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1章

25話:クラス会議

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 周平が公爵邸の地下にいた同時期、クラスメイト達は一つの場所に集まろうとしていた。

 周平は出る時にあらかじめ書置きを残していたのと三人は知っていたので、その知らせを聞いて本当にショックを受けたのは先生だけだった。

 「浩二、そろそろ切り上げようぜ」
 「そうだね。」

 クラスのリーダー嶋田は訓練を切り上げ、親友の竜也と共に部屋に戻る。部屋は基本二人部屋だが、部屋の数で一部一人部屋の人もおり周平は一人部屋だった。

 「今日はクラスでの今後を決めるミーティングだな。今後どうしていくかもう決めているのか?」
 「ああ、俺の考えはしっかり言うつもりだ」

 この後は今後のことを踏まえたクラス全員でのミーティングだった。彼なりにもう考えは決めてあるし、自分の意見はこの後のミーティングでかなり影響はすると考えていた。

 全員が会議室に行き、クラスメイトと先生を交えたミーティングが始まった。周平の脱走を聞いてショックで寝込んでいた玲奈先生もすっかりよくなり、会議には出席した。

 「まず今後についてだけど、この間の迷宮でのことで恐怖を覚えたメンバーもいると思うし、素直にもう戦いなんかしたくないって思うメンバーもいると思う……」

 周平が一月半戻らなかったことで恐怖を抱いていたのだ。あの直後は攻略を自粛していたしみなにトラウマが植え付けられた。勿論周平が一度戻ってきたことで薄れたものの、恐怖が消えた訳ではなかった。

 「みんながどう考えているかわからないが俺は元の世界に帰りたい!そのために俺はクラス一丸となるべきだと考えている」

 嶋田の言葉に反応したのはクラスメイトの鮫島裕也さめじまゆうやだ。

 「嶋田……俺は怖い……神山は確かに帰ってきたがあいつは強かった。俺が同じ目にあった場合を考えると俺は戦うのが恐ろしいんだ……」

 鮫島の発言に対しだらしない、臆病といった言葉はない。菱田なんかはともかくみんな口に出さないだけで恐ろしいのだ。それを聞き、大半のメンバーはこちらから目を逸らしていた。

 「鮫島の言葉はもっともだけど逃げるわけにも行かないわ!」

 発言したのは田島亜紀たじまあきだ。クラスの女子十四人の中のうち四人のチャラいグループのリーダーだ。

 「仮に戦いを放棄したらこの国を追い出されたり、牢屋に行かされたりする可能性が出てくるわ。だから今後どうするかにしても、今は何かしろの形で戦う意思を見せつける必要があるんじゃない?」
 「確かにそれは……」

 田島の言うことはもっともだった。ここで戦いから逃げても結局大変な思いをしなくてはいけないからだ。仮にここを追い出されてしまったとしても生きていけるようになるために、今は訓練をして迷宮を攻略して戦闘能力をつける必要があると考えていた。

 「私は戦うよ」
 「杉原?」
 「私は元の世界に帰りたい、だからそのために私は戦う!」
 「私も美里ちゃんと同意見、だから今は迷宮攻略で力をつけるべきだと思うの!」

 美里に続いて雪が発言する。クラスの女子でも影響力のある二人のこの発言は大きい。この二人と嶋田と木幡の意見が主軸なっているのが現状だ。

 「俺も戦う意見に賛成だ、反対のやつは言ってくれ」

 木幡もこのタイミングで発言し、この時点では四人の意見に対し、反対できるような発言力を持てるのは菱田ぐらいだ。木幡は後押しするかのように菱田のほうを見ると菱田はしょうがねぇなと言わんばかりに発言する。

 「俺も戦う方に賛成だ、どのみち何もしないってのは愚か者以外の何でもないだろ?」
 「うん、そうだね。みんな戦う方向で決まりでいいかな?」

 菱田も後押しするかのように言う。周りもコクリと頷いており、その言葉に反論する人間はいない。だがこれで場が閉まるかと思いきや一声上がる。

 「待ってくれ!」

 と声を上げたのは東剛毅あずまごうきだ。クラスでも優秀で学年でもトップクラスの成績を誇った秀才だ。

 「俺は今橋本と考えていたが迷宮攻略が終わった時点でもう一度話し合うべきだと思う」
 「今は戦闘能力を身につけるために迷宮攻略をするのは、今後どうするかにしても必要なことだと思うからそれに反対する理由はない。だがその後は違うと思うんだ」

 東に続き橋本も発言する。

 「元の世界に帰りたくないのかい?」
 「いや、その後は魔大陸遠征になるはず。その時はみんな少数で動くはず。この世界の外をみれば嫌でも価値観は変わる、そうだろ?」

 魔大陸遠征……いずれは魔族と戦うためにこの国をでることになるだろう。確かにそうなった時みんなが同じ考えでいられるかどうか。今はまだわからないし戦いを放棄する者も現れるかもしれない。

 「つまりいずれは気が変わるかもしれないと?」
 「ああ、だが今の所は元の世界に帰るために頑張る予定さ」

 東はこの世界をもっと知りたいという興味があった。東と親しい橋本も同じようなことを考えていたのだ。

 だがまずは迷宮攻略。迷宮攻略に関しては反対するものはいないだろうし、意見を一つにまとめることが出来たので十分有用であった。迷宮攻略を渋る者も今後の為にそれは絶対必要になると嶋田達は考えていた。

 「了解、とりあえず今は迷宮攻略に向けてクラスみんなで頑張るということで。先生は何か意見ありますか?」
 「ないわ、神山君のこともあって本当はあなたたちを戦わせるようなことはしたくない……彼は一度戻ってきたけど運がよかっただけかもしれない……でもそういうわけにはいかないだろうから……だからみんな生き残りましょう!これ以上犠牲者をださないようにしましょう!」

 先生の言葉にはみな「はい!」と答える。あの菱田も変わりかけているとはいえいつもの倍以上の真面目顔だ。昔から先生には気があるのではと一部で噂されていたし、実際にそれは事実である。

 「それじゃあクラス会議を終わりにしよう」
 「待って!」

 会議の終わり待ったをかけたのは美里だ。

 「うん?まだ何かあるのかい?」
 「ごめんね、みんなに一つだけ言っておきたいことがあってね」
 「別にかまわないよ。それで?」
 「ありがとう、それで周平君のことだけど私は本当にあれが事故だったのかなって疑問を感じているの」

 美里の言葉に周りがざわつく。美里は周平から嵌められたことを聞いており今後の為に釘を刺しておこうと考えていた。

 「どういうことだい?」
 「そのまんまの意味よ、私はあの時の周平君、体が急に痺れて魔弾が命中して飛ばされたらしいわ」

 周りはさらにざわつく。そんなことが事実なら例え周平であっても許されることではない。

 「それは本当なのか?」

 木幡の言葉に美里は少し苦い顔を見せた。

 「偶然かどうかわからないけど彼は嘘はつかないわ……」

 美里は嘘をつくような子ではない。そして美里が杉原にそんな嘘をつくはずがないこともみんなわかっていた。だからこそ周りは複雑な表情を見せていた。

 「なら間違いないね……神山とはいえクラスメイトの命を狙うような真似をするのは正直見過ごせない!」

 嶋田が強い口調で言う。善人の彼も流石にそれは許せないのだ。

 「それだと菱田君辺りじゃないのか?あの騒ぎの発端も君だし……」

 東が菱田をジッと睨みつける。

 「んなわけでねぇだろ、あいつがああなったのは確かに俺のせいだ。だがあれを利用した奴がいた、間違いなくな!」
 「果たしてどうかな……」
 「なんだと!」

 菱田は東にガンつける。
 まぁまぁと周りは鎮めようとする中木幡が発言をした。

 「その件に関しては事実だと思う。ただ犯人探しはナンセンスだな」
 「どうゆことかしら?」
 「こういう言い方はあれだがあいつじゃクラス全体で犯人を捜そうなんて空気にはならない。そうだろ?それに神山なら……」

 クラスで良く想われてなかった彼なら狙われても仕方ない。クラスメイトの大半はみなそういう風に考えていた。

 「むっ……まぁそうね……」

 美里は苦虫を嚙み潰したような顔を見せている。木幡の言う通り神山だし、名乗り出る者などが出るどころかいない。むしろいなくなってよかったなんて思う奴のほうが多い。

 「ただ俺はクラスメイトを死に追いやるということが出始めていることに危惧している。神山だってクラスメイトだった。結果生きていたが嵌めた奴はおそらくいるし、今後そういうことを間違ってもしないようにする必要がある」

 木幡は続けて言う。それでもしこの先も似たようなことがあればクラスは崩壊する。力を得たものが狂気に走るのは簡単だからだ。

 「竜也の言う通りだ、俺は別に犯人探しなどはする気はないが、それぞれ最低限の仲間意識を持ってやっていってほしいのと、悪いことの区別だけはつけておいてほしいんだ。今後も迷宮攻略をしていく上でイライラしたり、喧嘩したり恨むことだってでてくると思う……でもそれだけは各自ちゃんと線引きをしておいてくれ!」

 彼の言葉が果たしてちゃんと届くかわからないがそれだけは本当に守ってほしい。悲劇を起こさないためにも……彼はリーダーとしてそう願っていた。

 嶋田の言葉にみんなが頷いた。

 「杉原この話はこれで終わりでいいかい?」
 「そうね……この話は終わりでいいわ、みんな混乱させてごめんね。でも嶋田君の言ったことは本当にお願いね」

 美里は周平の話をこれ以上は突っ込まなかった。こうして会議は終わりをつげ解散した。


 ◇


 とある部屋で1人ぶつぶつとつぶやく生徒がいた。

 「くそ……まさか意図的なものだと勘付かれているとは……」

 周りに誰もいないその部屋で一人呟く。
 美里はさっきの会議で周平の話を議題に上げることが目的でありそれをしっかり果たしたのだ。といってもそれは以外でしかわからないことだが……

 「まぁいい、俺だというのはわかるまい。なぁに今神山いない。この件は深く掘られることはない」

 しかしそれでも男は焦りを隠せない。周平を落としたことが明るみにでれば雪に拒絶されてしまうからだ。

 「まぁいい、とりあえず次のステップに進もう……」

 男は気を落ち着かせる。いつもの顔に戻し部屋を後にした。
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