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【本編4・search for my roots】

羽をもがれた小鳥の心。

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グレイが彼女をそっとベッドへ横たえた。ベッドサイドでフワリと純白の羽を広げる。彼女を回復させようとするグレイをルイスが止めた。

「少し待って下さい。今将軍を呼んでいます。」

え?何故将軍を?

今回の件は帝国のお城の内部で起こった事。もし事件性が認められても、帝国人では無い私達に裁く権利は無い。勿論裁くつもりは無いけど、他国の者の戯れ言だと隠蔽されても困る。

「将軍なのは何故?呼ぶなら宰相辺りじゃ無いの?」

「宰相は皇帝寄りです。後宮については皇帝の言いなりでほぼ放置。肝心な皇帝は義務の様に、与えられた順に通うだけです。その点将軍は一本筋の通った方です。城全体だけでは無く、後宮内部の警備も担当しているそうです。」

成る程ね。将軍なら彼女の身元も解るだろう。多分あの吹き抜けの出口は…。

「アリー正解だよ。後宮の東屋の裏の林の中に、ポッカリと穴が空いてたよ。穴はかなり古そう。何かの拍子に空いた穴を、後宮の女性達はゴミ捨て場にしてた訳。勿論、アリーが落とされた穴とは別口だよ。」

散乱してたゴミの山…。更にはうず高く積み上げられた白骨の山…。

「なら人だと言うあの白骨の山は…。」

扉が静かに開いた。将軍が王子に連れられ入室する。王子に促されベッド脇に移動した。余程驚いたのだろう。目を見開き言葉に詰まっていた。

将軍はベッド上の彼女を見て顔を歪めた。言葉にならぬ様のか喉をならす。漸く苦しげに絞り出す様に、悲鳴に近い言葉を紡ぎ出した。

「この方は南の属国の姫君です。現皇帝が返り咲いた我が国への、友好の証として1年程前に皇帝へ嫁がれました。何故こんなお姿に…。しかも身籠られてるのか!」

将軍は後宮内部の警備も任されている。しかし後宮の敷地内には男性は入れない。その為使用人は全て女性。それもくノ一である。不審な人間を排除する為、後宮に入宮する女性の供は1人のみ。自身専用の侍女1人のみを連れて入宮する。

「この骨と箱に見覚えは有りますか?お話を聞く限りでは、多分侍女の方だと思われますが…。此方は遺品の様です。」

将軍は箱の中身を確認すると、天井を見上げて声をあげた。

「影!後宮の侍女長を呼び出せ!内部の影もだ!姫様がまさか巫忍をお連れとは!なら姫様は巫女で在られたのか?何故気付かなかったのだ!姫の国に知られれば戦になるぞ!」

慌ただしくなる室内。良く見ると静かにベッドに横たわる姫君の顔色が悪い。

ドタドタと集まる人々。大声上げるな!正直コイツら煩い。静かに集まれ無いの?そうだ!私は王子に耳打ちする。私とグレイは、王子の許可を貰い転移した。

*****

転移先の扉をノックする。

「女将さん!急にすみません!お部屋を貸して戴けませんか?」

今朝まで居た料亭の玄関先。私の声に慌てた女将が現れた。グレイの腕の中の姫君を見て絶句する。

「この方は南方から嫁がれた…。何故こんなお姿に?私がお目通りした際にはお元気でしたのに…。」

やはり女将は顔見知りだった。女将は先先代直属の諜報を辞した後も、料亭を営みながら後輩のくノ一達を育成してると言っていた。流石に後宮の内部にまでは介入はしない。しかし妃の入宮後開かれる、新妃のお披露目会には必ず参加しているとも聞いていた。

「後宮内の女性には、頼る身内の無い者も多いのです。なので私が少しでも相談にのれたらと、相談役の様な事をしております。と言いましても私も仕事を持つ身ですので、文でのやり取り位ですが…。この姫君も親族は遠く、私とマメに文通をしておりました。しかし3月ほどで文が止まりました。最後の文に、皇帝より2度目のお召しがあったと記載されておりました。その後もう妃は必要無いと皇帝の宣言が有ったのです。ですから私は、お2人仲睦まじくされてるのかと…。」

姫君は約1年程前にこの国に嫁いだ。新しい妃のお披露目会で女将に会い文通を始めた。文通は3ヶ月程で終わる。姫君からの最後の文に、皇帝より2度目のお召しが有ったと記載されてた。手紙が途絶えたとほぼ同時に、皇帝がもう妃は要らぬと宣言した。その為女将は、姫君と皇帝が仲睦まじくなったと思っていた。

確かに辻褄はあうよね。でも真相は違った。多分2度目のお召しが有った後、誰かにあの穴に落とされたんだ。侍女と一緒にね。

落とした犯人は、姫君の懐妊に気付いていて落としたの?それとも単なる衝動的な嫉妬心から落としたの?

しかし初夜から2度目までが空きすぎ!後宮の妃って何人いるのよ!こんな間隔で、寵妃だとかは何で決めるの?私を落とした奴らはバカすぎる。皇帝ももっと早くに宣言しなさいよ!初夜から数ヵ月も会えない何て酷すぎるじゃ無い…。

私が考え事をしてる間に、グレイが姫君に癒しをかけてくれた。青白くなっていた顔色に赤みが戻っている。頬と唇にも朱が帯びてきた。

「女将さんがお医者さんを呼んでお粥を炊いて来るって。この部屋は安心だよ。まるでカラクリ屋敷だよ。女将さんの自信作みたい。一応僕も結界を張ったけど、多分必要無いね。無理に入ろうとしたら地獄行きだよ。」

グレイの見立てでは、お腹の子は何時生まれても不思議の無い時期だと言う。但しかなりお腹の子が小さい。更には内包する力が不安定なので、落ち着くまでは生まれないと言う。

多分初夜で懐妊したのだろう。2度目のお召しの際には、懐妊に気付いて無かったのだろうか?

聞いた話だと、入宮し数月後にお披露目会。これが婚姻式の様な物。その晩が初夜になる。もしここで懐妊したなら、その後月のものは無かった筈。慌ただしくて乱れたと思ったのだろうか?その後女将と3ヶ月の文通。最後の文には2度目のお召しの話。

姫君は約3ヶ月過ぎの身重の体を抱え、2度目のお召しを迎えた。多分この後直ぐ位にあの穴に落とされた。

そしてあの穴の中で約半年も…。

穴に落とされた時、犯人は身重の体を知っていたのだろうか?そして姫君は?

もし姫君が懐妊に気付いてたなら、直ぐにでも皇帝に伝えても良い筈。安定期に入るまでは体を労るべき。お召しだって断れる。やはり本人も気付いて無かったの?穴に落とした犯人は知ってたのだろうか?

どちらだとしても、姫君の気持ちは…。

まあ皇帝は懐妊に気付かなかったのだろうね。それまで散々出来なくて、自分は不能だと思ってたのかもしれない。いっそそうなれば良いんじゃ無い?殺ってお仕舞い棒改で試してみる?まあいきなり出来るとは思わなかったんだろう。でも避妊薬は効かなかったの?

「アリーってば、結構エグい事考えるよね。皇帝も形無しだよ。考えはそれであってると思う。避妊薬だって万全じゃ無い。摂取時間によっては、たまたま空白の時間が出来ても可笑しくないよ。」

エグい事?

「男性にとっては恐ろしい事だよ。後ね。2度目のお召しの後に、もう妃は要らぬと宣言したのはアリーの存在を知ったからだよ。まだ不確かな情報だったみたいけど、諜報が商船から情報を得て裏付けをとってたみたい。」

私の存在の情報で皇帝は動いた。その結果、女将は誤解してしまったの?

「それはアリーのせいじゃ無い。ダンジョンに落とされた時点で彼女達の運命は決まった。女将が気付いて捜索が早まっても、多分結果は変わらなかった。しかもあの人骨の量。遥か昔からあの穴は使われてた。侍女の死因は落下の際の肋骨損傷だよ。その後姫君を助ける為にかなり無理をしたみたいだね。早々に助け出されても、助かる命では無かった。逆に今回の発見は遅すぎては居ない。姫君とお腹の子は助かるよ。後少しでも発見が遅れてたら助からなかったかもしれない。姫と子が助かれば、侍女の気持ちも報われる。その魂も安らかに眠れる筈だよ。」

うん…。そうだね。グレイ有難う。でも何だか悲しい。私の存在が人の運命を変えたなら…。

「それはアリーの傲りだ。アリーは神様なの?そんなに偉いの?なら変わりに死ねるの?人の生死は神の管轄なんだ。アリーに決定権は無い。アリーが手を下したなら別だけどね。」

解ってる。グレイごめん。

「後ね。後宮の女性達の寵妃の基準は回数だって。」

回数?呼ばれる回数なの?

「違うよ。一晩の回数だよ。だから媚薬使う彼女が寵妃と呼ばれてる。皇帝に避妊薬使えば自分も孕めないのにね。それでも寵妃の地位は正妃に1番近い。正妃になれば皇帝は、週末は自分の元にしか通わない。子が出来るチャンスも増える。これは愛故なのか地位への固執なのか微妙だね。因みに今の寵妃は週に1度、必ず召されるそうだよ。もう犯人は決まったよね。」

グレイ凄い!これで解決じゃない。

「こんなに簡単に私にも解る事件なら、もうお城に戻ったら解決してるんじゃ無い?お城に戻りたくないな。こちらに泊まっちゃダメかな?」

「アリー甘いね。僕が此方は見てるよ。だからアリーは戻って話を擦り合わせて来て。大元の寵妃を捕縛し、周囲を綺麗にして来て。宿泊は多分ムリ。さあ宜しくね。」

・・・・・。

う…。グレイの呆れた視線が…。

はいはい行きますよー。転移をしようとしたらドアが開いた。

わーい。女将さんに差し入れを貰ったよ。おにぎりだって。船で炊き立てご飯に塩ふって食べたら美味しそう~のあれですね?黒々とした海苔の香りが食欲を誘います。包んでいる紙?も良い香り。何だか元気が出てきたよ。

「姫様はお任せ下さい。どうぞ行ってらっしゃいませ。」

「はーい。行って来まーす。」

*****

客室に戻ると、女性が金切り声を上げ暴れていた。それを唖然と視ているだけの皇帝と宰相。はて?この2人には事後報告だったのでは?将軍はどうしたの?

ダンジョンの見回りに行った?もう魔物が復活してる時間だから、人が入らぬ様にしてくる?

それは確かに必要だね。

さて。女性の顔には見覚えが有る。私を罵りダンジョンに突き落とした女性。自身を皇帝の寵妃だと叫んでいた人。

妃は後宮から出れないのでは?

ルイスが私に気付き、私の側に来る。話を聞くと、後宮で尋問された女性が証拠が有るのか!ならば私を出せ!と大立ち回りをした。

コラコラ。貴女方が私を突き落としたんでしょうが!ん?何よルイス?え?知ってて言ってるの?

あ…。己が姫君を突き落としたからなんだね。私も落としたから、私が生還して話したと思った訳だ。なら自白した様なものね。

更には隙を見て脱走し、客間に怒鳴り込みに来た。しかし生憎私は居ない。さあ捕縛だ!となった所に、騒ぎを聞き付けた皇帝と宰相が来た。女性はここぞとばかりに、皇帝にすがり付く。私にはめられたと騒いでたそう。しかしどんなに泣き落としをしても、皇帝は全く反応なし。しまいにはお前は誰だ?の一言。この言葉に、流石の女性もぶち切れた。

まあこれも当たり前よね。皇帝って最低だね。私の白けた顔に何を思ったのか、宰相が皇帝を庇い出した。

「現在後宮には、50人近い妃がいらっしゃいます。皇帝がお顔を覚えられぬのも無理は無いかと…。」

「・・・。でも媚薬とやらが気に入って、毎週呼んでたんでしょ?それで顔も覚えて無いって…。人間性を疑られても仕方無いよね?妃が行方不明になっても気付かない。そんな人は私は絶対に嫌だ!正妃が嫌なだけじゃ無いよ。人としてだよ!従兄だなんて恥ずかしいよ!私はそんな血縁関係何て要らない!」

皇帝がポカンとした顔で、行方不明とは何だ?と聞いている。この人、本当に皇帝なの?

「ルイス!王子ごめん!このバカ2人少し借りる!行き先はダンジョンね。直ぐに戻るから後は宜しく!」

皇帝と女性の腕を掴み、庭園の東屋に転移する。女性陣に囲まれた時、咄嗟にホーム登録しといて良かったよ。

突如視界が変わり呆然とする2人を追い立て、私が落とされた穴に向かう。将軍が丁度柵を作り、看板を立てていた。皇帝を見て驚く将軍。

でも関係ないから!バカは死ななきゃ直らないからね。

2階層に繋がる穴の方は、既に柵で囲んで来たとの事。結局、将軍も一緒にダンジョンに入る事になった。

「はい。ここが入り口ね。ここは1階層に落ちるから深くないよ。下はしめった泥だから余り痛くもない。さあ順に入って!詳しくは中で教えてあげる。尻込みするな!早く入れ!」

穴を覗きモタモタする2人を、私は後ろから蹴り落とす。

・・・・・。

女性のもの凄い悲鳴。皇帝は静かだね。貴女も私を落としたじゃ無い。でめた私も鬼じゃ無い。打ち所悪くて死なれても困るからね。風のミニハリケーンで落下速度を落としてあげたよ。

驚きまくりだった将軍が私を見る。視線が絡むとほぼ同時、私達は互いに親指を立てジャンプした。

将軍中々やるね!

****

着地した先には…。

沢山のスライムに囲まれた2人の姿。女性は涙目で皇帝にすがり付いてる。それを引き剥がそうとする皇帝。何だか平和な光景だねー。意外とお2人お似合いじゃ無いの?

将軍が刀を抜刀し次々とスライムを凪ぎ払う。皇帝も脇に刀を差してるよね?抱き付かれてムリ?

私も殺ってお仕舞い棒で参戦。

さあどんどん進んでー。2階層に行くよー。さあさあ歩けー。

結局女性を引き剥がせず、ズルズルと腰にぶら下げ進む皇帝。何だか情けなさ過ぎる。その前を案内をしながら進む私。将軍は更に前で魔物を凪ぎはらってくれてる。まだスライムや兎や狸サイズの魔物ばかりだ。

「将軍は魔物は初めてですよね?怖くは無いのですか?」

「戦の際は行軍の際、大型の獣退治もするからな。見た目は悪いが、熊や狼に比べたら可愛い物だ。しかしこれらは雑魚なのだろ?シードラゴンの話は船乗り達から聞いた。帝国民を助けて戴き感謝する。しかし魔法とは凄い物だな。」

「私のは魔法では無くスキル何ですよ。くノ一が有るなら、帝国でもスキルは有るんですよね?我国では常に魔物の驚異に曝されています。その為のスキルによる魔法なのだと思います。帝国も必要になればスキルとして現れるのでは?神通力による聖域の繭という術を見ました。これは我国には有りません。あくまでも私個人の考えですけど。」

目前に2階層への階段が見えて来た。

将軍が真剣な顔になり、刀を握り直した。私も身構える。

小型以外の魔物の気配を感じる。散らばっていた魔物の骨を思い出す。中型。多分イノブーサイズだろう。一本道だ。私で打ち漏らさない様に気を付けよう。

私は将軍と目で合図をし、階段を下り始めた。

*****
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