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ジム再び……怒りと疑問
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「何を……」
突然の出来事で思考が止まる、どうしてジムが私に……
少し考えるとあの事が目に浮かんだ。
そうか、わかってしまったのか……
「ジム、いきなりハグなんて変わった挨拶ね……」
「アンナ……僕は君に酷いことを……」
はっ!それは本当今更ね……
「今更もういいわ、それで何の用かしら?」
「メリダのお腹は……」
生まれてくるはずのない子供を楽しみにしていたジムの落胆……そして彼はそんなメリダに幻滅したのだろう。
「そうですか……」
「虚妄の宝って前に言ってたけどやっとわかったよ……」
「そう……」
このことを言わなかったのはジムへの罰……私のささかやな復讐はこれにて果たされた。
「僕はメリダにずっと……彼女は嘘をついていたんだ!」
「それは違うわ!メリダはお腹に子供がいると思っていた」
「でもいなかったんだ!メリダはあれだけ僕に期待させといて……」
裏切り……それは違う。
メリダはジムを愛してた……私からジムを奪う為に一度誘い行為をさせた。結果誕生しなかったものの、それが実ると彼女は信じたからこそお腹が膨らんだんだ。
「ジム気持ちは分かるけど落ち着いて……彼女はあなたを心の底から愛していた。それは間違いない!だから……」
「それはわかってる!でももう母はそんなメリダに失望して……」
ミラおばさんか……あの人は私との婚約を楽しみにしてくれていたからな……代わりに嫁になった女の子供が生まれなかったんじゃ当然だ。
「問題はあなたの気持ちでしょ!?今こそメリダの傍にいて力になるべきじゃないの!?」
「それは……」
「私に慰めてもらう前にまずメリダを慰めることね……」
ジムがどういう意図をもって私に抱き着いたのかわからないけど場合によって私はジムを許さない。
「ま、待つんだ」
「私は今忙しいの。Sランク冒険者として王都に向かわなくてはいけない」
「その話は聞いているよ。素直におめでとう……でもその授与式にはまだ時間があるはずだ」
そりゃ買い物してカリムやアニマへお土産を買う予定だからね。向こう着いたら質のいい宿に無料で泊まれるし。
「少し早めに行く予定なの。授与式が終わったらお見舞いに行くわ」
「虚妄の宝……君は知っていたんだよね?」
「だから?」
少し冷たく言い放った。
これはジムが私にしたことに対しての罰。これをもって今までのことを清算できるのだ。
「教えてくれれば僕は……」
「それは私を捨てたあなたへの罰……あなたが私にしたこと忘れてないでしょう?」
「あの時はもう気にしてないって……」
「ええ、その罰を与えたからね。そんな話より早くメリダの元に……」
このジムとのやり取りは私にとって不毛でしかなく、ただイライラが募るだけだった。
「君も来るべきだ……」
「はい!?」
「僕に罰を与えるのは構わないさ、だがメリダをここまで追い込むのはどうかと思う。その責任ぐらい取るべきだ!」
それを聞いた私は怒りを通り越して呆れてしまった。
責任?
あなたが生涯のパートナーとして、メリダを守る姿勢さえ見せればそこまで追い込まれることはなかった。私を捨ててまで選んだパートナーをないがしろにしようとする、あなたにそんなこと言う資格などない。
「わかったわ……ならメリダの元に連れて行きなさい」
正直もう関わるのすらウンザリだ。ただメリダが自殺なんかして私に婚約の申し出がまた来ては非常に面倒なことになる。カリムとのこの先を考えれば、大事になる前に解決するべきだろう。
「ありがとう、この馬車を使っても?」
「構わないわ、ただ時間をあまり取る気はないから」
「ああ」
◇
馬車で向かうこと小一時間、ジムのお屋敷へと辿り着いた。
先にミラおばさんに挨拶をしてくるということで一度ジムと別れた。
「あらアンナじゃない~」
「お久しぶりですミラおばさん」
「久しぶり、その節は本当に……」
「フフッ、もう気にしてませんよ~ミラおばさんは何も悪くないわ」
前に婚約破棄のことでミラおばさんが私の元に来て泣いて謝ってくれた時は私も涙を隠せなかった。
この人とは波長が合うのか第二の母親のように慕っていた。
「話は聞いているわ。冒険者になったと聞いた時は心配したけど、凄い活躍を聞いて自分のことのように喜んだのよ~」
「ありがとう~私もそうやって言ってくれると嬉しいわ」
「体には気を付けるんだよ。ところで今日は王都に行く前に私に色々話を聞かせにきてくれたのかい?」
「それは授与式終わってからお土産込みでの予定だったんだけど……」
ミラおばさんは首を傾げる。
「メリダの見舞いに来たの、だからいいかしら?」
するとミラおばさんは忌々しそうな表情を見せる。
「あの子には本当にガッカリよ……あの時私が息子を管理できなかったのが今でも悔いが残る」
メリダはおっとりしているのであまりミラおばさんとは合わないのだろう。私も母のメローム同様、というか前世から活発的なので波長が合うのだ。
「落ち着いてミラおばさん、メリダは悪くないの……彼女は頑張ってたと思う」
ここは何としてでもミラおばさんにメリダを認めさせる必要がある。
出来るだけよいしょだ。
「それはわかってるわ……でも子供がいないならもっと早く言って欲しかった……」
「おそらくそれは……おばさんには悪いけどジムにも問題があったんだと思うの」
「フフッ、遠慮はいらないわアンナ。それは私も感じ取ってること……そもそも婚約者いるのに子供をつくるような行為をする馬鹿息子だもの」
「そうね、取り合えずメリダの様子見て来るわ。立ち直って今度はしっかり子供をつくらないとだから!」
ミラおばさんとの話を済ませ、メリダのいる部屋へと向かった。
メリダの部屋は本来私に与えられるはずだった部屋だ。皮肉にも長年ここに通っただけに中の構造は全て理解していた。
「入るわよ」
ドアをノックし叩くとベッドで寝転んでいるメリダとジムがいた。
「来たかい」
「ええ、ジム少し外してくれないかしら?」
「わかった」
ジムを部屋から外し二人になるとメリダはこちらを見て訝しげな表情だ。
「サウンドアウト!」
これは部屋の外で盗み聞きをされない為の魔法で膜の中での会話が外に漏れないようにすることができる。
「電磁バリア!」
これは盗聴魔具やテレパシーを完全に遮断する魔法だ。
「久しぶりねアンナ」
「な、何しに来たの?ジムは私の……」
怯えた顔でそんな敵意むき出しにされても困るわね……というかそんな顔される筋合いもないんだけどね。ケアする相手にこんな敵意むき出しにされると損な役回りだ……
「あなたに会いに来たのよ」
「来ないで!」
近づくとメリダは拒否反応を見せる。
「落ち着きなさいメリダ」
「い、いや……来ないで……」
「落ち着いて」
「だ、誰かぁぁぁ!」
こうなるのが嫌で魔法をかけといたが正解だったようね。
「落ち着きなさい!」
「落ち着いてなんかいられないよ……私の赤ちゃんが嘘でミラおばさんや色んな人達から嫌なこと言われて……何よりジムは私に……それであなたが来たらもう私は……」
メリダはそのまま涙をポロポロ垂れ流す、ここまで追いこんだ周りも周りだけど守らないジムが最低ね。元婚約者のことここまで悪くは言いたくないけどまじクズ。
前世の魔法学校にいたもう一人の主席は、優しかったけど女の子を泣かせる奴に容赦はなかったわね。
あいつがここにいれば全て解決……というかあいつ怒らせて生きていられるかわからないけど。
「フフッ、まず涙を拭きなさい。あなたはジムの婚約者でしょ?誰が何と言おうとジムのパートナーはあなたよ」
「でもお腹の子供はいなかったの……妊娠したって言ってあなたとの婚約破棄させたのにいないんじゃもう……それにあなたは今王国の希望とまで言われる存在……ジムはきっとあなたに……」
私はカリムがいるしこんないざこざに巻き込まれたくない。
今更ジムとか勘弁してください……
「何でそう思うの?」
「ぐすん……だってあなたがここに来たのだってジムが無理やりでしょ?私に愛想つかしてあなたに慰めてもらおうとしなきゃあなたに接触しないだろうし……」
うわぁ~
この子当たってるわ……恐ろしい。
ちゃんとジムのこと熟知してるのね。
「そうね、でも私は純粋にあなたのケアを頼まれてここにきたのよ」
「ケア?」
「あなたの症状は想像妊娠といってね、赤ちゃんが生まれると思い込んでしまう病気だったの」
「そんな病気があるんだね……私がそうだったんだ……」
アンナが表情がさらに曇る。
このメカニズムについて前世で第三位のあいつが細かく解説してたけど、人間の体は凄く不思議らしい。
というかあいつ男のくせに何であんな女の体に詳しかったのか……まぁモテる男ではあったけど……
「それでこれは治るし子供も産めるようになるわ」
「えっ、それじゃあ赤ちゃんを産むことはできるの?」
「ええ」
「でも今は凄く体調が悪いしいつ治るか……」
どこまでネガティヴなんだこの子は……そもそももうお腹の膨らみがなくなった時点で治っているし。
「これはお腹の膨らみが収まって少し経てば元に戻るわ。今ここに来たのはあなたの体の調子を治す為よ」
前にその三位の男から女性の体の整え方についても教わった。
異性からそんなこと教わるのは非常に抵抗があったが、魔導士として常に体を万全にする為やむを得ずだった……今でもそれが役に立っているぐらいだから流石ではあるが。
「どうやって治すの?」
「そうね、まず体の不調だけど魔法であなたのお腹の状態を良くするわ」
まず癒しの魔法をかけ状態をよくする。次に自分のお腹に超音波を当て状態を確認してから、メリダのお腹に当てる。
同じ状態なら正常なはずだ。
「どう?」
「そうね、少し乱れはあるけど私とそんなに変わらないということは正常の範囲よ」
「なら子供は産めるの!?」
「ええ、ちゃんと産めるわ。あと想像妊娠は私から奪う為が故のプレシャーから起きたこと……もう誰もあなたのライバルはいないから安心して子供を作りなさい!」
私とカリムの為にも今度はちゃんと子供を作らせないといけないわ。
「うん……でもミラおばさんが……」
「さっき話したけど、ミラおばさんはあなたの努力を凄く評価しているわ。もっとガツガツいけばすぐに打ち解けられるから、そこは嫁入り故の試練よ」
ミラおばさんは前に私にもしジムがメリダを捨てて、あなたとよりを戻したいみたいなことを言ったら断ってくれと言われた。
それは私が受けたような屈辱をメリダにさせないようにと、安い女になるなという二つの意味が込められていた。
「わかった……色々ありがとう」
こういうのは精神的な面からくる不調だ。だからなるべく元気づけてやれば体調も自然と良くなる。
後でミラおばさんには言っておかないと。
「いいのよ。私の為でもあるしこうなった以上は面倒を見るわ」
カリムとはなるべく早く婚約しとこうかしら?
メリダの体調はともかく後はジム次第だ。
ちゃんと責任もってメリダを抱いてあげれば解決なんだけどそこが上手くいくか……
◇
「話は済んだわよ~」
「メリダは?……」
「落ち着いたわ」
「そうか……」
正直もう関わりたくない。そもそも私はこの件に関しては被害者だ。寝取った相手のケアなんかやる義務はない。
「私はもう行くわ」
脱線してしまったが私はこの後王都での授与式があるのだ。
「そうか……」
「それじゃあね……」
「せめてそこまで送っていくよ」
ジムに送られ敷地内を歩く。懐かしの庭を通り門まで向かっていく。
「ここを覚えているかい?」
「ええ」
よくあなたと遊んだお庭。座ってずっとお話をして夕方だったこともあったわ。
「懐かしいね~」
「でもメリダともよく遊んでいたんじゃない?」
「君ほどではないよ……」
今更どうでもいい事だが私の方が頻繁に会っていたし、彼女が入るスキはどこにあったのだろうか。確か幼馴染とは聞いていたが。
「メリダと僕の事だけど……本当は……」
何かを言いかけたがそれを無理やり制止する。
「それ以上の言葉は聞かないわ」
「えっ!」
「一応言うけど本当は君が好きだなんて言うんじゃないわよね?」
図星だったのかジムの表情は曇る。
「あなたはメリダを幸せにすればいいの!思い出は心の中に閉じておきなさい!」
「僕は君の事が好きなんだ!」
「ジム……」
ジムはそのまま私に抱き着こうとするので素早く魔法を展開する。
「何のつもり?」
「本当は僕は君を……」
ウンザリだった。私の体は自然と動きジムの顔を思いっきりはたいた。
パァン!
大きな音が響くその場に一瞬の静寂が訪れた。その一瞬がとても長く感じたのは私の気のせいなのだろう。抑え込んでいた何かが噴き出す。
「あんたいい加減にしなさいよ!」
「アンナ……」
「私とあなたはね……とっくに終わっているんだよ!」
爆発した怒りは沈下するまで収まることはない。全くジムは何なんだ……最後の良心だと思ってきたらこれだ。
「あんたメリダに失礼だと思わないの!?」
「そんなの承知さ……でも心の奥底にある本当の気持ちは……」
「それが失礼なのよ!」
何が心の奥底にある本当の気持ちだ。そんなもの何だろうとお前はメリダを選んだんだ。この事実はこの先どんなことがあっても一生変わることはない。その烙印は何があっても消えることはない。
「あんたは私と婚約をしていた。でも結婚間近でメリダと行為をしてあの騒ぎを起こしたの!」
「それはわかってる!」
「じゃあ何なの!メリダを愛してなかったなんて言うんじゃないでしょうね?」
「メリダのことは好きだ……君と同じぐらい僕を慕ってたし、君同様に可愛い」
呆れた。二股でもしたいとか言うんじゃないでしょうね。
「ならいいじゃない。婚約者が好きならメリダと仲良くやる!それで解決よ」
「君を忘れられないんだ!」
はっ……
ジムは一体何を言っているのだろうか。
「君の事が頭から離れないんだ……本来君と僕が婚約して結婚するはずだった……」
だからそれをあんたがぶち壊したんでしょうが!
「そうね……でも私はあなたと関係は持てないわ。あなた私を裏切ったし」
「それ違う!確かにメリダとの行為はその……」
それは違うってそれ自体が裏切りじゃない。何を言っているんだ。
「あなたが何と言おうと、どんな理由があろうと、メリダとそれをしたら私からしたら裏切りなの。言い訳とかこれ以上ガッカリさせないで!」
するとジムは何も言い返せなくなったのか黙りこむ。ここまで怒鳴ったのは久しぶりだ。思えばジムにここまで言ったのも初めてだった。
「ジム、お願いだからこれで終わりにして……」
「僕は……君を……」
「帰るわね……送ってくれてありがとう」
少しして落ち着きを取り戻すとジムはただ一言呟いた。
「偽りの関係……」
「えっ……」
「君ならわかってくれると思ってたよ……」
ジムはそれだけ言うと肩を落として屋敷に戻っていった。何が君ならわかってくれると思ってたよ! 全く調子のいい……
「もうこんな時間か……」
王都にいくのは明日になりそうね……
屋敷を出てギルドに近い場所で食事をとろうと、店に入ろうとする。
「あれアンナさん?」
「カリム?」
◇
「てっきり王都に向かったものだと思ってました」
「私もそのつもりだったんだけどねぇ……」
複雑な表情を見せてしまう。折角のカリムとの食事なのにこんな顔を見せてはいけないな。
「何か問題でもあったんですか?」
心配そうな顔でこちらを見る。
「ううん、大したことじゃないの~」
いけないわね。何か別の話題を振って……
「僕じゃまだ頼りないですか?」
「えっ……」
「まだまだ修行中ですけどいつかアンナさんの隣に立つつもりです!なので何か困ったことがあったら話して欲しいです!」
そんな真っすぐな瞳で言われると話さずにはいられないじゃないの~
「それがね……」
王都に行こうとして、ジムに呼び止められてからの経緯を話した。うんうんと聞いてくれたが元婚約者との話は正直聞かせたくはないが嘘もつきたくない。全て話終えると少し考えた様子を見せる。
少し早かったかしら
「なんかそれおかしい話ですね」
「でしょ!何今更馬鹿な事言ってるんだって話よね~」
「ハハッ、それもそうなんですけど僕がおかしいと思うのはそこじゃないです」
「えっ?」
カリムは神妙な顔つきに変わる。
「僕もジムさんのことは多少は知っています。王国騎士団主席入隊をして品行方正で誠実な人だとみんなが言いますし、僕もジムさんが在学中に何度かお世話になっています」
「そうね。確かにそれを考えると今回のジムはあまりにも男らしくなかったわ~」
「はい。そこで考えたのですがジムさんがアンナさんを口説くような発言をしたのは恐らく何かの意図があったのではないかと」
意図?そんなものはメリダの想像妊娠がわかって裏切られたショックに、昔婚約者だった私が恋しくなったからじゃ。
「それは私とよりを戻す為じゃないかしら?」
「そこはわかりかねますが口説いたのは別の理由かと」
「何でそう思うの?」
「だってそんなこと言ったらアンナさんが余計に怒るのは、向こうがわからない訳がないかと……」
そういえば……ジムはよくモテてて私と婚約してても、結婚してくださいなんて言われていた。そんな中で二番手でもいいのでなんて言ったのが何人かいた、その時物陰から見ていた私はどういう対応をするのか気になっていた。だがジムはこう言った。
未来のお嫁さんと決めた人がいるのに、そんなことをしたらそれは裏切り行為にあたるから僕は絶対にしない。そんな裏切り行為は、例え君に好意があっても絶対にやらない!
その時はそんなジム見て余計に惚れてしまった。いい人を婚約者に持ったと感心したし歓喜した。
うん?そんなジムが私にあんなこと何で言ったんだ?騎士道を貫くものとしてなんちゃらなんて良く言っていたはずだ。
「何かおかしいわね……」
「気付きましたか?」
「ええ!」
もしあれが本心じゃないとしたら……
「もしかしてジムの忘れられないってのは……」
「ああ……それは間違いなく本心だと思います!」
そこは本心なんかい~
「僕としては気持ちのいい話ではありませんがそうなるまでの過程に何かの亀裂があったのは間違いないでしょう~」
「というかあなたってそういう違和感とかに敏感よね?」
「はい、昔からそういうのにはとても敏感で……」
浮気調査とか凄い得意かも。もしかしたら冒険者よりも探偵の方が向いてるかもしれないわね。
「裏切り行為に変わりありませんが、そもそもの発端でジムさんに行為を迫ったのはメリダさんとみて間違いありませんね」
その場の勢いとかでやるなら私ととっくにやっているはずだし自分からメリダに迫るのは確かに考えににくいわね。これは前も考えたけどそういうことだろう。でも結局裏切りのクズだけど。
「ジムさんとメリダさんの婚約には裏があるのでしょう~」
カリムが少しニヤニヤした表情を見せる。どこか楽しそうだ。
「ふ~ん、随分楽しそうに語るわね?」
「いや、アンナさんとこうして話すのが楽しくて。それに初めて相談事ですし誠実に対応しないとなので!」
またこの子は……サラっと私がドキッとすること言うんだから。カリムは狙ってないのにこういう事やるのよね~
「そう……それで続けて」
「はい、今回ジムさんはアンナさんを家に連れていく必要があったのだと思います」
「それはメリダの治療の為に無理やりだったわ~」
「それはおそらくブラフかと」
「でもメリダの体の不調は本当だったわ~」
「それは本当でしょうし子供が生まれると信じていたのは間違いありません」
ということはメリダに合わせたのは真の目的ではなかったということになるわね。となると何が目的だったのかしら?メリダじゃなければジム自身ということになるけど。
「じゃあ何かしら……」
「僕も何が目的だったのかまではわかりません。ただジムさんは何かに気付いて欲しかったんじゃないかと思います」
「気付く?」
「はい。その話の流れだとジムさんは何かの変化に気付いて欲しかったんじゃないかと?おそらくアンナさんならわかってくれると思ったのでしょう」
何かに気付く……妙ね。何かあるなら口で伝えればいいと思うしそもそも私に何を求めていたのかしら。最後の言葉は何かしら?
偽りの関係と君ならわかってくれると思ってたってのは私との関係しゃないってことかしら?すると関係は偽物だからより戻してくれってこと?いやいやならそんな周りくどい事は言わないわ。何かに気付く……何かをしてほしい……助けてほしい……そうか!
「わかったわ!」
「わかったんですか!」
「おそらくジムは私に助けを求めていたのよ。それもSランク冒険者としての私の腕を見込んでね!」
ジムは私を裏切ったのは間違いない。だからよりを戻すことは死んでもしない。でも何か知ってほしい事があったんだ。
「真実を確かめに行くわ……」
もし助けを求めていたのだとしたら何かとても嫌な予感がする。何か手遅れになってしまってからでは遅い。何より真実を確かめる必要がある。
「フフッ、それがいいかと思います」
突然の出来事で思考が止まる、どうしてジムが私に……
少し考えるとあの事が目に浮かんだ。
そうか、わかってしまったのか……
「ジム、いきなりハグなんて変わった挨拶ね……」
「アンナ……僕は君に酷いことを……」
はっ!それは本当今更ね……
「今更もういいわ、それで何の用かしら?」
「メリダのお腹は……」
生まれてくるはずのない子供を楽しみにしていたジムの落胆……そして彼はそんなメリダに幻滅したのだろう。
「そうですか……」
「虚妄の宝って前に言ってたけどやっとわかったよ……」
「そう……」
このことを言わなかったのはジムへの罰……私のささかやな復讐はこれにて果たされた。
「僕はメリダにずっと……彼女は嘘をついていたんだ!」
「それは違うわ!メリダはお腹に子供がいると思っていた」
「でもいなかったんだ!メリダはあれだけ僕に期待させといて……」
裏切り……それは違う。
メリダはジムを愛してた……私からジムを奪う為に一度誘い行為をさせた。結果誕生しなかったものの、それが実ると彼女は信じたからこそお腹が膨らんだんだ。
「ジム気持ちは分かるけど落ち着いて……彼女はあなたを心の底から愛していた。それは間違いない!だから……」
「それはわかってる!でももう母はそんなメリダに失望して……」
ミラおばさんか……あの人は私との婚約を楽しみにしてくれていたからな……代わりに嫁になった女の子供が生まれなかったんじゃ当然だ。
「問題はあなたの気持ちでしょ!?今こそメリダの傍にいて力になるべきじゃないの!?」
「それは……」
「私に慰めてもらう前にまずメリダを慰めることね……」
ジムがどういう意図をもって私に抱き着いたのかわからないけど場合によって私はジムを許さない。
「ま、待つんだ」
「私は今忙しいの。Sランク冒険者として王都に向かわなくてはいけない」
「その話は聞いているよ。素直におめでとう……でもその授与式にはまだ時間があるはずだ」
そりゃ買い物してカリムやアニマへお土産を買う予定だからね。向こう着いたら質のいい宿に無料で泊まれるし。
「少し早めに行く予定なの。授与式が終わったらお見舞いに行くわ」
「虚妄の宝……君は知っていたんだよね?」
「だから?」
少し冷たく言い放った。
これはジムが私にしたことに対しての罰。これをもって今までのことを清算できるのだ。
「教えてくれれば僕は……」
「それは私を捨てたあなたへの罰……あなたが私にしたこと忘れてないでしょう?」
「あの時はもう気にしてないって……」
「ええ、その罰を与えたからね。そんな話より早くメリダの元に……」
このジムとのやり取りは私にとって不毛でしかなく、ただイライラが募るだけだった。
「君も来るべきだ……」
「はい!?」
「僕に罰を与えるのは構わないさ、だがメリダをここまで追い込むのはどうかと思う。その責任ぐらい取るべきだ!」
それを聞いた私は怒りを通り越して呆れてしまった。
責任?
あなたが生涯のパートナーとして、メリダを守る姿勢さえ見せればそこまで追い込まれることはなかった。私を捨ててまで選んだパートナーをないがしろにしようとする、あなたにそんなこと言う資格などない。
「わかったわ……ならメリダの元に連れて行きなさい」
正直もう関わるのすらウンザリだ。ただメリダが自殺なんかして私に婚約の申し出がまた来ては非常に面倒なことになる。カリムとのこの先を考えれば、大事になる前に解決するべきだろう。
「ありがとう、この馬車を使っても?」
「構わないわ、ただ時間をあまり取る気はないから」
「ああ」
◇
馬車で向かうこと小一時間、ジムのお屋敷へと辿り着いた。
先にミラおばさんに挨拶をしてくるということで一度ジムと別れた。
「あらアンナじゃない~」
「お久しぶりですミラおばさん」
「久しぶり、その節は本当に……」
「フフッ、もう気にしてませんよ~ミラおばさんは何も悪くないわ」
前に婚約破棄のことでミラおばさんが私の元に来て泣いて謝ってくれた時は私も涙を隠せなかった。
この人とは波長が合うのか第二の母親のように慕っていた。
「話は聞いているわ。冒険者になったと聞いた時は心配したけど、凄い活躍を聞いて自分のことのように喜んだのよ~」
「ありがとう~私もそうやって言ってくれると嬉しいわ」
「体には気を付けるんだよ。ところで今日は王都に行く前に私に色々話を聞かせにきてくれたのかい?」
「それは授与式終わってからお土産込みでの予定だったんだけど……」
ミラおばさんは首を傾げる。
「メリダの見舞いに来たの、だからいいかしら?」
するとミラおばさんは忌々しそうな表情を見せる。
「あの子には本当にガッカリよ……あの時私が息子を管理できなかったのが今でも悔いが残る」
メリダはおっとりしているのであまりミラおばさんとは合わないのだろう。私も母のメローム同様、というか前世から活発的なので波長が合うのだ。
「落ち着いてミラおばさん、メリダは悪くないの……彼女は頑張ってたと思う」
ここは何としてでもミラおばさんにメリダを認めさせる必要がある。
出来るだけよいしょだ。
「それはわかってるわ……でも子供がいないならもっと早く言って欲しかった……」
「おそらくそれは……おばさんには悪いけどジムにも問題があったんだと思うの」
「フフッ、遠慮はいらないわアンナ。それは私も感じ取ってること……そもそも婚約者いるのに子供をつくるような行為をする馬鹿息子だもの」
「そうね、取り合えずメリダの様子見て来るわ。立ち直って今度はしっかり子供をつくらないとだから!」
ミラおばさんとの話を済ませ、メリダのいる部屋へと向かった。
メリダの部屋は本来私に与えられるはずだった部屋だ。皮肉にも長年ここに通っただけに中の構造は全て理解していた。
「入るわよ」
ドアをノックし叩くとベッドで寝転んでいるメリダとジムがいた。
「来たかい」
「ええ、ジム少し外してくれないかしら?」
「わかった」
ジムを部屋から外し二人になるとメリダはこちらを見て訝しげな表情だ。
「サウンドアウト!」
これは部屋の外で盗み聞きをされない為の魔法で膜の中での会話が外に漏れないようにすることができる。
「電磁バリア!」
これは盗聴魔具やテレパシーを完全に遮断する魔法だ。
「久しぶりねアンナ」
「な、何しに来たの?ジムは私の……」
怯えた顔でそんな敵意むき出しにされても困るわね……というかそんな顔される筋合いもないんだけどね。ケアする相手にこんな敵意むき出しにされると損な役回りだ……
「あなたに会いに来たのよ」
「来ないで!」
近づくとメリダは拒否反応を見せる。
「落ち着きなさいメリダ」
「い、いや……来ないで……」
「落ち着いて」
「だ、誰かぁぁぁ!」
こうなるのが嫌で魔法をかけといたが正解だったようね。
「落ち着きなさい!」
「落ち着いてなんかいられないよ……私の赤ちゃんが嘘でミラおばさんや色んな人達から嫌なこと言われて……何よりジムは私に……それであなたが来たらもう私は……」
メリダはそのまま涙をポロポロ垂れ流す、ここまで追いこんだ周りも周りだけど守らないジムが最低ね。元婚約者のことここまで悪くは言いたくないけどまじクズ。
前世の魔法学校にいたもう一人の主席は、優しかったけど女の子を泣かせる奴に容赦はなかったわね。
あいつがここにいれば全て解決……というかあいつ怒らせて生きていられるかわからないけど。
「フフッ、まず涙を拭きなさい。あなたはジムの婚約者でしょ?誰が何と言おうとジムのパートナーはあなたよ」
「でもお腹の子供はいなかったの……妊娠したって言ってあなたとの婚約破棄させたのにいないんじゃもう……それにあなたは今王国の希望とまで言われる存在……ジムはきっとあなたに……」
私はカリムがいるしこんないざこざに巻き込まれたくない。
今更ジムとか勘弁してください……
「何でそう思うの?」
「ぐすん……だってあなたがここに来たのだってジムが無理やりでしょ?私に愛想つかしてあなたに慰めてもらおうとしなきゃあなたに接触しないだろうし……」
うわぁ~
この子当たってるわ……恐ろしい。
ちゃんとジムのこと熟知してるのね。
「そうね、でも私は純粋にあなたのケアを頼まれてここにきたのよ」
「ケア?」
「あなたの症状は想像妊娠といってね、赤ちゃんが生まれると思い込んでしまう病気だったの」
「そんな病気があるんだね……私がそうだったんだ……」
アンナが表情がさらに曇る。
このメカニズムについて前世で第三位のあいつが細かく解説してたけど、人間の体は凄く不思議らしい。
というかあいつ男のくせに何であんな女の体に詳しかったのか……まぁモテる男ではあったけど……
「それでこれは治るし子供も産めるようになるわ」
「えっ、それじゃあ赤ちゃんを産むことはできるの?」
「ええ」
「でも今は凄く体調が悪いしいつ治るか……」
どこまでネガティヴなんだこの子は……そもそももうお腹の膨らみがなくなった時点で治っているし。
「これはお腹の膨らみが収まって少し経てば元に戻るわ。今ここに来たのはあなたの体の調子を治す為よ」
前にその三位の男から女性の体の整え方についても教わった。
異性からそんなこと教わるのは非常に抵抗があったが、魔導士として常に体を万全にする為やむを得ずだった……今でもそれが役に立っているぐらいだから流石ではあるが。
「どうやって治すの?」
「そうね、まず体の不調だけど魔法であなたのお腹の状態を良くするわ」
まず癒しの魔法をかけ状態をよくする。次に自分のお腹に超音波を当て状態を確認してから、メリダのお腹に当てる。
同じ状態なら正常なはずだ。
「どう?」
「そうね、少し乱れはあるけど私とそんなに変わらないということは正常の範囲よ」
「なら子供は産めるの!?」
「ええ、ちゃんと産めるわ。あと想像妊娠は私から奪う為が故のプレシャーから起きたこと……もう誰もあなたのライバルはいないから安心して子供を作りなさい!」
私とカリムの為にも今度はちゃんと子供を作らせないといけないわ。
「うん……でもミラおばさんが……」
「さっき話したけど、ミラおばさんはあなたの努力を凄く評価しているわ。もっとガツガツいけばすぐに打ち解けられるから、そこは嫁入り故の試練よ」
ミラおばさんは前に私にもしジムがメリダを捨てて、あなたとよりを戻したいみたいなことを言ったら断ってくれと言われた。
それは私が受けたような屈辱をメリダにさせないようにと、安い女になるなという二つの意味が込められていた。
「わかった……色々ありがとう」
こういうのは精神的な面からくる不調だ。だからなるべく元気づけてやれば体調も自然と良くなる。
後でミラおばさんには言っておかないと。
「いいのよ。私の為でもあるしこうなった以上は面倒を見るわ」
カリムとはなるべく早く婚約しとこうかしら?
メリダの体調はともかく後はジム次第だ。
ちゃんと責任もってメリダを抱いてあげれば解決なんだけどそこが上手くいくか……
◇
「話は済んだわよ~」
「メリダは?……」
「落ち着いたわ」
「そうか……」
正直もう関わりたくない。そもそも私はこの件に関しては被害者だ。寝取った相手のケアなんかやる義務はない。
「私はもう行くわ」
脱線してしまったが私はこの後王都での授与式があるのだ。
「そうか……」
「それじゃあね……」
「せめてそこまで送っていくよ」
ジムに送られ敷地内を歩く。懐かしの庭を通り門まで向かっていく。
「ここを覚えているかい?」
「ええ」
よくあなたと遊んだお庭。座ってずっとお話をして夕方だったこともあったわ。
「懐かしいね~」
「でもメリダともよく遊んでいたんじゃない?」
「君ほどではないよ……」
今更どうでもいい事だが私の方が頻繁に会っていたし、彼女が入るスキはどこにあったのだろうか。確か幼馴染とは聞いていたが。
「メリダと僕の事だけど……本当は……」
何かを言いかけたがそれを無理やり制止する。
「それ以上の言葉は聞かないわ」
「えっ!」
「一応言うけど本当は君が好きだなんて言うんじゃないわよね?」
図星だったのかジムの表情は曇る。
「あなたはメリダを幸せにすればいいの!思い出は心の中に閉じておきなさい!」
「僕は君の事が好きなんだ!」
「ジム……」
ジムはそのまま私に抱き着こうとするので素早く魔法を展開する。
「何のつもり?」
「本当は僕は君を……」
ウンザリだった。私の体は自然と動きジムの顔を思いっきりはたいた。
パァン!
大きな音が響くその場に一瞬の静寂が訪れた。その一瞬がとても長く感じたのは私の気のせいなのだろう。抑え込んでいた何かが噴き出す。
「あんたいい加減にしなさいよ!」
「アンナ……」
「私とあなたはね……とっくに終わっているんだよ!」
爆発した怒りは沈下するまで収まることはない。全くジムは何なんだ……最後の良心だと思ってきたらこれだ。
「あんたメリダに失礼だと思わないの!?」
「そんなの承知さ……でも心の奥底にある本当の気持ちは……」
「それが失礼なのよ!」
何が心の奥底にある本当の気持ちだ。そんなもの何だろうとお前はメリダを選んだんだ。この事実はこの先どんなことがあっても一生変わることはない。その烙印は何があっても消えることはない。
「あんたは私と婚約をしていた。でも結婚間近でメリダと行為をしてあの騒ぎを起こしたの!」
「それはわかってる!」
「じゃあ何なの!メリダを愛してなかったなんて言うんじゃないでしょうね?」
「メリダのことは好きだ……君と同じぐらい僕を慕ってたし、君同様に可愛い」
呆れた。二股でもしたいとか言うんじゃないでしょうね。
「ならいいじゃない。婚約者が好きならメリダと仲良くやる!それで解決よ」
「君を忘れられないんだ!」
はっ……
ジムは一体何を言っているのだろうか。
「君の事が頭から離れないんだ……本来君と僕が婚約して結婚するはずだった……」
だからそれをあんたがぶち壊したんでしょうが!
「そうね……でも私はあなたと関係は持てないわ。あなた私を裏切ったし」
「それ違う!確かにメリダとの行為はその……」
それは違うってそれ自体が裏切りじゃない。何を言っているんだ。
「あなたが何と言おうと、どんな理由があろうと、メリダとそれをしたら私からしたら裏切りなの。言い訳とかこれ以上ガッカリさせないで!」
するとジムは何も言い返せなくなったのか黙りこむ。ここまで怒鳴ったのは久しぶりだ。思えばジムにここまで言ったのも初めてだった。
「ジム、お願いだからこれで終わりにして……」
「僕は……君を……」
「帰るわね……送ってくれてありがとう」
少しして落ち着きを取り戻すとジムはただ一言呟いた。
「偽りの関係……」
「えっ……」
「君ならわかってくれると思ってたよ……」
ジムはそれだけ言うと肩を落として屋敷に戻っていった。何が君ならわかってくれると思ってたよ! 全く調子のいい……
「もうこんな時間か……」
王都にいくのは明日になりそうね……
屋敷を出てギルドに近い場所で食事をとろうと、店に入ろうとする。
「あれアンナさん?」
「カリム?」
◇
「てっきり王都に向かったものだと思ってました」
「私もそのつもりだったんだけどねぇ……」
複雑な表情を見せてしまう。折角のカリムとの食事なのにこんな顔を見せてはいけないな。
「何か問題でもあったんですか?」
心配そうな顔でこちらを見る。
「ううん、大したことじゃないの~」
いけないわね。何か別の話題を振って……
「僕じゃまだ頼りないですか?」
「えっ……」
「まだまだ修行中ですけどいつかアンナさんの隣に立つつもりです!なので何か困ったことがあったら話して欲しいです!」
そんな真っすぐな瞳で言われると話さずにはいられないじゃないの~
「それがね……」
王都に行こうとして、ジムに呼び止められてからの経緯を話した。うんうんと聞いてくれたが元婚約者との話は正直聞かせたくはないが嘘もつきたくない。全て話終えると少し考えた様子を見せる。
少し早かったかしら
「なんかそれおかしい話ですね」
「でしょ!何今更馬鹿な事言ってるんだって話よね~」
「ハハッ、それもそうなんですけど僕がおかしいと思うのはそこじゃないです」
「えっ?」
カリムは神妙な顔つきに変わる。
「僕もジムさんのことは多少は知っています。王国騎士団主席入隊をして品行方正で誠実な人だとみんなが言いますし、僕もジムさんが在学中に何度かお世話になっています」
「そうね。確かにそれを考えると今回のジムはあまりにも男らしくなかったわ~」
「はい。そこで考えたのですがジムさんがアンナさんを口説くような発言をしたのは恐らく何かの意図があったのではないかと」
意図?そんなものはメリダの想像妊娠がわかって裏切られたショックに、昔婚約者だった私が恋しくなったからじゃ。
「それは私とよりを戻す為じゃないかしら?」
「そこはわかりかねますが口説いたのは別の理由かと」
「何でそう思うの?」
「だってそんなこと言ったらアンナさんが余計に怒るのは、向こうがわからない訳がないかと……」
そういえば……ジムはよくモテてて私と婚約してても、結婚してくださいなんて言われていた。そんな中で二番手でもいいのでなんて言ったのが何人かいた、その時物陰から見ていた私はどういう対応をするのか気になっていた。だがジムはこう言った。
未来のお嫁さんと決めた人がいるのに、そんなことをしたらそれは裏切り行為にあたるから僕は絶対にしない。そんな裏切り行為は、例え君に好意があっても絶対にやらない!
その時はそんなジム見て余計に惚れてしまった。いい人を婚約者に持ったと感心したし歓喜した。
うん?そんなジムが私にあんなこと何で言ったんだ?騎士道を貫くものとしてなんちゃらなんて良く言っていたはずだ。
「何かおかしいわね……」
「気付きましたか?」
「ええ!」
もしあれが本心じゃないとしたら……
「もしかしてジムの忘れられないってのは……」
「ああ……それは間違いなく本心だと思います!」
そこは本心なんかい~
「僕としては気持ちのいい話ではありませんがそうなるまでの過程に何かの亀裂があったのは間違いないでしょう~」
「というかあなたってそういう違和感とかに敏感よね?」
「はい、昔からそういうのにはとても敏感で……」
浮気調査とか凄い得意かも。もしかしたら冒険者よりも探偵の方が向いてるかもしれないわね。
「裏切り行為に変わりありませんが、そもそもの発端でジムさんに行為を迫ったのはメリダさんとみて間違いありませんね」
その場の勢いとかでやるなら私ととっくにやっているはずだし自分からメリダに迫るのは確かに考えににくいわね。これは前も考えたけどそういうことだろう。でも結局裏切りのクズだけど。
「ジムさんとメリダさんの婚約には裏があるのでしょう~」
カリムが少しニヤニヤした表情を見せる。どこか楽しそうだ。
「ふ~ん、随分楽しそうに語るわね?」
「いや、アンナさんとこうして話すのが楽しくて。それに初めて相談事ですし誠実に対応しないとなので!」
またこの子は……サラっと私がドキッとすること言うんだから。カリムは狙ってないのにこういう事やるのよね~
「そう……それで続けて」
「はい、今回ジムさんはアンナさんを家に連れていく必要があったのだと思います」
「それはメリダの治療の為に無理やりだったわ~」
「それはおそらくブラフかと」
「でもメリダの体の不調は本当だったわ~」
「それは本当でしょうし子供が生まれると信じていたのは間違いありません」
ということはメリダに合わせたのは真の目的ではなかったということになるわね。となると何が目的だったのかしら?メリダじゃなければジム自身ということになるけど。
「じゃあ何かしら……」
「僕も何が目的だったのかまではわかりません。ただジムさんは何かに気付いて欲しかったんじゃないかと思います」
「気付く?」
「はい。その話の流れだとジムさんは何かの変化に気付いて欲しかったんじゃないかと?おそらくアンナさんならわかってくれると思ったのでしょう」
何かに気付く……妙ね。何かあるなら口で伝えればいいと思うしそもそも私に何を求めていたのかしら。最後の言葉は何かしら?
偽りの関係と君ならわかってくれると思ってたってのは私との関係しゃないってことかしら?すると関係は偽物だからより戻してくれってこと?いやいやならそんな周りくどい事は言わないわ。何かに気付く……何かをしてほしい……助けてほしい……そうか!
「わかったわ!」
「わかったんですか!」
「おそらくジムは私に助けを求めていたのよ。それもSランク冒険者としての私の腕を見込んでね!」
ジムは私を裏切ったのは間違いない。だからよりを戻すことは死んでもしない。でも何か知ってほしい事があったんだ。
「真実を確かめに行くわ……」
もし助けを求めていたのだとしたら何かとても嫌な予感がする。何か手遅れになってしまってからでは遅い。何より真実を確かめる必要がある。
「フフッ、それがいいかと思います」
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これからも楽しみにしてます
感想ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。