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1章

8話:別れ

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 「こいつは……」

 ステータスを見るとえぐいことがわかり菱田達も顔色が変わる。
 タピットはこの魔物のことを知っていたのかより顔が青ざめていく。

 鉄巨人
レベル100
種族:魔法生物
攻撃:15000
防御:16000
魔法攻撃:100
魔法防御:12000
素早さ:8000
魔力:8000
固有スキル:剛烈剣

 おっ、骨のある魔物や~

 「みんな逃げろ!総員撤退だ。こいつは本でしかみたことないが確かAA級の魔物だ……」

 タピットのその言葉で全員が悲鳴をあげ撤退する。

 腕慣らしにはちょうどいいな。
 全員撤退したらやるか。

 宝箱から離れて出現したため三人もすぐに逃げられる距離にあったのでそのまま離れた。

 まぁ奴らが死のうが生きようがどっちでもいいがな。

 「うわっ、こっちもだ!」
 「助けて!」

 百四十三層に戻る方向にもう一体の鉄巨人が現れる、どうやら簡単には行かせてくれないようだな。

 「マジか……」

 鉄巨人に挟まれ、やむを得ない形で応戦することになったため悲鳴を上げて動揺している生徒が多数だ。

 俺?
 もうテンションアゲアゲっすわ~

 タピットが引き連れている精鋭の騎士団員達もみな青ざめた顔をしている。
 どうしようかと考えていたらタピットだけは冷静でありみんなに指示をだした。

 「鉄巨人を二体ともこちら側に引き寄せれば……よし俺と菱田がもう一体をそしてもう一体を嶋田と木幡が引き寄せて退路を作る。そしてある程度二体を同じ場所に引き寄せたとこで橋本の粘着床で足止めて俺達も撤退だ。魔法等の遠距離攻撃ができる者はできる限りの支援をするんだ、遠距離攻撃が不得意だったりできないものは鉄巨人二体を引き付けた時点で上の階に撤退してくれ」

 タピットの指示のもとそれぞれ二人で一体ずつ鉄巨人を引き寄せ二体を同じ所に向かわす。
 そして攻撃が来るところで菱田の異能である攻撃破壊を鉄巨人にかける。
 これは自身で直接、もしくは手にとる武器で触れた相手の攻撃力を一時的にダウンさせる異能だ。

 「いくぜ!」

 菱田は攻撃破壊を一体は引き付ける段階でかけもう一体は橋本の異能である粘着床で二体の動きが止まった段階でかけた。
 橋本の異能である粘着床は任意に指定した場所をネバネバした床に変えて動きを止める異能だ。

 「よし、いいぞ菱田」
 「タピットさんがあいつの攻撃をうまくさばいてくれたおかげだぜ」
 「菱田こそいい動きだったぞ。後でお説教だが今はそんなこと言ってられないな」
 「へ、へい……」

 菱田も今回ばかりは自身の非を認めているのか顔にあまり覇気がない。
 嶋田と木幡もうまく誘導することに成功させており何とか二体を同じ位置に移動させかつ動きを止めることに成功した。

 その後にくる二体の鉄巨人の剣の攻撃を木幡のカウンターシールドで構える。
 だがタピットさんも少し甘いな。

 「ラ・スロウ」

 やつらとてそんな甘くはない、相手のスピードゆっくりにする魔法をこっそりかける。
 スピードが落ちればあの剣を振り下ろす速度も下がり攻撃力もダウンする。

 「よし!」

 木幡のカウンターシールドは鉄巨人に攻撃の一部を跳ね返させ鉄巨人をぐらつかせた。
 カウンターシールドは広範囲にシールドをはることができさらにそのシールドが受けるダメージを跳ね返す異能だ。
 もっとも菱田の攻撃破壊と俺の魔法がなければシールドはダメージ負荷で貫通していたことは間違いない。
 これは菱田の攻撃破壊のダウン割合と木幡のシールドの防御力、そして鉄巨人の攻撃力を考え耐えられるとふんでタピットが瞬時に判断した作戦だった。
 まぁ爪が甘かったがな。

 作戦はうまくいきぐらつかせたとこで再び橋本が粘着床を発動させ身動きをとれないようにした所で四人が鉄巨人のもとを離れる。

 「よし撤退だ」

 全員で四十五人いるこの部隊を無事撤退させること、タピットはそれを無事達成させることだった。
 ここで誰かが死ねば確実にトラウマになるからだ。
 この先のことを考えればそれは絶対に避けないといけないことだった

 「月島、杉原聞こえるか?」

 勇者カードを通じて二人に話しかける。

 「うん、今みんなを誘導して上の階に逃がしてる」
 「そうか、なら引き続き頼む」
 「周平君は?早くこっち来ないと雪が心配しちゃうわ」
 「それは美里ちゃんもでしょ!」
 「お前等な……」

 今そんなコントしてる暇じゃないぞ。

 「まぁ先行ってくれ」
 「周平君は?」
 「試したいことがあるから残る」
 「「ええっ~」」
 「まぁ心配するな~」

 このステータスだ……負ける要素はない。
 さてどう料理するかね~

 タピット達と一緒に前にきてしまったせいか上の階に撤退することができなかったのだ。
 でもやっと鉄巨人の動きが止まって撤退が始まったのでこのまま流れにのって全員逃げられそうだ。

 「うんっ?」

 体が麻痺する感覚が俺にはしる、誰か俺に魔法をかけた奴がいるな。
 だが魔法が飛び交ってて誰かはわからんな……ワザとかかったふりでもしておくか。

 このまま俺を痺れさせて殺そうってか……全く物騒だね~

 動けない振りをしていると俺に向かって援護射撃の魔法が飛んできた。
 おそらく鉄巨人にあてるつもりの魔法だったのかもしれないがこの麻痺といい俺を狙ったのか?
 真実はわからないがおそらく後者だろうと思う。
 まぁこちらとしては好都合だしそのまま飛ばされたフリして鉄巨人の方向に飛んでいく。

 今の俺の演技力、アカデミー男優賞とれるかもしれんな。

 「むっ……」

 立ち上がりそこから離れようとするが立ちあがった瞬間またも狙ったように魔法弾が被弾しさらに鉄巨人の近くへと飛ばされた。
 
 好都合だが露骨だね~
 しかし魔法が飛びかかっててわからんな、パッと見た感じ何人かには絞れたがな。

 「周平君!」

 月島が叫び今にもこちらに助けに来そうな勢いだ。
 杉原もいるしまさかこっちまで来たのか。

 「こっそり殺りたかったんだがな……」

 鉄巨人の攻撃が届きそうな範囲にいる俺を野放しにすることなく大剣が俺に向けられる。
 
 来いよ、遊んでやるよ!

 「あなたを死なせません!」

 身構えてた瞬間、誰かがこちらに飛び出し俺ごと押し倒したのだ。

 「玲奈先生!?」

 俺を守ったのは玲奈先生だ、こんな時でも俺は玲奈先生の胸が自分の顔に当たっていることに興奮を覚えていた。

 「あなたを死なせませんよ神山君!」

 いや死ぬ気はないんだが……
 
 俺達は立ち上がり鉄巨人と距離をとる。

 「先生何してんだよ、俺なんかかばって命の無駄使いなんかしないでくれよ!」

 そんなことを言った玲奈先生は俺の頬を引っぱたいた。

 「先生!?」
 「あ、あなたは私の大事な生徒です、私はこの世界にきてから、いや来る前からあなたのことを守ってあげられなかった……教師失格です……」

 一匹狼ってわけじゃないが単独行動が多かったからな、前のあのこともあって玲奈先生はそのことをずっと後悔していたのだろう。
 でも玲奈先生もこの世界に適応するために苦労していた……この一ヶ月玲奈先生とはあまり話していないが俺を気遣ってくれたことは何度もあった。

 「先生、ありがとうな。あの事件のことも月島や杉原同様ずっと俺をかばってくれてたな」
 「ふふっ、あなたがあんなことをするわけないのは明白です、その話はここを脱出した後にしましょうか」

 先生来なきゃ今頃あいつらミンチにしてるんだがな。
 感動的なシーンだし良しとするか。

 鉄巨人とは間合いをとったが百四十三層側とは逆側にいるし鉄巨人は今もこちらも見ている。

 「先生、俺が引き付けるから異能で神山を連れて戻ってくるんだ!」

 向こうから菱田の声が聞こえる、玲奈先生がこっちにきたから撤退できなかったのだろう。

 「神山君、私の異能であるターボギア(B)であそこを抜けますので手を絶対に離さないでください」

 玲奈先生の異能は一時的に俊足で動くことができる異能だ。
 能力差のある俺なら引っ張りながら高速移動することも可能だろう。

 「さて行きましょう!」

 玲奈先生が俺の手を握り準備をし、月島や杉原もそれを心配しながらこちらを見る。
 
 マジで大丈夫だから心配しないでほしいぜ。

 「行きます」

 玲奈先生が高速移動した直後のことだ。

 二人して体がマヒする感覚に襲われ高速移動が中途半端に終わり俺は玲奈先生から離れ吹き飛ばれ、玲奈先生も足をくじいてしまった。

 また邪魔したんか……俺はいいけど先生まで巻き込むとか穏やかじゃねぇな……

 俺は月島達の方向を見てその目を疑った。
 そうか俺がこんな目になって満面の笑みを浮かべるクソったれの存在がいたんだと確信する。
 今の麻痺もさっきの麻痺も連続被弾した魔法弾もだ意図的に仕組んだわけだ。
 
 効いてないのに俺のヘイトだけ上げてご苦労なこった。

 「玲奈先生!」

 叫びこちらに来ようとする菱田とそれを止めるタピットが目に映る。

 「そうか……玲奈先生!」

 玲奈先生は足を挫き身動きがとれないでいた。

 菱田達を警戒している一体の鉄巨人は剣で大きな竜巻を起こし向こう側の視界が遮断される。

 「チッ前が……」

 そんな中もう一体の鉄巨人は玲奈先生に向かい剣を振るおうとする。

 「不味い……」

 その時俺の目の前に金髪の男の幻覚が見えた。
 夢で何度も見た男が俺に何か言っているのだ。

 「何なんだよ……今急ぎだぞ!」

 やがてその声は俺の耳に響いてきた。

 「目覚めよ……」

 目覚めよだ?わけわかんねぇ……
 その声は何度も響き俺は頭痛に襲われる。
 幻覚の男は玲奈先生を守れと言っているようにも見える。

 いやお前に邪魔されてんだぞクソっ……

 「神山君私のことはいいから逃げて……」

 鉄巨人の剣が振り落とされる。
 この人にはあの時の恩がある、取り合えず直撃喰らってもこの防御力なら大丈夫だな。

 「おらぁぁぁ!」

 俺は無我夢中に突っ込むと剣は俺の体を斬り付けた。

 「グハッ……」

 血が噴き出る、思ったよりは平気だけど少し痛いぐらいだ、それよりも頭痛がヤバイ。
 玲奈先生はそれを見て気を失いかけている。

 その時だった。
 同時にまたも強烈な頭痛に襲われ脳内には様々な光景が脳内に入り込んできたのだ。
 その中には夢で見たような光景も入り込んできた。

 金髪の男の幻影は最後にこう語り消えた。

 「目覚めよ友よ……」

 激しい頭痛と共に記憶の一部と力を思い出したのだ。

 「うっ……頭が……そういうことかよ……」

 斬られた体を再生させ飛び上がり、鉄巨人を横の壁に打ち付けるように蹴り飛ばす。

 「神……山君?」

 玲奈先生は最後にそう言って意識を完全に消失した。

 クソ……頭がクラクラすんぜ……
 だがなんで俺にギフトがないのか理解したぜ。

 「はっ、いいね~」

 どうやら俺はこういう星の下に生まれていたようだ。
 玲奈先生を抱きかかえる。

 「さてあいつら倒すかね~」

 その瞬間後ろから気配を感じた。

 「うん?」

 後ろからもう一体の鉄巨人が現れ蹴り飛ばした鉄巨人と同じタイミングで剛烈剣を俺に向かって発動した。

 「ちっ……魔障壁!」

 魔法で結界を作り2体の剛烈剣による攻撃をガードする。

 「口ほどにもな……」

 直接効かなかったが地盤が緩んだのか俺の周りが崩れそれと同時に鉄巨人が放った竜巻の煙が晴れようとしていた。

 「これはまずいな……」

 見られるのは面倒だしとりあえず気を失った玲奈先生にバリアをかけた状態で風魔法を発動し菱田達の方向まで飛ばす。

 「どうやら俺はこの下に行くことを本能が求めているようだ」

 煙が完全に晴れると菱田達がこちらを見る。
 玲奈先生は無事向こうに飛んでくれたようだ。

 「よし、後はこのまま落ちるだけか……」

 迷宮は崩れても一定時間したら再生する特性を持っているのでもう俺を追ってくることはないだろう。
 崩れ落ちる中向こうを見ると泣き叫ぶ月島がいた。
 あそこで会話すると通信しているのがバレるしテレパシーで伝えるか。

 (月島、泣くな!ちょいと下まで行くだけだ)
 (えっ……)
 (どうやら俺を殺したい奴がいるようだな、そこで声を出すと通信してるのがバレるからテレパシーで伝えるぞ)
 
 まったく……あの時みたいに泣くんじゃねぇよ……

 (大丈夫なの?)
 (ああ、だから杉原にも言っておいてくれ)
 (わ、わかった……絶対戻って来るんだからね)
 (約束だ!)

 すまんな、なんとなくだが俺はこの世界に来た意味をやっと理解した、今そっちに戻ってもお前らとは歩くことはできない。

 とりあえずこのずっと下に俺を呼んでいる何かがあるからそれを確かめてくるか……

 そしてまた目に入った満面の笑みを浮かべるクラスメイト……俺はそれを見てから一つの確信を得て下へと落ちた。

 もうクラスメイトは普通ではない……力を得た人間は何をするかわからないってことか……

 そのまま下へと落ちていったのだ。


 ◇



 周平が崖から落ちるのを確認したクラスメイトや騎士団メンバーは撤退しようとしていた。

 「周平君……」

 だが雪は周平が落ちるその姿を見て心配そうに下を眺めた、自分もそこに飛び込めば周平の後を追えるのではと考えていた。

 「月島逃げるんだ、これ以上尊い命を減らすわけにはいかない!」

 嶋田はそんな月島の手を引っ張る。
 
 「離して、あそこに行けば周平君が……」

 ああは言ったものの心配だった。

 「雪駄目よ!」

 飛び込もうとする雪を杉原と嶋田が無理やり担ぎクラスメイトは上の階への脱出になんとか成功。
 クラス全員での迷宮攻略は大きな傷跡を残したのだった。
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