前世で魔神だった男、嫁と再会して旅をします。

明石 清志郎

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3章

52話:ギャラントプルームへ

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 アホヌーラ山脈を越えギャラントプルームに近づこうとしていた。

 基本チートの周平と立花に、人間では勝てる相手など数えるほどしかいないであろう実に、一般人バニラと一応神獣のネズ子は順調に山を越えようとしていた。

 「本来なら寒いのだろうけどまったく気にならないわね」
 「それはそうだろ」

 立花は俺達の周りの気温を変える魔法を使っている。風もあり本来ならけっこう寒いはずだがその風が気持ちいいぐらいだ。

 「二人がイチャイチャするのはわかっていたけど俺も隣が寂しいな……」

 実は不満を吐く。ちゃんとこいつにも一緒に召喚された恋人がいるが、今は離れ離れなので色々と不満が貯まっているのだろう。まぁその九十九本人も生存はまだ確認できてないが、実本人が怒るのでそこは言わないお約束だ。

 「まぁまぁ、ちゃんと恋人さんがいるならそこまで気にしなくてもいいのかと」

 バニラがフォローする。全くその通りだ。

 「お前だって昔は九十九とイチャイチャしていたくせに何言ってんだか……」
 「そ、そんなことはない!二人みたいにそんなストレートじゃないし……」

 実は少し焦りを見せる。実と九十九も負けないぐらいイチャイチャしていたものだし実としては早いとこ再会したいだろう。今の所生在が確認されたのは俺、立花、実、九兵衛さん、直樹、レダさんの六人だ。ガルカドール卿は置いといて残り六人はどこで何をしてることやら。

 「でもあれだね。周平さんは昔に比べて押しが足らないね立花さん。下も随分衰えてそうだね」

 実も言われっぱなしが気に入らなかったのか挑発をしてきた。

 「実く~ん随分なめたこと言っているけど、この俺に喧嘩を売っているのかな~」

 実の坊やが俺に喧嘩を売るなど百年早いわ!

 「真面目に今なら俺のほうが勝ってる自信があるだけだよ。だって俺は周平さんみたく転生してないからDTじゃないもん!」
 「なっ……」

 その単語を突きつけられ一瞬思考が停止してしまったがそうだ……この体になってからはまだ一回もしてないじゃないか……記憶も不完全でそんな自分では実に軽く劣ってしまう。

 俺は悲しい現実を突きつけられたのだった。

 「ふふっ、実もそう虐めて上げないでね。記憶を取り戻したばかりでまだ子供だし。」

 グサッ、立花お前まで……俺の心に突き刺さる子供という単語……追加点の後にホームランを駄目押しでくらった気分になった。

 「でも私もこの体は処女だし周平とするまでは私も似たようなものよ。」
 「立花さんは記憶戻ってるからさ。まぁ周平さんもそのうちするんだし気にしないで」
 「実に馬鹿にされるとは……」

 それに反論できない自分もまた虚しいものだ。

 「そうだよ周平気にしない気にしない」
 「ご主人は王の中の王でチュよ。そんな些細な事は気にする必要はないでチュ」

 バニラにネズ子よ……お前等まで……くっ……何も言えねぇ……

 「もう虐めすぎよ実。二人も追加攻撃はしないで」
 「ごめんちゃい」
 「ハハッ、ごめん立花」
 「すみませんでチュ」

 謝るんじゃねぇよ……特に実は対等になったらシメるから覚悟しておけよ!

 「まぁまぁもうすぐ着くし魔物狩りも最後気合入れていきましょう!」

 襲ってきた魔物はすぐに片づけては素材を回収する。俺の持つ宝物庫は無制限でそれには及ばないものの、立花や実の持つアーティファクトスキルの収納庫もかなりのレベルだ。騎士団を再開した時のために、ありあまる資金力も重要だ。

 「そろそろ目的地だな」

 山脈を超えギャラントプルームに辿り着いた。高い所から見上げたその街の夜は、どこも光っていて賑わっているように見えた。

 「さて目指すはギルドか……」
 「とりあえず今日は適当に宿を見つけて休みましょう。できればシャワー付きで」
 「オーケー」
 「賛成」
 「賛成っチュ」


 適当に宿を見つける。次の日には騎士団メンバーであった高天原九兵衛との再会がある。ギルドに近い宿を探すのがいいだろう。

 「ここがよさそうね」

 辿り着いたのはギルドのある場所からすぐ近くの宿だ。ギルド総本山の街だけあってか冒険者がとても多い。

 「さてここに……」
 「きゃぁぁぁぁ!」

 突然女性の悲鳴が聞こえた。

 「なんだ?」
 「敵襲か!」

 周囲を見渡す。この声はどうやらこの宿のとなりの酒場からだ。

 「へぇんたぁぁぁいが!」

 女性の大きな声とともに店から男が吹っ飛ばされてくる。

 「んもう~連れないな。僕ちゃんと愛の喜劇を紡ぐ約束をしたじゃないか~」
 「そんな調子いいこと言って、他の女の子にもちょっかい出してるくせに、何を抜け抜けと……」
 「それじゃあせめて僕と一夜の愛を奏でよう……」

 酔っぱらった男は女性に飛びつこうとするが逆に顔面を蹴られ飛ばされた。

 「ふん!寝言は寝て言えボケがぁ!」

 女は怒りながら店に戻ってく。

 「ま、まって僕のお尻ちゃん……」

 男は力ない声で叫ぶ。俺達はそれを冷ややかな目で終始見ていた。

 「はぁ……また駄目だったか……でもあのお尻と胸に飛びつかないなんて男じゃない!」
 「はぁ~相変わらずだな」
 「ほんとね……」
 「騎士団一の欲情男は相変わらず健在か……嬉しいような悲しいような……」
 「何あいつ……」
 「女の敵でチュ……」

 みんなそろって溜息をはく。相変わらず変わってないようで何よりだが、初対面の二人は軽蔑の眼差しだ。これでも俺達騎士団の一員で同じ二十柱なんだよな……

 「よっ、まだそんな犯罪まがいなことしてたんだな」
 「これこそが男の性であり、止められな欲望さ。君にも昔教えてあげたはずなんだがね~」
 「私の夫に変なこと吹き込まないでほしいものだわ」

 そう、この欲情男こそが騎士団の一人で二十柱の一角、巨人族の王である巨人王の力を受け継いだ高天原九兵衛だ。

 「ちゃんと山脈超えてきてくれたかい?」
 「ああ、シルキーサリヴァンからそう言われたからな」

 九兵衛さんは服の埃をはらい立ち上がる。巨人王といっても昔は普通の人間だったし、力を解放していない時は人間サイズがデフォだ。

 「早い段階で再会できて良かったよ。黒姫の手引きか?」
 「まぁそうだね~今連邦がごたついているからこっちに誘導出来て良かったよ」

 九兵衛の引っかかるようなもの言い当然気になる。

 「ファラリス連邦で問題発生してるのかしら?」
 「まぁね、とりあえず今日はもう遅い。明日また話そうか~」
 「オーケー。なら俺達は宿に行くよ」
 「まだとってないならうちにくるかい?風呂もあるし設備なら宿よりも遥かにいい」
 「マジか!この人数は平気か?」
 「問題ないよ。さぁ案内するよ」

 九兵衛さんは俺達を自身の家に案内する。ギルドの総本山がある近くの大きなお屋敷だ。外観や広さは貴族と遜色はない。

 「俺は寝るから風呂とか好きに使ってくれ~」

 九兵衛さんはそのまま寝室に入っていった。

 「相変わらず自由だ……」
 「ほんとね……」
 「でも再会できて嬉しい。あ、お風呂どうする?」
 「周平と実二人で先に入ってもらって、その後私達がゆっくり入るわ」
 「「了解!」」

 少し不安もあったが九兵衛さんは昔と変わらない一面を見せてくれた。昔から色々残念な所はあったが、彼も本気になると地図を変えるようなことを平気でやる頼もしい一面もある。明日はしっかりそれを見せてほしいものだ。
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