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1章

21話:イラついたんで殴ります。

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 「そこの綺麗な女だ!」

 一向に無視を続けるとわざわざこちらまでやってきたのだ。

 「おい女!名は?」
 「答える義理はないわね~」

 凄く嫌そうな顔で仕方なく受け答えをする。

 すっごい不機嫌ですわ……まじ怖いっす。

 「俺はこの街の次期当主であるミックス・ハインツだ。喜べお前を私の嫁にしてやろう!」
 「聞いてないわ。私の旦那はそこにいる彼一人……顔も見たくないから消えてちょうだい!」

 街の領主の息子相手にいきなりこれだ……まぁ俺が立花でも同じこと言うだろうが。

 「ならこの男を排除するとしよう。おいお前消えろ!」
 「あっ!?」

 こいつマジでキチガイか?んなこと言って消える馬鹿がどこにいんだよ。

 「ふむ。我に逆らえばどうなるか……この周りの人間の顔を見てみろ?」

 確かにみな目をそらしており中には恐怖の表情を見える者もいるな。

 「で?だからどうした?」
 「なるほど……我の前でそんな無礼な態度とは……おい!」

 何人かの護衛がこちらに来る。
 
 はぁ~正直関わりたくない……でもボコしたい気持ちがそれを上回ったわ……

 「お前は我を怒らせた……少し痛い目を見てもら……ガハッ……」
 「ごちゃごちゃうっせんだよ!親の権力振り回して何が強さなんだ?あっ!」

 その場で崩れ落ちる。全く不快なボケナス野郎だ。

 「若!」
 「貴様!」

 すると護衛がこちらに襲いかかってくるので、店の被害が最小限になるよう急所を狙う。

 「遅い……」

 パンチを避け、そのまま首に攻撃をかわし意識を断つ。

 「はぁぁぁぁ!」

 続いて向かってきたもう一人も首を狙い、そのままノックアウトだ。

 「あとは?あんたらまだやる?」
 
 護衛共はそれを見てビビったのか、怖気づいた様子だ。

 「てめぇも人様に迷惑かけないよう、マナーをしっかり学んでから来るんだな!」
 「おのれぇ……覚えていろ……貴様の顔しっかり覚えたぞ!」

 ミックスはこちらを睨みつけたまま、部下と共に逃げるように店を去っていった。

 「すまんな……うるさくして迷惑かけたな」

 頭を軽く下げると周りからは拍手が上がり騒ぎ始めた。客の顔見たらざまぁみろって感じだし、内心はみなイライラを募らせていたようだ。店主がこちらにやって来る。

 「ありがとうございます!助かりました」
 「ハハッ気にすんな。ああいうお客は同じ客として迷惑だからな~当然のことをしたまでよ」

 あまり目立ちたくはないがこういうのも悪くはないな。

 「フフッ、格好良かったわよ~」

 立花はこっちを見て微笑む。どうやら機嫌は元に戻ったようで何よりだな。

 「ハハッ、ウザくてボコしたくなっちまったよ~」
 「私の代わりにありがとう~」


 ◇


 食事を済ませ店を出ようとする時、店主から忠告を頂いた。

 「だがあの男はこの街の領主の息子です……ここを出た方がいいかと」
 「ああ冒険者だしそのうち出るから大丈夫さ」
 「そうですか。いずれにせよ気をつけてください……」

 どうやら評判悪いことに加えて恐れられているみたいだな。シルキーサリヴァンのとこ行って聞いておくか。

 「一回ギルドに戻るか?」
 「そうね……少し気になることもあるし」

 歩いてギルドに戻ろうとするとばったりさっき助けた女を見かけた。

 「おい立花」
 「ええ、今度はこっちが捕まえましょうか~」

 裏路地に入るバニラを追う。キョロキョロしながら入っていくが捕まるのを警戒しているのだろう。俺達も気配を消して距離を縮める。

 「後はここを飛び越えて……」
 「脱走か?」
 「ヒヤァッ!」

 裏路地の行き止まりの地点で立花が腕を掴み捉える。

 「こんにちは~」
 「あ、あんた達は!」
 「ちょいと話をしに来たぜ~」
 「あ、あんた達に話すことなんか……」

 すると立花は収納空間からいくつかの洋服を出す。

 「これに着替えなさい!話はそれからよ」
 「俺は後ろ向いて、人来ないか見てるから早くな~」

 見ると立花に殺されるから当然見ないが、服を脱ぐ音が聞こえる。今下着姿かななんて想像しちゃう自分がいるが、今立花に顔を見られたら一発アウトだ。

 「終わったわ」

 後ろを向くこと数分無事着替え終わったようだ。

 「さて服代の代わりに情報提供してもらおうかね~」
 「あんた達は一体……」
 「安心しなさい、たぶんあなたの力になれるわ」

 
 ◇


 予め取っておいた宿に戻り、バニラから詳しい話を聞いた。なんでもバニラは父親の借金の形に公爵家のメイドになったらしく、手にリングが嵌められていた。人間を奴隷にする行為は禁止されているの奴隷ではないが、このリングをつけている限りは街を出ることが出来ないらしく、出ようとするとピコピコと音がするとのことだ。

 「それで抜け出した理由は?」
 「最近迫ってくるようになったの……私まだ十五歳だし流石にあれだから抜け出そうと思って……」

 借金の形に奴隷となった女性をコレクションとして引き連れており、何人もの女性が被害に合っているらしい。

 「あと男達はお屋敷の地下でなんかの作業やってるんだけど、そのまま行方知れずになるのもいるし……」

 炭鉱でもあるんか?何にせよ危険なにおいがプンプンだ。あのハゲは一体何をしてるんだと言わんばかりだな。

 「それでお前はどうしたいんだ?」
 「私は約束の五年働いたのに、利子があるからもう五年とか言われたわ……」
 「それはお前さんの体を堪能したいから、難癖つけて引き延ばそうとしているんだろうな~」

 おそらく他のメイドも同様の理由だろうな。クズ野郎の上等手段ではあるがな。

 「それで立花こいつどうするよ……」
 「そうね……冒険者にでも加入させて街を出ましょうか~」
 「だな、明日にでもギルドで申請すればいいか」
 「でも私このリングが……」

 確か街を出ようとすると反応するんだったな……

 「立花、こいつに溶岩にも耐える超高温耐久のバリアでもかけてくれないか?」
 「ええ」

 バニラの体を覆うように膜を貼る。

 「それじゃあ……」

 魔神の能力で手から高温の熱を発生させることが出来る。それこそ溶岩よりも熱い温度にすることが出来るのだ。腕輪に触れ、手に熱を込める。

「えっ……」

 長さ数センチ、厚さ数ミリのそのリングがすぐに溶け出した。触れているリングの二か所のみに熱を込めたことで、その二か所がある程度溶け出した段階でリングは外れた。

 「凄い……」
 「バリアがなきゃお前は大火傷じゃすまなかったがな~」
 「二人とも実はすごい人達?」
 「まぁそれなりだな~」

 世界最強クラスと自負しているよ。まぁ言わないがな。

 「いや普通に凄いでしょ……でもこれでもうさようなら出来るわ~あの話もあるし」
 「あの話?」
 「よくわからないんだけど吸命の樹とかいうのが育ち終わって、神獣召喚なんて言ってたのよ。まぁ危険な臭いしかしないんだけどね~」
 「「えっ……」」

 それはちょっとマズイやつだぞ。
 確か吸命の樹ってのは、近づいた触れた者の生命力を吸収するっていうやつで、触れていると凄い気持ちよくなるから、通称安楽死の樹なんて言われていてとても危険だ。昔絶滅に追い込んだはずだがまだ残っていたとは……

 「立花……あれもそうだが、それで神獣ってのもちょっと気になる話だな……」
 「ええ……調査する必要があるかもしれないわね……」
 「まさかあんた達あそこに行くんじゃ……」

 当然だ……それにわざわざ向こうからお出迎えのようだしな。

 「当然!お前も中の道案内してもらうぜ~」
 「えっ?私?嫌よ……折角自由になったのに……」
 「フフッ、でももうこの宿囲まれているわ~」

 どこでつけられていたのか見当がつかないな。あのリングにそういう機能がついていたと考えるのが妥当だろう。少し迂闊ではあったな。

 「立花、お前はギルドに戻れ」
 「ええ、気をつけてね~」

 立花はその場で転移魔法を展開しその場を離れた。
 
 「ちょっと私は!?ねぇ~」
 
 あたふたしているバニラを連れて部屋を出た。
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