61 / 109
▪日々徒然【三桁切るまでの記録】
【画像有】冷凍スパゲッティ。
しおりを挟む「じゃあこの住所に行けばいいんだな」
「あぁ、頼む」
翠は少し苦し気に熱い吐息を吐いて、後部座席に身体を深く預けた。
やはり熱が高く調子が出ないようだ。
手っ取り早く用事を済ませて風空寺に戻ってやりたいと思って、アクセルを強く踏んだ。
ところがそのタイミングで弟から停止するよう声がかかった。
「いや、ちょっと待ってくれ」
「なんだ? 流……忘れ物か」
翠も急ブレーキに身体を揺らしながら、不思議そうに問いかけた。
「兄さん、先に風邪薬を飲もう」
「薬? でも持って来ていないよ」
「ちゃんと俺が用意してきたから」
ガサゴソと弟が自分のリュックから薬を取り出し、翠に手渡した。
「まったく……兄さんは昔から風邪をひきやすいな。すぐに熱を出してばかりで心配をかける」
「……そうかな。自分ではあまり気が付かないけどね」
「いいから。さぁ飲んで」
翠も弟のそんな言葉に、優しい表情を浮かべていた 弟の方は心底心配そうに翠の額に手を当てたり、薬を手のひらにのせてやったりと献身的だ。
それにしても、まるで今にも口移しして飲ませそうな程、顔が近い。
なんだ、この微妙な空気は。
まるで俺がここにいることを忘れてしまったかのような濃密な雰囲気。
兄と弟なのか……お前達は本当に。
「飲め」
「うん……ありがとう」
「とにかく熱が下がるといいな」
「この位なら大丈夫だよ。それより早くこの住所へ」
「道昭さん、急いでください」
「あっ、ああ……」
まったく人使いが荒い奴だな。
でも俺も大事な親友のためなら一肌脱ぐ覚悟だ。
「任せとけ」
車は宇治から一気に京都市内の住所へと向かう
****
丈が買ってくれデジタルメモ機の使い勝手は、すごぶる良かった。お陰で今日は学会のメモがスムーズだ。日中しっかりまとめておけば、宿でやることが減る。
そう思うと仕事も頑張れる。
気分よく仕事をこなしていると、休憩時間に高瀬くんがまた話しかけて来た。
「浅岡さん、やー疲れますね!随分とはかどってますね。やっぱりそのマシーンいいなぁ」
「はぁ」
彼はなんだって、こうもお喋りなんだろうか。ひとりで過ごすことに慣れてしまった俺には少々鬱陶しいとすら申し訳ないが、感じてしまう。
「あっそうだ、知ってます? 張矢先生のこと」
「今度は何?」
キーボードを叩きながら耳だけ貸していた。
「それがですねぇ耳より情報なんです! 昨日の夜は、張矢先生の病院の他の先生と偶然会って、四条河原町で一杯飲んだんですよ。せっかくだから張矢先生のこといろいろリサーチしたんですよ。聞きたいですか」
「……ちょっと待って。君はなんでそんなに張矢先生のことばかり調べているんだ?」
「あっそれ聞きますー?」
「……」
「だって、先生ってクールでカッコイイじゃないですか。背も高いし、顔も端正で」
「いや、だって……彼は、その……男だし」
こんなこと俺が言っても説得力がないよなと思いながらも、あんまり高瀬くんが丈のことを絶賛するので気になってしまう。
「いや男でも惚れちゃうほどいいんですよ。あの包容力羨ましいな、っと話が脱線しましたが、そこでショックな話を聞いちゃって」
急に高瀬くんの声のトーンが下がった。
「何を? 」
「それがですねぇ、どうも先生結婚しているようですよ。先生は何度聞いても詳しいことは教えてくれませんが」
流石に、これには動揺してしまう。
戸籍上の正式な結婚というわけでないが、今年の七夕の日に、俺は丈の家の戸籍に入った。それは丈との結婚を意味していると、あの式に参列してくれた誰もが認めてくれたことだ。
「そっそうなのか。何で知って?」
「だから昨日丈先生と同じ病院に勤めている先生が教えてくれて 」
「なっなんて?」
こんな話を客観的に聞くと、我ながら驚く程気になってしまった。
丈は周りに結婚していると伝えているのか。それともただの噂なのか。
一体どうして、そういう話が漏れるのだろう?
俺と丈の結婚というのは月影寺の中でも話し合い医師という立場上、もちろん外では内密にしていることだ。俺も旧姓のまま仕事をしているしな。
「それが丈先生の奥さんって。すごい美人だそうですよ。絶世の美女だとか。しかもかなり年下で滅茶苦茶可愛がっているから、丈先生はあんまり夜勤も入れたがらないし、休日をすぐ欲しがるとか」
「はぁ?」
「つまり尻にひかれているんじゃないかってことです」
「えぇっ?」
自分ではそんなつもりはないのに、確かに傍から見たら、丈の態度はどう見ても……
うわっ~っ、と思わずこめかみを押さえてしまった。
「あぁ、頼む」
翠は少し苦し気に熱い吐息を吐いて、後部座席に身体を深く預けた。
やはり熱が高く調子が出ないようだ。
手っ取り早く用事を済ませて風空寺に戻ってやりたいと思って、アクセルを強く踏んだ。
ところがそのタイミングで弟から停止するよう声がかかった。
「いや、ちょっと待ってくれ」
「なんだ? 流……忘れ物か」
翠も急ブレーキに身体を揺らしながら、不思議そうに問いかけた。
「兄さん、先に風邪薬を飲もう」
「薬? でも持って来ていないよ」
「ちゃんと俺が用意してきたから」
ガサゴソと弟が自分のリュックから薬を取り出し、翠に手渡した。
「まったく……兄さんは昔から風邪をひきやすいな。すぐに熱を出してばかりで心配をかける」
「……そうかな。自分ではあまり気が付かないけどね」
「いいから。さぁ飲んで」
翠も弟のそんな言葉に、優しい表情を浮かべていた 弟の方は心底心配そうに翠の額に手を当てたり、薬を手のひらにのせてやったりと献身的だ。
それにしても、まるで今にも口移しして飲ませそうな程、顔が近い。
なんだ、この微妙な空気は。
まるで俺がここにいることを忘れてしまったかのような濃密な雰囲気。
兄と弟なのか……お前達は本当に。
「飲め」
「うん……ありがとう」
「とにかく熱が下がるといいな」
「この位なら大丈夫だよ。それより早くこの住所へ」
「道昭さん、急いでください」
「あっ、ああ……」
まったく人使いが荒い奴だな。
でも俺も大事な親友のためなら一肌脱ぐ覚悟だ。
「任せとけ」
車は宇治から一気に京都市内の住所へと向かう
****
丈が買ってくれデジタルメモ機の使い勝手は、すごぶる良かった。お陰で今日は学会のメモがスムーズだ。日中しっかりまとめておけば、宿でやることが減る。
そう思うと仕事も頑張れる。
気分よく仕事をこなしていると、休憩時間に高瀬くんがまた話しかけて来た。
「浅岡さん、やー疲れますね!随分とはかどってますね。やっぱりそのマシーンいいなぁ」
「はぁ」
彼はなんだって、こうもお喋りなんだろうか。ひとりで過ごすことに慣れてしまった俺には少々鬱陶しいとすら申し訳ないが、感じてしまう。
「あっそうだ、知ってます? 張矢先生のこと」
「今度は何?」
キーボードを叩きながら耳だけ貸していた。
「それがですねぇ耳より情報なんです! 昨日の夜は、張矢先生の病院の他の先生と偶然会って、四条河原町で一杯飲んだんですよ。せっかくだから張矢先生のこといろいろリサーチしたんですよ。聞きたいですか」
「……ちょっと待って。君はなんでそんなに張矢先生のことばかり調べているんだ?」
「あっそれ聞きますー?」
「……」
「だって、先生ってクールでカッコイイじゃないですか。背も高いし、顔も端正で」
「いや、だって……彼は、その……男だし」
こんなこと俺が言っても説得力がないよなと思いながらも、あんまり高瀬くんが丈のことを絶賛するので気になってしまう。
「いや男でも惚れちゃうほどいいんですよ。あの包容力羨ましいな、っと話が脱線しましたが、そこでショックな話を聞いちゃって」
急に高瀬くんの声のトーンが下がった。
「何を? 」
「それがですねぇ、どうも先生結婚しているようですよ。先生は何度聞いても詳しいことは教えてくれませんが」
流石に、これには動揺してしまう。
戸籍上の正式な結婚というわけでないが、今年の七夕の日に、俺は丈の家の戸籍に入った。それは丈との結婚を意味していると、あの式に参列してくれた誰もが認めてくれたことだ。
「そっそうなのか。何で知って?」
「だから昨日丈先生と同じ病院に勤めている先生が教えてくれて 」
「なっなんて?」
こんな話を客観的に聞くと、我ながら驚く程気になってしまった。
丈は周りに結婚していると伝えているのか。それともただの噂なのか。
一体どうして、そういう話が漏れるのだろう?
俺と丈の結婚というのは月影寺の中でも話し合い医師という立場上、もちろん外では内密にしていることだ。俺も旧姓のまま仕事をしているしな。
「それが丈先生の奥さんって。すごい美人だそうですよ。絶世の美女だとか。しかもかなり年下で滅茶苦茶可愛がっているから、丈先生はあんまり夜勤も入れたがらないし、休日をすぐ欲しがるとか」
「はぁ?」
「つまり尻にひかれているんじゃないかってことです」
「えぇっ?」
自分ではそんなつもりはないのに、確かに傍から見たら、丈の態度はどう見ても……
うわっ~っ、と思わずこめかみを押さえてしまった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
私が場面緘黙症を受け入れるまで
お鮫
エッセイ・ノンフィクション
私が場面緘黙症で大変だったことや、こういうことを思っていたというのをただ話すだけです。もし自分が場面緘黙症だったり、身近にいるかたに、こういう子もいるんだって知ってもらえれば幸いです。もちろん場面緘黙症ってなんぞや、という方ものぞいてみてください。
ほとんど私の体験談をそのまま文字に起こしています。
初めての投稿になります。生暖かく見守りください
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
BL書籍の印税で娘の振り袖買うつもりが無理だった話【取らぬ狸の皮算用】
月歌(ツキウタ)
エッセイ・ノンフィクション
【取らぬ狸の皮算用】
書籍化したら印税で娘の成人式の準備をしようと考えていましたが‥‥無理でした。
取らぬ狸の皮算用とはこのこと。
☆書籍化作家の金銭的には夢のないお話です。でも、暗い話じゃないよ☺子育ての楽しさと創作の楽しさを満喫している貧弱書籍化作家のつぶやきです。あー、重版したいw
☆月歌ってどんな人?こんな人↓↓☆
『嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す』が、アルファポリスの第9回BL小説大賞にて奨励賞を受賞(#^.^#)
その後、幸運な事に書籍化の話が進み、2023年3月13日に無事に刊行される運びとなりました。49歳で商業BL作家としてデビューさせていただく機会を得ました。
☆表紙絵、挿絵は全てAIイラスです
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる