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しおりを挟むアクアと城下町を歩いている。これからの旅に必要な品を購入したり、屋台で買い食いをしたり。楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまう。その間アクアはずっと私の手を握り、ニコニコ笑顔で歩いている。正直身長差がありすぎて、腕が怠いんですけど? 恨ましげに顔を上げると満面の笑顔が……その笑顔がまるで喜ぶ子供の様で、そろそろ離してとも言いずらい……
「あのぅ……ご兄妹で観光ですか? 良かったら私たちが案内しますよ? 」
突如女性の集団に声をかけられた。おーまさかこれが、いわゆるナンパというものですね!アクアは美形さんですから!精霊だけど! 今は誰でも見える様にしているからモテモテの様です。ずっとあちこちから、熱い視線を感じていました。
「兄妹ではありませんし、デート中ですので結構です! 」
アクア……いくら精霊に恋愛は必要ないとは言っても、女性を無下にしてはいけません!
「えー? そのチビとデートー? お兄さんってまさかロリコンなのー? ぜったいに私たちの方が良いって! 」
「そうよ! 妹じゃないなら気を使う必要はないし、遠慮もいらないわね! そんなチビほっぽって、私たちと 一緒に行きましょうよ! 」
チビ……あなたたち死にたいの?
「たしかに可愛いかもしれないけど、お兄さんには大人の女性が似合うってば! 妖艶な美女である私たちが、優しくしてあげるからね? 」
コイツら……私を貶めてるの? ぜったいにバカにしてるわよね? 殺って良い? しばいちゃって良い?
「私はリリーにしか興味はありませんし、見た目など関係ありません。しかし妖艶な美女ですか? 美女など見当たりませんね? 化粧お化けならたくさんいらっしゃいますが……」
アクア……火に油を注いでどうするの?
「キィー! 化粧お化けって私たちのこと? そんな子どう見ても幼女じゃない! やっぱりロリコンなのね! ツルペタの幼児が好きなんて変態よ! どう見ても私たちの方がスタイルも良いし、そんな子よりあなたにお似合いじゃない! 」
……アクアが変態にされてしまった。どうしよう。私もなにか言うべき?でも周辺には野次馬がわらわらと集まって来ている。あまり騒ぎになるのは……私はアクアの顔をそっと見る。
……怖い……能面になってるし……もう!そろそろ約束の時間だし、無視して移動した方が……あ!自称妖艶な美女集団が、アクアを囲みこれ見よがしに胸をグイグイと……
「はあ? リリーはツルペタなどではありませんよ? 細くともしっかりとした安産型の腰つき。出るところはバンと出ているし、締まるべき所もバッチリ。柔らかくて温かくて最高です! 」
自称妖艶な美女集団ならびに、野次馬の視線が私に集まる。やめて! みんなどこ見てるの!アクアもいい加減にしなさい!よけいにロリコン疑惑が深まるじゃない!
「アクア! いい加減に……」
「ちょっと待て! 今のは聞き捨てならないぞ。ならば貴様は幼女虐待ではないか! たとえ同意があろうとも、十三才未満との関係は犯罪だぞ! 」
おい……この男性は、私を幾つだと思っているのよ!いくらなんでも十三歳には見えないわ! しかもいきなり割り込んできてなにを言っているの?
「兵よ出ろ! この少女を保護し、この男を拘束せよ! 」
突然周囲から兵士たちが沸きだしてきた。保護しろと叫んだ男性が私の腕を掴みアクアから引き離す。
「誤解です! それに私は成人しています! 」
この男性は本当に、私を助けようとしているのかもしれない。だから乱暴もできない。逃げるのは簡単だけど、こんなことで追っ手がかかっても困る。私は威圧のために放出しかけた魔力を引っ込めた。
「リリー! 」
私と離されたアクアが兵士を魔法で凪ぎ払い、私めがけて走ってくる。
「やはり魔力持ちか……男がそうならお前もなんだろ? さっきお前からも魔力の気配を感じたからな。だからその見かけか? 王子が多大な魔力もちの幼女を探しているんだ。まさかこんな近くにいるとはな! まあ探し人でなくとも、構わんがな! 」
いきなり悪人面になったし……
「アイツを殺されたくなければ大人しくしとけ。お前はどう見ても幼女にしか見えん。同意の恋人と言い張っても、周囲はぜったいに信じない。我々に助けられた哀れな幼児だからな! ハハハハハ! 」
こいつめ……
「リリーこちらへ! 」
アクアが私に手を伸ばしてくる。私は男の腕に噛みつき、走ってくるアクアに飛びついた。
「リリー……目を閉じていてください。すぐに終わりますから……」
え?なんで?私が目を閉じずにいると、私をヒョイと抱き上げたアクアに、瞼を手のひらでおろされた。
え……また?なぜ……
唇が塞がれた。あ……アクア……角度を変えて深まるキス。口内にまで……なに?いったいどうしたの?体が熱い!アクアが私の体になにかを入れた?魔力?ううん違う……これは……
「んっ、んぅ……アッアクア……無理……もう無理……やっ、はぁぁん……」
唇を離されるとほぼ同時に、体の熱も収まった。ストンと地面に下ろされる。
「兵士長! 多大な魔力持ちの幼女が見つかったと聞いたが捕らえたのか!? 」
保護ではなかったの? ボーッとする頭が徐々に覚めてくる。
「リリーに近寄らないでください! この国の王族に触れられては、リリーが穢れてしまいます。さて。リリーは幼女ではありませんので、私たちはこれで失礼いたします」
アクアが私を抱え直し、スタスタと歩き出す。
「まて! たしかにソイツは幼児だっただろうが! ここにいる人たちが証人だ! 」
兵士長とやらが喚きだす。
「リリーは偽装の魔道具をはめていたのです。この腕輪ですよ」
「なぜそんなものを! 」
「リリーはこのとおりの美貌です。そこに転がっている、まがい物の美女とは違います。私もですが目立つんですよ。羽虫が煩くておちおち二人でデートもできません。あの姿なら兄妹と思われ、邪魔をする輩はいないと思ったのですが……」
アクア……ナンパされたのはアクアです!私に羽虫はまとわり付きません!
「あなたは魔力持ちなのか? それにその女性にも魔力があるのでは? それもかなりの……二人ともに王家に仕える気はないのか? 望めば爵位も王族との婚姻も思いのままだ。厚待遇を約束しよう」
王子……ずいぶん切り替えの早いこと。でも偽装の魔道具? アクアは私が成人していると、どう納得させたの?
「あいにくですが、私はこの国の王族が嫌いです。仕えるつもりはありません。もちろんリリーもです。それにリリーにも魔力はありますが、本当に微量ですよ。もちろん王家になど渡すつもりもありません。子を産む道具にでもするおつもりですか? 」
「そんなつもりは……だが本当に微量なのか? 」
「ならばここで測定されたらよろしいのでは? 兵士長ならば、簡易魔力測定器をお持ちでしょう? 」
兵士長がニヤリと笑いながら、私の側に近づいてくる。胸元から簡易測定器をとり出し、アクアに抱かれたままの私の口に突っ込んだ。
「ブッ、ブハァ! ちょっと! なんで口に突っ込むの!血液でもだ液でも、一滴で良いはずでしょ! 」
「煩い! お前が誤魔化さぬ様に、確実にするために突っ込んだんだ! これで言い逃れは……は? なぜだ! たしかに私は魔力の気配を……」
王子が兵士長の持つ簡易魔力測定器を覗きこんだ。
「どうでしたか? 」
「…………」
「たしかに微量の様だな。だが魔力が微量でも……どうだ? 私の嫁にならぬか? 魔力が微量なのは残念だが、それは他の妃に求めよう。その男が私に仕えるならば、そなたを正妃に迎えることも可能だ……」
はあ? この王子って馬鹿なの?ちょっと! アクアが切れる前に、その口を閉じなさい!
「王子ー! おっぱいの大きな幼女ちゃんはいたのー? お相手なら僕ちゃんに任せてー」
うわっ!エロ盗賊が出た!ロリコンじゃないと言ったじゃない!
「ロイ! 往来で下品な話をしないでください。王子! 賢者様が急いで隣国から戻るそうです。それまで幼女を逃がすなと! どうやら王族の墓地でもその後に訪ねた村のギルドでも、聖女様は見つけられなかった様です」
魔法使いも出た!ハイヒューマンになったという、賢者が私を探している?お墓にも村のギルドも行ったの?なぜ私の居場所がわかるの?しかも聖女って言った?
「リリー? 婿候補に会って行きますか? 」
「アクア? 寝言は寝てからにして! ストーカーみたいで気持ち悪いし、さっさと戻るに決まってるでしょ! 」
私たちは王子たちが来たことで大騒ぎをしている、人混みに紛れてその場から逃走した。
ギルドに戻るとすでに二人は、買い物を終え私たちを待っていた。二人に訳を簡単に話し、急いで隣国の花屋へ転移する。
村のギルドには一時間ほど前まで、隣国の賢者様が来ていたそうだ。なにやら連絡が来て、慌てて馬車で戻ったらしい。村中で賢者様がいらしたと、大騒ぎしていた。
「賢者なのに転移が使えないの? 」
「リリー? 転移にはかなりの魔力量が必要です。まず普通の魔法使いには使えませんし、賢者が魔力のすべてを使用しても、国内で片道一回が限度です。リリーの様に連発できませんし、隣国にまで飛べることはないのです」
はい……つまりチートなんですね。気を付けます。
「まあ隣国の賢者様はリリーと同じく、ハイヒューマンに進化したとのことです。魔力量も増量したはずですが、きっともとが微量だったのでしょう。なので転移を使わないのではありませんか? 」
ふーん。
パン屋さんに戻ると、あっという間に暗くなってしまった。私とアクアはパン屋さんに泊めて貰い、翌日出発することにした。
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