 「でも何というか女としてはまだ見られてないのが悔しいんです……」

 ザルカヴァはスタイルを強調しながら言う。九兵衛はザルカヴァのアタックをずっとかわしているからだ。

 「あの人は大事だからこそ、あなたにああいう態度をとっているだけよ」
 「そうですね、下種な一面が目立つ九兵衛さんも、あなたのこと意識してるからああいう態度なんだと思います」
 「そうですかね……」

 迷宮での戦闘中ザルが前に出ている時は常に見ていつでも助けられるようにしていた。九兵衛がザルカヴァに対する愛情は他の誰よりも深い。

 「今度デートをするみたいだしガンガン行きなさい!」
 「はい、日程が近くなったらまた相談しますね」
 「わかったわ」

 純粋で真っすぐな部分に惹かれたのだろうと立花は考えていた。

 「それと他の女に見境なく飛びつく癖はどうしたら治りますかね……」
 「そ、そうね……それはザル次第かしら」

 ごめんなさい……その不治の病は私の創生魔法をもってしても不可能に近いしどうしようもないわ……

 他の二人も同じような事を考えながら苦笑いをしていた。


 ◇


 その頃男たちは部屋でくつろいでいた。

 「覗きにいけない……男のロマンが……」
 「諦めなよ九兵衛さん、さすがに俺達もそれは許容できんし、そもそも侵入できんだろ」
 「そうなんだけどね……」

 俺と実は涙を流す九兵衛さんに笑いながら言う。

 「ロマンが……すぐそこにある夢が……」

 九兵衛さんの落胆ぶりを見て俺と実はこの姿を反面教師にして刻み込んだ。もちろん覗きは夢とロマンが詰まっているが、九兵衛さんが今まで屑っぷりを見せてくれたおかげで報復への恐怖を刻み込みこまれていた。
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