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第1章・婚約破棄は自由の翼。

逃走の表と裏側。

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送迎の馬車を急がせ自宅へ急ぐ。兎に角時間が勝負よ。兎に角逃げる。逃走だ!公爵家のお屋敷に馬車が乗り込む。同時にドアを蹴飛ばし部屋に走り込む。驚く使用人達に家族の所在をたずねる。良かった。まだ帰宅はしていない。動きに邪魔なドレスを脱ごうかと迷ったが、流石に父親に追い付かれては不味い。

部屋のクローゼットから、用意していたカバンを引きずり出す。何通りか用意した手紙の中から、絶縁状を取り出し父の書斎に向かう。机の上に目立つ様に置き頭を下げた。

「お父様。今まで育てて戴き、有難うございます。しかし皇太子様に婚約を破棄された私は、皆様の前に顔を見せる事も出来ません。親不孝な娘をお許し下さい。どうぞ私の名は、公爵家から除籍して下さいませ。これにて親族に類は及ばぬでしょう。私は大丈夫。逞しく生きてゆきますわ。」

父はまだ戻らぬが、礼儀とばかりに話しお辞儀をする。

「お姉さま…。」

背後からマリエンヌの声がして驚く。

「ロジャース!何故マリエンヌを連れて来たの?貴方も呼んで無いわよ。」

「まあな。確かに呼ばれてない。だがあれでは皇太子様が可愛そうだろ?」

・・・・・。

「可哀想?私は猶予を与えたわ。おかけで急ぎすぎて、魔道具を返して貰うの忘れちゃったわよ。あのね?魔道具を首にかけた時点で魅了の効果はきれてるの。なのにその後言い訳もせずに、婚約破棄の話を続行した。結果、公爵令嬢たる私に大恥をかかせた。しかも相手は男爵令嬢。これは公爵家への侮辱とも取れる。私だけを貶めるなら我慢は出来た。しかしあの規模の王家主催のパーティー。ローズマリーの私への態度しかり。それを諌めぬ皇太子様。それは公爵家への侮辱と取れるわ。周囲も我が公爵家は、王家に軽んじられてると感じたでしょう。私だけならまだしも、家族への侮辱は許さない。キチンと落とし前を付ける事ね。まあ私は許さないから構わない。」

・・・・・。

・・・・・。

ロジャースとマリエンヌは沈黙した。しかし随分早いお帰りだったわね。

「マーガレットブランド代表の件も有るから、キチンと連絡はするわよ。魅了の魔道具横にボタンが有るでしょ?そこを押せば通信機になるから。但し内緒話は無理よ。通信を受信すればボタンが光る。ボタンに触れれば、所持してる皆に筒抜けなの。魔力補充のアフターサービスは週一で決めましょう。大商会に私が通うわ。」

「魔力持ちは他にも居るから無理はしなくて大丈夫だが…。そうでは無くてお前は1人で大丈夫なのか?資金は有るかもしれないが、料理はからきしだろ?お嬢様のお前が平民に混じれるのか?」

「そうですよ!お姉さま行かないで!」

「平気だってば!実は就職先は決まってるのよ。何と3食昼寝家事付きよ。灯台もと暗しってね。後は瞬間移動の座標を丸暗記したら楽になる筈。あの術式は覚えたんだけど、毎回移動先のおよその座標を組み込むから面倒なのよ。」

おい。サラリと物凄い事を…。

「魔道具作りも筋が良いと言われてるのよ。じっくり魔力をこめて、自分用の時間停止機能つき大容量マジック収納も作成中なの。普通のを量産しても、それだけでも食べていけるわ。でもマリエンヌのご飯とお菓子が食べられないのは寂しいわね。時々お邪魔するから、マジック収納に沢山入れてね。大事に食べるわ。」

「お姉さま!沢山作ります!絶対に遊びに来て下さいね。」

何だがブツブツと煩いロジャース。

「あ!バカ皇太子の魔道具は返して貰って。あれはマリエンヌにあげる。ロジャース!絶対に取り返してよ!」

・・・・・。

「お前はまた無理難題を…。絶対に手放さんわ!しかもサラリと恐ろしいチート爆弾を投下しやがって…。就職先、バレないと良いな。まあ頑張れ。次に捕まったら覚悟しとけよ。監禁妊娠エンドレスコース確定だ。」

取り返せないのは不味いわ。通信機になるからと、4個しか作って無いのよ。ボタンの仕掛けにバレたら話が筒抜けになるじゃない。

「あら?それはローズマリーに任せるわ。もうお手付きなのでしょ?お邪魔な私は国外追放コースなのでは無くて?魔法大国に行けるなら嬉しいけど。」

・・・・・。

「あれに本気な筈が無いだろう。まあ今回は確かに皇太子様が悪い。どうフォローしたくとも、全面的に悪すぎるからな。少しは素直になればな。」

・・・・・。

「そうだ!これを皇太子様に私からの最後の贈り物だと渡して。」

クローゼットから箱を取り出す。中身は刺繍したハンカチと、マーガレットブランドの試作品だ。

「月末のお誕生日には渡せないからね。これはペアのワイングラスだから気を付けて。来月発売予定の新作よ。ハンカチは何時もの奴。後これ。」

魅了等の精神耐性のみを付加したネックレス。練習用に作った物。

「これ2個有るからこれとアレ取り替えて貰って。緊急で使用したけど実はそれはマリエンヌので、ロジャースとペアだと言えば取り替えてくれる筈。宜しくね。」

「全く悪知恵は働くな。流石に俺のも見せてペアだと言えば、此方と取り替えるだろう。」

階下が騒がしい。不味いわ。お父様方が帰宅したみたい。こんな所で油を売ってる暇は無いわよ。

「マリエンヌ。泣いちゃダメ。ロジャースと幸せになるのよ。私も頑張るからね。ロジャース!任せたわよ!」

私は荷物を抱えて裏口へ向けて走り出す。もう後ろを振り返って何ていられない。お父様。お母様。親不孝な娘をお許し下さい。弟よ。女には気を付けて、しっかりと公爵家を継ぐのだぞ。

「ああ。お前も頑張れ!悔いの無い様にしてこい。結局最後は、監禁みたいなモノだろうからな。愛故のな…。」

「何よ!良く聞こえないわ!」

「エリザベート!!」

「姉さん!どこ行くの!」

「「エリザベートお嬢様!」」

ヤバい。お母様と弟だ!やだ!警備兵まで!魔力節約の為にも、なるべく進んでから使いたかった。でも仕方無いわ。奥の手よ!腕に巻いたブレスを握りしめる。

「合同宿舎の自室に転移!」

固いベッドの上にコロリと転がった。大分見慣れた天井が見える。灯台もと暗し。ここなら絶対にバレない自信が有る。だってもう3ヶ月も混じっててバレなかったもんね。しかし転移の魔法は魔力食うのね。魔道具満タンに魔力入れて置いたのに…。

兎に角疲れた。このまま寝ちゃおう。

ではではお休みなさーい。

*****

【その頃の王城での会話】

(王様。皇太子。宰相 side)

「エドワードよ。まさかとは思うが、お前はあの娘を選ぶのか?」

「いえ。私の愛する者はただ1人。エリザベートのみです。」

「ならば己で何とかしろ!全く恥を晒しおって。今日の事は何とか揉み消そう。しかしあの娘はどうする?」

「勿論不用です。処分致します。王族に魅了を使うなど言語道断です。」

「そうか。あの娘に惚れた訳では無いのだな?エリザベートには、王妃の資質が有ると思っておる。もしお前がダメなら他の兄弟に娶らせる。其奴が次期王だ。まあお前の王たる資質も疑ってはおらん。しかし何故そうヘタレなのだ?エリザベートの前で、何故外交での顔が出来ぬのだ?結婚してしまえば此方の物だ。隠し通せ。」

「差し出がましいのですが王よ。発言の許可を戴けますでしょうか?」

「良い。話せ。」

「我が娘には既にバレております。娘は王の仰る通り隠せぬならせめて、外交での顔を見せて欲しい。私には何故甘い言葉や贈り物が無いのか?政略結婚の意味は理解してはいるが、変態ばかり見せられては寄り添えぬ。性癖を隠しもせず、私は胸と腰だけだと言われてる様で不快だと…。我が娘が申し訳ございません。しかし努力している姿を見る度に不憫で…。」

「良い。話を続けよ。」

「はい…。皇太子様。ああ見えても娘も女性なのです。あからさまに性癖を晒すのは…。せめて隠されて下さい。たまには喜んで誉めてあげて下さい。娘は以前皇太子様に、お前の笑顔は他の人には見せられん!と言われたとか?大変哀しみ、更には憤慨しておりました。あれなりに毎日鏡を見て笑顔の練習をしていたんです!それなのに…。娘はあれ以降ますます頑なになり、突拍子もなくなってしまいました。」

・・・・・。

・・・・・。

「あえて言おう息子よ。お前は女心が解らんのか?」

「父上…。それには誤解が!」

「何が誤解だ!無理して笑わなくとも、お前は可愛いとでも思ったのか?ならそう言わねば解らぬだろうが!」

「違います!その笑顔は私にだけ見せろ。他の人には見せるな!と言う意味です!」

「「解りにくいわ!!」」

「皇太子様。では娘の差し入れや、催促されたと言うチョコはどうなさったのですか?例え口に合わなくとも、その場で一口でも召し上がって下されば…。娘は確かに料理等出来ません。ですがそれなりに料理長と献立を考えたり、クッキーに飾りを付けたり、ラッピングをしたりしてたんです。チョコレートに至っては、原料の現地の有名店を調べてまで注文したのです。ハンカチの刺繍だって、苦手だったのに今ではプロ並みなのですよ!」

「息子よ。まさか毒味させたら、全て食べられたとか言わんよな?チョコは催促しといて、何故食べぬ?せめてその場で開けろ。味が心配なら、互いに食べさせあえば良かろうが!」

・・・・・。

「あーん等出来る訳が無いでしょう!私の指にエリザベートの舌でも触れたら、つまんで引っ張り出し嬲りたい。逆もしかり。私の口に指先が触れたなら、全ての指を舐め尽くすまで離せません。絶対に無理です!」

「ある意味世継ぎは安泰なのか?」

「いえ…。娘が脱走する恐れも…。」

「まさか本人の前で開けぬのは、アレの様にコレクションしとるのか?」

「はい!そうです父上!全てコレクションケースに保存しております。なのでハンカチは助かります。使用用に保存用、沢山有っても困りません。」

「王よ。アレとは?」

・・・・・。

「王?」

・・・・・。

「エリザベートの等身大の人形だ。サイズが変化する度に作り替えている。全て処分せずにコレクションしておるぞ。最近は誕生日に貰う、マーガレットブランドのペアを着せている。誕生日が楽しみだ。宰相も見るか?娘の成長記録だぞ。」

娘よ…。父はもう何と言えば良いか解らぬ。逃げろと言えぬ私を許せ。

「では最後に皇太子様にお聞きします。何故娘の肩に噛みついたのですか?ホクロとはいったい?」

「すまん。私の勘違いで有った。ローズマリーとやらに魅了を使われ、エリザベートは誰にでも体を任せる毒婦だと吹き込まれた。その毒婦の首筋には、3角形にホクロが有ると言う。流石に私もホクロまでは知らなかった。しかし…。」

「成る程。マーガレットブランドの代表の首筋に見付けたのか…。」

「はい。一目で解りました。マーガレットブランド代表はエリザベートです。その代表の首筋のホクロ…。それでつい疑う様な真似を…。」

「エリザベートが最後にお前の首にかけた物は、魅了解除の魔道具か?」

「その様です。それで目が覚めました。なのに私は頭に血が上りエリザベートを詰りました。あのエリザベートがそんな女では無い事を、私が1番知っていたのに!まだキスさえしてないのに!私はバカだ…。」

「本当にバカだな。毒婦はローズマリーの方だ。偽の代表の時に、項の3角形のホクロを確認させてる。しかし何故ハッキリと否定しなかった?魔道具は多分お前に猶予をくれたのだろう?だから何度も確認した。なのに婚約破棄を肯定したのはお前だぞ!」

・・・・・。

「何だ?ハッキリと言え!」

「・・・。焼きもちを妬かせたかったんだ。エリザベートがロジャースやグレイシーと仲良くしてるからつい…。なのに婚約破棄を受けて帰ってしまうなんて…。」

・・・・・。

・・・・・。

「貴様はもう18だろうか!恋愛感情か位見極めろ!ロジャースは妹マリエンヌの婚約者だ。エリザベートとは悪友みたいな者だろう。グレイシーは魔法の師だ。魔法の指導をしてくれと頼まれたと連絡が来ておる。」

・・・・・。

「これはもう監禁するしか…。」

・・・。

「王よ?流石にこれは…。」

・・・。

「宰相…。悪い…。」

静まり返る部屋の中。扉が突然ドンドンと叩かれた。開く扉に転がる様に飛び込む男性。

「緊急時につき、無礼を承知で失礼致します!フローラ公爵家のご長女が出奔なされました!まずこの絶縁状を公爵様へ。エリザベート様は追いかけたマリエンヌ様とロジャース様に、私は公爵家の恥となった。恥は私だけの物。公爵家に害が及ばぬ為にも、直ぐにでも私を除籍してくれと言われたそうです。それから商会のロジャース様が、エリザベート様から皇太子様への預かり品が有ると控えております。」

「ご苦労だった。下がれ。この事は口外無き様に。ロジャースは暫し待て。エドワード!どうする?これはお前のしでかした代償だ。しかしエリザベートの言う事は大袈裟では無い。1国の皇太子が己より低い身分の女。更には常識もなく毒婦と呼ばれ、犯罪にも手を貸す女。皇太子をその婚約者を平気で名前で呼び捨てる様な女。そんな女の我が儘をお前は公の場で肯定したのだ。諌めるエリザベートを蔑ろにしてな。」

項垂れる皇太子。流石に話す言葉も出ない様だ。

「まあ良い。後2年だ。それまでに何とかしろ。宰相も悪いが2年猶予をくれ。私はエリザベートをかっている。是非王家に迎えたい。コイツが駄目なら他の兄弟でも選り取りみどり。何なら女王で婿を取っても良いぞ。血筋的には可能だからな。ガハハ!」

宰相に促されロジャースが部屋に入室した。エリザベートから預かった、誕生日の贈り物を机に並べる。

「最後のプレゼントだからと、私に託されされました。此方が刺繍のハンカチです。そして此方が来月新作予定のマーガレットブランドのペアワイングラスです。そして此方が、ペアの魔道具になります。」

皇太子はじっと品々を見ている。

「今回は緊急時につき、私の婚約者のペンダント型魔道具を、皇太子様にお貸ししたそうです。私が身に付けてる此方と同じ物です。お持ちでしょうか?贈り物予定だった此方と同じ機能です。取り替えて戴けると幸いです。」

ヤベーよ。皇太子様何か疑ってる?視線がビシバシ痛いんですけど!

「此方もペアなのだな。」

「エリザベート様と皇太子様でペアの予定だったのでは?」

・・・・・。

「わざわざご苦労であった。では此方はマリエンヌへ返そう。婚約者殿に感謝を伝えてくれ。ほう。此方も間違いなく同じだ。確かにそちらとは細工が違う。もしかしてエリザベートが作ったのか?」

ビックリさせるなよ!そう言う意味かよ。てっきりペアは取り返す為の後付けで、通信つきを取り返そうとしてるのがバレたのかと思ったじゃん。

「その様です。但し付与魔法のみです。魔道具の器は専門家がいるそうです。」      

・・・・・。

無言がキツいわ。

「では私は失礼致します。」

「ロジャースとやら!エリザベートに体には気を付けろと言えよ。私は無理強いはせん。エドワードが嫌ならお前が女王でも良いぞ。他の王子も選り取りみどりだ。魔法が好きならグレイシーはどうだ?伝えてくれ!」

「父上!ふざけないで下さい!」

「1つの可能性だわ!ガハハ。」

・・・・・。

・・・・・。

・・・・・。

・・・・・。  

「若ければ私が嫁に貰いたかったぞ。本気だ!エドワードも本気出せ!」

静寂が部屋を包む。

この空間って平民の自分にはキツい…。

エドワード様の本気は不味いんじゃ?

いっ胃が痛いんですけど…。

マジで死にそう…。

*****
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