前世で魔神だった男、嫁と再会して旅をします。

明石 清志郎

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3章

61話:結界

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 ラグーサの大森林の中のエルフ領側に入った。ここからは拒絶の森といって妖精種でない者の侵入を拒む結界が貼ってある。

 四つの大陸はそれぞれファーガス王国側がクレセント、ファラリス連邦側がレガリア、妖精の国がオンラク、魔大陸側をオルメタと呼ぶが、ギャラントプルームは四つの大陸のどれにも該当しないのだ。あそこは九兵衛さんの力で無理やり作った大地で、周りを森で覆ったのは九兵衛さんとロードリオンの2人だ。これは各大陸にうまく分散し、さらに中心点になる場所にギルドを置くことで各国の監視をできるようにした為だ。

 「もうそろそろラグーサ森林を抜けるな」
 「そうだね、ここを抜けたらどこかで野宿だね~」

 妖精は人間のように街をつくったりはしない。というのも妖精は魔法適性が高く、魔法の力で森自体を一つの集落にして暮らすからだ。

 「となると野宿する場所は慎重に選んだほうがいいわね」

 認識阻害をしたとしても妖精族は違和感に対し敏感で気づかれる可能性があるし睡眠中の襲撃とこは避けたい。

 「なるべく集落から離れていてかつ森の力の影響が小さいとこが理想だね」
 「そんな都合のいい場所があればいいんだが……」

 森の一部を死滅させるのが手っ取り早いがそれはさすがに控える。

 「前来た時はどうしたんだい?ロードリオン様迎えに来てくれたのかい?」

 実が聞いた。

 「その通り。あの時は向こうから迎えに来てくれたんだよね~」
 「というかロードリオン様はなんで眠ったんだい?」
 「多分動けないルシファーさんや封印中のガルカドールの奴とコンタクトをとるためじゃないかな?」

 これはロードリオンの能力の一つで、封印中の存在や遠く離れた者と夢を通じてコンタクトをとることができる。この能力で二十柱のリーダである封印中のルシファーさんや、ガルカドール卿、別の世界にいるランスロット先生やジェラードさんとかともコンタクトをとるのが可能なのだ。ただこの世界にはいないルシファーさんやランスロット先生とかとのコンタクトをとると、膨大な魔力がかかるしそれを多用し続けると、回復の為に眠る時間も長くなる。

 「にしても十年は長くないかい?」
 「もしかしたら時が来たら起こしてくれっていう合図かもね。一応リオンが寝ていると王都ヒムヤーの光大樹の輝きは増すし国の周りの結界も強くなるからね~」

 それはかえって面倒くさいパターンだな……

 「それって入るのもダルそうな予感なんだが……」
 「たぶんラグーサ森林と拒絶の森の境目に結界があるだろうね」
 「解除はできるのか?」
 「立花ちゃんに任せたいところではあるね~」
 「やるだけやってみるわ」

 森を駆け抜け結界の張ってある境界線へとたどり着いた。馬車から降りて早速結界の解除を始めた。

 「相変わらず面倒な術式ね……」
 「魔術じゃないからな……」

 立花は文句を垂れているがこの結界は魔術ではなく妖精の使う妖術というもので解除も簡単ではない。九兵衛さんと共に立花の解除を手伝った。

 「とりあえず創生魔法を駆使して一部を無効化するけどたぶんバレるわ。でも少しの間はその無効化を隠せるからその間にとんずらしましょう」
 「さすがの立花でも妖術は難しいんだな」
 「この結界自体が広範囲すぎて隠蔽がそもそも不可能に近いってのが原因ね。結局一部分だけ解除することになるから完全隠蔽は不可能よ」
 「それでどれぐらい隠蔽できるんだい立花ちゃん?」
 「おそらく三十分程度ですね。なのでその間にできるだけ遠くへ入りましょう」

 立花がそう言うと俺達は地龍と馬車全体に隠蔽魔法を発動、さらに立花の認識阻害の異能もフル発動させその場を後にした。

 「でも九兵衛さんなら国賓待遇としての受け入れなんだし、こんなコソコソ入る必要があるのかい?」

 実が疑問に思ったのか九兵衛さんに質問する。確かに実の言うことは最もだが……

 「まぁ国賓と言ってもそれはリオンが直接迎えてくれたからだからね。それに正規の方法で入るとなると申請をとるのに時間がかかる。今俺達にそんな暇はないからね~」
 「ロードリオンを眠りから覚ませばオーケーだから、こっそり入って覚ますのが一番理想的だし早い。それに寝ている場所とか迷宮の場所がわかればあとはパワープレイでどうとでもなる」

 正直強引だがこれが一番早い。それに今の王が俺達よそ者に対して、強い敵意を持っていて入国を遅らすようなことをされたらたまらない。別に相手がこちらに敵意を持っていようがいまいがそれは最悪どうでもいいことだが、それで正規の入国を阻まれたらやっかいなわけだ。

 結局入れさえすえばパワープレイが可能となり効率もあがるが、入れなきゃパワープレイも活用でき出来ないのだ。

 「王都ヒムヤーまであとはどれぐらいだ?」
 「そうだね、三日ってとこかな。野宿はもう少し進んだ先にしよう」

 さらにまた進み木々が生い茂る場所へと移動した。

 ラグーサの大森林を抜けたが結局領内も木々が生い茂っているのでなかなか進むのに苦労する。王都などの一部例外を除き、基本集落で過ごす妖精族の国はほとんどが森である。

 「どうやらここがよさそうだね~」
 「確かにこの周辺にはエルフの集落はない。明日になれば移動だしまぁ今日はここで問題ないな」

 俺達は森の中の馬車でそのまま一泊となった。

 地龍は目立つので餌を上げたらすぐに眠ってもらうことにした。出発前に予め、俊樹さんに弁当を作ってもらって、宝物庫シャッカンマーに入れたのでそれを取り出しみんなで食べた。

 「幕の内弁当とは粋なものを作るわね」
 「俊樹さんらしいけどな」

 またも懐かしいものを作ってくれた俊樹さんには感謝だな。特に卵焼きや煮物は家の弁当の味がするし俊樹さんはこれも狙ってやっているあたり本当に気の利いた方だ。

 「ふふっ、昨日高級料理を調理して出してくれた人と、この家庭的な味の弁当を作った人が同じ人なのはなんとも信じがたいわね周平」
 「まったくだね。まぁこれはこれで昨日とは違った美味しさがあるしこれからは長期遠征の時はあの人に頼むことにしよう」
 「そうね」

 何かの遠征の時は多目に作ってもらうよう頼む事にしよう。

 「そういえば他のみんなはどうだ?」
 「見た事のない食べ物だけどおいしい!」
 「ペットには勿体なきお食事でチュ」

 みんな口に合ってそうで何よりだ。

 「俺の時代の幕の内弁当とは随分と変わったんだね。というかこれが百年後の幕の内弁当か~」

 そうか、実が地球にいた頃も幕の内弁当があったよな。

 「当時は質素だったのかしら?」
 「父上と歌舞伎を見に行った時に食べたけどもっと豪華だったよ」
 「あらそうなの?」
 「実の時代の幕の内弁当は歌舞伎を見る時に食べる奴だもんな。」

 そもそも幕の内弁当は、江戸の終わり頃に歌舞伎が盛んな大阪で誕生したんだったな。当時の芝居は、朝から晩まで続いていて幕間まくあいという一つの場面が終わり次の幕の間に行く間が長く、その間に食べる弁当が必要になった。その時出された弁当が幕と幕の間に食べる弁当ということで、幕の内弁当という名前になったんだとか。

 「時代は変わるんだね~」

 実も地球に行くことがあったらビックリすることが多いだろうな。もちろん感動もあればショックを受けることもたくさんあるだろうけど。

 「まぁ私は美味しければなんでもいいかな~」

 ザルカヴァは特に幕の内弁当に特に思い入れもないからこんな反応だ。

 「九兵衛さんは昔地球にいましたよね?」

 実は九兵衛さんも地球出身だ。といっても凄い昔だがな。

 「ああ、だけど俺がいた時代は弁当なんかないし随分昔だよ。古墳作りとかしてたな~俺は皇族だったから眺めてたけどね~」

 最早日本ではなく倭国のころだ。

 「というか九兵衛さん皇族ってことは実とも血がつながってる感じ?」
 「まぁ一応ね。古来より続く皇族のDNAは互いにひいているからね~」

 九兵衛さんは確か向こうにいる時不老不死になっていられなくなった所をルシファーさんに誘われてこっちに来たんだったな。

 「まぁこっちきてからも色々大変だったね。変な戦争にも巻き込まれるし気づけば巨人王になってたからね~あの時を知る人もほんとごくわずかになっちゃったからね……」

 九兵衛さんは少し寂しげな表情を出す。

 千年以上生きるってのはそれだけたくさんの死と別れを見てきているってことだからな~

 俺にはまだわからない境地である。
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