前世で魔神だった男、嫁と再会して旅をします。

明石 清志郎

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2章

42話:接触

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 雪達が食事に行く少し前の話だ。周平と立花は予め作っていた転移陣で王都アスタルテへと移動した。周平はこっそり迷宮へ行き、分身体の記憶の上書きを行った。立花は別行動で街を回っていた。

 「城にそこそこなのがたくさん……恐らく勇者達か……気になる事があるから後で城は行くとして……」

 創生魔法のバードキャッチャーの線という、周辺にいる生物の強さをオーラで探知する魔法を発動し、王都全体に張り巡らす。

 「さて、あのお店にでも入ろうかしら」

 立花が入って行ったのは雪達四人が入って行ったお店。予め入るのを見ていたので、接触を図ろうとしていた。

 「おいあれ凄い美人じゃないか……」
 「ほんとだ、召喚された勇者様達と似たような感じだな。」
 「なんて綺麗な人だ……」

 さすがに目立つわね……だけどこの姿で会うことに意味があるし仕方ないか……

 どこに座ろうかしら?

 中に入ると少し洒落たレストランのような感じだ。さて敢えて気付かれやすい場所に座るか。私は四人の斜め前に座り、わざと気付かれるような位置で四人を観察する事にした。

 「ここの料理は城の飯より美味しいだろ?」
 「ほんとね、なかなかだわ」
 「王宮の料理は味が薄いだろ、だから浩二と色々回って探したんだ」
 「二人ともいい仕事したわね~」
 「うん、二人ともありがとう」

 あれが周平が手放したくない女の子二人か。まぁこの世界での事が終わった後私と周平は帰る場所がある。後始末考えたら分身体を残す必要も出てくるし、周平の心に入り込んだ数少ない女性……その相手をするのには丁度いい。結構可愛いし、あんな二人に好かれちゃうのは流石は周平ってとこね。

 「二人が喜んでくれて何よりだ。竜也と色々探したかいがあったね」 
 「ああ、他にも色々あるからまたおいおい案内させてくれ」
 「ええ、よろしくね」
 「明日で迷宮攻略を終わらせられるといいね」
 「ああ、そのためにもこれからも僕が引っ張っていくつもりさ。これ以上誰も欠かさず元の世界への帰還を果たしたいからね」

 周平の話ではあの男二人がそれぞれ片方を狙っているとこだ。この集まりもアタックのつもりなのだろうか。確かに二人とも中々のイケメンだ。

 「果たしてそううまくいくかはわからないわね」
 「俺も同感だ」
 「二人ともそれはどういうことだい」
 「もし迷宮攻略が終われば今度は魔王軍との戦闘が始まるわ。そうなれば死者がでる確率もあがる。そういった意味じゃ、尾形君の判断は元の世界に帰るのとクラスメイトを気にしないのであれば、いい判断だったと言えるわ」
 「確かにそうだな。俺達は仮にそう思ってても、重要な戦力が脱走などしたらクラスの士気が駄々下がりだ。それと……」

 片方の彼がようやく私に気付いたらしく、こっちをジロジロと見てくる。

 「あんたさっきからこっちジロジロ見て一体何か用か?そんなに俺達の話に興味があるのか?」
 「あら、気づいていたのね。嬉しいわ」
 「あんた、見た所日本人か?」
 「ふふっ、召喚された勇者を一目見たくてね。ちょっと偵察にきたの」

 このまま気付かれないんじゃないかと少し思ったけど杞憂に終わったわね。

 「君は一体何者だい?もしかして俺達と同じように召喚されたのかい?だったら俺達と一緒に魔王を倒さないか?」

 彼の言葉に不快を隠せない。この男はいったい何を馬鹿なことを言っているのか……何故私達が魔王討伐なんかに参加しないといけないのか……本来騎士団が全員揃っていればこんな国とっくに制圧している。あの子達から色々聞いていただけに

 「フフッ、あなたは本当に愚かね」
 「なっ……」
 「私は自身でここに飛んできたのよ。あなたたちとは違うわ。それとあなたが勇者のリーダー格っていう噂を聞いて来てみたけど実に期待外れね……」

 素直にあの国の言うことを聞いているからあんなことが言えるのだ。大方元の世界への帰還が最優先だからだろう。視点を変えれば召喚のからくりにだって気づけるしあの国を疑うこともできる。

 「では聞くけどなぜ魔族と戦うの?なんで魔族と人が戦っているか知っているのかしら?魔族が悪なんて誰が決めたのかしら?」
 「あなたが何者か知らないけどここであまり魔族を擁護する発言をしても得はないわ。周りの人も考えて発言すべきね」
 「だったら周りが聞いてなければいいのかしら杉原美里さん?」
 「なぜ、私の名を……」

 なら周りを石にしてやればいい。何なら王都全体だ。

 「エミリウスの宴!」

 王都全体の人間を石化させた。昔の戦争ではこれで大きな街をいくつも機能停止させ、時にはそれを砕いた。

 「なっ、周りの人が石に……」
 「店にいる人間を石化したわ。これで話を聞かれる心配はないわね」
 「貴様……」

 男二人は戦う態勢を見せるが、それでも体が震えているのは分かる。今石にした事で圧倒的な差が見えたはずだからだ。

 「ふふっ、四人とも体が震えているわ。別に話が終わればここを去るし石化も解除するわ。あなたたちをどうにかしようなんて思ってないから安心しなさい。」
 「それを信用しろと?」
 「あなたは本当に愚かね嶋田浩二君。信用も何もあなたたち殺すつもりならもうやっているわ。それもわからないのかしらね?そこの月島雪ちゃんはそれをわかっているから私に対しての敵意はでていないわ。彼女を見習いなさい!」
 「うん、そこの女の人の言う通りね。もの凄く得体は知れないけど私たちは素直に話を聞くべきかも」

 三人は雪の言葉を聞いて落ち着きを取り戻す。

 「それで一体何しにここに?」
 「ふふっ、いずれ戦うかもしれないあなたたちの顔を見に来た感じね」
 「何!」
 「まぁ戦ったら私のワンサイドゲームでただの殲滅になってしまうでしょうね。その気になればあなた達も石にできるし」
 「やる気か……」

 少し挑発が過ぎたわね。それにこの愚かな勇者には変わってもらわないといけないのが今回来た私の目的の一つだ。

 「フフッ、落ち着きなさい」

 今男二人はたくさんの疑問を感じているはずだ。

 この女は一体何者なんだ?
 なんで自分達の名前がわかるのか?
 それとこの魔力に見たこともない魔法……

 「この国とファラリス連邦は、魔大陸の資源と人より強い魔族やその他の種族の根絶やしのために、一方的に魔大陸へと遠征を行っている。そのためにあなたたちは召喚されているわ。ちなみに最初に吹っ掛けたのは人間側よ。この争いを起こしたのは人間側でそれまでは平和だったのよ」

 その言葉に嶋田はすぐさま反論をした。

 「それはつまり人側が悪というのか?」
 「それは考え方ね。あなたはどうも考えたくないことや、自身の思い通りにならないことに関しては考えないで目を背け自分のいいように解釈するくせがあるのね。少しは国を疑うことを覚えたほうがいいわ。」
 「そんなことは……」

 言い返そうとするが、それをさせまいと彼の口を紡ぐように続ける。

 「きっとあなたは今回のことも悪い夢で片づけるわね。自分の考えたくないことや、手を出したくないことは目を背けても、代わりに仲間がサポートしてくれるものね?そんなあなたはなるべくしてリーダーになったのだろうけど所詮それまで。都合の悪いことに目を向けなければ進歩はない。ただの愚者そのものね」
 「貴様、浩二の何を知ってやがる。言いたい放題言いやがって……」

 我慢できなくなったのか木幡は怒鳴るように言うが彼の表情は曇ったままだ。

 「じゃあ木幡竜也君、今の私の話に間違いはあるかしら?彼の目はそれを物語っているわ。それに私の今の問いかけに唯一否定的な顔をしたのも彼だけよ。ちなみにそれが事実だとして……というか事実なんだけどそれを踏まえて嶋田浩二の意見を聞きましょう」

 正義感の強く、人としての正しい道を持つ彼は、今矛盾で動揺しているはず。魔族が悪ではなく人側に非があり、でも帰還の為には魔王を倒さないといけないからだ。

 「俺は……魔族がなぜ人を襲うかなど考えたことはない……魔王を倒せば俺達は元の世界に帰れるかもしれないし、元の世界に帰るためにはそれを信じて戦うしかないと思っていた。仮にそれが事実だとしても俺はそのことに胸にしまい戦うだろう」

 きっと元の世界に帰るためなら国の言うことを聞いて動くしかないと……それがそのための近道だからと彼は今考えをシフトした。それは善悪で動く彼にとって、自らで自らの正義を否定した事になる。

 「浩二……お前……」
 「これが彼の答え、彼に正義の味方の自覚があるなら少し考えを改める必要があるわね。はっきりいって偽善者そのものね」

 さんざん正義感をだしてウンザリしていたと周平は言っていたし少し彼を虐めてしまったがもうこれぐらいでいいだろう。

 「もういいだろ……これ以上浩二を……」
 「木幡竜也、あなたは少なくともその疑問は頭にあっただろうし、今の話を聞いた以上国を疑うことを覚えたはずね。そこの二人とあなたは力をつけたら、王国に反旗して別の帰還方法を吐かせるというビジョンを多少なりとも浮かべただろうけど、その男はそのビジョンすら浮かんでない。そしてそいつがリーダーで周りを引っ張る。これがどういう意味だかわかるかしら?」
 「それは……」

 何も言い返さない。彼もまたわかってしまったのだ。嶋田がこのままリーダーであり続けることのヤバさを理解したのだ。ちなみに別の帰還方法もなくはない。

 「あなたはこのままいけばクラスメイトを殺すわね。国という大きな力に身を委ねて、動いている王国の狗そのものよ。何しろ彼は汚れるということに大きな抵抗を感じている。汚れないことを前提にしか考えていない以上いずれはそうなる」

 嶋田は何も言わない……というか何も返す言葉が出てこないのだ。目の前にいる私という絶対的強者の圧力と冷たい言葉は、彼のメンタルを容易に崩壊させることができるだろう。

 「もしあなたに変わる気があるなら……リーダーとしてみんなを引っ張る自覚があるなら何が一番大切で自分が何をすべきかしっかり見極めるべきよ。あなたならその素質はあるみたいだし。」
 「俺は……」
 「今は目の前のことに集中してそれはおいおい考えていけばいいわ」

 それを告げ嶋田を石化する。

 「なっ……」
 「さて木幡竜也……あなたは私の言葉はいらないわね。もともとあなたは物事を客観的に見る能力はあるみたいだしね。しっかり彼をサポートしてあげるといいわ。」
 「お前は一体……」
 「ばいばい」

 木幡も石化させる。二人を虐めて石化し終えたところで本題だ。

 「さて……初めまして。あなた達は気付いているわよね?」
 「神明立花さん……だよね?」
 「周平君の奥さん」
 「まずは怖がらせてごめんなさい……あなた達を怖がらせる気はなかったわ」

 二人には敵意を見せる必要はない。周平を怒らせてしまうのもよくないだろう。二人と握手を交わす。

 「何故今ここに?」
 「あなた達はクラスからまだ離れられないだろうし、そっちの周平は、まだ迷宮でしか動けないから助言をね」
 「成程……一度会って是非よくお話をしたいなと思ってました」
 「そう言ってもらえると光栄だわ美里ちゃん」

 私がいても、周平が愛したいと思った二人だ。これからの事もあるししっかり交流を深めていかないと。

 「さっき凄く怖かったんですよ~」
 「フフッ、ごめんなさいね~でも雪ちゃんは最初から敵意感じなかったけどね」

 この子は最初から気付いていたのだろう。

 「いや、すぐにわかったので。それよりも凄く綺麗ですね!」
 「ねっ、スタイルいいし、もし同級生だったら告白の数も負けてたね雪」
 「そうだね~」

 もしあの時こっちに来てなければ同級生だったわね。それ考えると少し惜しいことをしたわね。

 「今は石にしてるから、手短に伝えたいことだけ話すわ。今度は三人でお茶でもしましょう。あっ周平交えて虐めるのもありね」
 「フフッ、それは凄くやってみたいですね」
 「そうね、それと敬語もいらないわ。お互いに名前で呼びましょう」
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