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しおりを挟む王の返答を待つ私。会場中の人々が、王の采配を固唾を飲んで見守っている。
「そちには悪いが、第三王子はそこの王女と婚約させる。さすがに敗戦国とはいえ、一国の王女を蔑ろにはできん。変わりと言ってはなんだが、必ず良き婿を探そう」
あーあ。やはり甘ちゃんだわ。私は隣国の大使を見る。どうやら慌てて国に連絡をしているみたい。でもなぜ王女を連れて来たの?そんな話はなかったじゃない。
「解りました。ではそちらの有責での婚約無効として処理してください。あと私は婿の斡旋はいりません。実は婚約をしているからとお断りをしていたのですが、それでも待つといわれる方に私は望まれております。私としてはその方の方が断然好ましいのですが、私からはこの婚約を破棄したくはありませんでした」
当たり前じゃない。だって私はなにも悪くないもの。なにもわからない幼い私を丸め込み、婚約させた王家が悪いのよ。なぜ私が傷もの扱いされなくてはならないの?例え報奨で婚約破棄を認められたとしても、王家を馬鹿にしたとか、王子を貶めたなどと、こちらに非があると言われてしまう。さらには私側に、婚姻できぬ訳があると噂になる。社交界は魑魅魍魎の巣窟なの。噂でも傷もの扱いは堪らないじゃない。
だから馬鹿二人には感謝ね。ぜったいに結婚させてあげる。
「なんだと! なら貴様も不貞をしていたのではないか! ふんっ! 貴様を娶る物好きの顔を見てみたいわ! どこのボンクラだ? まさか貴族でもない下民か? 誰が貴様などを望むものか! 見栄を張りやがって笑えるわ! 」
見たい?本当に見たいの?それよりあなたには、土下座の練習をさせてあげげなくてはならないわ。
「黙れ! 了解だ。その者との婚約を認めよう。仲良く添い遂げるが良い。では皆のもの! 隣国の姫と第三王子との婚約をここに発表する! 御使者殿。二人は相思相愛の様だ。我が国から第三王子を王配として送ろう。二人がこれだけ大勢の前で宣言したのだ。さすがに王女に、他の者を婿に宛がう訳には行くまい? 」
王様?今認めましたね?さらには添い遂げろとも言いましたね。王子との婚約が無くなっても、私が婚姻すれば国を出ることはないと踏んだのでしょう。相手も確認せずに浅はかすぎる。だけど言質はバッチリ!しかも戦争で疲弊した隣国に、内乱の火種を与えちゃうの?良いの?私はもう知りません。
今の王の言葉で決まりました。私はもうこの国の民ではありませんから!
「ところで……そちの相手は誰なのだ? まあ貴族でなくとも構わんぞ。ただしこの国から出ることはならぬがな」
はあ?なぜ今さら聞くの?王が許可をだしたんじゃない。まさか気にくわない相手なら、前言撤回でもするつもり?しかもなぜ私がこの国に留まらなきゃ駄目なの?
「では今ここに来るように手配します。あと王子は土下座の用意をしておいてください。私は民の代表を連れてきましょう」
私は隣国の御使者に目配せを送る。さらにその場で転移し、数人の男性を連れ戻った。
「誰だ! その者たちは! 王宮に下民をいれるなど! 」
「この方々は王子が落とし穴にはまったせいで、全滅した村の村長と警備兵の方々です。王はご存知の筈ですが、村人はすべて生きています。ちなみに今回の戦争で私は誰一人殺してはいません」
「そんな筈はない! 貴様は常に血塗れだったではないか!」
たしかに血塗れだったわ。でもあれは返り血ではない。治療で付いた血よ。
「息子よ。本当に知らなかったのか? 彼女は膨大な魔力持ちだ。さらには全属性の魔法を使える。もちろん聖魔法もな」
驚愕の顔をしている王子。同じ戦場にいて気づかないなんて馬鹿過ぎる。
「私が常に血で汚れていたのは、負傷した者たちを治療していたからです。私は魔術師ですよ? 攻撃は魔法を放つのです。返り血を浴びる様な接近戦はしません」
「ぐぬぬぬぬ……」
返す言葉も出ないの?
「うるさい! ならばその下民どもも治療したと言うのか? たとえ小さな村とはいえ、数百人はいたはずだ! しかも貴様のせいで、全員感電死したと聞いたぞ! 」
はい。たしかに全員死にました。しかしここにいますよ?
「どさくさに紛れて私のせいにしないでください。元凶は王子です。指揮官でもある王子が無様にも落とし穴にはまり、置いて行くなと連絡部隊を足止めしたからではありませんか! 」
あーもううるさい。あとは王様に丸投げしようっと。私はチラリと玉座を見る。どうやら察したみたい。王はまともなんだけど、計算高いのが駄目なのよ。なにごともしっかり裏づけを取ってから発言をしないと……
「はぁ……そんな状態で王配など務まるのか? まあ我が国から優秀な内務官を送ろう。いやそれよりもだ! その者たちは村長と警備兵たちに間違いはない。たしかにそのまま捨て置けば、彼らは死んだのだ。だが聖魔法で甦った。すぐに治療を施せば、死に至ることは無いそうだ。彼女は誤爆された村の民を救ったのだ! 」
会場内がざわめく。まさかそんなことが有ったとは誰もが信じられぬのだろう。しかし王の言葉に意義を唱えることはできない。
「でも! お兄様と我が国の民は殺したでは有りませんか! 誰も殺してはいないなど詭弁です。この人殺し! 」
まったくこの王女もボンクラすぎる……
「王女よ。戦争だったのだ。犠牲はやむを得ない。彼女は自国の民を殺してはいない。殺したのは敵国の者たちのみ。戦いを仕掛けて来るものを返り討ちにする。戦争では当たり前のこと。敵国の者を殺しても罪にはならん」
「そんな…… 」
「しかも戦を仕掛けて来たのはそなたの国だ。まあ国王は知らず国境でのイザコザに便乗した、馬鹿貴族どもの仕掛けらしいがな。だからこそそなたの父である国王は、戦争の責任を取り退位するのだ」
そうなの。だから敗戦国とはいえ、属国扱いにはしない。なぜならイザコザは、我が国にも原因があったから。隣国は戦では敗戦した形だけど、王の首を入れ替え新体制をとる。さらには高位貴族たちの腐敗を撤廃する。現在信頼のおける者たちにより、徹底的に粛清が行われている。
「王子? 理解して戴けましたか? ならばここで土下座をしてください。誠心誠意をこめてお願いします」
「なぜだ! 死んでいないなら必要無いだろうが! 王族である私が頭を下げるなど許されることではない! 」
必要ない?なら王子にも同じ目にあいたいの?チラリと王を見る。
「さすがに王が頭を下げることはできぬ。だがお前は王ではない。しかも報奨に望まれているのだ。貴様の未熟さを反省し、とっとと頭を垂れよ」
「私が下民に頭を下げる必要などない! 父王は本気で謝罪を報奨にするおつもりですか! いわれのない謝罪など意味がありません。貴様は婚約破棄の腹いせがしたいのか! 」
婚約破棄の方が謝罪要求よりあとじゃない。本当に馬鹿すぎる……
「良い。やれ! 」
はい。了解を得ました!では遠慮無く行きまーす!
「デッド ライジング! 」
王子の頭上に稲光が走り、脳天から体を稲妻が垂直に走り抜けた。その場に崩れ落ちる王子。
「いやー! 人殺し! お兄様に続き王子様まで! 鬼! 悪魔! 私には王子の子が宿っているのに! あなたは王配を殺したの!私のお腹にいる次期王の父親をよ! 死刑よ! ぜったいに殺してやる! 」
はあ? 妊娠してるの?お腹はまったく目だっていないから、まだ数ヵ月よね?まさか戦後処理の最中に、そういうことをいたしていたの?
「ホーリー ライト! 」
王子の体が白い光に包まれる。やがて光が消滅した。
「わっ私は!? ウギャー! 許してくれ! 痛い! 苦しい! 助けてくれー! 」
「エクストラヒール! 」
「はっ私は……生きている? 」
王子が己の体を手で触れ確認している。
「愚か者よ……一度でも死ぬ苦しみが理解できたか? お前の我が儘で連絡が遅れ、避難に間に合わず村人たちは一度死にかけたのだ。たとえ甦生されても、死ぬ苦しみを忘れることができない。彼女は未だに治癒のために村へ通っている。誰もが強い心を持つ訳ではない。気を病み発狂したものや、楽になろうとなんども自傷するものもおる。それでもなお、死ななかったのだから良いと言えるのか! 」
さすがの王子もこれで理解してくれるでしょう。
「すまなかった」
理解はした様だけと、私ではなく民に謝れ!
「私に頭を下げてもなにもでませんよ。村人に謝罪してください。しかもそれは土下座ではありませんよね? それでは頷いただけです。誠意のある謝罪を願います」
「くっ……誠に申し訳なかった。だが私とて深い穴にはまり不安だったのだ! 助け出されるまでチビりそうだったのだぞ! 」
おい!己の事情を入れて同情を買おうとするな!王子の下事情など、誰も聞きたくはありません!
「王子……言い訳は見苦しいです。しかも下品なことを言わないでください。たとえどうであれ、王子の行動が不幸を招きました。王族だと偉ぶるのならば、潔く土下座をしなさい! 」
ぷるぷる震えてるし……
「本当に申し訳なかった! 村人には迷惑をかけてしまった。私が頭を下げることで、村人の怒りが収まるのならば! なんどでも土下座する! 本当にすまなかった! 」
私は頭を下げるうんちゃらは余計だけど、まあギリギリ及第点でしょう。土下座し床に頭をつける王子。まあ私も王子を貶めたいわけではないし、そろそろ勘弁してあげましょう。
「王様? 私はこれまで同様、時おり村には治療と心のケアのために通います。金銭的な生活の保証の方は王家にお任せいたします。よろしくお願いいたします」
「あいわかった。ではこれにて決着だな。夜会を中断してしまったが、これからは隣国の王女と第三王子の婚約を祝う会に変更だ! 皆の者!二人を盛大に祝ってくれ。早々に我が国の内務官を数人選び、二人と隣国へ送り出す。未来の女王と王配に乾杯だ! 」
会場内から盛大な拍手が沸き上がり、二人を祝う言葉が飛び交い出す。二人はすでに立ち直り、手を取り合い素晴らしい笑顔を振り撒いている。王子は立ち直りが早いわね……
「我が国はたしかに戦では負けました。ですが貴国の属国になった訳ではありません。王が責任を取り退位することで、敗戦国扱いはしないと協定を結んだはずです。しかも女王に王配だ? しかも内務官を送る? それでは内政干渉です。貴国は我国で王位簒奪を狙わせ、内乱に乗じ支配下におくおつもりなのですか? 」
突如低い男性の声が会場に響いた。
「王女よ。王位が欲しいのなら剣を取れ! 婚約者殿でも構わない。王配となるつもりであれば、決闘を受ける気概くらいは持ちあわせているはずでしょう」
声の主の姿が見えてきた。会場内が静まり返る。王でさえ息をのんで、声の主を凝視していた。
「誰だ貴様は! めでたい席に乱入とは無礼ではないか! 」
……やはりあなたは、救い様のない馬鹿ですね……
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