拝啓。あの世の婚約者様。裏切られた聖女です。魔王とともに復活しました。ですが!魔王も婚約者様も要りません!

桜 鴬

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 花屋さんを後にしギルドへ向かう。村の規模はあまり大きくはないようで、道なりにお店が数店並ぶのみ。お店の規模も小さい店ばかり。でもギルドがあって良かった。あまりに規模の小さな村だと、無かったりするからね。

 ようやく右手にそれらしき建物が見えてきた。やはりかなり規模が小さいギルドの様で、看板がなければ普通の民家と間違えてしまいそう。

 でもギルドはギルドだから! ギルドには非常時のため、簡易転移ゲート設置は義務のはず。でも……あるわよね? ついつい心配になってしまう。とりあえず聞いてみよう。扉を開くと小さなカウンター横に、若い男性が座っている。依頼書の紙の貼られた掲示板の前には数人の男女。その横には椅子が並べられ、何人かの男性が座り話をしていた。

 「あ! あった! 」

 掲示板の横に簡易転移ゲートの扉を発見!でも魔力が充填されていない?はめ込まれた魔力石が赤い。充填時は青くなるはず。でも充填していなければ、緊急用の意味がないじゃない。それとも替えの魔力石を使うの?

つい声をあげてしまい、人々の視線が私に集まった。

 一部嫌な視線を感じる……

 「すみません。お聞きしたいんですが、簡易転移ゲートは使えないのですか? 」

 私は受け付けらしき男性に尋ねる。

 「今は使用していないんだ。この村は小さいから必要ないんだよ。それに起動するための魔力も高額だからね。充填してくれる魔法使いはいないし、替えの魔力石は高価すぎるからね」

 たしかに緊急なことなんて滅多に起こることではないけど……うーん。なら仕方がない。私が魔力を充填して使うことはできる。でも嫌な視線を感じるこの場ではできない。危険は回避しないと。もーめんどくさいなぁ。転移で飛んじゃおうかな?

 考え込んでいるとガシリと背後から肩をつかまれた。クルリと体を反転させられ、上を向かされ瞳を覗きこまれた。これは……

 「おい受け付け! このクエスト受けるぞ! 待っていた新しい仲間の荷物持ちが来たからな! マジックバック持ちで、治癒の魔法が使える新人だ。我がパーティーにようこそ。これが約束の加入書だ。これからよろしく頼むぞ! 」

 「…………」

 「どうした? もしかして字が書けないのか? なら代筆してやるぞ? 」

 私の目を覗きこみながら、パチパチとウインクしてくる。このウインクは話を合わせろという意味ではないわね。マジックバックは花屋さんで見たんだろうけど、治癒の魔法についてはどこから?まさか関所からついて来たの?返事をしない私にむかい、さらにバチバチとウインクを繰り返す。

 「私みたいなチビに、屈みこんでまでウインクするのはやめた方が良いのでは? ロリコンの変態だと思われますよ? 」

 とたんにギルド中から爆笑に包まれる。皆さん興味津々で聞き耳立てているみたい。

 「私はロリコンではない! だがなぜだ! なぜ効かないんだ! 」

 やっぱり……精神異常の魔法を使っている。たぶん魅了辺りでしょう。私を魅了しパーティーに取り込むつもりでしょうが、そんなに簡単に行くわけがないじゃない。治癒魔法のことを知っているなら、私が魔力持ちなのも理解できるはず。なのにバカすぎる……

 「ごほん。代筆は仲間に任せろ。あとこれはチームメンバーの証だ。ほら! 腕にはめてやるぞ」

 私の腕を引っ張り、無理やりバングルをはめる。同時に魔方陣が浮かび上がる。これは……

 「ははははは! 手こずらせやがって! さすがにもう、へらず口は叩けまい! これでお前は私の奴隷だ。まあ私はロリコンではない。そちらの心配はするな。役にたたなくなれば売り飛ばすけどな! 」

 やはり隷属の腕輪……しかしこれだけの人がいるのに、誰もなにも言わない。これが日常なの?

 「ほら! さっさと書類にサインしろ! 」

 「…………」

 「痛い目に遭わないと駄目なのか? なら覚悟しろよ? 奴隷には躾も必要だ。私は興味ないが、受け付けの奴は興味津々の様だ。おい! 少し啼かせてヤれ! だが壊すなよ。お前は優しげな面して、かなりえげつない性癖持ちだからな! 」

 えげつない性癖?ロリコンだけでも、十分えげつないわ!ニヤニヤしながら近寄ってくる受け付けの男性。人が良さそうだったのに、まさかギルド自体が犯罪に関わっているなんて!

 近寄ってきた男の手が、私の腰に腕をまわし抱き上げようとする。

 「さわるな変態! 」

 私は隷属の腕輪をはめられた右手を、頭上に高々と上げ伸ばす。腕輪に己の魔力を流すと、腕輪は粉々に砕け散った。

 「なぜだ! なぜ砕けたんだ! 」

 「簡単じゃない。あなたより私の方が強者なの。あなたの魔力では私を縛れなかった。だから腕輪は耐えきれずに砕け散ったわけ。ねえ。そんなに己に自信があったの?たいした魔力持ちでもないのに、良く私を隷属させようなんて思えたもんだわ。馬鹿は一度死ななきゃなおらないんじゃない? 」

 「くそったれが! ガキだと思って甘くみれば調子に乗りやがって! 皆でかかればさすがに勝てまい! 皆でかかれ! 」

 あーあ。本当に馬鹿は死ななきゃなおらないんだね。私は次々と襲ってくる男女と目を合わせ、目を瞬きウインクする。すると男女は呆けて、呆然自失の状態で立ち竦んでいる。

 「みんな!その男二人を拘束して。一生のお・ね・が・い」

 私の魅了にかかった男女が、二人の男に突進する。そのまま人が山積みになってしまった。

 「おっ重い……助けてくれ……」

 「あなたの魔法で吹き飛ばしたらいかがですか? 」

 「たっ助けてください……私はギルドの職員ですよ……」

 「ギルドの職員は偉いんですか? それより犯罪を見て見ぬふりは駄目ですよね? 」

 やがて二人は動かなくなった。死んではいないから大丈夫。人間の山を風の魔法で崩し、さらには全体に睡眠の魔法をかける。仕上げに記憶操作の魔法をかけ終了ー。さて!

 これこれ! 使っていないなら、勝手に使わせていただきます。緊急時は無料なんだからね!扉の魔力石に触れ、己の魔力を流し込んでゆくと、やがて石の色が青色に変化した。

 あれ?そういえばギルドマスターはいないの?もしギルマスも仲間なら困るから、この建物を結界で包んでしまいましょう。ギルドぐるみで犯罪を犯しているなら証拠品もあるだろうし、隠匿されても困るからね。カウンター後ろの巨大金庫を横目で見る。

 簡易転移ゲートが必要がないという自称平和な村で、あんなに巨大な金庫が必要なわけ?冒険者はたむろっているけど、出入りはまったくないし……

 建物ごと結界で包み込み、ついでとばかりに金庫の鍵を開く。やはり……隷属の腕輪が……ギルドぐるみは確定だ。結界は内からだけでなく外からも入れなくなるけど、それくらいは仕方ない。さて! 

 「簡易転移ゲートオープン! 」

 国境の関所に扉が開く。突如扉が現れ、役人たちが驚いている。

 「すみません! この先の村のギルドは犯罪者集団です。私は隷属の腕輪をはめられそうになりました。捜査をお願いします! 」

 慌てて飛び出してきた役人たちに状況を説明し、再度簡易転移ゲートを使い、数人の役人を転移させた。

 「「「こっこれは……」」」

 私はこっそりとギルドを包む結界を外す。さすがに広範囲の結界は、知られると不味いでしょう。

 「私に隷属の腕輪をはめようとし、さらには全員で襲って来ました。私は自身に身体強化をし彼らをはじき、両親の形見である魔道具で眠らせました。ギルマスは見当たらないので、荷担していたのかはわかりません」

 身体強化の魔法は、それほど魔力を必要とはしない。さらに魔道具併用ならば、そんなに不自然ではないだろう。

 「警備主任! 金庫に隷属の腕輪がたくさん入っています! しかもこれは! 人身売買の書類……旅人を拐かしていたのか……」

 一番偉そうだから話をしたんだけど、この人はやはり警備主任だったのね。さてボロが出る前に、そろそろトンズラしようっと。さりげなく簡易転移ゲートへ向かい移動する。

「簡易転移ゲートオープン! 」

 小さくつぶやき転移する。到着次第、急いで扉を閉めた。いつの間にか私が居なくなっていて、きっと驚くでしょうね。でもまた面倒は嫌!

 ***

 「おい! 通報してきた少女はどこにいったんだ? 」

 「わかりません! 村中を探しましたが見つかりません! 」

 「しかしこれは……隷属の腕輪が粉々に砕け散ったのか? はめられそうになっただけではないのか? しかも簡易転移ゲートの魔力が、関所との往復後でもまだ残っている? この村は平和だからと、何年も魔力を補充していないはず……」

 少女が己で補充したのか?

 「まさかゲートで逃げたのか? しかし往復後にこれだけの残量を残し居なくなった。この残量だけでもかなりの魔力量だ。少女が再度扉を使用したとは考え難い。さすがに無理がありすぎるな……」

 「主任! 容疑者たちの自白では、腕輪をはめようとしたが抵抗され、皆で襲い大人しくさせようとしたそうです。しかし弾かれ、魔道具を使われ眠らされたと……」

 「あの少女の証言との矛盾はないな……」

 「主任! ギルマスがいました! 金庫の裏に隠し部屋がありまして、隷属の腕輪をはめられた者が監禁されていました。その者たちとともに、眠っていた様です」

 「ギルマスも監禁されていたのか? まさかな……見張りでもしていたのか? 」

 「監禁している女性を襲おうとしていた様です。素っ裸で間抜け面を晒して眠りこけていましたよ」

 「下衆だな……しかし隠し部屋にまで効果の届く魔道具か? まあ話に矛盾はない。少女のためにもこれ以上の詮索は止めよう。では終わり次第てったいだ! 」

 「「「はい! 」」」

 ギルド内では大捜索と検証が行われ、いくつかの疑問が浮上していた。しかし……

 「うーん……空気が美味しいわー。山登り頑張るぞー」

 森林浴を満喫していた私は、そんな会話を知るよしもなかった。

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