【完】婚約破棄?望みません。王子の土下座を所望です。

桜 鴬

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 王が声の主を凝視したまま固まっている。いい加減になにか話したら?馬鹿王子がさらにとんでも発言をしてしまいますよ?まあそれより先に……

 「お兄様! あなたはあの殺人鬼に殺されたのではないのですか? なぜ生きていたなら連絡をくださらなかったのですか? 」

 「妹よ。殺人鬼呼ばわりはよせ! 私は彼女に助けられたのだ! お前の母親に、戦時のどさくさに紛れ刺客を送られた。たしかにお前は知らなかったのだろう。だが私が重症で生死の境をさ迷っていたことは、城のものならば誰もが知っていたことだ。なのになぜお前は知らぬのだ? 」

 「そっそれは……」

 「しかもなぜお前が次期王なのだ? たとえ私が死亡しても、我が弟がいるではないか。お前も弟も私とは腹違いではあるが、順当にいけば第一側妃腹の第二王子が王であろう。弟は幼いからと、母親である第三側妃に唆されたか? 」

 王女が真っ青になっている。王様も同じく真っ青ね。王も情報収集がなっていないから駄目なの!隣国の王位継承順くらい把握しておきなさい!たしかに弟君は幼すぎるけど、隣国の王位は妃の序列に準じる。しかも王子だ。弟君が王女であり、王女が王子であれば逆もありえたかもしれない。

 隣国は女王を認めてはいるけど、それはあくまでも直系男子がいない場合のみ。たとえ幼くとも王子が優先される。しかも妃の序列も高い。さすがに取らぬ狸の皮算用に気付き、どうすべきか脳内会議中という感じかしら?

 「貴殿は生きていたのだな。ならばなぜ姿を見せなかったのだ? しかも我が国の者が助けたなどの報告は上がっていないぞ! 」

 王が私をジロリと睨み付ける。へーんだ。知りませんよーだ。敵側を助けてはいけないと、いったい誰が決めたのよ。私は一言も聞いていません。しかも私に隠し事もしているくせに! 

 「王よ。我が国は私の生存を隠してなどはいません。私が危篤状態だったため、城の外には漏れぬ様にしていただけ。しかし貴国には親書を届けさせました。ちょうど戦後処理に来ていた第三王子に、宰相が渡したそうです」

 会場内の視線が第三王子に一斉に集まる。王子はあたふたと言い訳をはじめた。

 「わっ私はそんなものを預かってはいないぞ! 」

 「はて。王子は疲れたからと己の部隊を先に返し、我国の城の客間に滞在されていましたよね? まあたしかに部屋から一歩も出なかったそうですから、私の生存の話を耳にはしなかったのかもしれません」

 王子がそうだ!と相づちを打ち頷いている。

 「宰相は一刻も早く知らせようと、まだいるはずの部隊を探しました。しかしなぜかすでに、部隊は帰国の途についていた。しかし指揮官でもあるあなたは城に留まっていました。宰相は仕方なく客間を訪ね、親書を手渡しにいったそうです」

 王子がひくついているんですけど?あら?王女も顔色が悪くなってきましたね?

 「しかし客間は固く閉ざされている。侍女と護衛に話を聞いても、部屋に籠りきりだとしか言わない。困った宰相は食事を運搬する者に頼み、親書を渡して貰ったそうです」

 「ならばその者が渡し忘れたのであろう! 」

 「…………」

 王子はまだ無駄足掻きをしているけど、王女はだんまり。観念したのかしら?

 「それはありえません。食事は二人分。一人では配膳できぬため、四人がかりで運んだそうです。なにせ戦後処理中でもあるのに、高級料理ばかり無心したとか? 」

 皆節制し寝るまも惜しんで、復興に力を入れているのに……

 「 まあそれは過ぎたこと。ですが四人が渡したと証言しています。まあ情事に夢中だった王子には、どうでも良かったのかもしれませんね……」

 まさか隣国のお城で励んでいたとは……もちろん相手はこの王女よね?ならば王女のお腹の子はまだ三ヶ月ちょいくらい。こんな時期に馬車で隣国にくるなんて……

 「しかし人前でも憚らぬとは……あなたは猿以下です。妹よ! お前もです! 私の安否が解らぬほど、享楽に耽るとはなにごとか! しかも民と貴族がともに、汗水流し復興に力を注いでいる大事な時に! 貴様は王家から絶縁する! せいぜいその男と添い遂げるが良い」

 王女がヘナヘナと崩れ落ちる。王子は立ちすくみ、一言も発しない。王は……眉間にシワをよせウンウン唸っている。さあどうでるのかしら?どう見ても隣国の王子様が有利です。

 「さすがにこれには呆れてなにも言えん。まさか戦後処理の最中に、相手側の城で享楽に耽っているとは……第三王子よ! お前も王家より絶縁する。そこの女と仲良く添い遂げるが良い。腹の子の命までは取らん。だが男子であれど、継承権は与えない。貴様は去勢の上放逐だ。王家の血をばらまかれては困るからな」

 王子もとうとう無言になった。まあ絶縁とはいえ、ある程度の保護はして貰えるはず。あまりに落ちぶれてしまうと、良からぬ輩に内乱の旗印に担ぎ上げられたりするからね。お腹に子もいるわけだし、さすがに密かに処分するまではないだろう。

 普通なら先の憂いを断つためにも、幽閉ののちに親子で病死コース一直線だ。それこそ密かに処分される。それを放逐だけで済ませるのは、王がまだ息子に情を残しているのでしょう。馬鹿ほど可愛いってね。放逐先で死亡したなら、あらぬ噂で王家のイメージは駄々下がりしてしまうし。

 「王太子よ。今回の件は痛み分けとせぬか? コヤツには間違いなく責任を取らせる。市政で子を育てられるほどの、並みの生活を送らせよう。我が国が王女の面倒も持つ。ああもと王女だな」

 痛み分け?ずいぶん都合が良いこと。二人を婚姻させて、隣国を乗っ取ろうとしたくせに!もしそうは考えていなくても、そう思われても仕方のない発言ばかりじゃない。

 「お詫びと言ってはなんだが、良ければ我が娘を貴殿の妃に進呈しよう。たしか婚約者はいなかったよな? この婚姻にて、両国の絆を深めようではないか! 」

 おい!なに言っちゃってるの?私がなにも知らないと思ってその口開いているの?でもなぜそう思うの?だって私は王太子様の治療をしていたんだよ?王太子様が私に、すでに真実を話しているとは思わないの?

 あ……もしかしてただの公爵令嬢だと思っているの?王家の弱みにならぬ様に、幼馴染みの婚約者のくだりは報告していない様だし……

 「結構です! 私には愛する婚約者がおります。彼女は幼い頃に行方不明になり、国をあげて捜索しておりました。貴国にも捜索を願い出ていたはずですが、まったくのなしのつぶてでしたね。まさか本当に気付かなかったのですか?」

 王の顔色が変わる。カメレオンみたいで面白すぎる。やはり婚約者のくだりは知らなかったみたい。ブツブツ呟きが煩いんですけど。本心が駄々漏れてますよ?

 「全属性の適正を持ち、多大な魔力持ち。さらには聖魔法を操り聖女たる資格を持つ女性。我が国のとある公爵家のご息女。私の幼馴染みでもあり婚約者でもあった少女です! 彼女の姿絵も特徴も伝わっていたはず! なのになぜ隠していたのですか! 」

 「そなたの婚約者だとはしらなかったのだ。だが! 彼女がその少女だとの確証はないではないか! 」

 私を指差して喚くな!悪あがきしても無駄なのに。それに指を指したことで私がその少女だと、気付いていたことを白状したし……

 「彼女のこの紫がかった見事な銀髪に、角度を変えると虹色に輝くブルーの瞳。この瞳の色はごく稀に、我が国の公爵家の女性のみに現れます。先祖の大聖女様の生まれ変わりだと言われる、聖女たる資質を持つ女性にだけです」

 私は天涯孤独だと思っていた。しかしたまたま隣国で王太子様に出会い、私に気付いてくれ真実を伝えられた。当時まだ王太子ではなかった王子が、私との婚姻で力を持ちすぎることを危惧した第三側妃の犯行だった。私は第三側妃の手のものにより拐われ、隣国に捨てられたと聞かされた。当時の私はまだたったの六歳。良く生きていたわよね……しかしその話を聞いている場所に、第三側妃の手による暗殺者が現れるとは思わなかったけど……

 刺客は王太子様を狙って来たが、近寄れないと判断すると、刃物を私に向け振りかざしてきた。王太子様は私を庇うため刺客に立ち向かい、その身に重傷を負ってしまった。

 「その女が公爵家の令嬢だと? 父上? 嘘ですよね? だってコイツは孤児ですよ。魔力持ちだからと、城で召し抱えてやったのです。こんな下賎な公爵令嬢がいるはずがない! 虹色の瞳だと? どこにでもいる青色ではない……っ! 」

 王子が私の顔を覗き込み絶句する。私は今瞳に魔力を籠めている。それにより瞳は虹色に輝き、周囲に癒しの魔法を届けることができる。すべて王太子様に教わったことだ。

 「私は彼女を連れ帰り正妃に迎えます。なに、元の鞘にもどるだけ。なにも問題はありません」

 王の顔が歪む。私を手放すのが嫌なのでしょう。王妃様の強い推薦もあったからだけど、王は私と第三王子を婚約させた。普通ならば孤児との婚約などありえない。それほど私は使い勝手の良いコマなのでしょう。

 「だが! 好いたものがいると! たとえもと婚約者とはいえ、本人の意思を無視するのは感心できぬぞ」

 「父上! それよりもです! この女は隣国の兵たちを大量に殺略しているのです! 正妃になど、隣国の民が許すわけがない! 」

 「そうよお兄様! お願い目を覚まして! たしかに彼女は私たちの幼馴染みで、お兄様の婚約者だったかもしれない。しかし月日は残酷だわ。苦労は彼女を殺人鬼に変えてしまった。正妃たる資格も! 聖女たる資格もありませんわ! 」

 「彼女は誰も殺してはいません。たしかに一度は広域魔法を放ちました。だがこれは戦時中であれば仕方のないこと。しかも王命では拒否は不可能です。己が抹殺されますから。なにせ彼女には四六時中、王家の影による監視がついていましたしね」

 そう。王は私が逃げ出さぬ様に監視をつけていた。睡眠中やお風呂に入る時までいるんだから!

 「まあ彼女なら返り討ちできたでしょうが、相手は多数です。よくあれまで多くの影を忍ばせたものです。しかしたった一人のみを残し撤退させるとは、戦に勝利したとしても油断しすぎです」

 おかげで私が単独で隣国に交渉に行けたんだけどね! さすがにあれだけの数を抑えて、隣国へは行けなかった。

 「彼女はこの国の逃げ遅れた村人とともに、我が国の兵士たちをも癒してくれたのです。しかしそれが露見したら助けた兵たちが、王に何をされるかわからない。だから我が国に兵士たちの保護を求めてきたのです。そこで我々は再会し、私はすぐに彼女に気付いたのです! 」

 私が仕出かしたことは許されることではない。だからこそ私は、己の力を人々のために使った。二度と殺略に使われたくはない。そう決意した私は単独で隣国に乗り込み、死んだはずの兵士たちを逃がし保護を求め、和平の段取りをつけたのだ。

 私は人々のためだけに、この力を使い続けたい……

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