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第2章・婚約破棄は新たなる珍事を招く。
毎日健康生活満喫中。
しおりを挟む清々しい朝だわ。小鳥の囀ずりに綺麗な空気。しかし背後に控える森。魔法大国とを隔てるこの森には、多種多様な魔物が存在している。この鬱蒼と繁る魔の森を緩衝地帯とし互いの領地へ魔物が入らぬ様に、両国の討伐隊同士が協力をしている。
今日も早朝から、鍛練をする隊員達の姿が見られる。
たん。たん。たーん。
たん。たった。たぁーん。
とん。とんっ。とぉ~ん。
ほい。ほい!くるりんぱっと。
「わーいジョギングと体操あわせて10セット終了ー。朝ごはんだー。朝ごはんー。」
くるり。
「先に行って良い?皆1セット遅れてるよね?ズルはダメ。女に負ける筈無いんだよね?しかもお嬢ちゃん呼びだったし。でもか弱いお嬢様扱いは嬉しいわ。今まで誰も、か弱い何て言ってくれなかったからね。」
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
「早くしないとお代り無くなるよ。ほら早く!早く!ソレホレ頑張れー!」
「それはお前が!」
「どの口が言うんだ!」
「頼む。飯が…。」
「「「あー!行っちゃったよ!急げ!」」」
****
あー。やっぱり運動した後のご飯は美味しいわね。健康的で良いわー。だけど朝にパン食はダメね。スープにサラダは付いてるけど、やはり朝にはご飯よ。今度マリエンヌにお握りを頼もう。パンでは中々、お腹がいっぱいにならないのよ。
「おばちゃん!パンにタマゴ挟んだのと、ハム挟んだの追加ね!」
「あいよ!エリーちゃんは元気だね!2つ追加で足りるのかい?」
「うーん。チーズのと野菜のも頼んじゃう。チームの割り当てまだ有るのよね?」
おばちゃんが親指を立て、OKサインを送って来た。
パクパクぱくり。
うーん美味しい。早寝早起き。適度な運動。ストレスを発散してくれるチームメイト。ヒーヒー言いながら遅れて来た仲間を見る。私がパンをパクつく顔を見て、絶望的な顔をする3人。
「パ…パンが…。」
「女の癖に…。」
「バカ!それを言うな!余計に食われる!」
ニヤリ。どうやらまだ身に染みてない様だね君達?
「チーズと野菜の出来たよ!エリーちゃんは、本当に美味しそうに全て食べてくれるから嬉しいね!野菜にトマトとベーコンも追加して挟んどいたよ。」
「わーい。有難う。でも最後に甘いのも食べたいな。苺ジャムにマーガリン塗ったの追加ね。これでお腹いっぱいになるかも。訓練でバンバンぶっ放してくるから!また夕食も宜しくね?」
「また食われた…。」
「「だから言ったのに!」」
エリーちゃんは頼りになるねと、おばちゃんに頭をなでられる。正直今まで、人に頭を撫でられるなんて事は無かった。だから最初は照れくさかった。決して父や母に愛情を貰わなかった訳では無い。でも高位貴族は育児をしない。全て乳母任せ。私も元姫君だった母に、庶民的な母らしさを求めた事は無い。だってそれは生まれ付いた者の義務だから。それを当然だと思っていた。だから私も料理も家事もしなかった。だって必要ないもの。王妃になる予定の私には、政治や内政的な勉学の方が必要だった。例え私が皇太子様に料理をしても、間には必ず毒味役が何人か入る。そんな料理が美味しい訳無いじゃ無い。でも今は違う。
私は庶民のエリー。おばちゃんのナデナデが嬉しい。仲間をつつくのが楽しい。だから今日も1日頑張れるよ。
「アイツ今朝は結局5個追加したのか?」
「だな。残りは5個だ。誰か1人は、おかわり1個で我慢だ。」
「しかし良く食うな。あの体の何処に…。」
「上下に決まってるだろ!あれで最新防御型、特別製コルセット型防具を装着してるそうだ。しかも自作だぞ。でも全く隠しきれてないよな。」
「高出力な魔法を連発すると腹が空く。聞いては居たが我国の討伐隊には魔力持ちが少ない。だから魔力持ちがまさかあれ程食べるとは…。」
「らしいな。隣国の魔術師団は、アホみたいに食料消費が激しいそうだ。腹が減ったら、食える魔物を捕まえて丸焼きにするそうだぞ。マジックポーションでも補えるが、高価だし手持ちに無い場合も有るからな。しかし本当に凄まじいよな。」
ボソボソとサンドイッチを食べながら話をする3人。では今日のお代り減は誰になるかと、じゃん拳を始めた。
その結果が出た所で私は話しかける。
「何時も沢山食べちゃってごめんね?そうなのよ。魔法使うとお腹すくの。この年まで魔法なんて使用した事が無かったから、こんなに燃費が悪いとは思わなかったの。でもね!昨日漸く自分用の無限収納バックが出来たの!ほぼ無限だし、時間停止機能付き!討伐した魔物も仕舞えるわよ。お腹空くなら魔物の丸焼きしよう!料理は出来ないけど、野営料理は実戦で習って来たわ。妹に沢山スープ種と調味ソルトを貰って来たから、今日の実戦でご馳走するわよ!妹の料理は抜群何だから!」
このエリーの妹かよ…。とてつもなく心配だ…。しかも然り気無く凄いこと言ったな。マジックバックを自作だと?しかめ時間停止機能付きの無限型だと?
「なにその顔!ふーん。なら昼食もパンと干し肉で我慢だね。おばちゃんに頼んどきなよ。私だけ自分で作るよ。お肉はシルバーウルフかゴールデンバッファが美味しそうだねー。」
ジュルリ。それらは丸焼きだけでも旨い肉だ。だが高ランク。討伐が大変だ。しかし確かにコイツなら…。
「「「エリーさん。俺達も頑張ります!!!」」」
「宜しい。今日は何処のチームより早く昼食にするわよ!頑張るぞー!」
「「「おおー!!!」」」
*****
討伐隊の仕事は単純だ。魔の森の魔物を間引く事。魔の森自体は恵みの森でも有り、魔物を討伐出切る力の有る冒険者ならば、自由に出入り出きる。しかし魔物は日々増えて行く。冒険者だけの討伐量では、増えすぎてしまう。増え過ぎても森の中だけで済めば問題にはならない。しかしそこは弱肉強食の魔の森。徐々にバランスが崩れてしまう。弱い餌になる魔物が強い魔物に食い尽くされる。強い魔物は餌を求め森を出てしまう。逆も然り。弱い魔物が増え過ぎ、食料が減り森から逃げ出す。そのバランスを取るのが討伐隊の役目。朝一にその日の討伐割り当てが掲示され、グループ毎に狩りに出かける。
本日のメイン討伐の魔物は、シルバーバッファかぁ。増えすぎてるから、1グループで10匹以上ね。魔石が取れない場合はカウントせず。中々シビアね。ゴールデンバッファならシルバー×2にカウント。ふむふむ。
「では者共いざ討伐へ!」
「おい!リーダーは俺だ!号令位はかけさせろ!」
「はいほーい。リーダーどうぞ~。」
「では気を引き締めて行くぞ!他のチームに負けるな!」
「「おう!」」
「はーい!」
4人で隊列を組み前進する。
前方2人。内のリーダーは多少の魔法が使える。
「サーチ」
リーダーが呪文を唱えた。周辺の魔物の気配を探る為だ。
「あ!リーダーにこれあげる。中にポーションとお菓子が入ってる。お腹空いたら食べて。袋は見かけよりは入るから捨てないで。時間停止機能は無いから長期保存は無理よ。」
中身は魔力ポーションとおからクッキー。そして大豆バー。妹マリエンヌの作った物。おからは水分と共に食すと、体内で膨らみ満腹感を与える。大豆バーも食べごたえが有る。
「!?もしかしてマジックバックか?高価な物だろ?」
「私が自分のを作るのに、練習で作った物だから大丈夫。魔力使うとお腹減るでしょ?中身はポーションとお菓子よ。お菓子は大商会で商品化前の試作品なの。賞味期間も長いし、腹持ちも良い筈だから試してみて。ポーションは新作の、抹茶ミルク味と抹茶イチゴ味と抹茶小豆味の3点セット。これは魔法大国のお品。気に入ったら是非宣伝してねー。」
・・・。
さらっと凄い品を…。
・・・。
何故俺には魔力が無いんだ!
・・・。
エリー様。何処までも着いて行きます!
「うぇ?ゾワゾワする。何?物凄い殺気を感じたわよ?」
「あぁ。確かに何かの気配?勘違いか?否。少し先に…。」
「ここから右方向にバッファの群れが居るな。10匹位か?シルバーかゴールデンかは解らない。行くか?」
「シルバーだったら、もし沢山居たら大変よね?更にゴールデンなら、接近線は不味いわ。」
「そうだな。なら間引きを頼めるか?討ち漏らしは我々が行く。」
「リーダー。了解です!」
バッファの居る方向に目を凝らす。確かに居る。全部で20は居るわね。退路に向かいバリアをはる。木々の隙間を抜けて行くイメージで、左右の5本の指先から小さな風の竜巻を次々と生み出す。
「ミニチュアカッター行け!」
木々の隙間を小さな風のカッターが、縦横無尽に走り抜ける。バッファ類は首を上げ威嚇してくる。その高さにあわせて飛ばせば良い。クルクルと回る風のカッターが、バッファの首を次々とはねて行く。はねきれなかったバッファが、此方に向かい突進してくる。しかし森の中なので、木々に邪魔され中々進めない。大きな体が邪魔をする。
「背後に逃走用の結界を張っています。ゴールデンも混じってます。大変なら結界に追い詰めて下さい!電撃を流してます!」
私も戦闘に参加する。剣でバッファを結界に追い詰め感電死させる。敵の片側を固定すると剣の扱いも楽になる。流石に女性と言うハンデは大きい。筋肉量が違うのだ。まあ魔法で身体能力強化すれば簡単だけど、やはり後で反動が来る。便利だからと魔法ばかりに頼っては駄目。だから私は毎日トレーニングを欠かさない。お陰様で男子に混ざっても問題なくなった。
私は倒したバッファの魔石を抉りながら、内臓を消滅させ血抜きをして行く。ズルッこだけど魔法でしてしまう。魔物の体内の異物を外に転移させるイメージだ。内臓も食用には出きるそうだけど、そこまでは必要ない。血液も竜種で無い限り、素材にもならぬそうだ。最後にクリーンで綺麗にし、マジックバックに突っ込む。
どうやら戦闘が終了した様だ。皆が処理してくれた魔物にクリーンをかけ、私がマジックバックにしまう。未処理のバッファをひと纏めにし、周囲に結界を張り更に処理を進め済ます。
「みんな有難う。血抜きを手伝ってくれるとは思わなかったよ。食べる分だけと思ったけど、お陰様で大量だね。」
「凄いなそのバックは…。」
「毎日私の残りの魔力を、3ヶ月以上注いだからね。リーダーも毎日寝る前に、残りの魔力を注ぐと良いよ。売り物じゃ無いから、そのマジックバックは用量を固定してない。まだまだ広がるよ。」
しかしバッファが何故こんなに群れてるの?バッファは群れる魔物だけど、沢山で群れるのは、草原などの見晴らしの良い場所に生息する場合のみ。森の中では動作が鈍る。特に図体のデカいバッファは、森の中では精々家族単位での群れになる筈。
「場所を移動しよう。森でこれ程バッファが群れてるのは変だ。しかもゴールデンが5体は居たよな?」
「やはりそう思います?ゴールデンが7体にシルバーが18体。合計25体です。ゴールデンだけでも今日のノルマは達成です。報告を兼ねて戻りませんか?」
リーダーと共に暫し考え込む。
「「昼めしは?」」
「戻ろう。俺が報告に行くから、2人はエリーと食事の用意をしといてくれ。外の調理場の許可も得て置く。」
それならば戻りましょう。私は3人をチョイチョイ手招きする。3人の手を繋がせ、リーダーの肩に手を乗せ転移。
「では料理に行って参ります。これが今日の魔石です。リーダー。報告をお願い致します!」
・・・・・。
「いきなり転移するな!驚くわ!しかし何だか素直で気味が悪いな。食事は大丈夫だろうな?」
「失礼な!調味料が凄いのよ!これも大商会の商品よ。でも私のは既製品じゃ無いんだから!特別製なの!食べれば解るわよ!はよ行け!!」
2人の仲間を引き連れ、訓練場横の調理場に向かう。ここは野外調理の際の教えや、料理を教える為の調理場だ。遭難した際の薪の集め方から火のおこし方。簡単な調理の仕方等も習う。私も習いました。
懐かしい思い出です。ふっ。
「何黄昏てんだよ。早く肉だせ。ゴールデンバッファを丸焼きにするんだろ?それ位なら俺達も出来る。重いから出せ。」
「ならお任せするわね。3体お願い。皮を剥いで綺麗にしたら、このソルトを全体に揉み込んでから焼いて。ハーブとクレイジーとホットよ。手にしみると痛いから、この手袋して揉み込むと良いわよ。宜しくね。」
「OK。しかしこの調味ソルトか?これだけで凄く腹が空く匂いだな。楽しみだ!よし焼くぞ!」
「おう!」
さてでは、私はスープを作りましょう。お肉は濃い塩味だから、スープは優しいクリーム味に決定ね。スープの具材はこれに決まりだ!ブロッコリーと乾燥野菜達。全てカットされて袋にタンマリ入ってます。スープに色々な味が有る様に、具材にも色んな種類が有るよ。トマト味には、チンゲン菜や玉葱とかね。単品も色々有る。コーンとエビも入れちゃおう。角切りベーコンも美味しそうだけど、お肉が有るから次回にしよう。
後は乾米これよ!
大きなお鍋に、乾米と水を入れ火にかける。グツグツ煮たったら乾燥野菜を投入する。乾燥野菜が戻ったら、コーンとエビとスープの素を加えた。加えるとスープが白く濁る。このスープの素にも、玉葱やベーコン等が入っている。今回使用してるのは、大量調理用の大きい素なの。他にもカップで飲める一人前用とかも有るのよ。マリエンヌが私の為に色々考えてくれたのよ。
ロジャースはそれをまた懲りずに、全て商会で商品化してる。
まあ2人がラブラブだから、私は構いませんよ。
とろみがつくまで、クルクルくるーり。よーくかき混ぜたら、お米入りクリームスープの出来上り!お米入りで腹もちアップ。お皿によそいテーブルにセット。小皿にマヨソースと照焼きソース。トマトソースとマスタードソースを出す。パンは配給の奴ね。お水もセットOK。
「おーい出来たよ。お肉はどう?」
「焼けたがこんなにどうするんだ?」
さあさあ己の分はお皿に切り取り、盛り付けちゃいましょう。3種共に山盛りたべちゃうよ!
私に釣られて、2人も盛り付け始めた。リーダーも戻って来たので同じく盛り付ける。
テーブルにセットし戴きまーす。うーん。やはりゴールデンバッファのお肉はジューシーよね。めちゃウマだわ。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
無言で食べる3人。お肉の無くなったお皿を片手に、再度お肉を盛りに行く。スープの無くなったお皿にお代わりを入れてあげる。お肉わね?パンに挟んでこれらのソースを足しても美味しいよ?テリマヨソースでパクリ。皆も真似してパクリ。
「「「このソース旨い!」」」
でしょ。でしょー。私も大のお気にいり。
ん?そろそろかな?何だかワイワイと話し声が聞こえて来たよ。結界張らなかったからね。
どうぞ皆さんいらっしゃいませ。
*****
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