拝啓。あの世の婚約者様。裏切られた聖女です。魔王とともに復活しました。ですが!魔王も婚約者様も要りません!

桜 鴬

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 チュンチュンと小鳥の囀りが聞こえる。もう朝なのよね?でもまだ眠い……肌寒さを感じて、はだけた布団を引っ張り潜り込む。もう一週間にはなるはず。魔王たちにも一週間くらいだと言っていたじゃない。まさか私たちがここにいる間、魔王と賢者はずっと異空間にいるの?妖精さんたち、あまり酷い悪戯をしていないと良いけど。とにかく!今日こそベッドから這ってでも出なきゃ!

 でもダメ眠い……

 「リリー? 起きたのですか? ならば……」

 やだ!寝るの!アクアは少し離れて!背中から覆い被さるアクアをお尻でグイグイと押しやる。

 あ……ダメ! いやぁ……あぁんっ! 揉むなー!

 「ストーップ! さすがにもうダメ! 疲れたの! まだ眠いの! だってぜんぜん寝かせてくれないじゃない! 明け方に私が気絶して、やっと寝れたんだから! 」
 
 クルリとひっくり返され、アクアの腕の中に包まれる。この腕の中は安心できて心地が良いの……なんて騙されません!必死に抵抗し布団にくるまる。ではおやすみなさーい。

 「リリー? 本当に眠いのですか? 」

 なによもう!眠いってば!だってもう何日ぶっ続けなの?いくら食事もなにも必要なくても、さすがに私も疲れます!

 「アクアはいつ寝てるの? 少しは寝なさい! お願い寝かせて? 」

 必殺上目遣いの小首傾げよ! ウルウル眼で見上げるのが決め手なんですって。城下町で買い物をした際、洋品店のお姉さんに教えて貰ったの。これで彼にお願いすれば、なんでも言うことを聞いてくれるって。あのときは彼なんていないから、私には必要ないと言ったんだけど……

 「リリー? その仕草は逆効果ですよ。好きでもない女性ならば萎えますが、愛している女性だとますます食べたくなってしまいます。リリー愛していますよ。私を煽った責任を取ってくださいね。さあガンガン子作りに励みましょう……」

 あんっ。やぁっ!ストーップ!アクアっては優しげな笑顔でガンガンとか言うな! 

 「アクアも少し寝ようよ。いつ寝てるの? 寝なくちゃ体にも悪いってばー! 」

 「リリー? まだ人としての感覚に引きずられているのですね? 食事と同じく寝る必要はなくなったのです。もちろん食べる様に、嗜好として寝ることもできますが……」

 え? あ……言われてみたら眠くなくなったかも?

 「リリーは徐々に精霊に近付いていました。私とのキスで体液を摂取したためでしょう。妖精たちの声が聞こえやすくなりませんでしたか? 」

 たしかに……段々と気持ちを感じる様になり、声もハッキリと聞こえる様になってきていたかも……

 「普通はキスくらいでは変化しません。ただし例外があります。主が精霊を愛した場合です。そして精霊も主を愛している。相愛の場合のみ、互いの寿命を等しくするため、主が精霊化するのです」

 それってつまり……

 「アクアは私の気持ちを知っていたの? だからチュッチュしてたわけ? 酷い……私はもの凄く悩んだのに……」

 アクアのバカ!でもバレバレだったのね。そちらの方が恥ずかし過ぎる……

 「リリー? しかし精霊化で寿命は等しくはなりますが、愛し合うことも子を成すこともできません。だから私はリリーに、愛を伝えることができませんでした」

 「え? でも……」

 私はついつい口ごもってしまう。だってしっかり致したじゃない。しかもあんなに立派な……しかも激しく……って!私ってばなにを想像してるの!恥ずかし過ぎるってば!精霊は生殖機能はないと聞いてたし! なぜか立派なものが、しっかり有りましたけど?

「水の妖精王たる私の力をその身に取りこみ、リリーは大精霊と同等となりました。しかし大精霊としての義務は負いません。妖精王の伴侶が義務の様なものなのです」

 アクアが妖精王!? たくさんの種別がある妖精たちを統べるのが大精霊。地上に降り立つのは大精霊から。大精霊までの精霊たちは、地上には降りずに精霊界に住んでいる。その大精霊を統べるのが、四大(地、水、火、風)精霊王だと言われている。アクアがその精霊王になったの?でもだからってなぜ伝えたの? 

「リリーは私の生涯の伴侶となりました。たくさん愛し合うこともできますし、たくさん子も生めますよ」

 だから なぜできる様になったの?愛し合える様になったのは、身に染みて感じています!腰も痛いし体も怠いし……あ!魔法で癒しておこうっと。無詠唱でちょちょいとねー。

 「リリー? 今回復魔法を使いましたか? では大丈夫ですね? もう眠気もないようです。しっかり精霊化を定着させなくてはなりません。子作りも必要です。ではいただきます」

 なんで気付くの? やだちょっと! 妖精王になったからどうなのよー!キチンと全部説明してよー!

 「今は私以外のことは忘れ、なにも考えないで感じてください。詳しい説明は、リリーの精霊化が定着したらお話します。ですから今は私だけを見つめてください。リリー……愛しています。まさか私があなたを愛せるなんて……もう他の男の子を抱かせろだなんて言いません。私との子だけを抱かせてください……」

 アクア……私も愛しているわ。でもいつになったら定着するの?それまでずっとベッドから出られないの?

  それから一週間離して貰えませんでした……こんなに爛れた生活は二度としたくはありません。これはぜったいに交渉をしなくては駄目です!

 「でもリリーも楽しんでいたではありませんか。子作りの確率を上げるためにも、なんどでも励まなくてはなりません。精霊は繁殖率が低いのですが、幸い寝食が必要ないのです。打率で励むのです! 」

 「アクア! 精霊化は定着したのよね? なら子作りは自然に任せるのが一番です。アクアは子作りだけが目標なの? なら私は子を生むために愛されているの? そんなの悲しいじゃない。私はアクアともっと色々なことがしたいの。子作りだけでは嫌よ! 」

 たしかに愛されているときは幸せだし、正直気持ちは良いけど……ずっとなにがなんだか解らない状態なのは嫌!ベッドの中だけだなんて変よ!

 あら?アクア?まさか落ち込んじゃったの?

 「すみません。愛し合えるのが嬉しすぎて我を忘れていました。なにせ妖精王になるための試練が厳しかったのです。しかも他の現妖精王たちにおちょくられ……ようやくリリーを伴侶にでき、我を忘れて貪ってしまいました。リリーの気持ちを考えもせず……」

 私こそごめんなさい。私のために頑張ってくれたのに……でもなにごともほどほどにしないとね?

 「アクア? 妖精王になると伴侶が認められるの? もしかしてそれで私たちが愛しあえて、さらには子を望める様になったの? でもいきなり妖精王はビックリよ? 」

 「リリーの仰有る通りです。四大精霊王のみ、伴侶を望め子孫を残せます。実は先代の水の妖精王は恋多き方で、人間界で次々と伴侶を変えていました。寿命で亡くなれば次へという形です。そのためか相愛となり、精霊化できる方とは巡り会えませんでした」

 それは仕方ないんじゃない?精霊王が多情過ぎたのよ!

 「彼は恋多き方では有りましたが、つねに唯一を求めていたのです。それが叶わず、次こそはと恋を続けました。しかし見つからない。さらには子も誕生しない。精霊王の子は、相手と相愛でなければ誕生しません。彼は疲れはて、自ら永の眠りにつきました」

 一生を共にしたいと恋をしても、相愛となる愛には届かなかった。唯一を求めて次を求める。たしかに多情ではあるけれど、伴侶が亡くなるまでは一緒に過ごしている。浮気者ではないんだね。きっとロマンチスト過ぎたのだろう。

 「その後釜に私が誘われていたのです。しかしリリーが隣国から戻らない。戻るのを信じていた私は、その誘いを拒んでいたのです。しかし私はある日、リリーが精霊に近付いているのに気づきました。嬉しくて確かめるために、キスをしまくりました」

 だからチュッチュしまくったわけね。

 「そしてリリーの私への愛を確認したのです! ならば他の男に委ねる必要はなくなりました。そのため急遽、精霊王となる試練を受けに行ったのです。リリーを啼かせるのは、私だけなのですから! 」

 最後ですべてが台無しなんですけど……でも嬉しい。私のためにために頑張ってくれたのね。ところで……魔王た……ち……

 「おや? お客様の様ですよ。妖精たちも戻って来ました。妖精たちよ。お客様を丁寧にお通ししなさい。結界を通して構いません」

 え?お客様?まさか! 

 「大精霊よ! 貴様はなにを考えておるのだ! 死ぬかと思ったわ! この我に死の恐怖を与えるとは……妖精も侮れぬな! 」

 「そうですよ! あれのどこが遊びなのですか! 私は恐怖で気が狂いそうになりました! 可愛らしい妖精のイメージが! 見事に消し飛びましたよ! 」

 え……いきなりのお客様に驚く私。アクア?妖精さんたちは、いったいどんな遊びをしたの?お客様の周囲をたくさん飛び回っているけど……怖くないわよ?可愛らしいじゃない……

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