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2章

45話:特訓の成果

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 特訓を初めてから一か月が経とうとしていた。それは彼女が訓練の成果を見せる日でもあった。一月の間、何度も死にかけながらも耐え、成果を見せる日だった。

 いよいよだ……

 母親の顔も知らぬまま、小さい頃父親に売られて公爵のメイドとしてやってきた。耐えられなくなり、脱走した時彼らに出会った。得体の知れない感じがしたので、最初は信用できなかったけど、私に新しい世界を見せてやると言って助けた。お兄ちゃんのように私を引っ張ってくれた。もう一人は、第一印象は怖そうなお姉さんという感じだった。でも彼女も手を差し伸べてくれ、今では姉のような感じだ。家族のいない私にとって二人と出会ってからの日々は楽しいものだった。

 もっと強くなって色々な世界を見てみたい……今彼女はそんな想いでいた。

 
 ◇


 「来たか……」

 バニラは待ち合わせの場所であるここ。山の中のとある区画というか、バニラが特訓をしていた場所だ。ここで彼女がどれぐらい育ったかの試験をする予定だ。

 「ええ、特訓の成果を見せるわ!」

 なんだか凄くウキウキしているな。前よりも面構えも雰囲気も少し変わった。特訓を通じて少し大人びてきたのかもしれないな。

 「ハハッ、そんなにかしこまるなって~」
 「フフッ、そうね。なんかここの場所来ると勝手に体が硬くなるというか……」

 うん……立花のせいだわそれ。場所の選出少しミスったかもしれないな。

 「ああ……嫁が厳しくてすまんな」

 横にいる立花を軽く睨みつけるが、私の訓練に文句あるかしら?と言わんばかりの堂々っぷりだ。まぁそれが彼女のいいとこでもあり、悪いとこでもある。結局それって紙一重ってことなんだよな。長所が短所になることもあれば逆もある。

 「というか俺でいいのか?」
 
 まぁ立花だとスパルタ教育した手前、かなり私情が絡んでくるだろうから、立花は除外としてもカゲロウや実でもいいわけだ。

 「カゲロウおじさんと迷ったんだけどね……」
 「お、おじさんだと……」

 横で立ってるおじさんにも地味にダメージ入ったな。まぁアラフォーはおじさんだわ。

 うん俺はって?
 俺は十七歳のぴちぴちの青年だわ。

 「やっぱりどれぐらい見違えたかで一番驚くのは周平だと思ったから周平にしたの」
 「なるほどな。それで俺か」

 あんまりこいつの訓練は見ていないし、ラスト一週間はむしろ見せてくれなかったからな。その時点で俺だと決まっていたのだろうな。

 「オーケー。なら早速始めようか」
 「うん!それじゃあいくよ!」

 模擬戦が始まった。

 「雷の衝撃よはしれ……ライジングショット!」

 第四位階魔法科。一小節だけで唱えられる領域まで達したか! 確かに成長してるじゃねぇか。

 「ライジングショット!」

 ならその返しとして、同じ魔法を強い奴が打った時どれぐらい違うかを教えてやろう。

 「なっ……」

 俺のライジングショットがバニラのライジングショットを打ち消し、そのままバニラに向かう。

 「風よ纏え……風障壁!」

 ライジングショットをガードする。ハハッ、いい感じじゃねぇか。もっと成果を見せてくれ。

 「我が道にはばかる者に裁きを与えん……いでよ炎の道……フレイムロード!」

 まじか……一月でそこまでいくんか……

 「フレイムロード!」

 第五位階魔法か……確かにその域でまでは進めるとは言ってたけどここまでとは……

 「フレイムロード!」

 俺のだした炎の柱がそのままバニラの炎を飲み込むと追加で呪文を唱え始めた。

 「我に集え水の力よ……水の旋風となって滅ぼさん……アクアハリケーン!」

 これも第五位階魔法だな。そろそろただオウム返しするだけじゃつまらんな。

 「サンダーショット!」

 ハンデだな。第三位階以下で相手をしてやるとしよう。

 「そのまま押し切れぇぇぇ!」
 「果たして押し切れるかな……」

 魔法の階位こそ向こうの方が上だが、こっちの方が魔力も高く、圧倒的な能力差がある。魔法は使用者によって、姿を変える。

 「相殺か……流石は周平ね!」
 「当然!ほらまだまだ始まったばっかりだし、見せてくれよ」
 「ハイマジックガード!」

 魔法防御を一時的に高める第五位階魔法。こっちは無詠唱か……回復魔法は元々覚えさせられていただけ、進歩も違うということだな。

 「星屑の弾丸、高速の光となれ……クイックスター!」

 「むっ……」

 小さな星の固まりを瞬速で放つ第五位階魔法だ。第五位階魔法をこのペース……後は体術をしっかり身につければ銀ランクの冒険者と同等ぐらいになりそうだ。

 「エアーショット!」

 手から放つ空気の塊を放つ第三位階魔法だが連打でバニラに向かって放つ。

 「キャッ……」

 連続で放つことで、バニラの周辺には風が発生しておりそれを受けて少し動揺した様子だ。

 「アクアショット!」
 「キャァァァ!」

 威力は弱めたが、エアーショットを何発も打ち続けたことで、ハイマジックガードをそのまま貫通したようだ。

 「いてててっ……」
 「ここまでか?」

 倒れたバニラを見下ろしながら、一歩ずつ近づく。

 「まだよ……弾けろ風の衝撃、眼前の敵を吹き飛ばせ……エアロバースト!」
 「うっ……」

 つい油断してしまい、目を腕で隠す。

 「これならどうだ!」

 バニラは二つの短刀を繰り出し、それぞれに魔力を纏わす。

 「それは魔法剣……うぉっと……」

 速度も地味に速いな。魔法は第五位階までをきっちりやったところでそっちの特訓もやっていたってことか。

 「フフッどうやら実践でも使えそうね」
 「立花、最後の一週間はこれをやっていたのか?」
 「ええ、間に合うか微妙だったけど、短刀での立ち回りなら、この子の握力でも問題ないと判断したのよ」

 でもそんなすぐに習得できる技でもないんだがな……大方魔力を纏ってる時の感覚を共有させて、無理やり体に叩き込んだってところか?

 「ハァァァ!」

 折角なのでバニラのラッシュを遮らないよう、攻撃を避けるだけにしておく。銭湯でも胸の大きさは大体把握していたがこう動くとけっこう揺れて……ああいかんいかん。

 「動きも中々様になってるじゃないか」
 「良かった。周平にそう言ってもらえて訓練した甲斐があったよ!」
 「おうそりゃなによりだ」
 「魔法剣ファイア&アクア」

 それぞれの短刀に水と炎の魔法を纏う。魔力纏うだけじゃなくて魔法までいけるのか……けっこう将来有望だったりだな。

 「おっと……」
 「避けすぎ!」
 「そりゃ当たったら痛いだろ?」
 
 一応振り回してる刃物だからな。当たったら地味に痛いし。

 「周平は丈夫だから問題ないでしょ!」
 「だーめ。悔しかったらもっと精進しなさいな~」

 妹がいたらこういうやり取りするのかもしれないな。

 「どうだ?新しい世界は見えたか?」
 「うん!周平と立花のお陰で凄く楽しい!もっと色んな世界を見てみたい!」
 「そうか。ならあん時助けて良かったよ」

 そろそろバテテきたみたいだし終わらせるか……十分特訓の成果も見ることができたし、そもそもステータスを覗けば強くなったのなんて一目瞭然だ。

 バニラ
種族:人間
レベル55
職業:旅人
攻撃:3600
防御:3000
魔法攻撃:5100
魔法防御:5100
素早さ:4200
魔力:5100
異能:クイックトリック(B)
称号:駆け出しの旅人

 前の真っ新な状態に比べたら成長したものだ。

 「それじゃあちゃんと受け止めてね……」

 一旦下がり、一瞬間を置くと高速でこちらに向かってきた。異能であるクイックトリックで一時的な高速移動をしているのだろう。

 「ハァァァ!」
 
 ならちゃんと素手でそれを受け止めてやるか……

 こちらに刃を向けているその両手を寸前のところで掴み、短刀を受け止める。

 「凄いね」

 バニラは受け止められて一瞬唖然とした表情を見せたが、すぐに俺を見て微笑む。

 「だろ?まだまだだけど見事だったよ」

 俺も微笑み返すとバニラは腕の力を抜き、そのまま崩れ落ちそうになったので抑える。

 「お疲れ様」
 「ちょっと頑張り過ぎちゃった」
 「ああ、見事だ」

 バニラの特訓の成果を十分に堪能し、模擬戦は終了した。
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