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第2章・婚約破棄は新たなる珍事を招く。
デートしたいの。デートなの!
しおりを挟む最近私は物語にハマっている。巷で流行していると言う恋愛本ね。マリエンヌが良く読む本らしいんだけど、読みおわった本をお料理と共に差し入れてくれるの。最近は定期的に送られてくる、マリエンヌからの荷物が楽しみで堪らない。今読んでる本は、普通の庶民の恋人のお話。何故か相手が王子様なのが多い中、これはヒーローが庶民で好感が持てた。
でもヒロインと聞くと思い出す。ローズマリーは更正できたのかしら?おばか3人は廃嫡の上、降格処分だと聞いた。ではローズマリーは?流石のあの状態で、あのまま皇太子様と婚約とはいかぬだろう。まあ私が考えてもどうにもならない。己の仕出かした事は、己で償わねばならないのだから。
さてそれよりよ!庶民の娯楽!私はデートと言う事をしてみたい。何せ婚約者が居たのに、私は彼と外出した事もない。周囲のお嬢様方は、婚約者とピクニックに行ったり乗馬をしたり。湖畔でボートに乗ったり、サンドイッチを食べたり。城下町のカフェにお忍びで行ったり、食べ歩きをしたり。可愛いお洋服を着て手を繋いで歩いたりしたという。外出が無理でもお城の図書室で、読書デートをしたらしい。しかし私には無い!お城の図書室?勉強以外で入った事はございません。そんな甘い思い出は1度も無い!
全く無ーい!
皇太子と言う身分を差し引いても、流石に可笑しいのではございませんか?私の思い出と言える事柄は…。
お茶会に中々来ない婚約者を待ちうたた寝してたら、顔面アップで顔を舐められたとか…。お庭を2人で散策してて腰に腕が回ったと思ったら、いきなり押し倒されてて匂いを嗅がれてたりとか…。居眠りする私の、胸の谷間に顔を埋めてるとか…。呼び出され待ち疲れてうたた寝する私の膝に、いつの間にか勝手に顔をのせぐりぐりし腰に回した腕でお尻もまれてたりとか…。膝枕には普通は頭を乗せるのよ?顔を埋め腰に腕を回し、グリグリしてるなんて変よ。
やはり良く考えなくても、どれもこれも変態事ばかりじゃない。しかも私はまだ10才かそこらよ?少女の夢をまるっと破壊しおって!似非王子が!
ん?それに私ってば、睡眠率が異様に高くない?もしかして毎回居眠りさせる為に、わざと時間に遅れて来てたの?まさかクスリなんて盛られて無いわよね?
こっ怖すぎる…。
「てな訳でリーダー。私と町にお出かけして下さい。私はデートと言うものをしてみたいのです。」
「どうしてそうなる?しかもブツブツ怖いわ。その変態誰なの?この国大丈夫なの?否。それより何故俺?やだよまだ死にたくないわ。」
「だって!誰も誘ってくれないんです!誘っても逃げられちゃう。だからリーダー、君に決めた!」
「勝手に決めるな!良し。なら俺が知り合いを紹介しよう。奥手で女慣れしてなくて、将来を心配されてる奴だ。奴なら変な事にもな…「ダメ。予行だから大丈夫。ね?リーダー!君に決めた!」らんだ…。決めるなー!」
*****
わーい。今日は良いデート日和ね。町まで出るには、乗合い馬車で約1時間。早朝の荷物の配送馬車に乗せてくれる。たまの休日に、町に買い出しに行く人達も多いからね。私達も行きは馬車で行く事に決定。
「ねぇ?可愛い?どう?この恰好どう?たまには淡い色も良いわね。巷ではツインテールで、淡いピンクのワンピースが流行なんですって。倣ってみたのよ。」
ピンクのフワモコ付きワンピース。このフワフワの白いボレロがアクセントなのよ。ワンピースのポンポンと、ヘアアクセのポンポンとお揃い。大商会での1おし商品なんですって。ボレロは、フワモコ2角ラビの毛皮よ。頑張って森で討伐して持ち込んだら、ロジャースってば、ワンピースタダにしてくれたわ!色違いのミニスカタイプも付けてくれたの。1角ラビはかなり居るけど、2角ラビは少ないの。しかも2角ラビじゃ無いと、白い毛皮のウサギが居ないそう。
「2角ラビ3匹でおまけ付きにお釣りまで来ちゃった。今日は好きな物を奢ってあげるわよ!」
・・・・・。
「大商会の後継を名前呼び。しかも呼びすてだよコイツ。いつの間にか2角ラビまで…。やだ怖い。」
「怖くないわ!可愛い女の子よ。さあデートへ行きましょう。出発ー!」
だっ誰か助けてくれ…。
哀れ生け贄の羊は、ズルズルと引きずられてゆく。
「「リーダーごめん。健闘を祈る。ボディーガードだと思えば…。」」
「お前らー!思えんわー!」
ドナドナドーナードーナー。
馬車はすすーむーよー。町へ。
*****
へえ?ここが魔の森から町なのね。この道を真っ直ぐに中央へ向かうと噴水広場。その周囲にグルリと朝市が立つ。その奥が商店街。朝市が引くと、雑貨や装飾品等のお店に変わる。ギルドは右方向直ぐね。ふんふん。
「おい。1人で何ふんふん頷いてるんだ。デートって何すんだよ。」
「まあ!普通は男性がエスコートして下さるのでは無くて?」
「悪いが俺も町は初めてだ。」
「そうなの?休みの日とか来ないの?」
「出かけると金がかかるからな。余計な金使う位なら、月末までに少しでも多く仕送りしたい。学費の必要なチビ共がまだいるんだ。洒落た調理器具セットがどうした!ニセ物掴まされた親父のせいで…。」
「・・・。なら今日は私がエスコートしましょう。オートマップで確認したら、そんなに大きな町じゃ無いわ。今日は私の普段着と雑貨類が欲しいの。今着てるのみたいじゃ無くて、本当に普段着の奴ね。先に素材を換金して朝市見てお昼食べて、チェンジしたお店を見て終了ね。」
「おい?オートマップって何だ?お前も町は初めてだろうが?」
「煩いなー。男なら黙ってついてこい!ピコンと頭の端に地図が出てるの。だから行くよ!」
頭の端に地図が?何じゃそりゃ?とかブツブツ呟いてる。でもやはりリーダーも出自は貴族なのね。この国の庶民は学校には行かない。また言葉使いは荒いけど、所々の所作が綺麗だもの。これは身に付いた物だからね。魔力持ちも殆どが貴族だ。基本我国に魔力持ちは存在しない。貴族に時折魔力持ちが生まれるのは、ご先祖に魔法大国の血が混じっているから。勿論政略結婚の為、高位貴族に多い。所謂、先祖返りみたいな物なのだろう。
洒落た調理器具セットってまさか?
ギルドへ向かい歩いて行く。思ったより小さなギルドだけど、機能が働いてれば大丈夫。今日は買取りして貰うだけだからね。クエストを張り出した掲示板を眺め、ささっと5枚程を剥がす。受付が居ないので、奥に向かい声をかけた。
「お早うございまーす。クエスト処理と、素材の買取りお願いしまーす。」
「おい!クエスト受けるのか?」
「違うよ。採取と討伐クエの現物が有るから、即完に出来るか聞いてみるの。少し黙って待ってて。」
・・・・・。
奥から男性が出てきた。
「悪いな。小さいギルドだから大した事は出来んぞ。ここから2キロの魔の森入り口に大きなギルドが出来たからな。」
「素材の買取りと、これらの依頼を即完出来ます?依頼品は有りますよ。」
「どれ?ほう。これ等を即完してくれるなら助かるな。だが良いのか?向こうへ行けば2割は上乗せるぞ。」
「構いません。」
「なら助かる。魔の森の奥地の薬草だな。鮮度は大丈夫か?」
依頼書に書かれている、数種の薬草を取り出し並べる。
「もしかしなくとも、時間停止のマジックバックか。鮮度も品もバッチリだ。まだ有るなら、同数で1クエスト消化させるぞ。最近は2キロ先のギルドに殆どを抑えられ、町での薬草の価格が急上昇なんだ。卸してくれると薬師達が助かる。」
私は有るだけの品を出す。また採取に行けば良いからね。それから2角ラビと1角ラビの角を出す。此方もクスリになるそうだ。
「他には何か有るのか?」
「後はシルバーバッファ位かな?ゴールデンも1匹有るけど、内臓と魔石は無いよ。肉と角と皮だけね。」
「魔石は要らん!ゴールデンを売ってくれ。あれは肉が旨い。他の部位も薬品や武器や防具の素材になる。奥で出してくれるか?」
奥の部屋に移り、ゴールデンバッファを出す。シルバーバッファも8匹引き取ってくれた。おまけに大商会の調味ソルトのサンプルを出す。この調味ソルトをすり込むだけで、めちゃ美味しくなるからね!
「毎度あり!是非また来てくれ。現金でこれだけと、残りはギルドカードに入れた。確認を頼む。後昇級試験は受けないのか?Aランク条件満たしてるよな?」
「Aランクにはなりたくないんです。国の強制招集がありますから。」
「まあ。無理にとは言わん。今日は良い仕事をさせて貰った。町の人達も、久々に喜びそうだ。町を楽しんで行ってくれよ!」
何とこのおじさんはギルマスだった。ブンブン手を振られ、見送られてその場を去った。
*****
朝市は凄かった。兎に角人人人の波!早朝は新鮮野菜やお肉やお魚。やはり食料関係の出店が多い。だけど生憎私は料理が出来ません。マリエンヌの簡単調理セットと、ホカホカお弁当にお世話になりっぱなし。
あ!キチンとお礼はしているよ。マリエンヌは要らないと言うけど、ロジャースに頼んで月々のお給料から差っ引いて貰ってる。私はマーガレット紹介の代表として、商品デザインに顧客のアフターケア。キチンとお仕事もしてます。そのお給料からだよ。
でもマリエンヌにはお世話になりっぱなし。近々また何か珍しい魔物の素材でもゲットしてこよう。今回の私とお揃いのボレロとワンピース。とても喜んでくれたからね。これはやはり次回は、妖精の花びらを探しに行こうか?何となくあの怪文書の場所と意味は解るんだよね。多分奴の背中に生えてるんだよ。しかしハーフムーンの夜に限るとか…。私にロマンチックは要らん!
「おい。食料品はいらないだろ?3食出るしもし足りなくても、お前なら魔の森で自給自足出来るだろ?買って珍しい果物位か?」
「そうね。果物は欲しいわ。後調理済み食品ね。食べ歩きで食べる様な奴。他は妹が沢山マジックバックに入れてくれてるの。お菓子もね。」
「あそこの店の果物は魔法大国物みたいだな。その隣は海側の隣国だ。確か姫様が我が国の公爵家に降嫁される予定の国だよな?ならあそこ見てみろよ。」
もしかして弟のお嫁様(仮)の隣国かしら?
おお!確かに見た事の無い食べ物が!奥には民俗衣装?洋服みたいのも有るわ!魔道具に民芸品まで有る。良し。あそこに突入だー!
・・・・・。
「お前…。限度を知れ…。」
只今私達は喫茶室でサンドイッチを摘まみながら、荷物の整理をしています。マジックバックが有るから楽チンよーん。もうテンションMAXですよ。
「だって!初めてのお買い物だったの!しかもまさか魔道具の器まで売ってるなんて!しかも食べたことの無い食べ物が沢山!更には洋服よ!こんなに私に似合うなんて…。あー。もう少し若ければ!ピンクフリフリのも…。マリエンヌに着せようかしら?」
「止めろ。可愛そうだ…。」
・・・・・。
「ねえ?リーダーは確か18よね?下の子達って幾つなの?」
「13才。10才。8才だな。因みに一番下だけ女だ。上に20才の兄がいる。」
「貴族で5人は中々多いね。間空いてるし、失礼だけど腹違いでは無いのよね?しかも貴族でしょ?兄はどうしてるの。」
「ああ。単に親父が女の子が欲しいと数打っただけだ。兄は伯爵家の後継だ。既に婚姻し、騎士団の寮家族でいる。俺も騎士団に居たが、討伐隊の方が給料が良いから止めてきた。それがどうしたんだ?」
「伯爵家で5人。末っ子が女子。長男と次男が騎士団。長男は既に妻帯者…。ブラームスの隣は確か…。ブツブツ…。」
「おい?」
頭の中で何かのピースが填まった。
「お昼ご飯はリーダーの家で食べよう。マリエンヌの特製お握り弁当をだしちゃう。」
リーダーは私の顔を見てポカンとしている。私は胸の魔道具のボタンを押す。
「は?突然何言っちゃってるの?」
「ごめん。説明は後。時間が勿体無い。地図はこれ。転移の座標を決めるから、ブラームス伯爵家のおよその位置を教えて。」
「おい!俺は家名なんて言って「いいから早くして!」無い!」
リーダーの示す場所のおよその座標を割り出し、魔方陣を構築する。
「ロジャース聞こえてる?忙しいかもしれないけど、1度だけでもブラームス伯爵に顔をみせて欲しいの。多分マーガレットブランドの詐欺よ。」
「聞こえてる。今日はデートじゃ無かったのか?暴れ馬を宥めるのに大変だったと側近が嘆いてたぞ。もうバレたのか?私がそちらへ行くのは構わない。迎えに来てくれ。本店の事務室にいる。」
「バレて無いとは思うんだけど…。まあ良いや。宜しくね。お姉さん!お会計はこれね。お釣りはいらないわ!ほらリーダー行くわよ!」
グルリと視界が変化した。
ここはお屋敷の中庭かしら?お屋敷にドンピシャなら嬉しいのだけど?
「あー。お兄さまー。」
「お兄様何故突然に?まさかそちらの方を父に紹介しに?」
「んな訳有るか!親父は居るか?」
・・・・・。
・・・・・。
「今日は狩に失敗して、昼ごはんに肉無しだとそこで落ち込んでるよ。」
えっ?少年の指す指先には、草むらに踞る背中が見える。
「ねえボク?お昼は何人前必要なの?」
「うんとね!父上とボクと妹の3人。他には誰も居ないよ!母上は上の兄上を学園に通わせる為に、侍女としてお城で働いてるの。」
「使用人も居ないの?」
「使用人は既に解雇済みなんだ。引退した執事の老夫婦が離れに住んでで、食事と洗濯の面倒はみてくれてる。」
・・・・・。
・・・・・。
「では私達も含めて7人前ね。リーダーはまた丸焼き焼いてよ。私はスープを作るわ。野菜とお肉たっぷり、大商会新作のブートン汁よ。」
「あ!2人は老夫婦を呼んできてくれる?ゆっくりで良いから無理はしないでね。お握り弁当をだしちゃうから、お腹一杯食べられるわよ。」
「お姉ちゃん有難う!」
私の足元に女の子が飛び込んで来た。ジッと私の顔を眺めて首を傾げた。
「お姉ちゃんのお目目は綺麗な青よね?でも向こうで見ると違う。真っ青な空のお色よね?髪の毛もキラキラな金色なの。この国の王子様とお姫様とおんなじ。」
ぎょっとして、マジマジと女の子の目を見る。
「おい…。やはりそれは認識阻害の魔法か?妹には俺より魔力が有る。俺は何か常時展開してるか?位に感じてた。しかし誰にも知られたくない事は有る。だから黙っていたんだが…。」
突如茂みで項垂れていた伯爵が飛び上がった。
「何故我が家の様な東谷に貴女様が!エリ※※※※様!」
伯爵ごめん。慌ただしくなるから沈黙ね。サイエント。
「エリーは短縮な訳ね。先日の皇太子様の変態ぶりか理解できたわ。」
・・・・・。
「クゥ…クルクル…。」
「ククゥ。グー…。」
「ほらほらお腹と背中がくっつくぞ!伯爵も起きたなら働くべし!7人分の食事スペースを作って下さいな。」
マリエンヌの新作お握り弁当。めちゃ楽しみだな。
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