前世で魔神だった男、嫁と再会して旅をします。

明石 清志郎

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1章

22話:公爵家の地下牢

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 「随分なお出迎えだね~」
 「脱走したメイドを追ってここまで来たが思わぬ収穫だ……」

 ミックスはニヤついた顔で見ながらこちらに近づいてくると、俺顔面を思いっきりぶん殴る。

 「それがお前の本気か?」

 残念ながら全く痛くない。
 
 「ほう……強がりを!」

 力の限りを何発も何発も俺に殴りかかる。蚊がプンプンうるさいものだ。

 「あの女はどこだ!?」
 「残念ながら別行動中だ~探してもいねぇぞ」

 ニヤつくと余計にイライラしたのかより攻撃を加えて来る。

 「たかだか平民が!我に向かって何という狼藉だ!」
 「ちょっと!」
 
 バニラが止めに入ろうとするがそんなバニラを吹き飛ばす。

 「お前もちょっとかわいいからコレクションに加えてやろうと思ったが、脱走の上に我に口答えとは……」

 ミックスが合図をすると護衛が俺とバニラを取り押さえる。

 「連れて行け!こいつらをあそこにぶち込んでやるのだ!」

 そのままお屋敷の牢屋に連れていかれたのだった。


 ◇


 「あんたのせいでまたお屋敷戻りじゃないの~」

 横で愚痴をこぼすバニラと俺は、鎖の手錠で両手を繋がれ二人仲良く同じ牢屋に閉じ込められたのだ。

 「ハハッ、まぁそういうな~それよりここは知っていたか?」
 「逆らうと地下牢に行くってのは聞いてたけど……ぶち込まれるのは初めてね……」
 
 牢屋だけに汚いし全く困ったもんだ。

 「ハハッ、巻き込んですまねぇな~」
 「笑いごとじゃないでしょうが!」

 軽く俺の頭を叩く。

 「安心しろ、お前のことはしっかり守るからよ~」
 「なぁにが守るからよ!この!」

 肩をポカポカ叩くと次第にそれが弱まっていく……すると今度はか細い声で呟く。

 「しっかりお願いね……」
 「怖がってんのか~」
 「当然でしょ……」

 俺の腕を掴みいつの間にか距離がかなり狭まっていた。恐怖のせいかい体は震えていたので、そのまま手を掴んだ。

 「ひ、ひゃぁ!」
 「なぁお前は両親はもういないのか?」
 「う、うん……母親は顔も知らないの。父親は小さい私をここに売って消えたわ……」
 「そうか……それで五年ここにいたんだな……」

 きっとここに売られるまでも、そして売られてからも窮屈な生活をしてきたのだろう。この子の顔見ても凄く苦労したのがわかる。

 「でもお前の未来は明るいよ」
 「なんでそんなこと言えるのよ?」
 「だって俺と出会って人生変わるだろ?現に今その真っ只中にいるし」
 「プッ何それ~」

 バニラは笑い出し床を叩く。

 「ハハッ、でもお前はそんな俺の言葉を信じてる。違うか?」
 「ば、馬鹿じゃん!そんなわけ……」
 「照れんなって。ちゃんと責任もって新しい世界を見せてやっから!」
 「もう……でも期待してるから……」

 小さな声で言ったその声は確かに俺の耳に入っていた。そんな彼女の想いにも答えてやらないとだな。

 「少し話そうか」

 二人で何時間か話をした。バニラのこの五年間やその前の話。俺の地球時代の話と前世の話も少しした。立花が嫁というのがいまいちピンと来てなかったらしいが、これで納得してくれた。あんな綺麗な嫁さんなんか勿体ないなんて言われたがまぁその通りだと俺も思う。


 ◇


 「そろそろ抜け出すか……」
 「もう?まだぶち込まれて六時間ぐらいよ?」

 外はもう夜十時を回ったぐらいだろう。

 「だから行くんだろ?みんな寝静まった今がチャンス」

 手を灼熱の状態にして手錠を破壊する。

 「さて……」

 物質具現の異能で金属の細い棒を作りバニラの手錠の鍵穴に差し込む。昔この手の技はよくやらされたからお手の物だ。

 「よしこれで外れたな」
 「凄い~あんた一体……」
 「ハハッ、こういうのは得意でね~」

 続いて牢屋の方もピッキングを行い牢屋を開け脱出する。

 「あそこで寝ぼけてる看守倒してくるからちょっと待ってな」

 気配を消し寝ぼけてる看守の首にチョップをいれると、そのまま気を失った。ついでに鍵を奪い全ての牢屋の鍵を開ける。

 「サウンドアウト……」

 この部屋全体に張り巡らせた上で大きな声を出す。

 「起きろ~」
 
 大声を出すと全員が目を覚ます。

 「ここの地下で行われてることについて知っている奴がいたら教えてほしい。そいつは俺と一緒に脱獄だ」

 すると何人かが騒ぎ出しみんな知ってると言い出す。だがはなっから俺は檻からだす奴を決めていた。

 「オーケー、大半が知ってるようだな~だったらそうだな……う~ん……そこのあんただ」

 この中で一番骨がありそうな男はこいつだ。感じからして実戦経験は間違いなくあるだろう。鍵を開け中に入る。

 「あんた道案内頼めるか?この下の事だ?」

 男は一度こちらを睨みつけるとそのまま立ち上がる。

 「俺で良ければ付き合おう。あんたただ者じゃないな?俺はあんたみたいな雰囲気の男を一人だけ知っているが、そいつを思い出す」

 それは誰だか凄い気になるが今はそれどころではないな。

 「ハハッ、それは嬉しいね~俺は周平でこっちはバニラ、あんたは?」
 「カゲロウ……それが俺の名だ」

 無精ひげを生やしたその男に兵士の武器をそのまま渡すとその場で素振りをする。

 「鈍らだがまぁいい……それで下の樹に用があるのか?」
 「そうだ」
 「ならこっちだが少し暗いな……」

 物質具現で懐中電灯に似た何かをだしバニラに渡す。

 「それで俺達の行く手を照らしてくれ。取っ手のスイッチで明かりを消せるから、消すときはそれで頼む」
 「わ、わかったわ」

 外見は懐中電灯だが、電池の代わりに俺の魔力で照らしていてる。

 「こっちだ!」


 ◇


 その頃ギルドへとワープした立花はシルキーサリヴァンに事情を説明していた。

 「とまぁそんな感じでね」
 「う~む……あのハインツ公爵がね……」
 「そんなわけだからあいつ潰すけどいいわよね?」

 シルキーサリヴァンは複雑な表情を見せる。

 「いやそれは……」
 「メイド達に乱暴してるみたいだし、借金返し終えても拘束しているらしいし問題ないわよね?」

 頭を掻きむしり私と目を逸らす。どうやら何か訳ありのようだが私には関係のない話だ。

 「フフッ、私あなたよりランク高いし、そもそもあなたの指図を聞く必要はないけど、気を遣って一応話している。だけどあなたのその表情見たら同意をしてくれなそうだし勝手に潰すわね~」
 「ま、待ってくれ?」
 「あなたが何と言おうと潰すけど何?」

 するとシルキーサリヴァンは覚悟を決めたのか、一度深呼吸をしてから口を開く。

 「それを止める権利も力もないが一応こちらの事情を聞いてほしい……そんでもって潰すなら完膚なきまでに頼む!」
 「わかったわ~あなたのその事情を聞きましょうか」


 ◇


 「こっちだ!」

 地下牢のさらに下は洞窟に繋がっており、下に行くにつれて人の気配が多くなっていく。

 「カゲロウあんたは何で奴隷に?」
 「そうだな……色々あるが……ここにいるのはギャンブルの慣れの果てってとこだな」
 「なるほど……人生色々だし悲観することもないさ。俺との出会いはお前にとっての転機となる」
 「フッ、外見は若いのに随分傲慢な男だ」
 「その傲慢は自身の強さの証……お前はそれを感じ取り俺についてきた。違うか?」
 「ハハッ、そりゃ否定できんな~」

 一品道の洞窟を抜けると大きな空間とその真ん中にそびえ立つ大きな樹が目に入る。

 「あれだな……修練の里パールダイヴァー付近に稀にしか生えないあれが何でここにあるんだか……」
 「パールダイヴァーなんて随分コアな場所に詳しいんだなお前?」

 カゲロウは訝し気な表情でこちらを見る。少し余計なことを喋ったかな。ちなみにパールダイヴァーとは魔大陸オルメタにある。

 「まぁな、友達とそこでちょこっと修行したことがあってな~」

 吸命の樹は触れれば快感だけでなく幻覚症状を発症する。生える要因も正確にはわかっていないが魔力の満ちる場所でないと生えることはない。

 「とりあえずこのあの岩陰に隠れようか。バニラ懐中電灯の電気を切ってくれ」
 「う、うん」
 
 岩陰に隠れて作戦を練る。

 「それでどうするつもりだ?」
 「あの樹は耐久力高いし魔法吸収する耐火性能に優れている。昔パールダイヴァーで百本超駆逐した時はけっこう骨が折れたからな~」

 グローブの上から触れても駄目で魔法も吸収……当時魔族からも凄い嫌われていたのを思い出すな。ここもだがその吸収を超えることのできる、神魔法と呼ばれる魔法の使用ができない場所だった為にとても苦労した。

 「百本駆逐って……まぁいい、方法はあるのか?」
 「ああ、そこは問題ないが邪魔が多いな……」

 そう、下で働かされている奴らも助けないとだからな。

 「不味い、あれが始まるぞ!」

 樹の前に人が立たされ後ろで剣を突きつけられている。

 あれはまさか……

 男はそのまま押し出され樹に手を触れた。

 「バニラ!」

 バニラの顔を掴んでそのまま自分の胸で覆い隠す。人が死ぬ姿を見せるのは早いだろう。

 「ち、ちょっと!」
 「いいから。トラウマをお前に残しちゃいけねぇんだ」
 「あっちゃ……」
 
 樹に触れた男は一分も経たないうちにそのまま生命力を吸収され、砂漠で干からびて死んだような死体となった。すると樹が光輝く。

 一体あいつら何をする気なんだ?

 「あれは……」
 
 今度は偉そうな男が樹の前まで行き何やら話を始めた。

 「あいつは?」
 「あれはゴールディッヒ・ハインツ……ここの領主さ」

 あいつがあのボケナスの父親か……親が親なら子も子ってわけだな。

 「これは偉大なる神獣チュウリッヒを復活する為の儀式……生命力が満たされこの実が宿る時……チューリッヒは復活するのだ!」

 チューリッヒ……どっかで聞いたような……思い出せん……

 「さぁ残りの者もこの樹に触れるのだ!」
 「ヒッ、ヒィィィィ!」

 今のを見て発狂したのか奇声を上げて逃げ出そうとする。

 「捕らえよ!」

 奇声を上げたその男もすぐに捕まり樹の前に連れて行かれる。

 「これはダーレー教の神の信託……お前達は借金もあり一生をここで過ごす言わば負け組!だが神はそんなお前達に苦しみから解放させてやろうといっている。いわばこれは苦しみからの解放なのだ!」

 全く何を戯けたことを言ってやがる……見てらんねんぇな。

 「いくぞカゲロウ!俺のサポートを頼む!」
 「オーケーだ!」
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