前世で魔神だった男、嫁と再会して旅をします。

明石 清志郎

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2章

47話:迷宮三〇〇層攻略その一

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 次の日の朝となり朝食を済ませた。ここにきてから恒例の納豆と海苔に白米に焼き魚と定番の朝ご飯だ。朝食を終え出る準備をしているとバニラが少し寂し気にカゲロウに言う。

 「これでお別れじゃないですよね?」
 「当然だ……また一緒に旅をしよう。強くなったお前を見るのを楽しみにしているよ」
 「カゲロウさん……ぐすん……絶対ですからね」
 「ああ」

 カゲロウは泣いてしまったバニラの頭を優しく撫でる。

 「また一緒に冒険するんだから泣くなよ~」
 「うっ……だって~」

 けっこう涙脆い子だったな。優しい子だし無理もないか。でもまたすぐに再会できるしそう悲しむことではないぞ。

 「それじゃあ行こうか」

 準備を終えアホヌーラ山脈に向かう。

 「おうそれじゃあな……」
 「またいつでも来なさい」
 「待ってるわ」

 三人からのお別れの言葉を聞き、俺達はアルマンゾールを後にした。天気も良く太陽が俺達を祝福してくれているようだ。

 「アルマンゾールに着いたらまた王都に戻るわよね?」
 「ああ、今頃攻略しているはずだ。その結果も兼ねて行く必要があるからな」


 ◇


 周平達がアルマンゾールをでたその日、嶋田達は三〇〇層のボスを攻略していた。立花によって心を折られかけた嶋田だが、今はそれに蓋をして迷宮攻略に集中している。迷宮攻略まではクラス全員の総意でそこに揺らぎはないからだ。

 「浩二今は大丈夫そうだな。」
 「正直あれから戸惑いを隠せないし、自分自身今後どうしようか迷ってはいるけど、とりあえずこの迷宮攻略が一つの区切りだと考えてる。それにここまではクラスの総意だ。この迷宮攻略に関しては迷いがないからね」

 今自分が抜けるわけにはいかない。俺は尾形とは違いクラスを背負っているんだという気持ちが彼にはあった。

 クラスのリーダの自覚がある彼はその使命感が、自分の中にある揺らぎを抑えていてくれていた。それを聞いた木幡は安心したのかホッと息をする。

 「そうだな、とりあえず集中だな。今後のことは俺や杉原や月島もお前もサポートする。心配するな」
 「ああ、ありがとう」
 「そうよ、あの人のことは一旦置いときなさいよ。気を抜いたら死ぬこともあるんだから!」

 美里の気合の入った一言で嶋田は安堵する。自分は恵まれていることを改めて実感したからだ。

 「さて改めて陣形のおさらいだね。」

 雪の一言で改めて迷宮突入前の作戦を頭の中でおさらいする。

 三一人の召喚されし勇者と、騎士団長代理のタピットの三二人での突入となった今回の作戦では、嶋田達四人と菱田とその取り巻き二人を前衛とし、玲奈先生や東や橋本達十二人が中衛に、後衛にタピットと前衛に向かない者十三人の配置だ。

 それぞれ十メートルのほどの間隔をあけて進むといった感じだ。真ん中は援護射撃用の魔法や補助魔法が得意なメンバーを配置し、後衛には防御系統の魔法が得意だったり比較的頑丈な生徒を選んでいる。

 最初の頃とはもう顔つきが違う。あの時慌てて逃げた鉄巨人などもう強敵ではないからだ。順調に迷宮を進み地下三〇〇層である試練の戦域の扉の前とたどり着く。

 「さて着いたな。おい嶋田ミーティングするなら手短にしてくれな。俺の体がうずうずしているんだ」

 準備は万端と言わんばかりの菱田のアピールに彼は苦笑する。菱田は自分勝手な面がかなり目立つ生徒だったがあの時から少し変わりつつあった。元々玲奈先生には逆らわないし、周平以外のクラスメイトには手をださないこともあってか、今じゃ地球にいたころより遥かに話しやすくなったのだ。

 「さてみんな、王様の話だとこの先に出るのはウガルルムという大型の獅子だ。かつて歴代最強だった初代勇者のパーティが倒したというが、当時の戦いの記録を見ると、素早く口からブレスがとんでくるという話らしい。前衛組が攻めるが中衛組があらかじめ補助魔法をかけてもらいたい。後衛組は自身と真ん中の守りを重点的にお願いしたい。」

 嶋田の言葉にみんな頷く。あらかじめ決めていた作戦なのでみんな特に反対はない。タピット騎士団長代理も俺が言うことは特にないと言った感じだ。むしろ成長したなお前らと言わんばかりに信頼の眼差しを向ける。嶋田ちょっとプレッシャーを感じるが、それだけ期待されているし、任された以上全員無事にここを乗り越えるつもりでいた。

 補助魔法をかけ、それが終えたところで扉を開ける。

 「それじゃあ行こうか」

 扉を開けると闘技場のようになっており、ある程度進むと大きな黒い獅子が威嚇してくる。

 ウガルルム
レベル150
種族:獣族
攻撃:20000
防御:18000
魔法攻撃:16000
魔法防御:18000
素早さ:20000
魔力:18000
固有スキル:混沌の爪、獄炎の舞

威嚇と同時にオーラのようなものを纏い始めた。

 「いくぞ!みんなそれぞれ配置についてくれ!」

 あらかじめ決められた陣形をとり戦闘がスタートする。まずは菱田が特攻し、攻撃破壊の異能を発動する。これは対象に触れることさえできれば、効果が適用されるが相手も素早いので当てるのはそう簡単ではない。なので、ウガルルムが飛んで着地した地点に橋本の異能で一瞬動きを止め、その隙に攻撃破壊を当ててもらう。

 「おらぁ!」

 作戦は予定通りうまくいき相手の攻撃力を落とした。

 菱田はすぐに下がり今度は雪と美里の遠距離攻撃だ。二人は周平からウガルルムの情報も聞いており、対策なんかもしっかり頭に入れている。
 美里の弓と雪の魔法で追撃する。このクラスになると橋本の便利な異能も一瞬の足止めにしかならない。菱田の取り巻き、大野の異能である円槍撃サークルスピアと秋山の異能である落下弾フォールショットで上下からの攻撃をする。

 ウガルルムが中衛を狙わないように後衛にいる鮫島の防壁空間バリアフィールド防壁空間と田島の異能である種爆弾クラッシュシードを中衛より後ろの周りに巻いておく。これは田島の任意発動が可能なので、万が一前衛が下がってきて種を踏んでも無闇に発動しないようになっている。

 「はぁぁぁぁ!」

 嶋田と木幡の剣による攻撃も追加される。嶋田は異能も発動し、自身の両腕を恐竜化させてわたりあい、木幡もカウンターシールドをうまく活用しダメージを与える。嶋田の元始の爪とは、ランクは数十万に一人のAAランクで、両腕を恐竜化させ、身体能力の大幅なアップと腕にのみ魔法耐性をつける異能だ。

 ウガルルムがカウンターシールドで一瞬よろめいた時、大野と秋山の異能が直撃。さらに雪と美里の援護攻撃が当たり完全にバランスを崩した。

 「みんな総攻撃だ!」

 よろめいて地点に橋本の異能でさらに動きを止め、全員の魔法による援護攻撃を始める。その間に雪は第六位階魔法のビックバンを唱え始める。ウガルルムは無数の攻撃を喰らっていることで身動きがとれないまま雪が呪文を唱え終えビックバンが炸裂する。

 「グォォォォォ!」

 ウガルルムの呻き声が三〇〇層全体に響き渡る。

 「やったか?」
 「へへっ、最初から相手に無駄な動きをさせない完封作戦はなかなか聞いたはずだ」

 竜也は笑いながら言う。

 「なかなかいい作戦だったな。まぁ俺達にかかれば当然だがな」

 菱田も手で汗を拭いながら同意する。嶋田の持つAAの異能の方がランクも高いし、強いがこの二人の異能はそれに比べて使い勝手は良い。橋本の粘着床もだがランクがすべてでないという言葉が嘘ではないことははこの戦いを経て、改めて証明されたと言ってもいいだろう。

 「まぁまだサシじゃキツイ敵ではあるけどね」

 美里が釘を刺すように言う。彼女はこれで終わりじゃない事はわかっている。

 「まぁ今回は勝つためにその作戦を選んだわけだし、人海戦術はやっぱり強いよ」

 雪がフォローする。そう言いながら、雪と美里は目で会話をし、次の準備をしようとしていた。過去の文献にはこのことが書いてなかったので言わなかったが、これで終わりでないことは周平から聞いているからだ。

 「さて、転移装置に……」

 嶋田がそれを言いかけた瞬間だった。倒れていたウガルルムが雄たけびを上げ、自身を炎で纏い始めたのだ。

 「みんな!あいつはまだやられてないわ!すぐに陣形を立てて!」
 「援護と補助魔法は引き続きお願い!」

 雪と美里がすぐに声をかけ、陣形を立て直す。

 「嶋田君ボケっとしてないで!」
 「ああ、すまない。前衛戦闘態勢を!」

 ウガルルムは踊り始めそれが終わると、木幡に襲いかかってきた。

 「ちっ……カウンターシールド!」
 「コントンノツメ……」

 ウガルルムは言葉を発すると、爪が混沌に染まり木幡のシールドを打ち破った。カウンターシールドは、発動者の防御力に対して、攻撃する側の攻撃力の差が一定以上だと、カウンターが機能せずさらに差があればシールドごと壊されるのだ。

 「ぐっ……」
 「竜也!」

 木幡は吹き飛ばれたが、幸い致命傷こそ防いだ。

 嶋田は慌ててステータスを覗いた。

 ウガルルム改
レベル180
種族:獣族
攻撃:30000
防御:25000
魔法攻撃:26000
魔法防御:25000
素早さ:30000
魔力:26000
固有スキル:混沌の爪、獄炎の舞

 「やばいな……」

 彼は冷汗を隠せなかった。これは今まで出会った魔物をはるかに凌ぐからだ。
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