上 下
15 / 21
【本編】悪魔な王子 side。

【Ⅳ】本編・王子side・END

しおりを挟む

 まさかそんな……このザイールとやらが俺の腹違いの兄……しかも母親は天使族の王女だと……しかも父王が悪魔族の非情な行いを制すため、神に願い神の審判と制裁が叶ったと言うのか……

 父王はザイールのために天使国との和平を目指した。そしてそのための俺とフランシスの政略結婚……

 「フラン。私が天使国へ行きたいと望んだんだよ。たとえ結ばれなくとも、フランの側にいたかったのです。私は天使族である母の体質を色濃く受け継ぎました。フランとのファーストキスでは制裁が発動せず、そのことをよけいに強く意識したのです。私は羽さえ出さねばハーフだとはわかりません。色彩も天使族に近いのです。目の色は悪魔族の父からですが……」

 「ザイール……」

 たしかに……この男の姿を見て、俺は悪魔族だとは微塵も思わなかった。ましてや兄だともな!

 「私は息子の望みを叶えた。天使国の王に託したんだよ。やがて息子が差別されない悪魔国を作ると決心してね。そしてようやく叶ったんだ。もうザイールを日陰者になんてさせやしない。姫とザイールの婚姻式では、我が妻エレノアのことも大々的に発表したい。エレノアだけが私の生涯の伴侶だ。元妻とは婚姻無効を神に認められている」

 父上!俺がいたのになぜ、母上との婚姻を無効にしたのです!

 「グランデよ。この話を聞いても、貴様はロゼッタとやらとの関係が、真実の愛だったと言えるのか? 貴様はなにを得たかったのだ? たしかに政略結婚を強いたのは私たちだ。しかし初めから愛はなくとも、信愛の情は育めたはずだ。お前が姫を大切にし、婚姻までたどり着いたならば、血は繋がらずとも王にするつもりだったんだよ」

 衛兵が俺の猿ぐつわを外す。やっと声がだせる!父上!

 「父上! 母上は病死だったのでは?なぜ処刑なんて! 母上がそんなに邪魔だったのですか? それに血が繋がらないとはどういうことですか? 私は父上と母上の子です! 」

 「お前は前宰相と元妃の子だ。私は悪魔国を差別のない国にし、やがてはザイールを王にするつもりだった。だから妃とは子を作らなかった。妃は気付かなかった様だが、義務の閨では私は避妊をしていたからね。魔法薬なので確実だよ」

 まさか……ならば俺は、前宰相の子なのか?

 「そんな! だが母上を蔑ろにしたあなたが悪いのではないのか? いくらなんでも刑が重すぎる! 」

 「宰相はもと妃の父方の従兄だ。宰相の勧めで召し上げたが、貴様とロゼッタとやらと同じく、学生のころからの仲だったそうだ。私は大切にしたつもりだよ。心はエレノアに残したから愛せない。だが信愛の情を育もうとはしたんだ。だが! 結婚後も宰相との関係は続いていた。王族には影がついている。まさか式の一週間後には、宰相と関係を持っていたとは恐れ入ったよ」

 母上は俺を王子だと偽った。それならばたしかに大罪だ。しかしならばなぜ!なにも知らせずに俺を育てたんだ!

 「そんな……嘘だ! ならなぜ私を王にしようなんて思うんだ! それになぜ一族郎党を下界落ちにしたんだ! 」

 「宰相と元妃の一族は、天使国との友好に難色を示していた。あわよくば私とザイールを弑逆し、宰相は己の子を王位につけ、己の傀儡にしようと目論んでいた。宰相の母は父王の姉君、つまり私たちは従兄弟だ。だからか良く似ていたし、黒髪赤目も同じ。だから解らないとでも思ったのだろう。しかし反逆は大罪だ。国を乱すものは間違いなく処刑だよ」

 まさか宰相と母上の一族は、悪魔国を乗っ取るつもりだったのか……

「 宰相は王家の血を引いている。さらには貴様とフランシス姫との婚約だ。私の血を引かぬとも、両国の血を受け継ぐ子が次期王となる。貴様が愚息でも、優秀な姫なら不足を補ってくれる。後継者に期待がもてる。そう考えたからだ! 姫と婚約破棄をした貴様はもう用なしだ! 」

 「ならば! フランシス! 私ともう一度婚約をしてくれ! お前だけを愛すると誓おう。真実の愛を捧げよう。どうだ? 嬉しいだろう。泣いて喜ぶが良い! ワハハハハ! 」

 フランシスが席から立ちあがり、室内の皆に正式な礼をした。二人の王が頷くと、その足で俺の方へ歩いてくる。

 「フランシス! やはり来てくれたのか! 早くこの縄を解いてくれ! そして直ぐにでも神の審判を受けよう。そのまま籠って子作り開始だ! 朝まで寝かせないからな! 」

 なぜか眉間に皺を寄せ、怪訝な顔をするフランシス。子作りなんて言葉を聞いて怖がっているのか?大丈夫だ。最初は優しく愛してやるぞ。楽しみは二回目以降だ。

 なんて妄想に耽っていたら、腹部に強烈な痛みを感じた。まさかフランシスにパンチを入れられたのか?目前には拳を握りしめる、フランシスの姿が見える。

 「グッ……グフゥ……なっ……何をするんだ……」

 縄でぐるぐる巻きにされているからか、思ったほど痛くはないが……

 「フランシス? 拗ねているのか? 私はロゼッタに騙されたのだ。私だけを愛していると言ったのに……しかし私は真実の愛に気付いたのだ! フランシスは気高い! たしかに体は貧弱だが、それは追々私が育ててやろう。だから気にすることはない。堂々と私との真実の愛を育もう! 」

 この俺がここまで折れているんだ。いい加減に素直になれよ。

 「ふざけないで! いい加減にしろ! 婚約者としての義務も果たさないバカが! なぜ己が愛されていると思えるの? 私は婚約者としての義務で付き合っていただけよ。あなたは前妃と同じことを私にしたの。私はあなたを愛そうと努力した。無理でも信愛の情を育もうとした。しかしそれを踏みにじったのは己じゃない! なのになぜ愛されていると思えるのよ。 この腐れ外道が! 地獄に落ちろ! 」

 フランシスがギュウギュウと、再度握りしめた拳を腹部に打ち込まれた。さすがに二度目は堪えた。痛い……

 「ウゥ……グッ……私が母上と同じことをを? 」

 「そうですよ。あなたは婚約者である私を蔑ろにし、公式の場で一度もパートナーをつとめてはくれなかった。今回だってそうです。一度お話しましたが、この私のドレスとお飾りはザイルから贈られたものです。己の色を相手に纏わせることで、相手は私のものだと周囲に知らしめるのです。この贈り物は男性側の婚約者としての義務なんですよ」

 「…………」

 知らなかった……

 「悪魔国の現王も、あなたの母上を信愛の情で寄り添おうと努力しました。しかしそれを裏切ったのはあなたの母上です。裏切ったのか、元からそのつもりだったのかは解りません。しかしあなたの母上にも、現王には愛がなかったのでしょう。あなたも母上も、政略結婚の意味を理解していなかったのです」

 「ならば今からでも……」

 「もう遅いんです。私はザイルの手を取りました。私を初恋だと言ってくれ、ずっと見守ってくれていたのです。私はザイルなら愛せます。いえ、たぶんもう愛していますわ。私にはザイルが真実の愛なのです。あなたはもうお呼びではないのです」

 男が背後からフランシスを抱き締めた。そして膝をつき、フランシスの手を取り愛を囁いた。

 「フランシス。私は悪魔国の庭であなたを受け止めたときからずっと、あなただけを愛して来ました。結ばれない運命だと諦めていたこの手を、今正式にとれる幸せが信じられません。どうか私と生涯をともに歩いてください。私はあなたしかいりません……」

 手の甲に軽いキスをし、輝くリングをフランシスの指に滑らした。

 「ありがとう。私もあのときの男の子が初恋だったの。あの子がまさかザイルだとは思いもしなかった。でもそれならば、私たちは初恋同士ね。とても嬉しい……それに家族でない男性からの贈り物なんて、このドレスとお飾りについで二度目よ。本当にありがとう……」

 男の顔が真っ赤に染まる。私が初恋……? などと悶えているが、気持ちが悪いから止めやがれ!

 「今日の会談前に贈れなくてすみませんでした。つい細工に拘ってしまい、納期がギリギリになってしまったのです。ドレスやお飾りは贈りたくて、以前から用意をしていたのですが、さすがにリングは……」

 男の言葉に、フランシスの目から涙がポロポロと流れ落ちてきた。泣くほど嫌なら俺の手をとれ!しかしそんなことを叫べる雰囲気ではない。さらにはフランシスが男の手をとり指先にキスをし、揃いのリングをその指に滑り込ませた。

 「婚約は突然だったんだもの仕方がないわ。なのにこんなに素敵な品を用意して貰えるなんて……至らぬ私ですが、あなたに相応しくあれる様に頑張ります。二人で幸せになりましょう」

 二人は互いに見つめあい、バードキスを繰り返しいちゃついている。俺はなにを見せられているんだ……

 「おおー! こりゃ神もせっかちだな。どうやら婚姻が成立してしまった様だぞ。今日は婚約の誓約予定だったのだが……まあめでたい! 天使国の王よ。早々に姫を貰い受けて悪いな。我が国で必ず幸せにすると誓おう。これからもよしなに頼む」

 は?また花びらが舞い始めた?いったいなんなんだこれは?しかも婚約を吹っ飛ばして婚姻だと?紅白の花びらにまとわりつかれかなり苛つく。

 「純白の花嫁と深紅の花婿。姫には純白の花嫁衣装が、ことのほか似合いそうだ。婚姻式は盛大にしなくてはな! ピンクの花束は孫の色だな。花束の薔薇の数ほど孫が抱けたら素晴らしいな! 楽しみにしているよ……」

 人々から拍手が沸き上がる。なにが孫だ!フランシスは俺の子を孕むんだ!

  互いに囁きあいいちゃつく二人に苛立ちを感じる。いつまでもチュッチュしてるんじゃない!しかし俺は呆然と眺めるだけしかできない……

 「ほら! 公衆の面前でいちゃつくな! ザイールよ。娘は初心者だ。お手柔らかに頼むぞ」

 天使国の王め!よけいなことを!

 「ザイール。若さに任せて抱き潰すなよ。女性は優しく扱わねばならん。だが式までは孕ませてはならんぞ。それだけはけじめだ。この約束を守れるなら抜けても良いぞ」

 父上!なぜ俺の味方をしないのです!そうか……俺は息子では……

 俺の目の前で、フランシスはザイールとやらに連れ去られた。我に返り大声でフランシスを呼び止める。しかし男の腕の中に収まったフランシスは、一度も俺を振り返らずに去っていった。

 二人はそのまま正式な夫婦となったそうだ。俺はロゼッタとともに神の審判を受けた。俺たちは特大の雷の直撃を受け、羽をもがれ下界に落とされた。

 俺は一度人間としての生を終えたらしいが……気付くと閻魔大王の前に立っていた。隣にはなぜかロゼッタが……どうやら人間界でも柵があったらしい。ロゼッタの疫病神め!

 このときの俺は、まったく反省などはしていなかった。

 俺は録でもない奴だったんだな……

  ※※※※※※※
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

白花の咲く頃に

夕立
ファンタジー
命を狙われ、七歳で国を出奔した《シレジア》の王子ゼフィール。通りすがりの商隊に拾われ、平民の子として育てられた彼だが、成長するにしたがって一つの願いに駆られるようになった。 《シレジア》に帰りたい、と。 一七になった彼は帰郷を決意し商隊に別れを告げた。そして、《シレジア》へ入国しようと関所を訪れたのだが、入国を断られてしまう。 これは、そんな彼の旅と成長の物語。 ※小説になろうでも公開しています(完結済)。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

縁の鎖

T T
恋愛
姉と妹 切れる事のない鎖 縁と言うには悲しく残酷な、姉妹の物語 公爵家の敷地内に佇む小さな離れの屋敷で母と私は捨て置かれるように、公爵家の母屋には義妹と義母が優雅に暮らす。 正妻の母は寂しそうに毎夜、父の肖像画を見つめ 「私の罪は私まで。」 と私が眠りに着くと語りかける。 妾の義母も義妹も気にする事なく暮らしていたが、母の死で一変。 父は義母に心酔し、義母は義妹を溺愛し、義妹は私の婚約者を懸想している家に私の居場所など無い。 全てを奪われる。 宝石もドレスもお人形も婚約者も地位も母の命も、何もかも・・・。 全てをあげるから、私の心だけは奪わないで!!

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...