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しおりを挟む半日ほど歩き、無事に隣国への関所を通過した。案の定関所では、ギルドランクを驚かれた。しかし魔力持ちで有ることで納得され、特になにかを言われることもなかった。一本道の街道を一時間ほど歩くと、小さな村が見えてきた。遠目にお城も見える。懐かしいけど……さすがにお城にはいけない。
取りあえずは村に入り、王家のお墓について尋ねる。王家の墓所はお城の裏手にそびえ立つ、山脈を切り開いた場所にある。たどり着くには山を登らなければならないけど、広大な庭園墓地となっていて、誰でも自由に入ることができた。今も変わらないのであれば……
父と母のお墓まいりをしたい……
「若いのに旅をしているのかい? この国の治安は良いけど、女の子の一人旅は危険だよ。王家の墓所は城下町からならすぐだけど、村から城下町までは馬車でも五日はかかるからね。街道は整備されているけど、ならず者はどこにでもいるからね」
「お気遣いありがとうございます。しかし馬車で五日ですか? ならばこの村には冒険者ギルドはありますか? 」
お城は見えているから、座標を割りだし近くまで転移することはできる。しかし追っ手がいるなら、あまりに早い移動速度は怪しまれてしまう。ギルドで簡易転移ゲートを利用させて貰おう。まさかゲートまで廃れてなくなっているなんてことはないでしょう。さすがにあれは三百年くらいで壊れたりはしないはず。
「冒険者ギルドなら、中央広場の手前にあるよ。この道をまっすぐに行くと右側にある、護衛でも雇うのかい? 」
女の子呼びされたし、たぶんまた子供だと思われているんだろうな……
「いえ。色々と相談がしたいので……教えていただきありがとうございます」
「そうかい。気をつけるんだよ」
私は再度お礼をいい、冒険者ギルドへ向かい歩き出す。途中で花屋を見つけて……
「すいません。このカトレアとアマリリスを、別々に花束にして貰えませんか? あ! ロータスの花まである! これも花束にしてください! 」
アマリリスはもちろん私の花。カトレアはお母様。ロータスはお父様。
「はいよー。混ぜた花束ではなく、花ごとに別にするんだね? 」
奥から男性が花をさしたバケツを抱えてやってくる。あ!あの花は!
「はい。そのバケツのお花はアスターですね! それもおねがいします! 合計で四個の花束にしてください」
アスターお兄様……
「はいよ! 予算はどのくらい? 花束四個なら銀貨五枚から受けるけど、金貨一枚出せるなら、かなり豪華にできるよ」
銀貨十枚で金貨が一枚分。倍だけどこれはケチっては駄目でしょう。私は金貨を一枚取りだしカウンターにおいた。
「豪華でお願いします。お墓にお供えしたいんです」
「あ! これらの花はもしかして……聖女様とご家族の墓所に供えるの? なら城下町で買った方が良いんじゃない? 」
「大丈夫です。城下町には寄らないので、こちらで購入します」
「もしかしてマジックバック持ちなの? 」
はい! ここで取り出したるはマジックバックモドキです。実はジルベージュ伯爵がストレージを隠すために、マジックバック使用だと見せかけた方が良いと、袋を手渡されアドバイスをくれたの。関所の警備主任が心配してくれたみたい。袋を介して、異空間のストレージに送ればオーケーなわけ。
「じゃーん。持ってます! これでも冒険者なんですから! 」
マジックバックは、ダンジョンなどの宝箱から手にいれることができる。販売しているものは高額だが、運次第で浅い階層の宝箱からもみつけることができる。つまり運良く手に入れた初心者の冒険者が、荷物運びとして高収入を得ることもできる。
そのためマジックバックを狙っての強盗などが起こるため、必ず本人識別機能の魔法を付加するらしい。この魔法は魔道具によりギルドでのみ付加され、さらにはマジックバック持ちとして登録される。つまりマジックバック持ちの人材は、ほぼ冒険者ギルドで管理されている状態。つまり保険なわけ。
購入した場合もギルドで、本人識別魔法をしてもらうことができる。荷物運搬などのギルドからの依頼を受ける場合は、付加魔法と登録料は無料となる。ギルドからの仕事は割りが良いため、ほとんどの人が行うそうだ。
つまり珍しいけど、ストレージほどには驚かれないわけ。
「へー。剣や拳を使うようにはみえないし、それなら魔法使いなの? それは凄いね。でも気を付けて。女性の魔法使いは少ないから、王家に目をつけられたら大変だよ。良く遊んでくれた魔力の多いお姉さんも、親に王家に売られちゃったんだ……」
そんな酷い……
「お姉さんの両親は、聖女様になれるかもしれない。無理でも器量良しだから、王族の妾になれると大喜びさ。お姉さんは、先祖返りの珍しい瞳の色をしていたんだ。エメラルドグリーンの澄んだ瞳だったよ」
お姉さんのご先祖に、東方の国の旅人がいたらしい。その旅人が、エメラルドグリーンの瞳だったそうだ。
「両親はたんまりお金を貰って贅沢三昧。さらには放蕩三昧ですぐにお金はなくなり、借金取りに奴隷として売られてしまった。鉱山と娼館で死んだそうだよ。お姉さんの命を無駄にして! お姉さんは結局聖女にはなれず、二度とここへは戻って来なかった……」
お姉さんは魔力の高い子を生むためにと王の妾にされ、やがて身ごもり出産。女児を産み落として亡くなってしまったと、風邪の便りで聞いたという。
私の父は側室も妾も持たなかった。母とは政略結婚だったけど、互いに信頼しあっていたと思う。とても仲の良い両親だった。しかしあれから約三百年。この国の王家も腐ってしまったの?それとも王だけ?
「あれからもう十五年だよ。お姉さんはまだ子供だったんだ! それなのに出産するなんて!でも当時の私では、なにもできなかった。あのとき大人だったなら……」
ならばそのときの子は十五才くらい。キチンと王女として暮らしているの?
「あ! 変な話をしてごめんね。忘れて欲しいな。そうそう。 マジックバック持ちなら安心だよ。すぐに花束にするよ。そんなに時間はかからないから、良ければお茶でも飲んでいてくれる? 」
彼は私にイスをすすめ、グラスにアイスティーを注いでくれた。この香りは……
アマリリスの花茶をアイスティーにしている……歩いてきて少し汗ばんだ体に、冷たさと香りが染み込んでゆく。
彼は手際よく花をカットし、グリーンなどをあわせて花束にしてゆく。その鮮やかな手際についつい見とれてしまった。
「隣国の境のジルベージュ伯爵領で、アマリリスの花の人工栽培が成功したんです。我が国では自然に任せているのみで、花茶は庶民の手には届かない高級品でした。しかし最近は輸入される様になり、庶民にも手に入る様になったのです。アマリリス王女様が知ったら喜ばれたでしょうね……」
隣国はアマリリス王女を無理やり聖女とし、魔王の討伐に行かせた。アマリリス王女はその身を犠牲にし魔王を封印し、仲間を逃がしたと伝わっている。しかし我が国のものたちは、誰もそれを信じてはいないと彼は話す。
「アマリリス王女はとてもお優しい方だったそうです。しかし自己犠牲の強い方ではなかった。命さえあればやり直せる。無理なときには撤退も必要だといい、何度でも再度挑戦をする、勇敢な強い心を持った方だと……」
そりゃそうよ。死んでしまったらおしまいじゃない。やり直しもできないんだから!
「本当にその身を犠牲にしたならば、なぜ婚約者であった勇者様は止めなかったのですか? しかも勇者様はたいした怪我もなかったそうです。我が国は聖女様の訃報を聞き、すぐさま隣国の王宮に使者を送りました。そのとき勇者様はピンピンしていたそうです! 瀕死だったのではないのですか! 我が国の国民は隣国の王家を、未だに許してはいません」
そりゃそうよ。だってレイルは最後に聖剣で魔王に斬りかかっただけ。魔王と私を封印したとき、彼は驚いた顔をしていたけれど、私がもがき助けを求め伸ばす手を、決して取りはしなかった。私まで封印されると思っていなかったのなら、さし伸ばした手を取ってくれても良かったはず。
結局私を助けるよりも、魔王を確実に封印することを選んだ。それから祠には一度も来たことがない!なにが私だけを解放するすべを探しに旅に出たよ!後悔するならもっと早くしろ!結婚して子供を作ってからってどういうこと?たしかに王家の血筋は必要だと思う。でもそれなら出奔なんてしなくても良かった。奥さんや子供を捨てたの?そんなの酷すぎるじゃない。女は子を産む道具じゃないのに……
「大丈夫ですか? 旅の方に愚痴をもらしてしまいました。本当にすみません。花束が出来上がりました。どうでしょうか? 」
ボリューム満点で彩りも鮮やかな花束が四つ。どれも素敵な花束だけど……
「これでは金貨一枚では足りないのでは? 」
花屋の男性は笑顔で答える。
「私の愚痴を聞いていただいたことに対する、ほんのお礼の気持ちです。自宅の温室で栽培しているので、金額は気になさらないでください。あなたは肖像画のアマリリス王女様に良く似ていらっしゃる。あなたに花を手向けられたなら、王女様もご家族も、きっとお喜びになるでしょう」
ギクリ……色彩を変化させておいて良かった。今の状態でも良く似ていると言われてしまうなら、素のままだったら大変なことになっていたかも。
私はお礼をいい花屋を後にした。
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