拝啓。あの世の婚約者様。裏切られた聖女です。魔王とともに復活しました。ですが!魔王も婚約者様も要りません!

桜 鴬

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 ふぁぁー。今日も良いお天気。さあ一日楽しみましょう。今日は小川までちょこっと歩いて、水の妖精さんたちの様子を見てこよう。良いお天気なのは嬉しいけど、日照り続きは困りもの。水かさが減っている様なら、少し雨を降らせなくてはいけない。水の妖精さんたちは、水遊びが大好きだからね。水かさが減ると住み処が狭まっちゃう。さあ行くぞー!

 アクアもそろそろ戻ると思うから、水辺に群生しているベリーをたくさん摘んでこよう。フレッシュベリーでタルトを焼こうかな?ふんふん鼻歌を歌いながら小川を目指す。木々の隙間や花の影から、たくさんの妖精さんが現れ私を歓迎してくれる。

 まるで家族が生きていたころの様ね……お城の裏手にある王家の庭園墓地には、本当にたくさんの妖精たちが暮らしていた。あの湖にアクアがいて、アクアに守護されているたくさんの妖精さん。国は笑顔で溢れていた。

 「昔は妖精さんたちを見られる人も、本当にたくさんいたのにね……」

 でも賢者は妖精を信じていなかった。あの国は王家と神殿が、精霊や妖精という存在を否定していた。だから国民も信じていない。そんな国に精霊も妖精も住み着くわけがない。

 まったくちゃんちゃら可笑しいわよ。神を信じているのに、なぜ精霊や妖精の存在を認められないの?精霊は神の御遣い。神から借り受ける精霊魔力は、神の愛し子である勇者や聖女の力を強めてくれる。加護は神からの贈り物だけど、精霊はその加護をサポートしてくれるんだから!精霊と交流していれば、勇者としても強化できたの!

 アクアは遠くから私を助けてくれていた。私とアクアの魔力の一部を繋げていたから……祠に封じられその絆は絶たれた。それなのに!アクアは私を信じて待っていてくれた。

 なんて考え込んでいては駄目じゃない。元気ださなきゃ。妖精さんたちに心配されちゃう。さて。小川の水位は大丈夫みたいだから、通り雨くらいに雨をふらせましょうか?私は小川の部分にだけ霧状の雨を降らせた。

 「※り※とー! う※※いー! 」

 「あ※が※ー! ※のし※ー! 」

 水の妖精さんたちがいっせいに顔をだし、霧状の雨をその身に受け踊り出した。水を浴びた花たちの蕾が開き、花の妖精たちも顔を出す。最近ほんの少しだけど、妖精さんたちの声を理解出きる様になった。ありがとうに嬉しいに楽しいかな?まだ単語にもなっていないけど、キラキラした表情で、気持ちが少し解る気がする。仲良しになったからかな? かなり嬉しい。

 妖精さんたちに囲まれながら、ベリーを摘み取りカゴにいれてゆく。

 「だれ※き※ー! 」

 「し※にゅ※しゃ※ー! 」

 「リ※ーにげ※ー! 」

 「へん※い※だー! 」

 え?また結界を誰かが通り抜けた?王子たちはまだ城には戻れないはず。しかもこの気配は……

 妖精さんたちが騒いでいる。かなり言葉がハッキリと聞こえたけど、私に逃げろと言っている?しかも変態?まさか賢者なの?しかしこの気配はレイル王子のものではない。しかしハイヒューマンに進化したなら、魔力の増量で気配も変わるはず……

 どうしよう……だんだんと近づいて来る……アクア!アクア……私はどうしたら良いの?会いたくない!会いたくないのー!妖精たちがいっせいに姿を消す。数メートル先の草むらが割れた。

 「リリス……やはり君か……王子たちは後で反省させねば。まさか連絡をサボるとは……しかし本当に生きていたんだな。だがなぜ成長しているんだ? 不老不死の術式で、あの時の姿のままのはず……」

 王子たちはそんなに賢者を恐れているの?私が拒否したと伝えてくれれば良かったのに!それより……アクアにキスで精霊魔力を与えられて成長したなんて、恥ずかしくて言えないわよ!こっち来るな!ちょっと!近寄って来ないで!

 「リリス? 私がわからないのか? たしかに私は変わっただろう。三十を越えてから進化したからな。だがリリスを愛する気持ちは変わらない。さあ私とともにここを出よう。愛しい君の全身を、今度こそ隅々まで堪能したい……リリス……我が愛する婚約者殿。私の愛を永遠に、あなたの体に楔として打ち込もう……なんどでもな……」

 なんだか気持ちが悪い……全身をってなによ!楔なんていりません!愛するなら心が大切なんじゃないの?やはりへん……た……っ!やだ!抱きつくな! 

 「止めてよ! 賢者には奥様も子もいたんでしょ! それに婚約なんてもう賞味期限も消費期限も切れてます! 変態はさっさとお帰りください! 」

 私は思いきり賢者を突き放す。しかしむんずと手首を掴まれた。しかも私の全身をなめ回す様に見ている。

 「リリス! なぜ私を賢者などと呼ぶんだ! 以前の様にレイルと呼んでくれ。それに私からの贈り物を身につけてくれたのでは無いのか? なのになぜ身につけていない? しかもこの虹色の指輪はなんだ! そうか! だから魔力を感じなくなったのか! リリスが魔力を使わなくとも、あれらで微量な魔力は関知できていたのに……」

 魔力を使わなくとも?つまり私が魔力を使えばしっかり関知できたの?あ……だから三ヶ月前の事件のとき、すぐに王子たちに追わせることができた。私が威圧で魔力を放出したのを、移動中の賢者は気付いたわけだ。

 つまりアクアの言っていた、タイムラグの条件は私の魔力放出だったわけ?たしかに道中は魔法を頻繁に使用していた。しかし辺境についてからはほとんど使用していない。しかも指輪を外し、さらにはバングルもブローチも外したからね。

 「まあ良い。指輪は新しいものを作らせよう。バングルもブローチもだな。今回は絶対に外れぬ様に鍵をつけよう。結婚式は盛大にするぞ。ただし夫婦になるのは先だ。三百年も待ったんだからな。リリスも魔力を解放してまで、私を呼んでくれたのだろう? 」

 「は? 」

 「久々にリリスの魔力を感じ、体が疼き我慢できずに飛んて来たんだ。リリスの会いたい、抱きしめて欲しいとの気持ちも伝わってきた。さあ!すぐにでも一つになろう! ベッドはどこだ? 」

 魔力って……雨を降らせたとき?しかし酷い勘違い野郎だわ……それはアクアを思っていたの!賢者じゃないし!

 「はぁ……私ってばどうして、こんな勘違い野郎が好きだったの? とにかく帰れ! 私は賢者を愛していません! 触られるだけで虫酸が走ります。私を助けもしなかったくせに、調子良いこてばかりベラベラ喋るな! 」

 「リリス! 意地を張るな! 寂しかったのだろ? 大丈夫だ。私の腕の中で安心して眠るが良い。なんならベッドの上で暮らそうか? それから私はレイルだ。賢者などと他人行儀ではないか……」

 他人ですから!私は話の通じない賢者を、お城に送り返すための術式を組む。それを賢者に向けて飛ばそうとすると、背後から声が聞こえて来た。

 「聖女アマリリス王女様。三百年ぶりです。しかし王女様ではなんですので、これからはアマリリス嬢と呼ばせてください。これは軟弱者のもと勇者レイル王子ではありますが、どうか私の顔を立て、今は送り返さず見逃してあげてください」

 え?誰?まさか似ているけど……

 「剣士! 貴様は邪魔をしにきたのか! 」

 「はい? 抜け駆けをしたくせに、なにを仰るので? それに私はもう剣士ではありません。聖剣士です。」

 「ならば私も勇者ではなく賢者だ! しかも無礼だぞ! 」

 「あれから三百年も経つのです。あなたはまだ王子としての身分に拘るのですか? それに私はもと勇者と言ったではありませんか。本当に情けない。しかし一度魔力を使いきった体で、良くそれだけの元気が有りますね。まあ腰が抜けている様なので、痩せ我慢ですか?しかし吠えるだけならば魔物でもできます。こんな方に仕えていたとは、私の黒歴史ですよ」

 ……やはりこの毒舌は剣士だ……

 「まさか魔法使いもいるの? 」

 アクアが話していた、もう一人とは魔法使いなの? 

 「いえ。彼は帰りを待っていた婚約者と婚姻し、領地を継ぎ旅には出ませんでした。私は報奨として戴いた爵位と領地を安定させたのち、弟に任せ賢者とともに旅立ちました。つまり魔法使いは我々の様に進化はせず、その寿命を全うしたのです」

 まさか祖国にいるというハイヒューマンの聖剣士が、もと魔王討伐メンバーの剣士だったなんて……

 あれ?ところで聖剣士はどうやってここまで来て、さらには結界を潜ったの?

 「どうやってここに……」

 「あ! 転移と結界ですか? さすがにアマリリス嬢の結界は、私では通り抜けられませんし、転移をするほどの魔力もありません。ですので助っ人に頼みました。しかしあの方は中々話の解るお人です。私は己の仕出かしたことに、申し訳なくて土下座しましたよ。以降懇意にさせていただいています」

 やだ……なんだが悪寒がするんだけど……そのお人ってもしかしなくても……

 「待たせたな! おお! ヘタレ王子もいたのか! とっくにリリスに追い返されていると思ったぞ。聖剣士よ。我の貸した魔道具と魔方陣は役に経った様だな。祠に残された魔方陣から、魔力を採取しておいて良かったわ! 」

 木々の間がら聞き覚えのある声が聞こえて来た。祠に残された魔方陣?あー!あの逃亡の際の魔方陣から魔力を抜いて媒体にしたんだ?破壊するのが遅かったのね……

 でもいやー。大御所まで登場じゃない。祠では不意打ちで逃げられたけど、まともにやり合ったら確実に捕まるし……まさか妖精さんたちのいる場所に、コヤツらを置いて逃げるわけにもいかない。しかも後ろに引きずっているのはなに?なんで連れてくるの?面倒しか無いじゃない!

 アクアー!助けてー!早く帰って来てー!

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