【完】相手が宜しくないヤツだから、とりあえず婚約破棄したい(切実)

桜 鴬

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第2章・婚約破棄は新たなる珍事を招く。

それは多分妖精さん(絶対にウソ)

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体の中に温かい何かが流れ込んでくる。それは身体中を回りやがて指先にまで到達した。指先でグルグルと旋回してる。本当にふわふわポカポカと気持ちが良い。フカフカのお布団で寝ころんでる感じ。今度は柑橘系の果物かしら?スッキリとしたのど越しと共に、口内に爽やかな香りが充満する。それは身体中に巡り、やがて香りは鼻から抜けて行く。

「ンゥ…。ン…ンッ。プハァ…。」

もしかしたらこれはポーションかしら?フワリとした重なる様な温もりと共に、もどかしい位ゆっくりと喉を伝う。足りない。もっと。

お願い…。もっと欲しい…。

「はふぅ。ん…ふぁっ。もう少し頂戴。まだ足りない…。」

もしかしてリーダーが?思考が働き始めたら、漸く指先も動き始めた。もう大丈夫だわ。同時にフラッシュバックの様に、色々な事が思い出される。重い目蓋を頑張って開く。しかしダメ。まだ開ききれない。重い…。落ちる目蓋。数秒に満たない瞬きと共に、涙が目じりを伝った。

あの少女はもう…。

パパ達と仲間達に会えたかしら?

ボヤけた視界にうつる顔…。

「え?エドワー…ムグゥ!ンンー!ンンゥー!!・・・・・。」

うぇー。口の中がどら焼き味になったー!口の中でかき回さないでー。もうポーションいらない!胃がいっぱいです!なのに何故よりによってどら焼きなの?口の中で餡が踊ってるー。せめて先のと逆にして欲しかった。己を押さえ付ける相手を、所構わずバンバンと叩くがびくともしない。

もう止めてー。吐きそうよ。ガクリ。

「いい加減にして下さい!しつこいと嫌われますよ。魔力が戻ったなら、ベッドで休ませます。運びますから退いて下さい!」

「・・・・・。私が抱く…。」

「全く仕方無いですね…。」

「俺もう頭痛い。何故ここで出てくるんだ?呼んでないし…。」

*****

ここはどこ?真っ暗闇で目を覚ます。どうやら私は気絶していた様だ。再度目覚めたら、見慣れたベッドの中。宿舎の自分の部屋。勿論干してはいるが、夢に見た様なフカフカのお布団では無い。

さて?何処までが夢?エドワード様が居た?まさかねぇ…。

「お?起きたか!なら大丈夫だな。グレイシー様と話し合ったが、お前は今晩は寝てろ。悪いがポットの中に有った荷物と手紙は我々で開封させて貰った。聖国の奴等とウサギの方はグレイシー様達に任せる。我々は明日早朝にロジャース様の所へ行く。コメコメ商会も関係者だ。既に情報は流した。」

「えー。何それ。簡単に説明位してよ。気になって眠れないわよ!」

「全く…。聞いたら寝ろよ!」

私はかなりリーダーに迷惑をかけた様だ。私が乗った脱出ポットは、結構派手に飛びだした為、直ぐにリーダーは気付いた。ポットを開けた際私の意識は無く、魔力欠乏状態だった。リーダーがどうすべきか判断していると、ドガンと言う爆発音と共に遺跡が崩れ始めた。更には湖の湖面が徐々に上昇し、崩れ始めた遺跡を飲み込み始めた。

このままではここも、湖に沈んでしまう。慌ててリーダーは私を担ぎ、ポットに有った荷物を持ち出した。そのまま走れるだけ走り、湖の水位の変わらぬ場所に避難した。

「ごめんなさい。重かったわよね?」

「ま…まあな。でもポーションは口にあてても飲まないし、俺は転移は使えない。取り敢えず魔力を補給させながら避難し、緊急筒でグレイシー様を呼んだんだ。ハーフムーンの影響が続いてて、遺跡内に魔物が居なかったのが幸いした。」

流石にあれで魔物との戦闘はキツい。リーダーは顔をしかめながら呟いた。

だよねー。ごめんなさい。

グレイシー様は私達を転移で宿舎に運んでくれた。その後リーダーから話を聞き、明日の段取りをつけてくれた。

「ならグレイシー様にもお礼を言わなくちゃね。でも安心したわ。私を助けてくれたのはグレイシー様だったのね。エドワードと勘違いする所だったわ。でも最後のどら焼き味は要らなかったわ。あれで気絶しちゃったのよ。柑橘系までなら爽やかだったのに。」

・・・・・。

「確かに最後は凄かったからな。しかしあれはお前が悪い!俺らが散々抑えてやったのに、変な声だして強請りやがって!次回は苺どら焼きにでもして貰え!」

???強請った?甘いのを?

えー。苺どら焼きも甘いわよ。お茶といっしょなら美味しいけど。

「私は魔法大国のポーションなら、2本で魔力満タン近くになるのよ。なのに2本目で気持ち悪くなったの?先に身体が温かくなった感じがしたけど、先に直接魔力をくれたの?ならどら焼きは要らなかったわよ。」

「お前の意識が無くて自力で飲めなかったからだ。だが魔力を与えたのはグレイシー様じゃ無い。妖精さんかもしれないな。その辺は深く考えるな。命あっての物種だろ?知って何かが変わるか?気絶した己の首を絞めたくなるだけだ。それでも知りたいならグレイシー様に直接聞け。俺からは言えん。親切心を仇で返したけりゃな。」

・・・・・。

何よ。嫌な言い方ね。聞いちゃ不味い事なの?妖精さんの仕業なんてウソばかり。魔力譲渡ってまさか!思わず身なりを確認してしまう。何にも無いみたいだけど…。

変な心配はするなと頭を叩かれた。命あっての物種です。聞きませんよ。

「そう言えばお前が乗った脱出ポットは、直ぐに沢山のホワイトムーンフラワーに覆われたぞ。多分そのまま湖の底だ。花は外気に晒されてたから硬化はしなかったが、弾けて偶然かポットで眠るお前に降り注いで集まった。それらは発光して、まるでお前に癒しを与えてる様だった。魔力の回復はしてなかったが、体力と精神面を癒したんじゃ無いのか?沢山の小さな光る妖精達が、舞ってお前と別れを惜しんでいる様だったぞ。」

別れを惜しんでくれたの?

「不思議は妖精さんの仕業だと思えば良い。その花びらは集めて荷物と一緒にしてある。調剤のレシピが手紙の方に記載されてた。萎びない様だ。」

少女はやはりもう…。

もっと良い方法が有ったのかもしれない。でも私はあの一瞬に悩んでしまった。少女を生かしたいと思った。でもそれ以上に諦めが勝った…。

少女の願いと想いが重かったから。

リーダーが私の頭を叩く。

「反省はしろ。でも後悔はするな。過ぎた事は糧にして、未来をより良く修正しろ!エリーが何時も叫んでる事だろ?脱出は無理やりだったんだろうが、当人が後悔して無いんだ。少女の最後の願いを、実現させる力を与えたお前が後悔してどうする?湖に沈んだ者達が報われない。少女もな。」

だから寝ろ!と言い、リーダーは私の頭を布団に突っ込んだ。

うん。今は何もかも忘れて眠りたい。リーダーありがとう。

「お休みなさい。」

布団を引っ張り潜り込む。

「ああ。明日は定時だからな。」

静かな夜の帳がすっかり落ちた頃、遺跡は完全に湖に飲み込まれ沈んだ。

湖は以降ハーフムーンに限らず、深夜になると湖面からユラユラと清浄な魔力が立ち上る様になる。それは遺跡に残る魔力の残滓と言われた。残滓の魔力が無くなるまで、遺跡周辺には静かな夜が約束された。

更に先の未来のお話。湖には残滓の魔力が無くなり、やがて昼夜問わず魔物が闊歩する様になる。しかしとある魔道具が開発された。かつて遺跡に存在していた、清浄な魔力を作り出す魔道具。素材が希少な為に魔道具の量産が出来ず、かなりの時間がかかった。しかしやがてその魔道具は、湖とその一帯から全ての魔物を追い払った。昼夜問わず魔物の住まぬ場所。湖一帯は妖精達の棲む聖域と呼ばれ、近隣3国の緩衝地帯。やがては友好の場所となる。

*****

全くもう!何もかも妖精さんのせいにして!都合が悪くなったり、話の辻褄が会わなくなると妖精さんが出てくるの!絶対に嘘八百よ!

やはり!

絶対にあの場にエドワード皇太子が居たのよ!魔力を先に譲渡したのがそう!しかもこれは憶測だけど、アイツめキスして譲渡したな!じゃないと話の辻褄が合わない。グレイシー様は、リーダーが安全な所に避難してから呼んだと聞いた。なら避難中に誰が魔力譲渡してくれたの?リーダーには無理よね?

意識が無くて自力でポーションが飲めぬなら、口移しで与えるのも有りだ。魔力譲渡は直接触れる、粘膜接触が1番効果的だから。緊急時だから仕方無い。私だって助けて貰いながら文句何て言わないわ。ファーストキスを返せ!バカタレ!とは思うけどね。だから居たなら何故隠すの?隠さなくちゃならない様な事してるの?と言うより何故、救助にグレイシー様より先に到着してるの?

まさか裏切り者が?一体何時から私の居場所がバレてるの?どこから漏れたの?まさか情報が筒抜け?間者は何人かうろついてるけど、悪意は無いみたいだから放置してたのよね。面倒だけど、捕まえてしごいてみようかしら?

沢山寝てスッキリ爽快!の筈の爽やかな朝が台無し。早起きしてしまったから、ついつい余計な事を考えてしまったわ。さあさっさと用意しなくちゃ。

「おい!朝飯は商会でご馳走になる。着替えたら直ぐに行くから頼むぞ。グレイシー様達は既にウサギ穴の2人を捕縛に行った。商会側は既に用意万端だそうだ。」

リーダーってば、何だか凄くやる気になってるじゃない。テキパキ手際が物凄く良いんだけど、いったいどうしたのかしら?

「何か失礼な事考えてないか?余計な事を考えて無いで早くしろ!」

はいはい。女性はそんなに早くは無理よ。

「あ…。そうだ!ニヤリ。」

何よその嫌味な笑いは?

「聖国ではお前が聖なる乙女らしいぞ。冤罪で牢に入れられた公爵令嬢が、聖国に助けられ婚約者に下克上する。皇太子ルートで、ローズマリーが王妃になった場合を想定した続編らしい。」

・・・・・。

何それ?

「エリー様モテモテじゃん。攻略対象は4人。聖国の王子に大神官。魔法大国の騎士団長に魔術師団長だ。妹さんは皇太子ルートでは無く、お前も牢に入らなかったので忘れてたらしい。」

ちょっと!それは後からマリエンヌに詳しく聞くけど、さっき聞き捨てならぬ事をサラリと言ったでしょ!

「魔術師団長って、グレイシー様じゃ無い。騎士団長にもウサギ穴で会ったわよね?」

「だな。こりゃ面倒だな。まあローズマリー曰く、ヒロインは必ず幸せになるんだろ?続編ヒロイン様頑張れ!」

頑張れって、何を頑張るのよ!ローズマリーだって、攻略失敗してるじゃない。全く頭が痛くて堪らないわ…。

グゥ。あ、お腹空いた…。

「色気より食い気だな。」

「煩いわね。」

早くコメコメ商会に行かなくちゃ。

*****
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