拝啓。あの世の婚約者様。裏切られた聖女です。魔王とともに復活しました。ですが!魔王も婚約者様も要りません!

桜 鴬

文字の大きさ
上 下
15 / 36

15

しおりを挟む

 半日ほど歩き、無事に隣国への関所を通過した。案の定関所では、ギルドランクを驚かれた。しかし魔力持ちで有ることで納得され、特になにかを言われることもなかった。一本道の街道を一時間ほど歩くと、小さな村が見えてきた。遠目にお城も見える。懐かしいけど……さすがにお城にはいけない。

 取りあえずは村に入り、王家のお墓について尋ねる。王家の墓所はお城の裏手にそびえ立つ、山脈を切り開いた場所にある。たどり着くには山を登らなければならないけど、広大な庭園墓地となっていて、誰でも自由に入ることができた。今も変わらないのであれば……

 父と母のお墓まいりをしたい……

 「若いのに旅をしているのかい? この国の治安は良いけど、女の子の一人旅は危険だよ。王家の墓所は城下町からならすぐだけど、村から城下町までは馬車でも五日はかかるからね。街道は整備されているけど、ならず者はどこにでもいるからね」

 「お気遣いありがとうございます。しかし馬車で五日ですか? ならばこの村には冒険者ギルドはありますか? 」

 お城は見えているから、座標を割りだし近くまで転移することはできる。しかし追っ手がいるなら、あまりに早い移動速度は怪しまれてしまう。ギルドで簡易転移ゲートを利用させて貰おう。まさかゲートまで廃れてなくなっているなんてことはないでしょう。さすがにあれは三百年くらいで壊れたりはしないはず。

 「冒険者ギルドなら、中央広場の手前にあるよ。この道をまっすぐに行くと右側にある、護衛でも雇うのかい? 」

 女の子呼びされたし、たぶんまた子供だと思われているんだろうな……

 「いえ。色々と相談がしたいので……教えていただきありがとうございます」

 「そうかい。気をつけるんだよ」

 私は再度お礼をいい、冒険者ギルドへ向かい歩き出す。途中で花屋を見つけて……

 「すいません。このカトレアとアマリリスを、別々に花束にして貰えませんか? あ! ロータスの花まである! これも花束にしてください!  」

 アマリリスはもちろん私の花。カトレアはお母様。ロータスはお父様。

 「はいよー。混ぜた花束ではなく、花ごとに別にするんだね? 」

 奥から男性が花をさしたバケツを抱えてやってくる。あ!あの花は!

 「はい。そのバケツのお花はアスターですね! それもおねがいします! 合計で四個の花束にしてください」

 アスターお兄様……

 「はいよ! 予算はどのくらい? 花束四個なら銀貨五枚から受けるけど、金貨一枚出せるなら、かなり豪華にできるよ」

 銀貨十枚で金貨が一枚分。倍だけどこれはケチっては駄目でしょう。私は金貨を一枚取りだしカウンターにおいた。

 「豪華でお願いします。お墓にお供えしたいんです」

 「あ! これらの花はもしかして……聖女様とご家族の墓所に供えるの? なら城下町で買った方が良いんじゃない? 」

 「大丈夫です。城下町には寄らないので、こちらで購入します」

 「もしかしてマジックバック持ちなの? 」

 はい! ここで取り出したるはマジックバックモドキです。実はジルベージュ伯爵がストレージを隠すために、マジックバック使用だと見せかけた方が良いと、袋を手渡されアドバイスをくれたの。関所の警備主任が心配してくれたみたい。袋を介して、異空間のストレージに送ればオーケーなわけ。

 「じゃーん。持ってます! これでも冒険者なんですから! 」

 マジックバックは、ダンジョンなどの宝箱から手にいれることができる。販売しているものは高額だが、運次第で浅い階層の宝箱からもみつけることができる。つまり運良く手に入れた初心者の冒険者が、荷物運びとして高収入を得ることもできる。

 そのためマジックバックを狙っての強盗などが起こるため、必ず本人識別機能の魔法を付加するらしい。この魔法は魔道具によりギルドでのみ付加され、さらにはマジックバック持ちとして登録される。つまりマジックバック持ちの人材は、ほぼ冒険者ギルドで管理されている状態。つまり保険なわけ。

 購入した場合もギルドで、本人識別魔法をしてもらうことができる。荷物運搬などのギルドからの依頼を受ける場合は、付加魔法と登録料は無料となる。ギルドからの仕事は割りが良いため、ほとんどの人が行うそうだ。

 つまり珍しいけど、ストレージほどには驚かれないわけ。

 「へー。剣や拳を使うようにはみえないし、それなら魔法使いなの? それは凄いね。でも気を付けて。女性の魔法使いは少ないから、王家に目をつけられたら大変だよ。良く遊んでくれた魔力の多いお姉さんも、親に王家に売られちゃったんだ……」

 そんな酷い……

 「お姉さんの両親は、聖女様になれるかもしれない。無理でも器量良しだから、王族の妾になれると大喜びさ。お姉さんは、先祖返りの珍しい瞳の色をしていたんだ。エメラルドグリーンの澄んだ瞳だったよ」

 お姉さんのご先祖に、東方の国の旅人がいたらしい。その旅人が、エメラルドグリーンの瞳だったそうだ。

 「両親はたんまりお金を貰って贅沢三昧。さらには放蕩三昧ですぐにお金はなくなり、借金取りに奴隷として売られてしまった。鉱山と娼館で死んだそうだよ。お姉さんの命を無駄にして! お姉さんは結局聖女にはなれず、二度とここへは戻って来なかった……」

 お姉さんは魔力の高い子を生むためにと王の妾にされ、やがて身ごもり出産。女児を産み落として亡くなってしまったと、風邪の便りで聞いたという。

 私の父は側室も妾も持たなかった。母とは政略結婚だったけど、互いに信頼しあっていたと思う。とても仲の良い両親だった。しかしあれから約三百年。この国の王家も腐ってしまったの?それとも王だけ?

 「あれからもう十五年だよ。お姉さんはまだ子供だったんだ! それなのに出産するなんて!でも当時の私では、なにもできなかった。あのとき大人だったなら……」

 ならばそのときの子は十五才くらい。キチンと王女として暮らしているの?

 「あ! 変な話をしてごめんね。忘れて欲しいな。そうそう。 マジックバック持ちなら安心だよ。すぐに花束にするよ。そんなに時間はかからないから、良ければお茶でも飲んでいてくれる? 」

 彼は私にイスをすすめ、グラスにアイスティーを注いでくれた。この香りは……

 アマリリスの花茶をアイスティーにしている……歩いてきて少し汗ばんだ体に、冷たさと香りが染み込んでゆく。

 彼は手際よく花をカットし、グリーンなどをあわせて花束にしてゆく。その鮮やかな手際についつい見とれてしまった。

 「隣国の境のジルベージュ伯爵領で、アマリリスの花の人工栽培が成功したんです。我が国では自然に任せているのみで、花茶は庶民の手には届かない高級品でした。しかし最近は輸入される様になり、庶民にも手に入る様になったのです。アマリリス王女様が知ったら喜ばれたでしょうね……」

 隣国はアマリリス王女を無理やり聖女とし、魔王の討伐に行かせた。アマリリス王女はその身を犠牲にし魔王を封印し、仲間を逃がしたと伝わっている。しかし我が国のものたちは、誰もそれを信じてはいないと彼は話す。

 「アマリリス王女はとてもお優しい方だったそうです。しかし自己犠牲の強い方ではなかった。命さえあればやり直せる。無理なときには撤退も必要だといい、何度でも再度挑戦をする、勇敢な強い心を持った方だと……」

 そりゃそうよ。死んでしまったらおしまいじゃない。やり直しもできないんだから!

 「本当にその身を犠牲にしたならば、なぜ婚約者であった勇者様は止めなかったのですか? しかも勇者様はたいした怪我もなかったそうです。我が国は聖女様の訃報を聞き、すぐさま隣国の王宮に使者を送りました。そのとき勇者様はピンピンしていたそうです! 瀕死だったのではないのですか! 我が国の国民は隣国の王家を、未だに許してはいません」

 そりゃそうよ。だってレイルは最後に聖剣で魔王に斬りかかっただけ。魔王と私を封印したとき、彼は驚いた顔をしていたけれど、私がもがき助けを求め伸ばす手を、決して取りはしなかった。私まで封印されると思っていなかったのなら、さし伸ばした手を取ってくれても良かったはず。

 結局私を助けるよりも、魔王を確実に封印することを選んだ。それから祠には一度も来たことがない!なにが私だけを解放するすべを探しに旅に出たよ!後悔するならもっと早くしろ!結婚して子供を作ってからってどういうこと?たしかに王家の血筋は必要だと思う。でもそれなら出奔なんてしなくても良かった。奥さんや子供を捨てたの?そんなの酷すぎるじゃない。女は子を産む道具じゃないのに……

 「大丈夫ですか? 旅の方に愚痴をもらしてしまいました。本当にすみません。花束が出来上がりました。どうでしょうか? 」

 ボリューム満点で彩りも鮮やかな花束が四つ。どれも素敵な花束だけど……

 「これでは金貨一枚では足りないのでは? 」

 花屋の男性は笑顔で答える。

 「私の愚痴を聞いていただいたことに対する、ほんのお礼の気持ちです。自宅の温室で栽培しているので、金額は気になさらないでください。あなたは肖像画のアマリリス王女様に良く似ていらっしゃる。あなたに花を手向けられたなら、王女様もご家族も、きっとお喜びになるでしょう」

 ギクリ……色彩を変化させておいて良かった。今の状態でも良く似ていると言われてしまうなら、素のままだったら大変なことになっていたかも。

 私はお礼をいい花屋を後にした。

 *******
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...